喘息と鼻炎の関係とは?合併率67%の原因と効果的な治療法を解説
喘息と鼻炎の関係について悩んでいませんか?実は、喘息患者さんの67.3%が鼻炎も合併しており、この数値は季節によって50%から85.6%まで大きく変動することが分かっています。
本記事では、喘息と鼻炎が合併しやすい3つの理由から、One airway one disease(一つの気道、一つの病気)に基づく最新の治療法まで、呼吸器専門医が詳しく解説します。
【参考情報】『気管支喘息患者における鼻炎の合併率』埼玉医科大学
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/62/12/62_KJ00008991932/_pdf
目次
1.喘息と鼻炎の基本知識
喘息と鼻炎の合併について理解するために、まずはそれぞれの病気の特徴と原因について詳しく見ていきましょう。両方の病気に共通する要素を理解することで、なぜ合併しやすいのかが見えてきます。
1-1. 喘息とは?基本的な症状と原因
喘息とは、空気の通り道である気道が慢性的に炎症を起こしているため、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。
喘息の原因は、アレルギー性と非アレルギー性にわけられます。
アレルギー性の喘息は、ダニ、ハウスダスト、花粉などアレルギーの原因となる物質(アレルゲン)が引き金となり発症します。
非アレルギー性の喘息は、風邪などの呼吸器感染症や、タバコ、ストレスなど、アレルギー以外の原因により発症します。
1-2.鼻炎とは?アレルギー性鼻炎の症状
鼻炎とは、鼻腔(鼻の内部)の粘膜が炎症を起こし、腫れてしまうことで、鼻水や鼻づまりなどの症状が現れる病気です。
原因は、やはり喘息と同じように、アレルギーとアレルギー以外のものがあります。
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンを吸い込むことで鼻の粘膜に反応が生じ、炎症が起こります。目のかゆみやまぶたの腫れなど、鼻以外の部分に症状が現れることもあります。
アレルギー以外の原因による鼻炎には、寒暖差などの刺激が引き金となって起こる血管運動性鼻炎や、市販の点鼻薬の使い過ぎで発症する薬剤性鼻炎などがあります。
【参考情報】『Rhinitis』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/rhinitis
2.喘息と鼻炎が合併する3つの理由【合併率67%の背景】
喘息と鼻炎の関係性は深く、喘息の人が鼻炎を合併することは珍しくありません。
専門機関の調査では、喘息患者さんの60~80%にアレルギー性鼻炎も一緒に起こっており、逆にアレルギー性鼻炎患者さんの約10~20%に喘息も起こっています。
ここでは、なぜこれほど高い確率で合併するのか、その医学的根拠を3つの観点から解説します。
【参考情報】『ぜん息との合併に気をつけたい病気』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/complications.html
2-1.同じアレルゲンによる発症メカニズム
喘息も鼻炎も、アレルギーが原因で発症することが多い病気です。ですから、同じアレルゲンに反応して、気道の炎症と鼻腔の炎症の両方が現れることがあります。
例えば、スギ花粉の影響を受けやすい春は、喘息と鼻炎を合併する人が増えます。これは、花粉というアレルゲンにより、喘息と鼻炎の両方が引き起こされるからです。
2-2. One airway one disease(一つの気道、一つの病気)
最近の医学では「One airway, one disease」という考え方が注目されています。これは「鼻から肺までは一つの道でつながっているので、鼻炎と喘息は同じ病気として治療しましょう」という考え方です。
鼻から肺までの呼吸器がつながっていることも、喘息と鼻炎が合併しやすい理由のひとつです。
気道の上部にある鼻腔に炎症が起こると、鼻炎が発症します。一方、鼻腔より下にある気道や気管支に炎症が起こると、喘息の引き金となります。
この考え方では、鼻の炎症と気管支の炎症は別々の病気ではなく、同じアレルギーの炎症が体の違う場所に現れただけと考えます。
そのため、鼻炎と喘息をバラバラに治療するのではなく、まとめて治療することで、より良い効果が期待できます。
【参考情報】『『One airway,one disease からみた喘息と鼻副鼻腔炎』日本内科学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/105/10/105_1935/_pdf
2-3. 鼻炎による口呼吸が喘息を悪化させる仕組み
さらに、鼻炎による鼻づまりで口呼吸になることも、喘息に悪影響を及ぼします。
口呼吸になると、空気が鼻で温められず、冷たいまま口から直接入ってきます。また、ホコリやカビなどのアレルゲンが体内に侵入しやすくなります。
そのため、気道への刺激が多くなり、喘息の症状が悪化するのです。
3.効果的な治療法と特別な合併症
喘息と鼻炎の合併症例に対しては、統合的なアプローチが重要です。
アレルギーが原因の場合、鼻炎の治療を行うと喘息の症状が改善される可能性があり、逆に喘息の治療をすると鼻炎の症状が改善することもわかっています。
ここでは、最新の治療法と注意すべき特別な合併症について解説します。
3-1.アレルゲン免疫療法による根本治療
アレルギー性鼻炎の治療法のひとつとして、アレルゲン免疫療法があります。
アレルゲン免疫療法とは、原因となるアレルゲンに体を少しずつ慣らしていき、症状を和らげる治療法です。
まずは少量のアレルゲンを患者に投与し、徐々にアレルゲンの量を増やしていきます。その後、決められた量のアレルゲンを数年にわたり投与し続けます。
投与期間は3~5年と長いので、治療には根気が必要です。また、スギ花粉またはダニアレルギーによる鼻炎の患者に適用される治療法なので、その他のアレルゲンが原因の場合は対象外となります。
しかし、治療が成功すると、ダニやスギ花粉に体が反応しなくなるので、アレルギー症状が現れなくなります。
この治療法は、ダニアレルギーで鼻炎も一緒にある患者さんで、肺の機能が安定している人に特に効果的です。
また、海外の研究では、喘息のない鼻炎患者さんにこの治療を行うことで、将来の喘息発症を予防する効果も報告されています。
気道も、ダニやスギ花粉の影響を受けなくなるため、喘息の症状も軽減する可能性が高くなります。
【参考情報】『アレルゲン免疫療法の手引き』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/uploads/files/allergen_202101.pdf
アレルゲン免疫療法には、注射法と舌下法の2種類があります。適応年齢や通院回数などがそれぞれ違うため、医師と相談しながら治療法を決めていきます。
【参考情報】『アレルギー専門医が行う喘息治療とは?』日本アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/modules/stwn/index.php?content_id=3
3-2. 生物学的製剤(ゾレア)による治療
スギ花粉による季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)が重症と診断された人は、ゾレアという薬剤を注射する治療が行える可能性があります。
ゾレアは、重症の季節性アレルギー性鼻炎(花粉症)や喘息、慢性蕁麻疹の治療に用いられる薬剤です。
ゾレアによる治療を受けるためには、以下のような条件を満たす必要があります。
・12歳以上
・体重が20kg~150kg
・血液検査でスギ花粉によるアレルギー反応が認められる
・抗ヒスタミン薬やステロイド薬での治療では効果が不十分
・血液中の総IgE値が30〜1500IU/ml
ゾレアは非常に高価な薬剤であるため、患者さんの負担は大きいのですが、つらい症状に悩んでいる方は、使用を検討してもいいでしょう。
【参考情報】『Omalizumab Injection』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/drugs/19805-omalizumab-injection
3-3.好酸球性副鼻腔炎と喘息の特別な関係
副鼻腔炎の中でも、「好酸球性副鼻腔炎」という特別な病気があります。この病気は国が指定する難病で、大人になってから発症する治りにくい副鼻腔炎です。
好酸球性副鼻腔炎の特徴:
・鼻の両側にポリープができる
・においがわからなくなる
・喘息を一緒に持っている人が4~7割
・アスピリン系の薬で喘息が悪化する人が約半数
この病気と喘息を両方持っている患者さんは、喘息が重くなりやすく、薬が効きにくいことが多いため、鼻と喘息の治療を一緒に行うことが大切です。
【参考情報】『『好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4537
4. 日常生活でできる喘息・鼻炎の予防対策
喘息と鼻炎の症状をコントロールするためには、薬による治療だけでなく、毎日の生活環境を整えることが非常に重要です。適切な環境整備と生活習慣の改善により、症状の悪化を防ぎ、将来的なアレルギー疾患の進行も予防することができます。
4-1.環境整備と生活習慣の改善
寝室の環境改善
・床はフローリングが理想的
・布団は週に2回以上干す
・室温20~25℃、湿度50%を維持
掃除のコツ
・こまめに掃除機をかける
・カーテンは定期的に洗濯
◆「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」 >>
生活習慣の改善
・禁煙の徹底
・風邪の予防(手洗い・うがい)
・規則正しい生活
4-2.アレルギーマーチの予防
アレルギーマーチとは、乳幼児期のアトピー性皮膚炎に始まり、続いて食物アレルギー、気管支喘息、アレルギー性鼻炎と年齢に応じてアレルギー疾患が次々に現れる現象のことです。
このような連鎖を防ぐには、できるだけ早期に原因アレルゲンを突き止めて除去することが重要とされています。
国立成育医療研究センターの研究では、新生児期から毎日保湿剤を塗布することでアトピー性皮膚炎の発症リスクが3割以上低下し、将来の喘息や鼻炎などアレルギー疾患の発症を減らせる可能性が示されました。
近年、小児のアレルギー疾患が増加する中、この「アレルギーマーチ」の発症・進展を予防することが大切な課題となっており、早期診断や早期介入の研究も進められています。
【参考情報】『アレルギーについて』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/about_allergy.html#:~:text=2014
5.おわりに
喘息と鼻炎は密接に関係しており、合併することが多い病気です。本記事でご紹介した内容を踏まえ、適切な理解と対策を行うことで、症状のコントロールと生活の質の向上が期待できます。
慢性的な鼻づまりや鼻水などの症状がある喘息患者さんは、主治医に相談してみましょう。鼻炎の症状が改善すれば、喘息の症状も改善される可能性があります。
特に、季節によって症状が変わる方、においがわからない方、アスピリン系の薬で症状が悪化する方は、呼吸器内科と耳鼻咽喉科の連携した治療を受けることをお勧めします。