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子どもの咳、寒暖差が原因かも?寒暖差による咳喘息の症状と対策を解説

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)

朝晩に子どもがコンコンと咳き込むなど、風邪ではないのに何度も繰り返す咳に不安を感じていませんか?

実は寒暖差が原因で起こる「咳喘息」の可能性もあります。

この記事では、寒暖差によって咳喘息がどう起こるのか、家庭でできる対策、そして受診判断のポイントをやさしく解説します。

1. 寒暖差と咳喘息の関係とは


寒暖差によって気道が敏感な子どもでは、温度変化が咳を引き起こすことがあります。

1‑1. 咳喘息とは

咳喘息は、咳だけが長く続く状態で、喘鳴や息苦しさは伴わないことが多いです。小児では気温差や乾燥がきっかけとなることがよくあります。

◆咳喘息とはどのような病気か?>>

【参考情報】『About Asthma』Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/about/

1‑2. なぜ寒暖差で咳が出るのか

冷気を吸うと気道の粘膜が刺激され、咳反射が起きやすくなります。さらに自律神経のバランスが乱れることも原因になります。

【参考情報】『天気とぜん息の関係』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202207_2/

1‑3. 咳が起こりやすいシーン

寒暖差により咳が出やすくなる状況には、特に共通する場面があります。

まず、朝起きた直後には布団内との室温差によって気道が刺激されやすく、子どもがコンコンと咳込むことが増えやすいです。

次に、保育園や学校から帰宅するタイミングでは、屋外と室内の温度差が急激に体に伝わるため、気道への負担がかかり、咳が誘発されやすくなります。

そして夜間、寝室の空気が冷え乾燥しやすい時間帯には、気道粘膜が敏感になり咳込みが強まることがあります。

こうした時間帯に咳が目立つ場合は、咳喘息の可能性を視野に入れて対応を検討する必要があります。

◆『子どもの咳が止まらない・長引く時の原因とは』について>>

2. 風邪と咳喘息の違い


咳が続くと「風邪かな?」と考えがちですが、実際には風邪による一過性の咳と、咳喘息の咳では特徴が大きく異なります。

正しく見極めることで、適切な受診や治療につながります。

2-1. 風邪との違い

風邪はウイルス感染が原因で、発熱や鼻水、喉の痛み、倦怠感など全身症状を伴うのが一般的です。咳も痰を伴い、症状が改善するのに合わせて1週間ほどで収まるケースが多いです。

一方で咳喘息は、熱や鼻水といった典型的な風邪症状を欠き、乾いた咳が2週間以上続くのが特徴です。特に夜間や明け方に強くなり、風邪が治った後に「咳だけが長く残る」場合には咳喘息が疑われます。

◆『風邪を引いた後に咳だけ残る原因と考えられる病気』について>>

【参考情報】『かぜとは限りません-湿った咳と乾いた咳』日本医師会
https://www.med.or.jp/dl-med/people/plaza/285.pdf

2-2. 咳喘息のセルフチェック

風邪と咳喘息の違いを踏まえても、実際に咳喘息かどうかは自己判断だけでは難しい場合があります。

そこで、自分やお子さんの症状を簡単に確認できる目安として、セルフチェック項目を用意しました。当てはまる項目が多いほど、咳喘息の可能性が高まります。

□咳が2週間以上続く
□熱や痰がほとんどない
□夜間や明け方に悪化する
□寒暖差で咳が出やすい
□話す・笑う・運動後に咳が増える
□風邪が治っても咳だけが残る
□家族にアレルギーや喘息の既往がある

これらが複数当てはまる場合は咳喘息の可能性があります。

◆『熱はないのに、咳が止まらないのはどんな病気か』について>>

【参考情報】『小児のぜん息/Q&A』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/citizen_qa/index.php?content_id=2

【参考情報】『asthma in children』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma/children

2-4. 市販薬の効果から見る違い

風邪による咳は、市販の総合感冒薬や咳止めで軽快することがあります。

しかし、咳喘息は気道の慢性的な炎症が原因であるため、市販薬だけでは改善しにくいのが現実です。

咳が1週間以上続き、市販薬で効果が得られない場合は、咳喘息を含む慢性呼吸器疾患の可能性を考え、早めに専門医の診察を受けることが大切です。

3. 家庭でできる咳喘息のケア方法


寒暖差による咳を防ぐには、日常生活での環境調整がとても大切です。適切な環境づくりと生活習慣の改善で、子どもの咳喘息症状を大きく軽減させることができます。

ここでは家庭で取り組める具体的な対策をご紹介します。

3‑1. 加湿と室温管理

冬場は暖房で室内が乾燥しやすく、咳の大きな原因になります。

加湿器で湿度50〜60%を保ち、室温は20〜24℃を目安に一定に維持しましょう。

寝室には温度計と湿度計を置き、定期的に確認する習慣が大切です。夜間は暖房のタイマー機能を活用して気温低下を防ぎ、急激な温度変化による咳発作を予防します。

3‑2. 衣類での温度調整

外出時には薄手の重ね着やマフラー、ネックウォーマーなどを活用し、外気との温度差を和らげることが大切です。

特に子どもは体温調節機能が未発達なため、大人以上に気を配る必要があります。

重要なのは以下のようなシーンでの対策です。

・朝の登園・登校時:暖かい室内から寒い外気への移動時にマスクや首元の防寒を

・帰宅時:外から室内に入るときは、一度玄関や廊下で体を慣らしてから暖かい部屋へ

・入浴前後:脱衣所と浴室、浴室と脱衣所の温度差をなるべく小さくする

季節の変わり目には、朝晩の冷え込みに備えて上着を持たせたり、気温の変化に応じて脱ぎ着できるような服装を心がけましょう。

子どもが自分で体温調節できるよう、重ね着の大切さを教えておくと良いでしょう。

◆『季節の変化に注意して喘息発作を予防!』について>>

3‑3. 室内環境整備

ホコリやカビ、ダニなどのアレルゲンは気道を刺激し、咳喘息症状を悪化させます。定期的な掃除で室内を清潔に保ちましょう。

特に以下のポイントに注意して清掃を行うことが効果的です。

・寝具は週に1回以上天日干しする
・掃除機をかける際は子どもを別室に移動させる
・カーテンやぬいぐるみなどは定期的に洗濯する
・カビが発生しやすい浴室や洗面所は換気を徹底する
・布団乾燥機やダニ対策シートを活用する

子どもの部屋は特に念入りに清掃し、アレルゲンを減らす工夫をしましょう。

また、加湿しすぎるとカビの原因になるため、適度な湿度管理も重要です。

◆『喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点』について>>

3‑4. タバコの煙対策

タバコの煙は咳喘息の大きな悪化因子です。子どもがいる家庭では完全禁煙が理想ですが、それが難しい場合でも以下の対策を徹底しましょう。

・家の中での喫煙は絶対に避ける
・ベランダや屋外で喫煙する場合も、風向きに注意する
・喫煙後は手洗いうがいを徹底し、できれば着替えも行う
・窓を開けても有害物質は残留するため、車内での喫煙は絶対にしない
・喫煙者が訪れる場所への外出を控える

受動喫煙による健康被害は科学的に明らかで、子どもの呼吸器系はより敏感に反応します。

喫煙者の衣服や髪に付着した有害物質も気道刺激の原因になるため注意が必要です。

◆『喘息を悪化させる9つの要因とその対策』について>>

3-5. 食生活の見直し

食生活も咳喘息に影響します。以下のような食事の工夫も効果的です。

・ほうれん草、トマト、ブロッコリー、ブルーベリー、いちごなど抗酸化作用のある野菜や果物を積極的に摂る

・さば、いわし、さんま、鮭、ぶりなどオメガ3脂肪酸を含む魚を定期的に食べる

・ヨーグルト、納豆、味噌汁、ごぼう、さつまいもなど発酵食品や食物繊維で腸内環境を整える

・清涼飲料水、菓子パン、スナック菓子は控えて、過剰な糖分や添加物の摂取を避ける

・水、麦茶、ルイボスティー、経口補水液などで十分な水分補給を心がける

また、子どもの体調や肌の変化に気を配り、アレルギーの心配がある食品は避けましょう。

3-6. 運動と休息のバランス

適度な運動は呼吸機能を高め、免疫力を向上させます。

ただし、激しい運動や冷たい外気の中での運動は咳を誘発することがあるため、以下のポイントに気をつけましょう。

・運動前のウォームアップを十分に行う
・寒い日の屋外運動はマスクやネックウォーマーを着用する
・運動後は急激に体を冷やさない
・十分な睡眠と休息をとる

特に成長期の子どもは疲れを自覚しにくいため、親が適度な休息をとらせるように配慮することが大切です。

4. 咳喘息の診断と治療の進め方


咳が長引く場合は、放置せず早めに原因を特定し、適切な治療を始めることが重要です。

特に子どもは気道が敏感で、寒暖差や乾燥といった刺激にも影響を受けやすく、咳喘息などの見逃しを防ぐために、早期の受診と的確な診断が求められます。

4-1. 小児科・呼吸器内科での診察

まずは小児科で、症状の経過や咳の出る時間帯などを詳しく伝えながら、問診と聴診を受けます。必要に応じて胸部レントゲンや呼吸機能検査、アレルギー検査が行われます。

咳のパターンや持続期間によっては、呼吸器内科でより専門的な検査(気道の炎症マーカー測定、ピークフローモニタリングなど)が勧められることもあります。複数科の連携により、他の呼吸器疾患との鑑別も正確になります。

4-2. 治療に関する対応方法

治療の中心は、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬です。症状が強い場合や夜間の咳が続く場合には、気管支拡張薬を併用することがあります。

また、寒暖差や乾燥を避ける生活環境の調整も重要です。吸入薬は正しい方法で使用しないと効果が十分に得られないため、医師や看護師による吸入指導を受けることが推奨されます。

症状が改善しても自己判断で中止せず、再発防止のために医師の指示に従って継続します。

◆『咳がなかなか治らない理由と考えられる病気』について>>

【参考情報】『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404085247.html

【参考情報】『Inhaled Corticosteroids』National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK470556/

5. 咳が悪化する前に受診を考えるタイミング


咳喘息は適切に対応しないと気管支喘息へ移行し、日常生活に大きな影響を及ぼすことがあります。

特に子どもは進行が早い場合もあり、軽症のうちに受診して治療を始めることが重要です。咳が長引く原因を早期に見極めることが、重症化の防止につながります。

5-1. 受診の目安

咳が2週間以上続く場合は要注意です。夜間や寒暖差のある環境で咳が強まる、市販薬や家庭での加湿・防寒などのケアをしても改善しない場合も受診を検討しましょう。

また、咳のせいで睡眠や日中活動に支障が出ている、体力の低下が見られる場合も早めの受診が望まれます。

5-2. 受診時に伝えたいポイント

診察をスムーズに進めるため、咳の出る時間帯や頻度、症状が強くなる場面(起床時・帰宅時・夜間など)を具体的にメモして持参しましょう。

加えて、これまで行った家庭での対策(加湿・室温管理・薬の使用など)や、同居家族に似た症状があるかどうかも伝えると、診断精度が高まります。

【参考情報】『cough』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/symptoms/cough/basics/definition/sym-20050846

6. おわりに

寒暖差による咳喘息は風邪とは異なり、咳だけが長く続くことがあります。家庭での湿度・温度管理、衣類調整、環境整備などで予防とケアが可能です。

咳が2週間以上続いたり、夜間や寒暖差で悪化する場合は医療機関の受診も検討してください。早めの対応で気管支喘息への進行を防げます。

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