子どもの頃の喘息、大人になって再発する理由と対策

喘息はその発症時期で大きく2種類に分類されており、15歳までに発症する小児喘息と、成人してから喘息症状が出現する成人喘息が存在します。
成人喘息の患者さんの中には、子どもの頃に喘息を患っていて、成長につれ治ったとばかり思っていたのに、大人になってから再発してしまった、というケースも少なくありません。
実際、一度症状が落ち着いた小児喘息患者さんのうち、約30%が成人になって再発するといわれています。
そこで今回は成人喘息に焦点を当て、なぜ大人になって再発するのか、その原因と予防法、そして適切な対処方法をお伝えします。
目次
1.成人喘息とは
成人喘息は「大人の喘息」とも呼ばれます。文字通り、大人になってから喘息症状が出現したタイプの喘息のことを指します。
成人喘息には大きく2つのタイプがあります。
1つは子どもの頃の小児喘息が再発するケース、もう1つは大人になってから突然発症するケースです。
実は、成人喘息患者さんのうち6〜8割は成人してから初めて発症したという報告があります。
突然発症する主なきっかけとしては、生活環境の変化や呼吸器感染症、職場での化学物質への接触、喫煙習慣、ストレスなどが挙げられます。
大人になって突然喘息を発症した場合、「ただの風邪」だと思い込み、喘息だと気づかないまま受診が遅れるケースが多く見られます。
「夜間や明け方に咳で目が覚める」といった症状がある場合は、早めに呼吸器専門医を受診しましょう。
【参考情報】『成人ぜん息について』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/index.html
【参考情報】“About Asthma” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/asthma/about/index.html
2.気道に炎症があるとどんな問題があるか
喘息患者さんの気道では常に炎症が続いています。この炎症は目に見えないため軽視されがちですが、放置すると様々な問題を引き起こします。
では、気道の炎症がもたらす具体的な変化とはどのようなものでしょうか。ここでは、炎症によって生じる症状について解説します。
2-1. 気道の炎症が引き起こす3つの変化
長期的(慢性的)な炎症によって敏感になっている気道に、何らかのアレルゲン(アレルギー反応を引き起こす物質)が反応することで、喘息の発作が発現します。
発作が起こると、激しい咳や呼吸困難感が出現し、場合によっては重篤な状態を呈することもあります。
そんな喘息発作の原因となるのは、花粉やダニ、ほこりなどのアレルゲンだけではなく、冷たい冷気や強い香りなど、健常者にとっては何の問題もないことでも激しく反応し、発作を起こす可能性があります。
気道の炎症が続くと、
①気道の狭窄(内側が腫れて空気の通り道が狭くなる)
②粘液の過剰分泌(痰が増えて気道を塞ぐ)
③気道過敏性の亢進(わずかな刺激でも過剰反応する)
という3つの変化が起こります。
その結果、息苦しさや持続的な咳が現れ、特に夜間や早朝に悪化しやすくなります。
また、喘息発作が出現していない時でも、喘息患者の気道は常に炎症を起こしているため、気道の内部がむくみ、通常よりも咳や痰が増加します。
気道の粘膜が弱くなっているため、細菌やウイルスなどの感染症にも罹りやすくなり、免疫力も低下します。
2-2. 気道のリモデリング~元に戻らない変化
さらに注意が必要なのが「気道のリモデリング」です。
これは慢性的な炎症によって気道の構造そのものが変化してしまう現象で、気道壁が厚くなったり気管支の筋肉が大きくなることで、気道が狭く硬くなります。
問題なのは、一度リモデリングが進むと元の健康な状態には戻らない「不可逆的な変化」となり、治療薬が効きにくくなったり発作が重症化しやすくなることです。
そのため、症状が落ち着いているときでも医師の指示通りに治療を続け、リモデリングを予防することが重要です。
【参考情報】『ぜん息を知る』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/#zensoku_area
【参考情報】“Pathophysiology of Asthma” by National Center for Biotechnology Information (NCBI) / NIH Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK551579/
3.成人喘息に多い「非アトピー型」の特徴
喘息は基本的にアレルギーが関係する病気ですが、原因となるアレルギー物質が特定できるかどうかで分けて考えられています。
<原因が特定できるタイプ=アトピー性喘息>
血液検査などでアレルゲン(ダニ、花粉、ペットの毛、カビ、ハウスダストなど)が明確に分かるもの。
<原因が特定しにくいタイプ=非アトピー性喘息>
原因となるアレルギー物質がはっきり特定できないもの。
患者さんの約6割が「原因が特定できるタイプ」、約4割が「特定しにくいタイプ」とされています。
アトピー性喘息は特定のアレルギー物質(ダニや花粉など)が発作の引き金となります。
小児喘息のほとんどは、アレルゲン(アレルギーを引き起こすもの)がきっかけとなって気道に炎症が起こる、アトピー性喘息であることが知られています。
一方、大人の喘息にはアレルゲンが特定できない非アトピー性喘息が多く見られ、喘息発作を引き起こす原因を突き止めることが難しい場合が多々あります。
どちらのタイプでも、疲労・ストレス、ウイルス感染、タバコの煙、気温の変化などは症状悪化の共通要因です。
そのため成人喘息の場合、どんな状況で喘息の症状が出るのか、普段から自分を観察することが重要です。
仕事が忙しくなったときや人間関係に悩んでいるときなど、大きなストレスを感じる状況が喘息発作の引き金となる場合もあるため、自分の体調の変化を記録しておくことが勧められます。
【参考情報】『成人ぜん息の特徴』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/46/feature/feature01.html
【参考情報】『大人の喘息』沢井製薬
https://kenko.sawai.co.jp/prevention/201712.html
4.小児喘息の再発と成人喘息の増加
成人喘息には、子どもの頃の喘息が再発するケースと、大人になって初めて発症するケースの2つがあります。実は再発よりも、突然発症する方が圧倒的に多いのです。
4-1. 小児喘息からの再発率とそのメカニズム
小児喘息は、学童期を過ぎると肺機能の成長によって症状が軽快することが多いため、次第に症状が出なくなることが多いです。
実際、症状が完全に治まった小児喘息患者さんの50〜70%は、そのまま成人期を迎えます。
しかし、仕事や環境の変化などの影響を受けることで、一度治まった患者さんのうち約30%が、大人になってから再発する可能性があることもまた事実です。
再発のメカニズムとしては、小児期に症状が落ち着いても「気道過敏性」という、少しの刺激で気道が収縮しやすい状態が残っている場合があります。
この状態の方が、何らかのきっかけで再び喘息を発症するのです。
再発の主なきっかけとしては、以下のようなものがあります。
・仕事や環境の変化によるストレス(引っ越し、転職、結婚など)
・風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症
・職場での化学物質や粉塵との接触
・喫煙習慣の開始や受動喫煙
・不規則な生活リズムや慢性的な過労
ただ、小児期に喘息を経験している患者さんは病気に対する知識や対処方法を理解している場合が多いので、自分自身で「この咳は喘息かもしれない」と気付くことができます。
ただし注意が必要なのは、子どもの頃に受けていた治療が現在の標準治療とは異なる場合があることです。
そのため、再発した場合は自己流で対処せず、必ず専門医に相談することが重要です。
【参考情報】『成人ぜん息の再発』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/46/feature/feature01.html
4-2. 成人喘息の突然発症と増加傾向
成人喘息には、小児期の喘息が再発するというケースだけではなく、大人になってから突然発症するという場合もあります。
成人喘息患者のうち6〜8割は成人してからの急な発症であると報告されています。
しかし、大人になって突然喘息を発症するような場合は、激しい咳や痰が出現しても、喘息による症状であると気がつくことが出来ずに、病院への受診が遅れる可能性が高いです。
大人の喘息は再発型だけではなく、突然発症するケースもあるということを理解しておき、「普段とは違う咳」を感じた時は、早めに呼吸器専門医を受診するようにしましょう。
早期に発見し早期に治療を開始することが出来れば、深刻な病態を呈することなく、いつもと変わらない日常を送ることができます。
近年、成人喘息の患者数は増加傾向にあります。
医師から診断を受け、治療中もしくは症状がある成人(20〜45歳)の喘息有病率は、2006年には約5.3%でしたが、2010年には7.7%、2012年には8.9%と年々増加しています。
成人喘息が増加している主な背景としては、以下のような要因が考えられています。
・大気汚染の悪化(PM2.5や排気ガスなど)
・住環境の気密性向上によるハウスダストやダニの増加
・ストレス社会による精神的負担の増大
・職場環境における化学物質との接触機会の増加
一方で、喘息による死亡者数は減少傾向にあります。これは治療薬の進歩と、早期診断・早期治療の重要性が広く認識されてきたためです。
ただし、死亡者の多くが65歳以上の高齢者に集中しているため、高齢になるほど適切な管理が重要になります。
【参考情報】『Why Asthma Can Hit You Harder as an Adult』Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/why-does-asthma-hit-you-harder-as-an-adult/
5.自己管理とアレルゲン対策
成人喘息の管理で最も大切なのは、日常生活での自己管理です。ピークフローメーターを使った気道状態のチェックや、アレルゲン対策を行うことで、症状を安定させることができます。
5-1. ピークフローメーターで気道の状態をチェック
ピークフローメーターという器具で呼吸機能の検査をおこなうことで、自分自身で気道の状態を把握することができます。
ピークフローを利用することで、気道の状態を具体的に数値化することができるため、客観的に自分自身の体調を把握することができます。
その数値を喘息日記などで記録していくと、喘息がきちんとコントロールできているかどうかを知ることができたり、記録を診察時に医師に見せることで薬が効果的に効いているかどうかを共有することができたりするので、とても便利です。
ピークフローメーターは自宅で毎日使用する自己管理ツールです。正しい使い方については、医療機関で医師や看護師から指導を受けましょう。
正確な測定ができるよう、最初にしっかりと使い方を学ぶことが大切です。
〈効果的に使用するためのポイント〉
・毎日同じ時間帯に測定する(朝起床時と就寝前の1日2回が理想的)
・毎日記録してグラフ化することで、変化の傾向がわかりやすくなる
・症状が安定しているときの最大値(自己最良値)を把握し、それを基準にする
・測定結果に基づいて、どのような対応をすべきか事前に医師と相談しておく
ピークフロー値が通常の80%以下に低下した場合は要注意です。70%以下になった場合は、医師の指示に従って薬の増量などの対応が必要になることがあります。
ピークフローメーターを活用することで、喘息発作の予兆を早期に察知し、適切な対応をとることができます。
【参考情報】『喘息の保健指導・患者教育』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/kenkou/ryumachi/dl/jouhou01-07-0002.pdf
5-2. 日常生活でのアレルゲン対策
成人喘息の大半が非アトピー型であるとはいえ、アレルゲン(アレルギー物質)には注意が必要です。
大人になると小児期よりも行動範囲が広くなるため、子ども以上に環境への配慮が大切になります。
成人喘息で注意すべき主なアレルゲンにはハウスダスト(室内のほこり)、ダニ、花粉、ペットの毛やフケ、カビ、タバコの煙、アルコールなどがあります。
これらのアレルゲンは、直接的に喘息発作を引き起こすだけでなく、気道の過敏性を高めることで、他の刺激に対しても反応しやすくなる可能性があります。
〈効果的なアレルゲン対策〉
・こまめな掃除と換気、寝具の定期的な洗濯
・適切な湿度管理(40〜60%を保つ)
・花粉対策(マスク着用、手洗い・うがいの徹底)
・禁煙し、タバコの煙を避ける
・アルコールは控えめに(個人差があるため、自分の体調と相談しながら適量を守りましょう)
アレルゲンの完全な回避は難しいかもしれませんが、できる範囲で対策を行うことで、症状の安定につながります。
自分にとって刺激となるアレルゲンを把握し、適切な対策を講じることは、成人喘息の管理において重要な要素のひとつです。
【参考情報】“Controlling Asthma” by Centers for Disease Control and Prevention (CDC)
https://www.cdc.gov/asthma/control/index.html
6.おわりに
子どもの頃に治まっていた喘息が大人になって再発することは、決して珍しくありません。小児喘息が寛解した方の約3割が成人後に再発するというデータもあります。
成人喘息こそ日々の自己管理が大切だということがおわかりいただけましたでしょうか。
喘息は完治しない病気であることをよくご理解いただき、毎日の吸入薬の使用や定期受診だけではなく、ピークフローメーターでの数値管理や体調の変化やストレスなどにも注意して生活しましょう。
「昔治ったから大丈夫」と過信せず、咳や息苦しさなどの症状に気づいたら早めに呼吸器内科を受診し、適切な治療でコントロールしていくことが重要です。











