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肺が原因の心臓の病気・肺性心とは?症状・検査・治療を解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年01月30日

肺性心は、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺炎などの肺の病気がきっかけで引き起こされる心臓の病気です。

肺の異常によって血液の流れが妨げられると、肺へ血液を送り出す右心室に過剰な負担がかかり、気づかないうちに心臓の機能が低下していきます。

この記事では、肺と心臓の関係を整理したうえで、肺性心が起こる仕組み、原因、症状、治療の考え方をわかりやすく解説します。

1.肺性心とはどんな病気か


肺性心とは、肺疾患や肺血管の病気によって右心室が肥大・拡張し、心臓の機能低下をきたした状態を指します。

1-1.心臓の病気だが、原因は肺

肺性心では、心不全に似た症状がみられますが、その原因は心臓そのものではなく、肺にあります。

肺の病気によって酸素不足の状態や肺血管の血圧の上昇が続くと、肺へ血液を送り出す右心室に過剰な負担がかかります。

右心室はその負担に耐えようとして働きますが、長期間にわたって負荷が続くと、次第に十分な血液を送り出せなくなっていきます。

このように、右心室の働きが低下し、全身に血液や水分がたまりやすくなる状態を右心不全といいます。

右心不全が進行すると、日常生活が大きく制限されるだけでなく、急激な悪化や合併症によって、命に関わる状態になることもあります。

肺性心が進行すると、この右心不全を引き起こすリスクがあります。そのため、原因となる肺の病気を早い段階から適切に管理し、右心室への負担をできるだけ減らすことが重要になります。

【参考情報】『Cor Pulmonale (Right-Sided Heart Failure)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/24922-cor-pulmonale

1-2.右心不全と左心不全の違い

心臓の内部は右と左に分かれ、それぞれ異なる役割を担っています。そして心不全にも、右心不全と左心不全があります。

左心不全は、全身に血液を送り出す左心室の働きが低下する状態で、心筋梗塞や高血圧など、心臓そのものの病気が原因になることが一般的です。

一方、右心不全は、肺へ血液を送る右心室の働きが低下し、全身に血液や水分がたまりやすくなる状態を指します。

【参考資料】『Types of Heart Failurel American Heart Association
https://www.heart.org/en/health-topics/heart-failure/what-is-heart-failure/types-of-heart-failure

肺性心では、肺の病気によって右心室に負担がかかるため、右心不全が問題となります。

2.肺の病気で何が起こるのか


肺に病気が起こると、呼吸機能だけでなく、循環系にも影響が及ぶようになります。

2-1.ガス交換の障害

COPDや間質性肺炎、重症の喘息などの病気では、肺の中で炎症が起こったり、肺胞が壊れたり、硬くなったりします。また、痰が増えて空気の通り道が狭くなることもあります。

そのため、空気と血液がうまく出会えなくなり、肺で取り込んだ酸素が血液に十分に渡らなくなります。

この状態が長く続くと、血液中の酸素が少ない状態が慢性化します。酸素が不足すると、息切れしやすくなったり、疲れやすくなったりするだけでなく、心臓や血管を含む全身の臓器にも負担がかかるようになります。

◆「息切れの原因」についてくわしく>>

2-2.肺の血管の変化と肺性心への影響

肺には、酸素が少ない場所には血液をあまり流さないようにする働きがあります。これは、限られた酸素をできるだけ効率よく取り込むための、体に備わった自然な仕組みです。

【参考資料】『Physiology, Pulmonary Vasoconstriction』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29763137/

しかし、肺全体で酸素不足が長く続くと、この反応が常に起こり、肺の血管は縮んだままになり、血管の壁が徐々に厚くなります。

さらに炎症などの影響で血管がしなやかさを失うと、硬くなり、元の状態に戻りにくくなります。

血管が細く硬くなると、血液が通りにくくなり、肺動脈の血圧が上昇します。これを肺高血圧と呼びます。

【参考情報】『肺高血圧症』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/pph/

肺高血圧が続くと、右心室はより強く血液を送り出さなければならず、この負担が蓄積すると心筋が厚くなり、やがて心室が広がります。

右心室の働きが低下すると、肺へ十分な血液を送れず、全身の血液循環が滞り、むくみや息切れが現れます。これは右心不全の状態であり、肺高血圧が重症化したサインです。

この一連の変化が肺性心につながります。

3.肺性心の主な原因疾患


この章では、肺性心を引き起こす主な病気を紹介します。

いずれも、肺の異常により酸素が十分に取り込めなくなることで、右心室に負担がかかり、肺性心の原因となる恐れがあります。

3-1.COPD(慢性閉塞性肺疾患)


肺性心の原因として最も多いのがCOPDです。主に長年の喫煙が原因で、肺に慢性的な炎症が生じる病気です。

この炎症により、肺胞や肺の奥にある細い空気の通り道が傷つき、酸素が十分に体に取り込めなくなります。

◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>

3-2.間質性肺炎


肺の中の空気の通り道のまわりや肺を支える組織(間質)に炎症や傷が生じる病気です。この炎症が続くと肺が硬くなり、空気が肺に入りにくくなります。

◆「間質性肺炎」についてくわしく>>

3-3.重症喘息

喘息の症状が強くなり重症化すると、空気の通り道が狭くなり、肺に十分な酸素が届きにくくなります。

◆「重症喘息」の情報をチェック>>

3-4.肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)

血の塊(血栓)が肺の血管に詰まる病気です。血管がふさがれると、肺に流れる血液が急に減り、酸素を十分に取り込めなくなります。

【参考情報】『エコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)に関するQ&A』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disaster/pcli/

3-5.睡眠時無呼吸症候群

寝ている間に呼吸が何度も止まる病気で、主な症状は毎日のように繰り返される大きないびきです。

呼吸が止まることで肺に酸素が十分に届かず、血液中の酸素が低下します。

◆「【危険ないびき完全チェック】突然死のリスクと対策法」>>

3-5.その他の慢性肺疾患

気管支拡張症、じん肺、結核後遺症、神経筋疾患による慢性呼吸不全なども、肺の換気障害や低酸素血症を通じて肺性心の原因となります。

◆「気管支拡張症」についてくわしく>>

4.肺性心の主な症状


肺性心では、肺の病気による症状と、心臓の機能低下による症状がみられます。

4-1.初期にみられる症状

<息切れ>
動いたときに息苦しさを感じやすくなります。これは肺の病気による呼吸機能低下が主な原因です。

<疲れやすさ>
酸素不足により、日常的な動作でも疲労感が出やすくなります。

<動悸>
心臓が無理に働こうとすることで感じることがあります。

4-2.進行するとみられる症状(右心不全の症状)

<足や足首のむくみ>
体に水分がたまりやすくなり、特に夕方に目立ちます。

◆「むくみの原因」についてくわしく>>

<体重増加>
脂肪ではなく、体内に水分がたまることで体重が増えます。

<お腹の張り・食欲低下>
肝臓や消化管にうっ血(血液が体の一部にたまり、流れが滞っている状態)が起こることで現れます。

<首の血管が浮き出る>
上半身の静脈に血液がたまることで見られます。

4-3.そのほかにみられる症状

<咳や痰の増加>
原因となる肺疾患による症状です。

<唇や指先が紫色になる(チアノーゼ)>
血液中の酸素が不足しているサインです。

<夜間の息苦しさや横になると苦しい感じ>
病状が進行するとみられることがあります。

5.肺性心の検査と診断


肺性心の診断では、肺だけ、心臓だけを見るのではなく、両者をセットで捉える視点が求められます。

5-1.肺性心の肺検査

肺性心の原因は主に肺の病気にあるため、肺の状態を調べることが診断の第一歩です。

<胸部X線・CT検査>
COPDや間質性肺疾患、肺血栓塞栓症など、肺性心の原因となる肺の病気を評価するのに欠かせません。肺の構造や血管の異常を確認することで、肺性心に至る背景を明らかにします。

併せて、右心室の拡大も把握します

<肺機能検査>
空気の通りやすさや、肺がどれだけ酸素を血液に取り込めるかを測定します。これにより、肺の働きの悪さや重症度を推測できます。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

<動脈血ガス分析>
必要に応じて行う検査で、血液中の酸素や二酸化炭素の量を測り、低酸素血症や二酸化炭素のたまり具合を確認します。

5-2.肺性心の心臓検査

肺性心では、右心室に負担がかかっているかを確認するために、いくつかの検査が行われます。

<心エコー(心臓超音波検査)>
体に傷をつけずに、右心室の大きさや動き、弁の逆流、肺動脈の圧力の目安を調べることができます。肺性心の診断で中心となる検査です。

<心電図>
右心室に負担がかかると出る特徴的な波形を確認できます。

<右心カテーテル検査>
直接肺動脈の圧力を測定できるため、肺高血圧の確定診断に使われます。ただし、体に穴を開ける検査なので、心エコーで十分でない場合に行います。

6.肺性心の治療


肺性心の治療では、右心室に負担をかけている原因を取り除くことが基本です。

そのため、普通の心不全の治療とは少し考え方が異なります。

6-1.原因となる肺の病気の治療

治療の中心は、原因となる肺の病気を適切に管理することです。吸入薬で気道の炎症や通りにくさを改善したり、感染症を予防・治療したり、呼吸リハビリを行うことで肺の状態を安定させます。

慢性的に酸素が足りない場合は、在宅酸素療法が肺性心の進行を抑える上で重要です。十分な酸素を補うことで、肺の血管が縮むのを防ぎ、血液が流れやすくなります。

また、酸素療法を行うと、息切れが軽くなったり、運動しやすくなったりするなど、症状の改善にも役立ちます。

6-2.心不全治療との違いと注意点

肺性心では、右心不全の症状が出ることがありますが、心不全と同じ治療をそのまま行うわけではありません。

例えば、心不全の治療でむくみを改善するために使う利尿薬は、肺性心によるむくみの改善にも有効ですが、血液の量が減って心臓が十分に血液を送り出せなくなったり、腎臓の働きが落ちたりするリスクがあります。そのため、利尿薬は少量から始めて様子を見ながら慎重に調整する必要があります。

肺血管拡張薬や強心薬、不整脈に対する薬などが検討される場合もありますが、これらはすべての肺性心患者に有効とは限らず、病態によってはかえって呼吸状態や循環を悪化させることもあります。

肺性心の治療では心臓と肺の両方をバランスよく管理することが最も重要で、心臓だけに注目した治療では不十分です。

7.日常生活での注意点


肺性心では、日常生活の過ごし方が病状の安定や悪化に大きく影響します。

7-1.呼吸器感染症の予防

肺性心の背景には慢性的な肺の病気があるため、風邪やインフルエンザ、肺炎などの感染症は症状悪化の大きな原因になります。

手洗いやマスク、人混みを避けるといった基本的な対策に加え、医師と相談してインフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種を検討することも大切です。

7-2.禁煙と環境への配慮

喫煙は肺の炎症や障害を悪化させ、肺性心の進行を早めます。

受動喫煙や粉じん、排気ガス、強い香りも呼吸を悪化させるため、換気を心がけ、刺激の少ない環境を保つことが重要です。

7-3.症状の変化に注意

肺性心はゆっくり進むため、変化に気づきにくいことがあります。

息切れが強くなった、動ける距離が短くなった、体重増加やむくみが目立つといった変化があれば、早めに医師に相談することが重症化予防につながります。

8.おわりに


肺性心は、心臓の異常として現れますが、出発点はあくまで肺にあります。

そのため、肺性心の進行を防ぐには、心臓だけを見るのではなく、原因となる肺の異常を早い段階から適切に管理することが重要です。

肺の状態が安定すれば、肺血管や右心室への負担を軽減でき、心臓を守ることにつながります。

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