ブログカテゴリ
外来

風邪やインフルエンザの後遺症?咳が止まらない・味がしない時の受診目安

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年10月24日

風邪やインフルエンザが治ったはずなのに「長引く咳が止まらない」「なんだか味がしない」と感じることはありませんか?

自然に治るだろうと様子見を続けると、咳や味覚・嗅覚の不調が長期化することがあります。

この記事では、症状が残る原因と放置の危険性、医療機関への受診の目安を解説します。

1.治ったはずなのに続く咳と味覚障害の仕組み


風邪やインフルエンザの回復後に咳や味覚の不調が残ることは、めずらしくありません。

そういった時に体の中で何が起きているのかを、少し専門用語も交えながらできるだけわかりやすくお伝えします。

1-1.感染後咳嗽(かんせんごがいそう)と「気道過敏」

ウイルスに感染し炎症が起こると、のどや気管支の神経がピリピリした状態になります。これを「気道過敏」といって、本来なら気にならないようなホコリや温度の変化でも、すぐに咳が出てしまいます。

たいていは数週間でおさまりますが、3週間以上咳が続く場合は「遷延性(せんえんせい)咳嗽」、8週間以上続くと「慢性咳嗽」と呼ばれます。この段階になると、ただの風邪の後ではなく「咳喘息(せきぜんそく)」など別の病気が隠れている可能性もあるので、専門的な診察が必要です。

◆「長引く咳の原因|考えられる病気と受診の目安」>>

【参考情報】『Q1. からせきが3週間以上続きます』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q01.html

【参考情報】『Postinfectious Cough』National Institutes of Health
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16428703/

1-2.「味がしない」のは嗅覚の不調が関係することも

食べ物の「おいしさ」は、舌で感じる味(甘味・塩味など)だけでなく、鼻から感じる香り(嗅覚)にも大きく左右されます。

鼻の粘膜や嗅細胞がウイルスでダメージを受けると、香りを拾いにくくなり、結果として「味がしない」と感じます。また、口の中が乾燥していると味を伝える唾液が不足し、味を感じにくくなります。

さらに、舌の表面にある味蕾(みらい)が荒れていたり舌苔(ぜったい)が多いと、味の感覚が鈍ることもあります。こうした要因も「味がしない」と感じる一因になります。

【参考情報】『歯・口の機能/味覚』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-01-001

1-3.自然に回復することもあるが、長引くときは受診を

においや味の感じ方が一時的に弱くなる程度なら、自然に回復することもあります。

しかし、数週間たっても良くならない場合は、別の病気が関わっている可能性があるため、専門的な検査や診察が必要です。

とくに新型コロナの感染後には、咳やにおい・味の異常が数か月以上続くことがあり、「時間がたてばそのうち治るだろう」と思い込んで放置すると回復が遅れてしまうケースもあります。

仕事や日常生活に支障が出ているなら、我慢せず早めに医師に相談することが大切です。

【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)Q&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html

2.長引く咳や味覚・嗅覚の不調に隠れた原因とは


咳が長く続いたり、においや味が分かりにくくなったりするのは、いくつかの病気が関係していることがあります。

よく見られる原因を、見分け方のヒントと一緒に紹介します。

2-1.咳喘息(せきぜんそく)

熱はないのに乾いた咳だけが長く続くのが特徴です。とくに夜や朝方に強く出やすく、眠れなくなることもあります。風邪のあとに「咳だけが残って何週間も取れない」と訴える人の中に、この咳喘息が隠れていることがあります。

普通のせき止めでは効きにくく、原因となる「気道の炎症」を抑えなければ改善しません。そのため、治療では炎症を鎮める吸入ステロイド薬が中心になります。市販薬では対応が難しいので、医師による診断と治療が必要です。

咳喘息を放置すると、気管支喘息に進展することがあり、そうなると発作的な息苦しさや生活への影響が大きくなります。早い段階で診断を受け、治療を始めることで長引く咳を抑え、重症化を防ぐことができます。

◆「咳喘息とはどのような病気か?原因・症状・治療について」>>

2-2.後鼻漏(こうびろう)・副鼻腔炎

鼻水がのどの奥へ流れ落ちて、咳やのどの違和感を引き起こす状態を「後鼻漏(こうびろう)」といいます。寝ているあいだや朝方に咳が強く出ることが多く、痰がからんだような感覚が続くのも特徴です。

副鼻腔炎(ふくびくうえん)があると、この後鼻漏が悪化しやすくなります。鼻づまりや粘り気のある鼻水、頭が重い感じやにおいが分かりにくいといった症状が同時に出ることもあります。風邪のあと「鼻がすっきりしないまま咳も続く」というときは、この後鼻漏や副鼻腔炎が関係しているケースがあります。

放置すると咳が慢性化したり、においの感覚が戻りにくくなることがあります。咳や鼻の症状が長引いているときは、自己判断せず早めに専門医に相談することが大切です。

◆「喘息と副鼻腔炎の関係と治療による効果について」>>

【参考情報】『鼻の病気(副鼻腔炎・嗅覚障害)』日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=21

2-3.胃食道逆流症(GERD)・薬剤性の咳

食後や横になると咳が悪化する、のどの違和感や声のかすれがある場合は、胃酸がのどまで逆流していることがあります。これを胃食道逆流症といいます。

また、一部の高血圧の薬(ACE阻害薬)などで乾いた咳が出ることがあります。ただし、自分の判断で薬をやめるのは大変危険です。必ず医師に相談してください。

2-4.知っておきたい注意が必要な病気

まれなケースではありますが、肺炎、結核、肺がん、間質性肺炎、百日咳などでも咳が長く続くことがあります。

血の混じった痰(たん)、体重の減少、息切れ、胸の痛みといった症状があるときは、特に早めの受診が大切です。これらの病気は、進行してから見つかると治療が難しくなることもあります。

早期に受診することで原因をより正確に調べられ、体への負担が少ない段階で治療を始められる可能性が高まります。長引く咳は、重症化する前に行動することで安心につながります。

◆「咳が止まらない…喘息と間違いやすい病気」>>

【参考情報】『Treatment of Whooping Cough』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/pertussis/treatment/index.html

3.「味がしない」の正体:味覚障害と嗅覚障害


食べ物や飲み物の味がしないと感じても、本当に舌の味覚が落ちている場合と、においが分からないことで「風味」が感じにくくなっている場合があります。

どちらなのかを見極めると、適切な受診先や治療法が選びやすくなります。

3-1.味覚は舌、風味は舌+鼻

舌の味蕾(みらい)は、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味といった基本の味を感じ取ります。そこに鼻で感じる香りや、食感、温度が加わると「風味」として食べ物のおいしさが完成します。

香りが届かないと、甘味や塩味は分かっても「味がしない」と錯覚してしまうのです。

【参考情報】『Taste Disorders』National Institute on Deafness and Other Communication Disorders
https://www.nidcd.nih.gov/health/smell-disorders

3-2.ウイルス感染後に起こる嗅覚障害

風邪やインフルエンザの後には、鼻の奥にある嗅上皮や嗅神経がダメージを受け、においを感じにくくなることがあります。つまり、においをキャッチするセンサーが一時的にうまく働いていない状態です。

多くは自然に改善しますが、長期化する例もあり、新型コロナ後では数か月〜1年以上続くケースも報告されています。

【参考情報】『罹患後症状のマネジメント(2025年版)』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001422904.pdf

3-3.栄養不足の影響も

栄養素の一つである亜鉛は、味覚を正しく感じるために重要です。偏った食事、過度の飲酒、薬の影響などで不足しやすく、味覚低下の原因になります。

サプリメントを自己判断で始めるのではなく、まずは食生活を見直し、必要に応じて医師に相談してください。

◆「亜鉛の特徴と味覚障害・嗅覚障害を改善するはたらき」>>

【参考情報】『亜鉛』厚生労働省 eJIM
https://www.ejim.mhlw.go.jp/public/overseas/c03/12.html

4.放置するとどうなる?受診のタイミング


「そのうち治るだろう」と放っておくのは危険です。長引けば長引くほど原因が複雑になり、治療にも時間がかかってしまうことがあります。

4-1.咳の慢性化で生活の質が落ちる

咳が続くと夜眠れない、仕事や勉強に集中できない、肋骨まわりが痛むなど、日常生活に大きな影響が出ます。そのまま咳喘息に進むケースもあるため、早めに評価と治療を受けることが大切です。

4-2.味覚・嗅覚の不調は栄養や安全にも影響する

味や香りが分かりにくいと、食欲が落ちて偏食につながることがあります。また、ガス漏れや焦げ臭に気づきにくいなど、安全面でのリスクも見逃せません。

改善までの間はなるべく火を使わない調理を選ぶ、香辛料や酸味で風味を補う といった工夫が役立ちます。家族のサポートや生活環境を整えることも必要となるでしょう。

【参考情報】『口腔機能の健康への影響』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/teeth/h-08-001.html

4-3.こんな時は医師に相談を!受診の目安

次のいずれかに当てはまる場合は、「様子見」ではなく、早めに医療機関へ相談してください。

・咳が3週間以上続く、または8週間を超える
・息苦しさ、胸痛、血痰、発熱の持続、体重減少がある
・夜間や早朝に咳が強い、眠れない
・嗅覚・味覚の低下が3~4週間以上続く、または改善と悪化を繰り返す

5.専門医の診察で安心して回復へ


咳や味覚・嗅覚の不調が長引くのは、ひとつの原因ではなく複数の要因が重なっているケースも少なくありません。

呼吸器内科や耳鼻科の専門医に相談することで、的確に原因を突き止め、安心して回復を目指せます。

5-1.診察のはじめにどんなことを調べるのか

呼吸器内科を受診すると、まずは問診で「咳がいつから続いているのか」「どんなときに強く出るのか」「痰や息切れはあるか」など、生活の中での症状を詳しく聞き取ります。
そのうえで、必要に応じて検査を行います。

・胸部X線検査(レントゲン):肺炎や結核、腫瘍などがないかを確認します。

・CT検査:X線よりも細かい画像が得られ、間質性肺炎や初期の肺がんなども見つけやすくなります。

・呼吸機能検査(スパイロメトリー、モストグラフ):息を吸ったり吐いたりする力を調べ、気道が狭くなっていないかを確認します。咳喘息や気管支喘息の診断に役立ちます。

・呼気NO検査:吐く息の中に含まれる「一酸化窒素(NO)」を測定する検査で、気道の炎症を客観的に調べることができます。

これらを組み合わせることで、「咳が長引いている原因が炎症なのか、気道の過敏性なのか、それとも別の病気なのか」を見極めることができます。初回の診察で得られる情報が、その後の治療方針を決めるうえでとても重要です。

【参考情報】『diagnosis of asthma in adults』European Respiratory Society
https://publications.ersnet.org/content/erj/60/3/2101585

5-2.原因に向き合う治療

次に、咳が長引く原因に合わせて治療を組み立てます。

たとえば咳喘息では、気道に残った炎症を抑えることが重要で、吸入ステロイド薬を中心とした治療が行われます。

気道の過敏性が強く、ちょっとした刺激でも咳が出てしまうケースでは、炎症を鎮める薬や生活面での指導を組み合わせることもあります。

このように、呼吸器内科では単に「咳を止める」ことが目的ではなく、咳を長引かせている原因にアプローチすることを重視しています。そのため、症状が続くときは早めに受診し、適切な治療を受けることが安心につながります。

5-3.診察とあわせて取り入れたい習慣

医師の治療に加えて、生活の中でできる工夫が症状の安定に役立ちます。

・乾燥対策:加湿器の利用、こまめな水分補給、のど飴などで喉を守る

・胃酸の逆流対策:就寝前2~3時間は食べない、枕を少し高めにする、刺激物を控える

・生活記録:咳の出やすい時間帯やきっかけ、におい・味覚の変化をメモしておくと、診察のときに原因を探る手がかりになります。

注:これらはあくまで「医師の治療を補助するもの」であり、症状が続く場合は必ず医師に相談しましょう。

◆「咳が止まらなくて夜眠れない時の対処法と予防法」>>

6.おわりに

風邪やインフルエンザのあとに残る咳や一時的な味覚の不調は、自然に回復する場合もあります。ですが、咳喘息や副鼻腔炎、GERDなど、治療が必要な病気が隠れていることも少なくありません。

咳が3週間以上続く、においや味の低下が改善しない、日常生活に支障を感じる時は、我慢せず呼吸器内科の専門医にご相談ください。原因を正しく見極め適切に対処することが、安心して回復につながる近道です。

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階