風邪と間違いやすい「マイコプラズマ肺炎」とは?

痰のからまない咳が「長く」「激しく」続いている人は、ただの風邪ではなく、マイコプラズマ肺炎にかかっている疑いがあります。マイコプラズマ肺炎の初期症状は風邪ととてもよく似ているため、判別が難しいのです。
マイコプラズマ肺炎は、7~14歳位の子どもに多い病気でしたが、これまでの薬が効かない病原体が現れたこともあり、今では大人がかかることも珍しくありません。
この記事では、マイコプラズマ肺炎の基本的な知識と治療について解説します。軽症で済むことが多い病気ですが、適切な治療を受けないとなかなか咳が止まらずつらい思いをしますし、時には合併症を起こすこともあるので、心配な方は早めに病院を受診してください。
目次
1.マイコプラズマ肺炎とはどのような病気なのか
マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という病原体に感染することで引き起こされる病気です。
1-1.マイコプラズマ肺炎の主な症状
マイコプラズマ肺炎は、発熱、頭痛、倦怠感、のどの痛みなどの風邪に似た症状から始まり、そのあとに乾いた咳が続くことが多いです。
この病気の特徴として、「咳が長引きやすい」点がよく知られています。熱や全身症状が落ち着いても、気道の炎症が残るため、咳だけは数週間続くことがあります。
特に大人では咳が治りにくく、3〜4週間以上続くケースも珍しくありません。咳は、夜間や早朝に激しく出ることが多いです。
1-2.幅広い症状と注意すべき合併症
マイコプラズマ肺炎の症状は比較的幅広く、耳の痛みや中耳炎、吐き気や下痢などの消化器症状、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼーする呼吸音)、皮膚の発疹といった不調が出る人もいます。
さらに、ごくまれにですが、無菌性髄膜炎、心筋炎、関節炎、ギラン・バレー症候群など、体の免疫反応が影響していると考えられる重めの合併症が起こる例もあります。
こうしたケースは少ないものの、咳が長く続いたり、思わぬ不調がなかなか治らないときは気をつけた方がいいでしょう。
【参考情報】『About Mycoplasma pneumoniae Infection』CDC
https://www.cdc.gov/mycoplasma/about/index.html
2.マイコプラズマ肺炎の検査
病院では問診で症状を聞き取った後、マイコプラズマ肺炎の疑いがあった時に検査を行います。
2-1.画像検査
マイコプラズマ肺炎の患者さんの胸部をX線検査やCT検査で確認すると、すりガラス陰影と呼ばれる像が見られることがあります。
【参考情報】『胸部エックス線画像で異常があり、淡いすりガラスのような影(間質影と呼びます)だと言われました。』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q23.html
ただし、ほかの病気でも同じような陰影が見られることがあるので、別の検査も組み合わせて診断します。
2-2.血液検査
血液中のマイコプラズマに対する抗体を調べる検査です。抗体とは、体が病原体と戦うためにつくる物質です。
【参考情報】『Antibodies』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/22971-antibodies
ただし、抗体は感染してすぐには増えません。そのため、発症初期では陰性になることがあるという弱点があります。また、過去の感染や他の要因で抗体が少し上がることもあり、単独で診断を決めることはできません。
そのため、抗体検査は症状の経過、問診、レントゲンなど必要に応じた検査と組み合わせて判断する形が一般的です。
血液検査には、発症初期と回復してきた時期に血液検査を行う「ペア血清」という方法もありますが、検査結果がわかるまでに3週間ほどかかるので、その頃にはほとんどの方は症状が治まってきます。
2-3.迅速検査
綿棒でのどの奥の粘膜をぬぐった液の中に、マイコプラズマが含まれているかどうかを調べる検査です。10~30分程度で結果がわかる迅速検査キットを用います。
この検査は簡単にできて、すぐに結果がわかる利点はありますが、検査のタイミングなどによって結果が左右されることもあるため、医師は問診やほかの検査結果も参考にしながら診断します。
【参考情報】『マイコプラズマ感染症とマイコプラズマ抗原キット リボテストマイコプラズマ』埼玉県臨床検査技師会
http://www.sairingi.com/academy/43ken/shouroku/ranchon/ranchon1-1.pdf
のどの奥をぬぐった液の検査としては、LAMP法やPCR検査という方法もありますが、これらは結果がわかるまでに時間がかかります。
3.マイコプラズマ肺炎の治療
マイコプラズマを死滅させるには、主にマクロライド系と呼ばれる抗菌薬を用います。
しかし最近は、マクロライド系が効かない病原体も現れたため、マクロライド系が効かない場合は、ニューキノロン系、テトラサイクリン系の抗菌薬に切り替えて治療することがあります。
3-1.マクロライド系
子どもから大人まで広く使われ、比較的安全性が高い薬です。
・クラリスロマイシン(クラリス)
・アジスロマイシン(ジスロマック)
これらはマイコプラズマに対して効果があり、重症化を防ぐため早めに使われます。
ただし、近年はマクロライド耐性マイコプラズマも増えてきており、薬が効きにくいケースがあります。
3-2.テトラサイクリン系・ニューキノロン系
マクロライド系が効かない場合は、以下の抗菌薬を使用します。
<テトラサイクリン系>
・ミノサイクリン
ただし、8歳未満の子どもはテトラサイクリン系の薬を服用すると歯が黄ばむことがあるので、原則としては使いません。
【参考資料】『テトラサイクリン系抗生物質による歯牙着色の機序と、投与量・投与期間の関係は?』福岡県薬剤師会
https://www.fpa.or.jp/johocenter/yakuji-main/_1635.html?mode=0&classId=12&blockId=40793&dbMode=article&searchTitle=&searchClassId=-1&searchAbstract=&searchSelectKeyword=&searchKeyword=&searchMainText=
<ニューキノロン系>
・レボフロキサシン(クラビット)
抗菌薬に加え、咳がひどいときは咳止め薬、熱が高い場合は解熱薬が処方されることもあります。また、合併症が認められたときは、そちらの病気を治療するための薬も使用します。
4.家庭でのケア
マイコプラズマ肺炎は、回復までには時間がかかることがあり、家庭での過ごし方や環境づくりが症状の軽減に大きく関わります。
4-1.自宅での基本的な過ごし方
家庭では、まずしっかり体を休めることが重要です。無理に動くと回復が遅れるため、横になって過ごす時間を増やし、水分をこまめに補給しながら様子をみてください。水分は麦茶、経口補水液、スープなど、のどに負担の少ない飲み物が適しています。
熱が下がってきたら入浴しても問題ありません。ただし、長湯や熱いお湯は体力を消耗しやすいため、短時間で済ませるようにしましょう。湯冷めしないよう、入浴後は早めに体を拭いて着替えることもポイントです。
4-2.咳がつらいときの工夫
咳が強いと食欲が落ちやすいため、ゼリー飲料、具の少ないスープ、ヨーグルトなど、飲み込みやすい食品を選ぶと負担が軽減します。
また、マイコプラズマ肺炎では夜間や早朝に咳が悪化することがあります。仰向けは気道が狭まりやすいため、横向きやうつぶせで寝る、枕を少し高くするなどで呼吸が楽になることがあります。
4-3.室内環境と再感染予防
乾燥した空気は気道を刺激し、咳を長引かせます。加湿器の使用や濡れタオルを室内に干すなどして適度な湿度を保ちましょう。
外出時や同居者の前ではマスクを着けると感染拡大を防ぎ、喉の保湿にも役立ちます。
マイコプラズマの潜伏期間は2~3週間と長く、症状が治まっても病原体がしばらく残る可能性があります。登校・通勤を再開しても、一定期間はマスクを続けると安心です。
また、咳は回復後も数週間続くことがあります。完全に治るまでは激しい運動は控え、体力が戻るのを待ちましょう。
5.マイコプラズマ肺炎の予防法
マイコプラズマ肺炎は、免疫が長く続かないことから再感染も起こりやすく、基本的な予防策を継続して行うことがとても重要です。
5-1.基本的な対策
マイコプラズマ肺炎は、咳やくしゃみの飛まつを吸い込む「飛沫感染」と、唾液などの分泌物が付いたドアノブ・手すり・スイッチなどに触れ、その手で口や鼻に触れることで起こる「接触感染」によって広がります。
また、マイコプラズマ肺炎で得られる免疫は長期間続かないため、一度治っても数年後に再び感染する可能性があります。体力低下や睡眠不足があると、感染しやすくなる点にも注意が必要です。
現在のところ、マイコプラズマ肺炎に対する有効なワクチンはないので、感染を防ぐためには基本的な感染対策がとても重要です。
手洗いをこまめに行い、外出時や人が多い場所ではマスクを着用し、頻繁に触れる場所は定期的に消毒するなど、新型コロナウイルス対策と同じような日常的な予防行動が役立ちます。
特に家庭内に患者がいる場合は、タオルの共有を避ける、部屋をこまめに換気するなどの工夫も効果的です。
6.おわりに
マイコプラズマ肺炎以外にも、喘息やアトピー咳嗽(がいそう)など、咳がしつこく続く病気はいろいろあります。
2週間以上咳が続くときは、放っておいたりやみくもに市販薬を飲んだりせずに、早めに呼吸器内科を受診して咳の原因を調べましょう。














