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咳が止まらない時は喉の乾燥に注意!

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月20日

喉が乾燥してイガイガし、咳が出る――この症状は風邪をひいていなくても起こります。

喉の粘膜が乾くと、外からの刺激に対して過敏になり、わずかな違和感でも咳反射が起こりやすくなるためです。

特に空気が乾燥する冬は、喉の乾燥と咳を同時に引き起こす代表的な要因です。

この記事では、喉の乾燥によって咳が出る仕組みや主な原因を整理したうえで、日常生活でできる具体的な対処法を解説します。

1. 喉の乾燥で咳が出る仕組み

喉のしくみ
喉の乾燥による咳は、単なる不快感だけではなく、喉の防御機能や神経の働きと深く関係しています。

1-1. 喉の粘膜と防御機能

喉の表面は粘膜で覆われており、常に適度な潤いが保たれることで、ホコリや細菌、ウイルスなどの異物を絡め取り、体外へ排出する役割を担っています。

この潤いは、空気中の異物が直接喉の組織に触れるのを防ぐ「バリア」としても機能しています。

しかし、喉が乾燥すると粘膜の保護機能が低下し、異物や冷たい空気などの刺激が直接伝わりやすくなります。

その結果、わずかな刺激でも不快感を覚えやすくなり、咳が出やすい状態になります。乾燥は、喉を守る防御機構そのものを弱める要因といえます。

【参考情報】『Barrier function of airway tract epithelium』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3783221/

1-2. 乾燥が咳反射を強める理由

喉の粘膜には、異物を察知するための感覚神経が多く分布していますが、乾燥した状態では粘膜が荒れやすくなり、これらの神経が刺激に対して過敏になります。

すると、本来なら咳が出るほどではないわずかな刺激でも、咳が起こりやすくなります。

特に夜間や就寝中は、唾液の分泌量が減少するため、喉がさらに乾燥します。

加えて、横になると、喉まわりの血流や粘液のたまり方が変わることも、夜に咳が出やすい理由の一つです。

【参考情報】『Mouth breathing, dry air, and low water permeation promote inflammation, and activate neural pathways, by osmotic stresses acting on airway lining mucus』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37529032/

2. 喉の乾燥による咳の主な原因

エアコン
喉の乾燥による咳は、特定の病気がなくても、日常生活のさまざまな要因によって起こります。

2-1. 空気の乾燥

冬場は空気中の水分量が少なく、喉の粘膜が乾燥しやすくなります。さらに、暖房やエアコンの使用により室内の湿度が下がると、呼吸するたびに喉の水分が奪われ、咳が出やすい状態になります。

加湿が不十分な環境では、喉の防御機能が低下し、わずかな刺激でも咳につながります。

◆「エアコンの上手な使い方」をチェック>>

2-2. 口呼吸・いびき

鼻呼吸では、吸い込んだ空気が鼻の中で加湿・加温されてから喉に届きますが、口呼吸では乾いた空気が直接喉に入るため、喉の粘膜が乾燥しやすくなります。

就寝中はいびきや無意識の口呼吸が起こりやすく、長時間にわたって喉が乾燥するため、朝方や夜間に咳が悪化しやすくなります。

◆「口呼吸といびき」の関係>>

2-3. 声の使いすぎ・喉の酷使

長時間の会話、教師のように大きな声で話す機会が多い仕事、カラオケなどは、喉の粘膜に負担をかけます。

◆「カラオケで咳が出るのはなぜ?」>>

喉を酷使すると粘膜が傷つきやすくなり、潤いも失われがちです。その結果、乾燥による刺激に敏感になり、咳が出やすくなります。

2-4. 加齢による唾液分泌の低下

唾液には喉を潤し、粘膜を保護する役割がありますが、年齢とともに唾液の分泌量は徐々に減少するため、加齢とともに口や喉が乾燥しやすくなります。

【参考情報】『Meta-Analysis of Salivary Flow Rates in Young and Older Adults』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/26456531/

2-5. アレルギー・軽い炎症

花粉やハウスダストなどのアレルゲンが喉に付着すると、軽い炎症が起こり、乾燥や喉のイガイガ・ムズムズ感が生じやすくなります。

◆「アレルギーが原因となる咳」について>>

3. 喉の乾燥による咳の対処法


喉の乾燥による咳は、生活環境や日常の習慣を見直すことで軽減できる場合があります。特別な治療を必要としないケースでも、乾燥を防ぐ工夫を続けることが重要です。

3-1. 環境面の対策

喉の乾燥を防ぐには、空気の湿度を適切に保つことが重要です。室内の湿度は50%を目安にすると、喉への刺激を抑えやすくなります。

【参考情報】『部屋の湿度は何%が適正?』名古屋市上下水道局
https://www.water.city.nagoya.jp/uruoi_life/category/learn/144531.html

寝室では、就寝中に乾燥が進みやすいため、特に湿度管理が重要です。エアコンを使う場合は風が直接顔に当たらないようにしましょう。

加湿器を使う、なければ濡れタオルを干すなどの簡単な工夫でも乾燥対策になります。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

3-2. 日常生活でできるケア

こまめな水分補給は、喉の粘膜を潤す基本的な対策です。一度に大量に飲むのではなく、少量を何回も摂ることで潤いを保ちやすくなります。カフェインやアルコールは利尿作用があるため、摂りすぎには注意が必要です。

喉の粘膜を潤おすには、うがいもおすすめです。うがいは、喉に付着した細菌やウイルスを洗い流すことができるため、感染症予防にも効果的です。空気が乾燥しやすい冬は、意識して回数を増やすとよいでしょう。

【参考情報】『効果的なうがいの仕方』日本赤十字社
https://www.jrc.or.jp/chapter/saitama/about/topics/2021/0501_017471.html

のど飴は唾液の分泌を促し、一時的に喉の違和感を和らげますが、糖分の摂りすぎには注意しましょう。

マスクを着けると、吐いた息の水分がマスク内にとどまり、喉の乾燥を防ぐ効果が期待できます。また、冷たい空気が直接喉に当たるのを和らげるため、外出時の刺激対策としても有効です。

さらに、ほこりやハウスダスト、花粉、ウイルスなどの侵入を防ぐという本来の役割もあります。喉の乾燥対策と予防を同時に行える点で、マスクは実用的な方法といえます。

◆「マスクの付け方と選び方」>>

3-3. 就寝時・夜間の工夫

就寝前に喉が乾燥していると、夜間の咳につながりやすくなります。寝る前に水分を少量とる、部屋を加湿しておくなどの対策が有効です。鼻づまりがある場合は、口呼吸を防ぐ工夫も重要になります。

寝る姿勢も咳の出やすさに影響します。完全に仰向けで横になるより、上半身をやや高くした姿勢のほうが、喉への刺激が少なく、咳が悪化しにくくなります。

4. 乾燥による咳と他の病気との違い


喉の乾燥による咳はよくある症状ですが、似たような咳が他の病気で起こることもあります。

4-1. 風邪・感染症の咳との違い

喉の乾燥による咳は、発熱や強いだるさを伴わないことが多く、全身状態は比較的保たれています。また、痰がほとんど出ない、または透明で少量である点も特徴です。咳の程度は日によって変動し、湿度や環境の影響を受けやすい傾向があります。

一方、風邪や感染症による咳では、発熱、倦怠感、喉の痛み、鼻水などの症状を伴うことが一般的です。痰が黄色や緑色になることもあり、数日から1~2週間程度で症状のピークを迎え、徐々に改善していくという経過をたどります。

◆「風邪の症状・引きはじめの対処法・病院受診の目安」>>

4-2. 感染症以外の疾患による咳との見分け方

喉の乾燥による咳は、湿度や環境の影響を受けやすいのが特徴ですが、感染症以外の病気が原因となっている場合もあります。その場合、乾燥だけでは説明しにくい共通した特徴がみられます。

たとえば、発熱などの症状がないにもかかわらず、夜間や早朝に咳が続く、運動や冷たい空気を吸ったときに咳が出やすいといった場合は、喉の乾燥以外の要因が関係している可能性があります。喉の違和感が目立たないのに、咳だけが長引く点も特徴です。

また、食後や横になったときに咳が出やすい、胸や喉の奥に不快感を伴うといった場合も、単なる乾燥による咳とは考えにくくなります。

このように、咳の出やすい時間帯や状況、咳以外の症状がはっきりしている場合は、環境による乾燥だけでなく、別の原因が関与している可能性を考えることが重要です。

◆「長引く咳の原因」をチェック>>

5. 市販薬・医療機関の受診目安


喉の乾燥による咳は、状況によっては市販薬で様子を見ることができますが、医療機関での確認が必要なケースもあります。

5-1. 市販薬が適するケース

空気の乾燥や一時的な喉の違和感が原因で起こる咳であれば、市販薬で対応できる場合があります。

発熱や強い喉の痛みがなく、咳の期間が短い場合は、のどを潤す成分を含むトローチやのどスプレーなどを使いながら、加湿や水分補給などの基本的な対策を行うことで改善が期待できます。

5-2. 受診を検討すべきサイン

咳が2週間以上続く場合は、乾燥以外の原因が関与している可能性があります。また、喉の乾燥感だけでなく痛みがあったり、発熱、息苦しさ、胸の違和感、痰が増える・色が濃くなるといった症状を伴う場合も注意が必要です。

これらのサインが見られる場合は、自己判断を続けず、早めに医療機関を受診し、適切な診断を受けることが勧められます。

◆「呼吸器内科を受診すべき喉の痛みとは?」>>

6.おわりに

喉の乾燥による咳は、空気の乾燥や室内環境、生活習慣などの影響を強く受けます。特定の病気がなくても起こりやすい症状であり、日常の環境を整えることが重要です。

加湿や水分補給などの基本的なケアを早めに行うことで、症状の悪化を防ぎ、咳を長引かせにくくなります。一方で、対策を続けても改善しない場合や、他の症状を伴う場合は、乾燥以外の原因が関係している可能性もあります。

喉の乾燥だけと決めつけず、経過を見ながら必要に応じて医療機関を受診することが大切です。

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