肺MAC症は咳でうつる?原因・症状・治療法を解説

肺MAC(マック)症は呼吸器感染症の一種で、近年増加傾向にあります。
あまり聞き慣れない病気ですが、やせ型の中高年女性に多く、「治療に時間がかかる」「根治が難しい」「再発や再感染が多い」というやっかいな性質を持っています。
しかし、自然と治ってしまうこともあります。
この記事では、肺MAC症とはどんな病気なのか、原因や治療法を解説します。
咳が長引いていて心配な人や、健康診断・人間ドックで病気の可能性を指摘された人は、ぜひ読んでください。
目次
1.肺MAC症とはどんな病気か
肺MAC症とは、非結核菌抗酸菌の一種であるMAC菌に感染して発症する肺の感染症です。
咳が長引いたり結核と似た症状を示すことがありますが、人から人へ感染することはありません。
1-1.肺MAC症の特徴
肺MAC症は、感染が進行するまで症状が現れにくいことがあります。
40代以上のやせ型の女性に多いと言われていますが、その理由ははっきりとわかっていません。
また、ステロイド薬や抗がん剤など、免疫力が低下する薬を服用している人も、かかりやすくなります。
治療は長期間に及び、治ったとしても再発することが多いです。その一方で、軽症だった場合は自然治癒することもあります。
【参考情報】『MAC Lung Disease』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/22256-mac-lung-disease
肺MAC症の原因となる抗酸菌は、結核菌、非結核菌抗酸菌、らい菌の3つに分類されます。
その3つのうち、非結核菌抗酸菌によって引き起こされた肺の感染症を、肺非結核菌抗酸菌症と呼んでいます。
非結核菌抗酸菌はおよそ150種類存在しますが、肺非結核菌抗酸菌症のうち約80%は、MAC菌が原因で発症します。
【参考情報】『肺非結核性抗酸菌症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/a/a-08.html
1-2.結核との違い
| 比較項目 | 肺MAC症 | 結核 |
|---|---|---|
| 主な症状 | 長引く咳・痰・血痰など | 咳・痰・発熱・体重減少など |
| 人への感染 | 基本的に人から人へうつらない | 人から人へ感染することがある |
| 主な感染経路 | 水回り・土などの環境中の菌を吸い込む | 結核菌を含む飛沫核を吸い込む |
| 届出 | 原則として保健所への届出義務はない | 診断時に届出が必要 |
| 治療 | 長期の経過観察や抗菌薬治療 | 抗結核薬による治療 |
肺MAC症と結核の症状は似ていますが、感染経路や治療法が異なります。結核のように人から人への感染もありません。
近年、肺MAC症の患者数は増加傾向にあります。以前は肺結核の患者の方が多かったのですが、現在では逆転して、肺MAC症の方が多くなっています。
医師が患者を結核と診断すると、保健所への報告が義務付けられるため、結核の患者数は比較的把握しやすいです。
しかし、肺MAC症には保健所への報告が義務付けられていないため、実際にはもっと多くの患者がいるにもかかわらず、把握されていない可能性があります。
【参考情報】『2結核|感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html
2.肺MAC症の原因
咳や痰が長引く肺MAC症を引き起こす原因となるのは、MAC菌です。MAC菌は、水の中や土の中など、身近な自然環境に生息しています。
2-1.MAC菌の感染経路
MAC菌は自然環境に広く存在しているので、誰でも感染する可能性があります。
さらに、温かくて機密性の高い場所を好むため、風呂場でも感染のリスクがあります。
例えば、汚れた箇所や排水溝、細菌が形成したバイオフィルムでぬめりを帯びたシャワーヘッドなどに存在し、水しぶきやミストと一緒に吸い込まれることがあります。
【参考情報】『Environmental Risk of Nontuberculous Mycobacterial Infection: Strategies for Advancing Methodology』National Institutes of Health
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10023322/?utm
また、ガーデニングや農作業などの土いじりをしているうちに、土ぼこりに含まれるMAC菌を吸い込んで感染することもあります。
しかし、この菌は病気を引き起こす能力が比較的弱いので、吸い込んだからといって必ずしも感染するとは限りません。
2-2.免疫の役割
MAC菌により肺MAC症を引き起こす原因は、免疫力の低下が関係する場合もあると考えられています。
特に、高齢者や慢性的な病気がある人は、感染しやすくなることがあります。
また、免疫力が低下すると、体内に入り込んだ菌をうまく抑えられず、感染が進行しやすくなるため、肺MAC症の症状が現れる可能性も高まります。
そのため、日頃からバランスのよい食事や十分な休養を心がけ、体の状態を整えておくことが大切です。
3.肺MAC症の症状
肺MAC症の主な症状は、長引く咳や痰です。さらに進行すると、血痰や喀血、息切れ、体重減少などが現れてきます。
しかし、この病気は初期の段階では症状が軽く、時には無症状のこともあります。
3-1.初期症状
肺MAC症の初期症状は、軽い咳や痰が代表的ですが、初期の段階では風邪や他の呼吸器疾患と見分けがつきにくいため、見過ごされてしまうことも少なくありません。
なかには症状がほとんどなく、健康診断や人間ドッグなどでX線(レントゲン)検査を受けて偶然発見されるケースも少なくありません。
3-2.症状の進行
肺MAC症は数年から10年以上かけて、非常にゆっくりと症状が進行するため、病気にかかっていることに気づいていない人も多いです。
症状が進行すると、咳や痰が長引き、体重減少や倦怠感、食欲低下などの全身症状が現れることがあります。
3-3.状態の悪化
肺MAC症の症状が悪化すると、呼吸困難や胸の痛みを伴うことがあります。これらの場合は、速やかに専門医による治療が求められます。
進行した場合、肺の空洞化(くうどうか)などが見られることもあります。
4.検査
肺MAC症の症状は、咳や痰など肺結核などをはじめとする他の肺疾患の症状と似ています。そのため、さまざまな検査を行って診断します。
4-1.画像検査
胸部レントゲン(X線)検査やCT検査で肺とその周辺を撮影し、画像を確認します。肺MAC症だと、結核と同じような陰影や空洞が認められます。
レントゲンだけでは正確な診断が難しいこともあり、CT検査が行われることが多いです。
【参考情報】『肺MAC症の画像所見』結核Vol.84, No. 8:569_575, 2009
https://www.kekkaku.gr.jp/pub/Vol.84(2009)/Vol84_No8/Vol84No8P569-575.pdf
4-2.血液検査
血液検査は、MAC菌に対する免疫反応を調べるために行います。
具体的には、血液中の抗体のレベルを測定することで、MAC菌に対する体の反応を評価します。
ただし、抗体反応が見られた場合でも、血液検査だけでは確定診断が難しいので、他の検査と併用するのが一般的です。
4-3.喀痰(かくたん)検査
痰を採取し、痰に含まれる非結核菌抗酸菌の有無を調べます。検査は2回行います。
非結核菌抗酸菌は、水や土の中、風呂場などにも存在する菌なので、1回の検査で陽性となっても、検査の時に誤って菌が混入した可能性も考えられます。
そのため、2回検査して、同じ菌が2回とも出た場合に診断されます。
4-4.気管支鏡検査
痰が出ない人や出せない人は喀痰検査ができないので、気管支鏡検査を行います。
先端にカメラがついた細い管を肺に挿入し、肺の中を調べます。
病変が疑われる部分に水をまき、その水を回収して非結核菌抗酸菌の有無を確認します。
【参考情報】『気管支鏡検査とはどのような検査ですか?』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q31.html
5.治療
肺MAC症は根治が難しく、長期間の服薬が必要になるため、治療は根気強く行う必要があります。
その反面、自然治癒する人もいれば、咳が軽度であったり、経過観察のみで日常生活を送っている方もいるので、患者さんの状態によって治療法は異なってきます。
5-1.経過観察
検査で感染が確認されても特に症状がなければ、経過観察のみで様子を見ることがあります。
普段の生活に支障がない場合、薬を飲んだり治療を急ぐ必要はありません。
ただし、症状が現れた場合や、重症化した場合は治療が必要になります。
治療の開始が遅れると肺に大きなダメージを受けたり、息切れや体力の低下によって生活の質が下がったりすることがあります。
そのため、定期的に診察を受けて状態を確認しながら、必要な時期に適切な治療を始めることが大切です。
5-2.抗菌薬の多剤併用
MAC菌は体内から消えにくいため、以下の抗菌薬を複数・長期間服用する必要があります。
・クラリスロマイシン
・エタンブトール
・リファンピシン
クラリスロマイシンの代わりに、アジスロマイシンが使われることもあります。
薬の飲み忘れなどで、指示通りに服用できないと、薬が効きにくくなり、治療が難しくなることがあります。
また、菌が検出されなくなっても、再発や再感染が多い病気であるため、最低でも1年以上は抗菌薬を飲み続ける必要があります。
5-3.吸入薬
抗菌薬の多剤併用で治療の効果が得られない場合、アリケイス(アミカシン)という薬の吸入を行うことがあります。専用の吸入器を使って、1日1回、吸入します。
アリケイスは、かつては点滴での治療にしか用いることができなかったのですが、吸入での治療が可能になり、自宅でも服薬できるようになりました。
【参考情報】「国内で急増中の「肺MAC症」とは?-MACに直接作用する新薬も登場-」済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/column/mac_pulmonary/
5-4.その他の薬
病気が進行し、患部が広範囲に及んでいる場合や内服薬のみでは十分な効果が得られない場合には、必要に応じてストレプトマイシンやカナマイシンを、注射や点滴で使用します。
体内に直接作用することで、より強い抗菌効果が期待されますが、副作用が出ていないかの確認も大切です。
定期的に血液検査を行いながら、慎重に治療を進めていく必要があります。
5-5.手術
肺に空洞がある場合は、その部分に薬が効きにくいため、手術で切除することがあります。
また、重症な場合や薬で十分に抑えきれない場合にも手術を検討します。
肺の一部を切除することになるため、体への負担や呼吸への影響も考えながら、体調や年齢に合わせて慎重に判断していきます。
6.おわりに
肺MAC症は、初期の段階では無症状なこともあり、さらにゆっくり進行するため、なかなか気づきにくい病気です。
しかし、放っておくと肺へのダメージは徐々に進行していく恐れがあります。
もし、長引く咳や血痰などがある場合は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。
診断を受け適切な治療を行い、体調を管理していきましょう。












