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65歳になったら肺炎球菌ワクチンを受けましょう

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年01月06日
肺炎球菌ワクチン

65歳になると、自治体から肺炎球菌のワクチンを接種するための案内が届きます。しかし、予防接種の有効性を理解している人はまだ少ないようで、ワクチン接種率は最も高い65歳でも4割程度にとどまっています。

肺炎球菌ワクチンの相当年齢別接種者数と接種率の推移
【参考資料】国立感染症研究所 肺炎球菌ワクチンの相当年齢別接種者数と接種率の推移
https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/07/461r10t01.gif

この記事では、肺炎で亡くなる方や苦しむ方を一人でも減らすことができるよう、肺炎球菌の恐ろしさとなぜ予防接種が必要なのかを説明します。

1.肺炎球菌は肺炎の原因第一位

肺炎球菌とは、その名の通り肺炎を引き起こす強力な細菌です。肺炎を引き起こす病原体は、インフルエンザウイルスやマイコプラズマなどほかにもありますが、肺炎の原因第一位は肺炎球菌です。
市中肺炎の病因
図:市中肺炎の病因
出典:Pfizer HP(おとなの肺炎球菌感染症.jp)
http://otona-haienkyukin.jp/

肺炎球菌は「莢膜(きょうまく)」と呼ばれる厚い膜で覆われています。そのため、細菌を攻撃する白血球から逃れることができ、より深く体内に侵入できるというやっかいな性質を持っています。

肺炎球菌に感染すると、肺炎のほか、中耳炎や副鼻腔炎、そして、命にかかわる疾患である髄膜炎や敗血症にかかることがあります。治療には抗菌薬を用いますが、近年は抗菌薬への耐性を持つ毒性の強い菌が現れ、重症化が問題となっています。

実は、健康な人の鼻や喉にも肺炎球菌があることは珍しくないのですが、普段は何も悪いことはしません。しかし体力が落ちてきたときや、インフルエンザなどにかかって気道の粘膜が傷ついたときに増殖を始め、肺炎を引き起こすのです。

高齢者は免疫機能が低下しているため、肺炎球菌が肺へ侵入しやすくなり、肺炎にかかるリスクが高くなります。また、糖尿病や心臓病などの持病がある方も免疫機能が低下しているので注意が必要です。2歳未満の乳幼児も免疫機能が未発達なので、感染リスクが高くなります。

◆「肺炎の知識と予防」について>>

2.肺炎球菌ワクチン2種類の違いと特徴

ニューモバックスプレベナー

肺炎球菌には90種類ほどの型があります。その中で、成人が感染しやすい23種類に対するワクチンが「ニューモバックス(23価肺炎球菌ワクチン)」、小児が感染しやすい13種類に対するワクチンが「プレベナー13(13価肺炎球菌結合型ワクチン)」です。

2-1.ニューモバックス

ニューモバックスは、1回の接種で5年ほど免疫が続き、肺炎球菌による肺炎が予防できます。もし感染した場合でも軽症で済み、重症化を抑える効果があります。対象年齢である65歳から5年ごとに接種することが推奨されています。

65歳以上で5歳刻みの対象年齢にあたる方は、初めてニューモバックスを接種する方に限り、多くの自治体で公費の補助があります。対象となる年度以外の接種、2回目以降の接種は全額自費となります。

呼吸器や心臓などの持病や障害がある方も、助成の対象になることがあります。詳しくはお住まいの市区町村のホームページで確認するか、かかりつけ医に問い合わせてください。

2-2.プレベナー13

プレベナー13は小児の接種には公費の助成がありますが、対象年齢以外の接種は全額自己負担となります。しかし、1回の接種だけで強い免疫がつくので、65歳以上の方や、呼吸器や心臓などの持病や障害があり肺炎のリスクが高い方は、ぜひ接種を検討してください。

ニューモバックスとプレベナー13、この2種類の肺炎球菌ワクチンを接種することで、肺炎球菌による肺炎の予防効果はより高まると考えられています。2種類をどのようなタイミングで接種すればよいのかは、ワクチンの接種歴や体調によっても変わってくるので、医師に相談してみましょう。

3.インフルエンザワクチンも接種して予防効果をアップ

インフルエンザで死亡する人のほとんどが、引き続き発症した肺炎のため亡くなっています。その肺炎の原因で最も多いのが肺炎球菌です。65歳以上の方、持病などで肺炎のリスクが高い方には、肺炎球菌ワクチンに加え、インフルエンザワクチンの接種も強くおすすめします。

インフルエンザにかかると気道の粘膜が傷つけられ、それをきっかけに肺炎球菌が肺に侵入しやすくなります。高齢や持病などでもともと呼吸器が弱っている人がインフルエンザにかかり、さらに呼吸機能が低下したところに肺炎球菌が肺に侵入してしまうと、急な肺炎で命を落とすことも少なくないのです。

インフルエンザの予防接種は例年10月末頃から始まります。肺炎球菌ワクチンと同時に接種しても健康には問題ないので、どちらも接種して予防効果を高めましょう。

◆「インフルエンザの予防」について>>

◆「インフルエンザを予防する方法とは~」医師が解説する流行への備え>>

4.おわりに

肺炎球菌ワクチンの接種後、接種部位に痛みや赤み、腫れや筋肉痛など副反応が出る場合があります。通常2~3日で治まりますが、体調の変化などがあれば、すぐに医師に相談してください。

肺炎は恐ろしい病気ですが、最も多い原因である肺炎球菌のワクチンを接種することで、感染のリスクを抑えることができます。65歳以上の対象年齢の方、持病があり肺炎にかかりやすくなっている方は、ぜひワクチンで予防に努めましょう。

◆「咳が続くときの病気」について>>

【参考情報】日本呼吸器学会 65歳以上の成人に対する肺炎球菌ワクチン接種に関する考え方(第3版 2019-10-30)
https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/haien_kangae2019.pdf

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