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「風邪をこじらせた」と思う時に疑われる5つの病気

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月26日

風邪の症状が長引いてなかなか良くならない時、「風邪をこじらせた」という言い方をしますが、このような場合、風邪がきっかけとなり、別の病気へと進行していることがあります。

あるいは、咳が出ているから風邪だと思い込んでいたが、実際には別の病気にかかっていることも考えられます。

この記事では、風邪をこじらせたというときに疑われる病気のうち、よくあるものをまとめました。

咳が長引いている人や、病院を受診しようかどうか迷っている人は、ぜひ参考にしてください。

1.風邪とはどんな病気か

風邪は健康な大人であれば、本来は自然に治る病気です。

しかし、風邪を引き起こしたウイルスによる炎症が呼吸器などに達した場合は、病院での治療が必要です。

1-1.風邪の原因と直し方

一般的な風邪の原因はウイルス感染であり、体の免疫が働くことで数日から1週間ほどで自然に回復します。

安静を保ち、水分を十分に摂り、栄養バランスの取れた食事を心がければ、多くの場合は薬を使わなくても治まります。

市販の風邪薬や咳止め薬は、鼻水やのどの痛み、発熱などのつらい症状を和らげるためのもので、ウイルスそのものを退治する効果はありません。

◆「市販の咳止め薬は効く?効かない?」>>

1-2.重症化のサインに注意

しかし、風邪を引き起こしたウイルスによる炎症が喉や気管支、肺などの呼吸器に広がった場合は、病院での治療が必要になる場合があります。

特に、「発熱が長引く」「黄色や緑色の痰が出る」「咳が2週間以上続く」「息苦しさが強い」といった症状が見られるときは、炎症が広がっている疑いがあります。

また、免疫力が低下している高齢者や子ども、糖尿病・心疾患・喘息などの持病がある人は、軽い風邪でも重症化しやすいため注意が必要です。

さらに、風邪の初期症状に似た感染症として、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症などもあります。急な発熱や全身の倦怠感、関節痛などが強い場合は、病院で検査を受けましょう。

◆「呼吸器感染症の主な種類と予防法」>>

2.風邪をきっかけに起こる可能性のある病気


風邪は軽い感染症として見過ごされがちですが、炎症が広がり、より重い病気を引き起こすこともあります。

この章では、風邪をきっかけに発症する代表的な病気と、その特徴・治療法について解説します。

2-1.急性気管支炎

風邪による鼻やのどの炎症が、気管から気管支にまで達して発症します。

  • 症状
    のどの痛みや咳、痰に加え、発熱を伴う場合もあります。数週間で症状が落ち着くことが多いですが、発熱や咳などの症状が長引く場合は、肺炎や肺結核、胸膜炎を合併している恐れがあるため注意が必要です。
  • 原因
    風邪と同じように、ウイルスによるものが大半ですが、一部細菌によるものもあります。タバコや排気ガス、化学物質が原因で症状が引き起こされることもあります。
  • 検査と診断
    咳や痰などの症状を診て判断します。必要に応じてレントゲン撮影や血液検査、呼吸機能検査などを行う場合もあります。
  • 治療
    咳をしずめる薬や、痰が出やすくなるようにする薬が処方されることがあります。細菌感染が疑われる場合は、抗菌薬も処方されます。

【参考情報】『Bronchitis』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/3993-bronchitis

◆「気管支炎」についてもっと詳しく>>

2-2.肺炎

ウイルスや細菌が肺にまで入り込み、炎症を起こしている状態です。特に高齢者は免疫力が落ちてきているため、ちょっとした風邪をきっかけに肺炎を発症し、急激に悪化することが多いので注意が必要です。

  • 症状
    38度以上の高熱や激しい咳、痰、呼吸困難、息を吸い込んだ時の胸の痛みなどがあります。高齢者の場合、肺炎になっても咳や痰などの症状があまり見られず、食欲不振や全身の倦怠感を訴えることがあります。
  • 原因
    肺炎球菌という病原菌によって起こることが最も多いのですが、ウイルスや微生物、アレルギーによっても引き起こされます。また、高齢者の場合は、食べ物や唾液が間違って気管に入ってしまう誤嚥(ごえん)によって起こることもよくあります。
  • 検査と診断
    聴診器で胸の中の音を聞くと、肺炎独特の音が聞こえます。その後、胸部レントゲン撮影をして、肺の中が白く映ると肺炎と診断されます。必要に応じて呼吸器検査や血液検査、痰の検査なども行われます。
  • 治療
    抗菌薬のほか、熱を下げる薬や咳などの症状を和らげる薬が処方されます。症状が重い場合は、入院して治療を行うこともあります。

【参考情報】『Pneumonia』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/pneumonia/symptoms-causes/syc-20354204

◆「肺炎の知識と予防」について>>

2-3.急性中耳炎

耳には、外耳、中耳、内耳という部分がありますが、耳の鼓膜から奥の部分である中耳に炎症が起きた状態を中耳炎といいます。

  • 症状
    耳の痛みや発熱、耳だれ、耳が詰まったような感じ、耳が聞こえにくいなどの症状が現れます。乳幼児の場合は「耳をしきりに触わる」「機嫌が悪い」「食欲がない」といったサインがある時に、中耳炎の疑いがあります。
  • 原因
    風邪のウイルスや細菌が耳に感染して起こることが多いです。特に子どもは耳・鼻・のどをつなぐ耳管という部分が太く短いことと、鼻水をかまずにすすってしまいがちなことが原因で、のどや鼻についたウイルスや細菌が耳の中に侵入しやすく、中耳炎になりやすいです。
  • 検査と診断
    顕微鏡や内視鏡で鼓膜を拡大して見て診断します。何度も繰り返しかかる場合や、症状が長引いている時は、細菌検査を行うことがあります。
  • 治療
    自然に治ってしまうことも多いのですが、耳の痛みが強い時は、鎮痛剤が処方されることがあります。膿がたまっている場合は鼓膜を切って膿を出し、抗菌薬を服用します。繰り返し起こる場合は、鼓膜にチューブを入れる手術を行うこともあります。

【参考情報】『中耳炎』日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
https://www.jibika.or.jp/modules/disease/index.php?content_id=20#cyuji

2-4.急性副鼻腔炎

鼻の内部には、副鼻腔(ふくびくう)という粘膜に覆われた空洞があります。この部分に炎症が起きた状態を副鼻腔炎といいます。

  • 症状
    粘り気のある黄色っぽい鼻水が出るほか、顔に痛みを覚える、鼻が詰まって頭がボーッとする、息苦しい感じがするなどの症状が現れます。鼻水がのどに流れる後鼻漏(こうびろう)と呼ばれる状態になることや、においが感じにくくなることもあります。
  • 原因
    風邪などのウイルスや細菌の感染によって鼻腔に炎症が起こることで、鼻腔とつながっている副鼻腔に炎症が及びます。
  • 検査と診断
    内視鏡などを用いて鼻の内部を見たり、CTスキャンなどで副鼻腔の状態を確認して診断します。鼻の通り具合を調べる検査をすることもあります。
  • 治療
    溜まった鼻水を吸引したり、鼻や口から細かい霧状にした薬剤を吸入するネブライザー療法を行います。抗生剤などの治療薬が処方されることもあります。

【参考情報】『Acute sinusitis』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/acute-sinusitis/symptoms-causes/syc-20351671

◆「副鼻腔炎」についてくわしく>>

2-5.咳喘息

風邪を引いた後に、咳だけが長く続く場合は、咳喘息の可能性もあります。

  • 症状
    咳喘息は、喘息とよく似た病気ですが、喘息のようなゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音や息苦しさはほとんど見られません。症状は、長引く咳のみですが、放置すると喘息に移行することもあります。
  • 原因
    気道がウイルス感染やアレルギー反応などで慢性的に炎症を起こし、刺激に敏感になることが原因です。ダニ・ハウスダスト・花粉・喫煙・冷気・ストレスなども誘因になります。
  • 検査と診断
    問診で咳の経過やアレルギー歴を確認し、胸部X線で肺炎や結核など他の病気を除外します。呼吸機能検査で気道の過敏性を評価し、必要に応じてアレルギー検査を行います。気管支拡張薬を吸入して咳が改善する場合、咳喘息と診断されます。
  • 治療
    気道の炎症を抑えるために吸入ステロイド薬を使用します。症状が強いときは、気管支拡張薬を併用します。室内のダニ・ホコリ対策や禁煙も有効です。

◆「咳喘息」の詳しい情報をチェック>>

3.風邪とよく似た初期症状が現れる病気


発熱や咳、のどの痛みなど、一見風邪と同じような症状でも、実はまったく別の感染症が隠れていることがあります。

この章では、風邪によく似た初期症状を示す代表的な病気を紹介します。

3-1.インフルエンザ

冬に流行することが多いウイルス感染症で、一般的な風邪よりも症状が強いのが特徴です。

重症化すると肺炎や脳症を起こすことがあり、高齢者や基礎疾患のある人は特に注意が必要です。

  • 症状
    主な症状は、突然の高熱(38〜40℃)と強い全身倦怠感、筋肉痛、関節痛です。これに続いて喉の痛み、咳、鼻水などの呼吸器症状が現れます。子どもでは嘔吐や下痢が出ることもあります。発症から1〜2日で急激に悪化するのが特徴です。
  • 原因
    インフルエンザウイルス(A型・B型・C型)への感染によって起こります。感染者の咳やくしゃみで飛び散る飛沫を吸い込むことで感染する「飛沫感染」と、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることで感染する「接触感染」が主な経路です。
  • 検査と診断
    発症から12時間以上経過した段階で、鼻や喉の粘液を採取してウイルスの有無を調べる迅速検査を行います。症状の出方や流行状況から医師が臨床的に判断する場合もあります。重症化の疑いがある場合は、血液検査や胸部X線検査を行うこともあります。
  • 治療
    抗インフルエンザ薬(タミフル、イナビル、リレンザ、ゾフルーザなど)を早期に服用すると、症状が出る期間を短縮できます。予防のためには、毎年のワクチン接種も効果的です。

【参考情報】『Influenza (Flu)』CDC
https://www.cdc.gov/flu/index.html

◆「インフルエンザ」についてもっと詳しく>>

3-2.新型コロナウイルス感染症

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症で、主に飛沫や接触を通じて広がります。軽症で済む場合もありますが、高齢者や基礎疾患のある人では重症化することがあります。

  • 症状
    主な症状は、発熱、咳、倦怠感、喉の痛み、鼻水、頭痛、嗅覚や味覚の異常などです。軽症では風邪に似た症状が多く見られますが、重症化すると呼吸困難や肺炎を起こすことがあります。オミクロン株以降では、喉の痛みや咳が中心となる傾向があります。
  • 原因
    感染者の咳やくしゃみ、会話などで発生する飛沫を吸い込むことで感染する「飛沫感染」、ウイルスが付着した手で口や鼻を触ることで感染する「接触感染」が主な経路です。密閉・密集・密接の「三密」環境では感染が広がりやすくなります。
  • 検査と診断
    鼻や喉の粘液を採取して行うPCR検査や抗原検査で診断します。PCR検査は精度が高く、発症初期でもウイルスを検出できます。抗原検査は短時間で結果が得られ、医療機関や薬局で実施可能です。症状の有無や検査結果、流行状況を総合して医師が診断します。
  • 治療
    軽症の場合は自宅療養での安静と水分補給が中心です。重症化リスクの高い人には、抗ウイルス薬(パキロビッド、ラゲブリオ〉など)を使用することがあります。重症例では、酸素投与やステロイド治療、入院管理が必要ですが、ワクチン接種によって重症化を防ぐことができます。

【参考情報】『COVID-19 symptoms and what to do』NHS
https://www.nhs.uk/conditions/covid-19/covid-19-symptoms-and-what-to-do/

◆「新型コロナウイルス感染症の咳の特徴」>>

3-3.マイコプラズマ肺炎

マイコプラズマ・ニューモニエという病原体によって引き起こされる肺炎で、長引く咳が特徴です。子どもから若い世代を中心に流行しやすく、家族内感染も見られます。

  • 症状
    主な症状は、発熱と咳です。初期は軽い喉の痛みや倦怠感から始まり、次第に咳が強くなって2週間以上続くことがあります。痰は少なく、夜間に咳が悪化することもあります。
  • 原因
    咳やくしゃみによる飛沫感染で広がります。学校や職場など、人が集まる場所で流行しやすく、免疫のない人が感染すると発症します。
  • 検査と診断
    胸部X線検査で肺炎の影を確認するほか、血液検査でマイコプラズマ抗体を調べます。最近では、喉のぬぐい液から遺伝子を検出するPCR検査によって迅速に診断することも可能です。症状の経過や咳の特徴などから臨床的に診断される場合もあります。
  • 治療
    抗生物質であるマクロライド系(クラリスロマイシンなど)、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の薬を使用します。発熱や咳が治まるまでには1〜2週間かかることが多いため、医師の指示に従って服薬を続けることが大切です。

【参考情報】『Mycoplasma pneumonia』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/ency/article/000082.htm

◆「風邪と間違いやすいマイコプラズマ肺炎とは?」>>

3-4.百日咳

百日咳菌によって起こる呼吸器の感染症で、強い咳が長期間続くのが特徴です。乳幼児では重症化しやすく、特に生後6か月未満の赤ちゃんは命に関わることもあります。

近年は、ワクチンの免疫が薄れた思春期や成人にも増えています。

  • 症状
    初期は風邪のような軽い咳が出ますが、1〜2週間後から「コンコンコン」と立て続けに咳き込み、息を吸うときに「ヒュー」という笛のような音が出ることがあります。咳の後に嘔吐することもあり、症状は3〜8週間ほど続きます。乳児では咳き込みの代わりに無呼吸発作が見られることがあります。
  • 原因
    感染者の咳やくしゃみによって飛び散る飛沫を吸い込むことで感染します。感染力が非常に強く、家庭内や学校などで集団感染することがあります。
  • 検査と診断
    鼻や喉の粘液を採取して行うPCR検査や細菌培養検査で、百日咳菌を確認します。血液検査で抗体を測定することもあります。初期症状が風邪と似ているため、咳の経過や周囲の感染状況なども診断の手がかりになります
  • 治療
    抗菌薬(マクロライド系など)を早期に投与することで、症状の軽減と感染拡大の防止が期待できます。乳児では重症化を防ぐため入院管理が行われることがあります。予防には、ワクチンが有効です。

【参考情報】『Whooping cough』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/whooping-cough/symptoms-causes/syc-20378973

◆「百日咳」についてもっと詳しく>>

4.おわりに

風邪をこじらせないためには、十分な睡眠と栄養、こまめな水分補給、そして無理をせず体を休めることが基本です。

症状が長引いたり悪化した場合は、早めに医師の診察を受け、適切な治療を受けることで重症化を防ぐことができます。

風邪を引いてから咳が止まらなくなったり、治ったと思ったのにまた熱が出た時は、風邪をきっかけに呼吸器などに症状が及んでいる可能性があります。

そのような時は病院を受診して、適切な治療を受けてください。放っておくとさらに症状が進み、病気が慢性化することもあります。

◆「呼吸器内科を受診すべき症状」について>>

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