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外来

【子どもの咳と薬の基本】処方薬の種類・注意点・家庭ケアを解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年08月04日
咳をしている子どもと、子どもに咳の薬を使うべきか迷う保護者が服薬について考えている場面

「子どもの咳が続いて心配」「小児科でもらった薬、本当に飲ませていいの?」そんな不安を抱える保護者の方は多いものです。

子どもの咳に処方される薬は、症状や原因に合わせて選ばれており、決して「飲めばすぐに止まる」という万能なものではありません。

この記事では、子どもの咳に使われる薬の役割や、年齢による制限、家庭でできるケアについて、呼吸器内科医がわかりやすく解説します。

1. 子どもの咳に「薬」が処方される理由

咳をする子どもと、発熱や昼夜の症状変化、子どもの咳の薬について医師へ相談するイメージ

子どもが咳をしていると、親としてはすぐに薬で治してあげたいと思うものです。しかし、咳止めの薬を飲めばすぐに咳が止まるというわけではありません。

なぜ医師は咳に対して薬を処方するのか、その理由を理解しておくことが大切です。

1-1. 咳は体を守る大切な反応

咳は、空気の通り道である気道に入り込んだ異物や痰を外に出すための、体の自然な防御反応です。

ウイルスや細菌、ホコリなどが気道に侵入すると、それを排除しようとして咳が出ます。つまり、咳そのものは悪いものではなく、体を守るために必要な反応なのです。

【参考情報】『Cough, a vital reflex. Mechanisms, determinants and measurements』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6502102/

そのため、咳を無理に止めてしまうと、かえって痰が出せなくなり、症状が悪化することもあります。

医師は、咳の原因や状態を見極めながら、本当に薬が必要かどうかを判断しているのです。

1-2. 薬の役割は「症状を和らげる」こと

子どもの咳に処方される薬の多くは、咳を完全に止めるためのものではありません。咳によって眠れない、食事が取れないといった生活への支障を軽減したり、痰を出しやすくして呼吸を楽にしたりすることが主な目的です。

風邪やウイルス感染による咳の場合、根本的な治療薬はなく、体の免疫力によってウイルスが排除されるのを待つしかありません。

その間、つらい症状を和らげるために薬が使われるのです。これを「対症療法」と呼びます。

◆「風邪の初期症状と対処法」について詳しく>>

1-3. 診察で医師が見ているポイント

医師は診察時に、以下のようなポイントを確認しながら、薬が必要かどうか、どの薬が適しているかを判断しています。

・咳の音(乾いた咳か、湿った咳か)
・咳が出るタイミング(夜間、朝方、運動後など)
・痰の有無や色
・発熱や鼻水などの他の症状
・食欲や元気さ
・呼吸の様子(ゼーゼー、ヒューヒューという音がするか)

これらの情報から、風邪なのか、喘息なのか、他の病気なのかを見極め、最も適切な薬を選択します。

【参考情報】『Should You Give Kids Medicine for Coughs and Colds?』U.S. Food and Drug Administration
https://www.fda.gov/consumers/consumer-updates/should-you-give-kids-medicine-coughs-and-colds

2. 咳のタイプ別に考える薬の役割

咳や喉の不調を訴える子どもと、子どもの咳の薬として使用される内服薬や貼り薬をまとめた解説図

子どもの咳には、大きく分けて「乾いた咳」と「痰がからむ咳」、そして「ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)を伴う咳」があります。それぞれのタイプによって、使われる薬が異なります。

2-1. 乾いた咳(乾性咳嗽:かんせいがいそう)に使われる薬

乾いた咳は、「コンコン」「ケンケン」という軽い音が特徴で、痰はほとんど出ません。のどの奥がイガイガする、刺激されるような感じで咳が出ることが多く、特に夜間や就寝時に悪化しやすい傾向があります。

このような咳には、鎮咳薬(ちんがいやく)と呼ばれる、咳を鎮める作用のある薬が使われます。代表的なものに、チペピジンヒベンズ酸塩(商品名:アスベリン)があります。

◆「咳止め薬『アスベリン』」について詳しく>>

チペピジンは、脳の咳中枢に働きかけて、咳の反射を抑える薬です。小児に対して長年の使用実績があり、標準的に処方されることが多い薬です。

ただし、チペピジンの効果には個人差があり、すべての子どもに劇的な効果があるわけではありません。

2-2. 痰がからむ咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう)に使われる薬

痰がからむ咳は、「ゴホゴホ」「ゲホゲホ」という濁った音が特徴です。気管支や肺に炎症が起きて痰が増えているときに出やすい咳です。

このような咳には、去痰薬(きょたんやく)と呼ばれる、痰を出しやすくする薬が使われます。

代表的なものに、カルボシステイン(商品名:ムコダイン)があります。

カルボシステインは、痰の粘り気を減らして、さらさらにすることで、痰を出しやすくします。

痰が出やすくなれば、咳も自然と楽になります。特に、気管支炎や肺炎など、痰が多く出る病気の時に効果的です。

◆「去痰薬ムコダイン」について詳しく>>

去痰薬を飲んでいる間は、水分をしっかり取ることが大切です。水分が不足すると、痰が硬くなって出にくくなるためです。

※ただし、授乳中の赤ちゃんや1歳未満のお子様の場合、一度に多量の水や麦茶を与えすぎると、体内の電解質バランスが崩れる(水中毒など)リスクがあります。飲ませる水分の種類(母乳・ミルク・白湯・ベビー用経口補水液など)や適切な量については、月齢に合わせて判断が必要です。

2-3. 喘鳴(ゼーゼー)を伴う咳に使われる薬

「ゼーゼー」「ヒューヒュー」という呼吸音(喘鳴)を伴う咳は、気管支が狭くなっていることを示しています。喘息や気管支炎などの時に見られる症状です。

◆「小児喘息の原因と症状、治療法」について>>

このような場合には、気管支拡張薬が使われます。気管支拡張薬は、狭くなった気管支を広げて、呼吸を楽にする薬です。

代表的なものに、ツロブテロール(商品名:ホクナリンテープ)やプロカテロール(商品名:メプチン)があります。ホクナリンテープは、皮膚に貼るタイプの薬で、小さな子どもにも使いやすいのが特徴です。

◆「ホクナリンテープ」について詳しく>>

気管支拡張薬は、症状が重い場合や、喘息発作が起きている時には非常に重要な薬です。ただし、動悸や手の震えなどの副作用が出ることがあるため、医師の指示通りに使用することが大切です。

咳の種類と使われる薬の図解

3. 子どもに使える薬・使えない薬がある理由

子どもの診察を行う医師と保護者が向き合い、子どもの咳の薬の使用期間や注意点を確認する場面

大人に使える薬でも、子どもには使えない薬があります。特に、乳幼児には使用できない成分が多くあります。

なぜ年齢による制限があるのか、その理由を知っておくことは、子どもの安全を守るために重要です。

3-1. 年齢による薬の制限がある背景

子どもの体は、大人の体を小さくしたものではありません。特に、肝臓や腎臓などの臓器は未発達で、薬を分解したり、体の外に出したりする機能が大人よりも弱いのです。

そのため、大人と同じ薬を使うと、薬の成分が体の中に長く残ってしまい、副作用が出やすくなります。また、脳や神経系も発達途中にあるため、薬の影響を受けやすい状態です。

特に注意が必要なのは、呼吸を抑制してしまう作用を持つ薬です。子どもは呼吸機能も未熟なため、呼吸抑制が起きると重篤な状態になる危険性があります。

【参考情報】『薬は大人用と子ども用、どちらを選ぶべき?』住友ファーマ
https://www.sumitomo-pharma.co.jp/sukoyaka/medicine/whentouse/article3/

【参考情報】『Medicines and Children』National Institutes of Health
https://medlineplus.gov/medicinesandchildren.html

3-2. コデイン類が12歳未満で禁忌になった理由

かつて、咳止めとして広く使われていたコデイン類(コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩)という成分がありました。しかし、2019年から、12歳未満の子どもへの使用が禁止されました。

その理由は、重篤な副作用である「呼吸抑制」のリスクがあるためです。コデイン類は、体の中でモルヒネという物質に変わり、咳を止める作用を発揮します。しかし、小児ではこのモルヒネによる呼吸抑制の感度が高く、呼吸が止まってしまう危険性があることがわかりました。

特に、12歳未満の子どもでは、体質によってモルヒネに変わる速度が速い人がいて、予想以上に強い作用が出てしまうことがあります。アメリカやヨーロッパで死亡事故が報告されたことを受けて、日本でも厚生労働省が使用制限を決定しました。

【参考情報】『コデインリン酸塩等の小児等への使用制限について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11121000-Iyakushokuhinkyoku-Soumuka/0000171434.pdf

現在、市販の風邪薬や咳止め薬にも、コデイン類を含むものがありますが、12歳未満の子どもには使用できないように注意書きが記載されています。

3-3. 市販薬を使う際の注意点

子ども用の市販薬を選ぶ際には、以下の点に注意してください。

・対象年齢を必ず確認する(生後6ヶ月未満、2歳未満など、細かく設定されています)

・成分表示を確認し、禁忌成分が含まれていないかチェックする

・複数の薬を併用しない(成分が重複して過剰投与になる危険があります)

・用法・用量を守る(多く飲んでも効果は強くなりません)

・症状が改善しない場合は、早めに医療機関を受診する

特に、乳幼児の場合は、市販薬よりも医療機関を受診することをお勧めします。症状が急に悪化することもあるため、医師の診断を受けることが安全です。

◆「子どもの長引く咳で呼吸器内科を受診する目安」について>>

4. 「咳止め=咳を止める」ではないという考え方

子どもの咳の薬を服用する際の睡眠、水分補給、栄養バランスの良い食事について説明している様子

「咳止めを飲んだのに、咳が止まらない」という経験をしたことがある方も多いのではないでしょうか。実は、咳止めの薬は、必ずしも咳を完全に止めるためのものではありません。

4-1. 咳を無理に止めてはいけない場合がある

咳には、「止めてはいけない咳」と「止めてもよい咳」があります。

痰がからんでいる咳は、体が痰を外に出そうとしている反応です。この咳を無理に止めてしまうと、痰が気道に残ったままになり、細菌が繁殖して肺炎などの合併症を起こす危険性があります。

また、喘息の発作が起きている時に、咳止めを使うことも危険です。喘息発作では、気道が狭くなり、痰もたまりやすくなっています。この状態で咳を止めてしまうと、痰が排出できなくなり、さらに呼吸が苦しくなってしまいます。

◆「喘息発作」について詳しく>>

そのため、医師は咳の原因を見極めたうえで、咳止めが本当に必要かどうかを判断しています。場合によっては、あえて咳止めを処方しないこともあります。

4-2. 薬の効果には個人差がある

同じ薬を飲んでも、効果の出方は人によって異なります。ある子どもには効果があった薬が、別の子どもにはあまり効かないということもよくあります。

これは、体質や年齢、咳の原因によって、薬の効き方が変わるためです。また、チペピジンのような鎮咳薬は、その効果を示す科学的なデータが限られているという指摘もあります。

薬を数日間服用しても症状が改善しない場合は、薬が合っていない可能性や、別の病気が隠れている可能性があります。その場合は、再度医療機関を受診して、医師に相談することが大切です。

◆「子どもの咳が止まらない・長引く時の原因」とは>>

4-3. 薬だけに頼らない治療の重要性

咳の治療において、薬はあくまで補助的な役割です。最も重要なのは、体の免疫力を高めて、自然に回復する力を助けることです。

そのためには、以下のような基本的なケアが欠かせません。

・十分な睡眠と休養
・栄養バランスの取れた食事
・水分補給
・適切な室温と湿度の管理
・ストレスの軽減

これらの環境を整えることで、薬の効果も高まり、回復が早くなります。

【参考情報】『Cough』National Institutes of Health
https://medlineplus.gov/ency/article/003072.htm

5. 薬以外に大切な家庭でのケア

換気を行う保護者と加湿や室温管理、水分補給など、咳のある子どもの生活環境を整える様子

子どもの咳を楽にするためには、薬だけでなく、家庭でのケアがとても重要です。保護者ができる具体的なケア方法を紹介します。

5-1. 水分補給と加湿

咳が出ている時は、気道は乾燥しやすい状態です。水分をこまめに取ることで、気道の粘膜が潤い、痰も出しやすくなります。

※1歳以上のお子様であれば、寝る前に小さじ1杯程度の「はちみつ」をなめることも咳を和らげる一助になると言われていますが、1歳未満の乳児にはボツリヌス症の危険があるため、絶対にはちみつを与えないでください。

【参考情報】『ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから。』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html

また、部屋の湿度を50~60%程度に保つことも大切です。加湿器を使ったり、濡れたタオルを干したりして、空気の乾燥を防ぎましょう。特に冬場は、暖房で空気が乾燥しやすいので注意が必要です。

5-2. 室温の調整と換気

室温は20~22度くらいが適温です。暑すぎても寒すぎても、気道に刺激を与えて咳が出やすくなります。

また、定期的に換気をして、新鮮な空気を取り入れることも大切です。ただし、冷たい空気が直接子どもに当たらないように注意してください。寒暖差が激しいと、咳が悪化することがあります。

◆「寒暖差による子どもの咳」について>>

5-3. 鼻水のケアと体位の工夫

鼻水が多い場合は、鼻吸い器などを使って、こまめに鼻水を取り除いてあげましょう。鼻がつまると口呼吸になり、気道が乾燥して咳が出やすくなります。

また、夜間に咳がひどい場合は、上半身を少し高くして寝かせると、呼吸が楽になることがあります。背中にクッションを入れたり、布団を折りたたんで傾斜をつけたりするとよいでしょう。

5-4. 受診すべきサイン

以下のような症状が見られた場合は、早めに医療機関を受診してください。

・呼吸が速い、または苦しそう
・唇や顔色が青白い
・ゼーゼー、ヒューヒューという音がする
・咳が2週間以上続いている
・高熱が続いている
・ぐったりして元気がない
・食事や水分がほとんど取れない
・生後3ヶ月未満の赤ちゃんで咳が出ている

◆「心配な子どもの咳」について>>

特に、乳幼児は症状が急に悪化することがあるため、少しでも様子がおかしいと感じたら、迷わず受診してください。

【参考情報】『こどもの救急(ONLINE-QQ)』日本小児科学会
https://kodomo-qq.jp/

6. おわりに

子どもの咳に処方される薬は、症状や原因に合わせて慎重に選ばれています。薬の役割を正しく理解し、家庭でのケアと組み合わせることで、子どもの回復を助けることができます。

咳止めは万能ではなく、あくまで症状を和らげるための補助的なものです。咳が長引く場合や、息苦しさを伴う場合、また乳幼児で症状が心配な場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

子どもの健やかな成長のために、正しい知識を持って、安心して対応していきましょう。

以下の症状がある方は、早めの受診をおすすめします

  • 咳が2週間以上続いている
  • 夜間や明け方に咳がひどくなる
  • 痰に血が混じることがある
  • 咳のせいで眠れない日がある
  • 市販の咳止めを飲んでも改善しない

当てはまる項目がある方は、呼吸器専門医に相談してみませんか?

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