喘息とアトピー、アレルギーの関係

食物アレルギーの子どもがアトピー性皮膚炎になったり、アトピー性皮膚炎の患者さんが喘息になることは、しばしばあります。
病気がひとつだけでも大変なのに、また別の病気の対応に追われ、手こずっている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、アレルギーが原因で起こる病気の仕組みと、アレルギーによる症状を起こしにくくするための対策を紹介します。
喘息、アトピー性皮膚炎の患者さんや、家族に当てはまる人がいる方は、ぜひ読んでください。
目次
1.喘息の原因~アトピー型と非アトピー型
喘息には、アレルギーが原因の「アトピー型喘息」と、アレルギー以外の原因による「非アトピー型喘息」があります。
小児喘息の70〜90%、大人の患者の30%ほどが、アトピー型喘息だといわれています。
アトピー型喘息はアレルギー反応が原因とされ、遺伝的な要因も影響します。家族に喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患がある場合、リスクが高まります。
花粉、ハウスダスト、ペットの毛などのアレルゲン物質にさらされると、アレルギー反応による炎症が起こり、喘息の症状があらわれます。
一方、非アトピー型喘息は、アレルギー反応とは無関係な要因によって引き起こされます。原因としては、喫煙、大気中の汚染物質、感染症、冷たい空気、運動、ストレスなどがあります。
2.アトピー素因とは何か
アレルギーが関わる病気には、喘息のほか、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎(花粉症を含む)、アレルギー性結膜炎など、さまざまな病気があります。
これらのアレルギー疾患を発症しやすい体質のことを「アトピー素因」と呼びます。
アトピー素因を持つ人は、アレルゲン(花粉、ダニ、ハウスダスト、食物などアレルギーの原因となる物質)に対して反応しやすく、IgE抗体という免疫物質を体内で作りやすい特徴があります。
このIgE抗体が多いほど、アレルギー症状が現れやすくなる傾向があります。
また、アトピー素因は家族内でみられることが多いのも特徴です。自分だけでなく、親や兄弟姉妹、子ども、祖父母などの近い親族にもアレルギー疾患があるケースがよく見られます。つまり、遺伝的な影響が関わっていると考えられています。
もちろん、遺伝だけで決まるわけではなく、住環境・食生活・ストレス・大気汚染などの環境要因が組み合わさることで発症や悪化につながることもあります。
アトピー素因を理解しておくことは、発症リスクを知るだけでなく、早めの対策や予防につながります。
家族にアレルギー疾患が多い場合は、日常生活の工夫や環境整備を意識することで、症状のコントロールがしやすくなります。
【参考情報】『Immunoglobulin E (IgE) Defined』AAAAI(American Academy of Allergy Asthma & Immunology)
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/allergy,-asthma-immunology-glossary/immunoglobulin-e-(ige)-defined
3.アトピー素因とアレルギー性疾患の関係
アレルギーが原因となる病気そのものが遺伝するわけではありません。しかし、アレルギーを起こしやすい体質(アトピー素因)は親から子へ受け継がれることがあります。
【参考情報】『Parental history of atopic disease: disease pattern and risk of pediatric atopy in offspring』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15536408/
たとえば、アトピー性皮膚炎のある親から生まれた子どもが、必ず同じアトピー性皮膚炎になるとは限りませんが、受け継いだ体質により、喘息や食物アレルギーなど、別のアレルギー性疾患を発症するケースもあります。
また、乳児期の食物アレルギーやアトピー性皮膚炎が、幼児期に喘息、小学生以降にアレルギー性鼻炎へと移り変わるなど、一つのアレルギー性疾患が落ち着いた後、成長とともに別のアレルギー症状が現れることがあります。
このように、年齢とともに症状の種類が変化しながら続く流れを「アレルギーマーチ」と呼びます。
【参考情報】『アレルギーマーチ』日本アレルギー疾患療養指導士認定機構
https://caiweb.jp/2023/04/28/allergie-march/
以上を踏まえると、アレルギーが原因で喘息を発症した人は、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎など、他のアレルギー性疾患を併発する可能性が高いと言えます。
逆に、アトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患がある人は、将来、喘息を発症するリスクが高まることも理解しておくとよいでしょう。
この流れを理解しておくと、早期の対策や予防に役立ちます。家族にアレルギー性疾患がある場合、子どもの皮膚ケアや環境整備、早めの医療相談などが将来の発症リスクを抑えるポイントになります。
4.アレルギーマーチを予防するには
アレルギーを起こしやすい体質そのものを変えることは難しいのですが、喘息でもアトピー性皮膚炎でも、アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)を知り、その物質を避ける・減らすことはできます。
4−1.アレルゲンを特定する
アレルギーの原因となる物質(アレルゲン)は、血液検査で調べることができます。
代表的な検査として、IgE抗体を測定する血液検査があり、どのアレルゲンに反応しやすい体質なのかを数値で確認できます。必要に応じて、皮膚に少量のアレルゲンを接触させて反応を見るパッチテストやプリックテストといった検査が行われることもあります。
原因となる物質は多岐にわたり、卵・牛乳・小麦などの食物、スギやヒノキなどの花粉、ダニやハウスダスト、ペットの毛、カビ、金属、化粧品成分や洗剤に含まれる化学物質など、人によって異なります。
アレルゲンが特定できたら、できる限りその物質との接触や摂取を避け、症状の悪化を防ぐことが重要です。
食物アレルギーの場合、加工食品を購入する際は、パッケージの原材料表示にアレルゲンが含まれていないか必ず確認しましょう。
外食では、店員にアレルゲンの有無や調理過程での混入がないかを事前に確認することも有効です。
4−2.こまめに掃除をする
ダニやホコリ、カビなどのアレルゲンを減らすことは、症状の悪化を防ぐうえで基本となる対策です。
特に寝具は長時間直接肌に触れるため、清潔な状態を保つことが重要です。
布団は、布団専用クリーナーや、家庭用掃除機に装着できる布団用アタッチメントを使って、表面に付着したダニの死骸やホコリをこまめに除去しましょう。
さらに、天日干しや布団乾燥機を活用すると、湿気を取り除きダニの繁殖を抑えられます。可能であれば、季節ごとに布団クリーニングに出すと、内部までしっかり清潔にできます。
シーツや枕カバーは、できれば週1回の洗濯が理想です。高温で洗濯できる素材なら、ダニ対策として60℃前後で洗うと効果的です。また、枕本体や布団に防ダニカバーを使用すると、アレルゲンとの接触を減らせます。
寝具以外にも、カーペットやぬいぐるみ、カーテンなどはホコリが溜まりやすいため、定期的な洗濯・掃除を心がけましょう。部屋の換気を習慣化し、除湿器や空気清浄機を併用することで、カビやダニの発生をさらに抑えることができます。
◆「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」>>
4−3.皮膚のバリア機能を保つ
皮膚には、外部からの刺激や有害物質、アレルゲンの侵入を防ぐ「バリア機能」が備わっています。この機能が弱まると、アレルゲンが体内に入りやすくなり、アトピー性皮膚炎などの症状が悪化しやすくなります。
【参考情報】『上皮バリア機能と喘息』専門医のためのアレルギー学講座
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/64/10/64_1297/_pdf
特に乳幼児は、皮膚が薄く皮脂の分泌も少ないため、バリア機能が未熟で、乾燥や刺激の影響を受けやすい点に注意が必要です。
バリア機能を保つための基本は「清潔」と「保湿」です。毎日の入浴やシャワーで汗や汚れを落とし、肌を清潔に保ちましょう。
入浴後は時間を置かず、できれば5分以内にローションやクリームなどの保湿剤を塗り、乾燥を防ぎましょう。
タオルでゴシゴシこすったり、あかすりなど刺激の強いもので洗うと、皮膚表面が傷つき、バリア機能が低下するので避けた方がいいでしょう。
石鹸やボディソープは低刺激性・無香料タイプを選び、よく泡立ててから泡で包み込むようにやさしく洗ってください。洗い流す際は、熱すぎるお湯は皮脂を奪う原因になるため、ぬるま湯(38~40℃程度)を使うのがおすすめです。
また、衣類の素材にも気を配るとよいでしょう。化繊やウールは擦れやすく刺激になることがあるため、肌に直接触れる下着やパジャマは綿素材など刺激の少ないものが適しています。
洗濯洗剤や柔軟剤の成分が刺激になる場合もあるため、無添加や低刺激タイプを選ぶと安心です。
4−4.腸内環境を整える
腸の中には1000種類、100兆以上の細菌が棲んでいます。この細菌たちの集まりが、免疫のシステムに影響を及ぼしていることが、近年明らかになってきました。
【参考情報】『Gut Microbiome』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/25201-gut-microbiome
腸内細菌は、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に分けられます。善玉菌が優位だと腸内環境は良好、悪玉菌が優位だと免疫機能が低下して、アレルギー性疾患が発症しやすくなります。
腸内細菌は、人間が食べたものをエサにして生きています。食物繊維やオリゴ糖は善玉菌のエサとなり、肉類のタンパク質や揚げ物などの脂質は、悪玉菌のエサとなります。
アレルギーを悪化させないためには、善玉菌が喜ぶ食材を積極的に摂り、腸の免疫機能を高めることが大切です。
◆「腸内環境を整えて免疫力をアップさせる食事の基礎知識」>>
5.おわりに
アレルギーマーチは、乳児湿疹をきっかけに食物アレルギーを発症し、続けてアトピー性皮膚炎、喘息という順番で現れることが多いです。
赤ちゃんに湿疹が出ることはよくありますが、アトピー素因を持つ家族がいる赤ちゃんは、続けてアトピー性皮膚炎を発症する恐れもあるので、皮膚の清潔と保湿を心がけ、湿疹を予防してください。
アトピー素因を持つ人は、風邪や気管支炎など呼吸器の感染症が引き金となって喘息を発症することがあります。咳が長引くときや、風邪が治っても咳だけが続いているときは、念のため呼吸器内科を受診しておくと安心です。













