新型コロナウイルスが喘息患者に及ぼす影響とは?

喘息などの呼吸器疾患を抱える患者さんは、新型コロナウイルス感染時に重篤化するリスクが高く、慎重な対策が必要となります。
しかし、最新の研究では、喘息患者は実際には新型コロナウイルスに感染しにくいことが明らかになってきました。
この記事では、コロナが喘息に及ぼす影響について、最新の情報をお伝えしていきます。
目次
1.喘息と新型コロナウイルスの関連は?
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、呼吸器感染症の一種です。
重症喘息患者では死亡リスクがわずかに増加するという報告はありますが、軽度から中等度の喘息患者は、新型コロナウイルスによる死亡・重症化リスクは一般人と同等のレベルであることが明らかになっています。
◆「新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響」>>
【参考情報】『医療最前線 ぜん息、COPDと新型コロナウイルス感染症 その2』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/56/medical/
2.喘息患者は実はコロナにかかりにくい
最新の研究データから、喘息患者は新型コロナウイルスに感染しにくいことが明らかになってきました。
約16万人の世界の新型コロナウイルス感染症患者を解析した2021年のデータでは、喘息患者は1.6%でした。
一方、世界的な喘息の有病率は4.4%とされているため、コロナ感染者における喘息患者の割合が明らかに低いことがわかります。
また、日本呼吸器学会による新型コロナウイルス感染症の患者で呼吸器疾患を合併する1460人を調べた研究でも、喘息患者は3.4%で、10%前後と推定される日本の喘息有病率より大幅に低い結果となりました。
このことから、喘息患者は新型コロナウイルスに感染しにくいと考えることができます。
では、なぜ感染しにくいのでしょうか?
考えられる理由は以下の3つです。
2-1. 吸入ステロイドの効果
新型コロナウイルスは、気道の細胞表面にあるACE2受容体(ウイルスが体に入るための“入り口”のような部分)を侵入口として使用します。
吸入ステロイド薬を使用すると、このACE2受容体とウイルス侵入に必要なタンパク分解酵素(ウイルスが細胞に入りやすくする物質)が減少することが研究で示されています。
2-2. 喘息の炎症反応
喘息患者では、IL-4やIL-13というサイトカイン(免疫の働きを調整する物質)が分泌されており、これによってもACE2受容体が少なくなることがわかっています。
2-3. 日常的な感染対策
喘息患者は風邪をひくと発作を起こしやすいため、日頃から感染予防を心がけている方が多く、これが結果的にコロナ感染の予防にもつながっています。
コロナの治療薬も開発されてきましたが、特効薬といえるものは、未だ存在していません。
そのため、「自分は感染しづらいから大丈夫」と考えるのではなく、絶対に感染しないということを意識した行動が大切です。
3.もし喘息患者さんが新型コロナウイルスに感染してしまったら
新型コロナウイルスに感染すると、喘息症状を悪化させる要因になります。
もし、喘息患者さんが新型コロナウイルスに感染した場合でも、吸入ステロイド薬は中止せず継続しましょう。
吸入治療の継続をおすすめするのは、以下の2つの理由からです。
3-1.気道炎症の悪化防止
ウイルス感染は気道に炎症を引き起こし、喘息症状を悪化させる要因となります。
吸入ステロイド薬を中断してしまうと、炎症が再び強まり、軽い風邪や感染をきっかけに喘息症状が急激に悪化する可能性があります。
3-2. 医学的根拠
日本アレルギー学会が発表した「新型コロナウイルス感染における気管支喘息患者への対応Q&A」では、感染時でも吸入治療を継続する重要性が明記されています。
感染しても、自己判断で吸入薬を中止せず、症状が悪化した場合には、早めに医療機関へ相談しましょう。
特に発熱や強い咳が続く場合は、感染症自体の治療が必要になることもあるため、かかりつけ医や発熱外来に早めに相談してください。
◆「ウイルス感染で咳が出る病気と感染予防法」について詳しく>>
【参考情報】『新型コロナウイルス感染における気管支喘息患者への対応 Q&A』日本アレルギー学会
https://x.gd/fwpl9
4.医療提供体制のひっ迫によるリスク
コロナの流行により、世界中の医療機関が翻弄され疲弊している様子は、ニュースなどで多く報道されました。
現在は、ピーク時に比べるとマシではありますが、新しい変異株が現れ、再びコロナが流行することは、大いに考えられます。
以前のような流行が訪れると、コロナ患者への対応に医療資源が割かれてしまい、ほかの患者さんを受け入れることが難しくなってしまう恐れがあります。
4−1.喘息発作時の救急対応のリスク
喘息治療においては、喘息発作時の救急対応が非常に重要です。
喘息発作を起こさないための治療と、喘息発作時の対応が両輪となることで、喘息治療は成立しています。
しかし、コロナの対応で医療機関での受け入れができなかったり、救急隊の到着が遅れる可能性があれば、喘息患者にとって非常に大きなリスクとなります。
わずか数分単位の時間のロスでも、最寄りの救急病院に迅速に搬送できないとなると、喘息発作時には取り返しのつかない状況を招くかもしれません。
このように、医療提供体制や救急隊の状況、公共交通機関(電車の運転時間短縮など)のイレギュラーな運行など、さまざまな間接的な影響が、喘息患者さんに及ぶ恐れがあります。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症発生下における医療提供体制及び検査体制の現状に関する各都道府県知事の御認識について 』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/newpage_00022.html
4−2.薬剤欠品のリスク
吸入ステロイド薬は、喘息患者にとって発作を予防するための非常に重要な薬剤です。
しかし、吸入ステロイドのひとつであるオルベスコ(一般名シクレソニド)が新型コロナウイルスに効果があるのでは?という記事が世に出たことにより、一時期、オルベスコに出荷停止の制限がかけられました。
その結果、通常在庫を抱えているはずの病院や薬局にもオルベスコが流通しなくなり、一部の喘息患者はオルベスコの処方が受けられなかったり、代替薬への切替が検討されたりなどの影響を受けました。
このような薬剤の欠品はオルベスコだけではなく、イソジンガーグル(イソジンうがい液)や消毒液でも起こりました。
今後どのような研究報告が発表されるのかは分かりませんが、喘息患者が普段利用している薬剤や医療機器がコロナにも利用できるということになれば、何らかの出荷制限がかけられても不思議ではありません。
5.新型コロナウイルスを原因として新たに喘息になる可能性はあるのか?
新型コロナウイルス感染後に長期間続く咳や息切れの症状により、「コロナが原因で新しく喘息になってしまったのではないか?」と心配される患者さんが増えています。
実際、新型コロナ感染後に喘息と診断される方は少なくありません。
しかし、これまでの研究で新型コロナが喘息の直接の原因になることは明らかになっていません。
新型コロナ感染により喘息症状が出た場合、「コロナ感染をきっかけに潜在的にあった喘息が表面化した」と考えるのが自然です。
風邪やインフルエンザなどをきっかけに、気道の炎症が強まり、喘息症状が悪化することはよく知られていますが、新型コロナウイルスでも同様のことが起きます。
もともと軽微であった喘息の症状が、新型コロナウイルス感染をきっかけに強まり、「喘息になった」と勘違いしてしまうのです。
また、新型コロナウイルス感染症には、様々な後遺症が確認されており、咳や息切れなどの喘息に似た症状もあるため、医療機関でないと判別が難しいところも勘違いしやすいポイントと考えられます。
新型コロナの後遺症の中には、重篤な後遺症もありますので、新型コロナウイルス感染後に異変を感じたらすぐに受診しましょう。
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A 』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html
6.おわりに
喘息などの呼吸器系の基礎疾患を持つ患者さんが、新型コロナウイルス感染症重症化の高リスクを抱えていることはいうまでもありません。
ウイルスによる直接的な影響だけではなく、医療提供体制のひっ迫や薬剤流通制限などの間接的な影響も視野に入れておくことが重要です。
感染を避けるのはもちろん、さまざまな状況を想定し、事前にできる準備をしておきましょう。











