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喘息患者さんが旅行・飛行機で安心するための準備と注意点

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月22日

旅に出ると、日頃溜まっていたストレスが吹き飛んだり、いつのまにか積み重なった疲れが癒されます。

休みの日の旅行を楽しみに、毎日の仕事や家事を頑張っている人も多いのではないでしょうか。

しかし、喘息の患者さんは「もし飛行機の中で発作が起きたら」「もし言葉の通じない国で症状が出たら」と、不安に思うこともあるかもしれません。

それでも、せっかく旅行に行くチャンスがあるなら、大いに楽しんでほしいものです。

そこで、この記事では、喘息の人が旅行前に準備しておけば安心なポイントを紹介します。

1.【発作予防】旅行前に知っておきたい喘息と環境の関係

1.医師に処方された薬を携帯しましょう

旅行先では、普段と異なる環境が喘息症状に影響を与える可能性があります。特に注意したいのが、気温・気圧・湿度の変化です。

<気温差が喘息に与える影響>

環境再生保全機構によると、『喘息予防・管理ガイドライン 2021』では気温や気圧の変化、雷雨などが喘息の悪化につながることが記されており、喘息患者さんは気道が敏感になっているため、健康な方なら気にならない程度の気温変化でも発作を起こすことがあります。

秋や梅雨時といった季節の変わり目は朝晩の寒暖差が大きく、特に明け方の冷え込みは注意が必要です。

就寝中はリラックス時に働く副交感神経の働きが強くなり、自然と気管支が狭くなりやすい状態です。そこに明け方の冷え込みが重なることで、発作につながる可能性が高まります。

【参考情報】『天気とぜん息の関係を知っておきましょう②』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/column/202207_2/

<気圧変化への対策>

台風や低気圧の接近時には、気圧が大きく下がることで自律神経が乱れ、気道が過敏になりやすくなります。飛行機の機内でも気圧変化が起こるため、搭乗前には必ず吸入薬を携帯しましょう。

また、旅行先の気候が現在の居住地と大きく異なる場合は、到着後すぐに観光を始めるのではなく、体を環境に慣らす時間を設けることが大切です。

◆「喘息と、天気や気候の関係」について詳しく>>

<湿度変化が喘息に与える影響>

湿度も喘息症状に大きく影響します。梅雨時期など湿度が高すぎる環境では、ダニやカビが繁殖しやすくなり、これらがアレルゲンとなって喘息を悪化させる可能性があります。

一方、冬季や飛行機内など湿度が低すぎる環境では、気道の粘膜が乾燥して刺激に敏感になり、咳や発作が出やすくなります。

旅行先では加湿器の使用や、こまめな水分補給、マスクの着用などで適度な湿度を保つことが大切です。

◆「正しいマスクの付け方と選び方」について>>

【参考情報】”Common Asthma Triggers” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/control/?CDC_AAref_Val=https://www.cdc.gov/asthma/triggers.html

【参考情報】”Clinical Overview of Heat and Children and Teens with Asthma” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/heat-health/hcp/clinical-overview/heat-children-asthma.html

2.喘息患者さんの旅行に必要な持ち物と機内持ち込みの注意点

2.吸入薬は必ず機内に持ち込みましょう
旅行先で万が一発作が起きた際に、最も頼りになるのが「お薬」です。特に飛行機での移動や海外旅行では、持ち込みルールや紛失リスクに備え、事前の準備が欠かせません。

この章では、必要な薬と管理ツール、機内持ち込みの注意点について解説します。

2-1.医師に処方された薬を携帯しましょう

飛行機に長時間乗っていると、機内の乾燥や空調が刺激となって、症状が安定している方でも咳が出るかもしれません。

静かな機内でゴホンゴホンと咳が続いて気まずい思いをしないためにも、医師に処方された薬は必ず持って出かけましょう。

◆「咳が止まらない時こそ乾燥に注意!」>>

交通の便が悪い場所や海外へ出かける際は、天候不順や災害で帰りの予定が遅れる場合に備え、滞在日数の分より多めに薬を持って行きましょう。

また、いざというときのために、旅行先の医療機関を調べておきましょう。

特に連休や祝日に旅行する場合は、受診可能な病院が少ないため、救急対応をしてくれる医療機関の情報を事前に調べておくと安心です。

症状が落ち着いているからと油断して、自己判断で薬を飲まなくなってしまった方は、旅行前に必ず病院を受診して、薬を処方してもらいましょう。

しっかり通院している方も、遠方や海外に出かける前には、念のため、主治医に報告しておきましょう。

◆「定期通院の必要性」について>>

2-2.喘息の吸入薬は飛行機に持ち込める? 機内での使用・注意点

ヘアスプレーなどのエアゾールタイプのスプレーが機内に持ち込めないことから、「喘息の吸入薬も機内に持ち込めないのでは」と心配する方もいるようです。

◆「喘息やCOPD治療に使う「吸入薬」とは?」>>

しかし、命を守る大事な薬ですから、手荷物として機内に持ち込むことができます。

持ち込みのルールは、利用する航空会社や旅行代理店に問い合わせたり、ホームページを見たりして確認しておきましょう。持ち込みにあたって、事前に航空会社所定の診断書の提出を求められることもあります。

国内線・国際線ともに、吸入器の持ち込みだけでなく、機内での使用も可能です。

ただし、電動式の吸入器具(ネブライザー)を使用している場合は、機内で電源が使用できない可能性や、使用に関するルールが航空会社によって異なるため、事前に確認することが重要です。

携帯性に優れた噴霧式吸入器(PDI、DPIなど)や、バッテリー駆動の吸入器を予備として持参することをおすすめします。

【参考情報】『喘息です。インヘラーや吸入器(電動式)を機内で使用できますか。』日本航空
http://faq.jal.co.jp/app/answers/detail/a_id/14847/related/1

【参考情報】『喘息ですが搭乗に際し注意することはありますか』ANA
https://ana-support.my.site.com/jajp/s/article/answers618ja

特に海外旅行では、預けた荷物を紛失する可能性もゼロではありません。

万が一、薬がないまま旅行先で発作が起きたら大変なので、必ず手荷物として持ち込みましょう。
 

2-3.薬以外の旅行に持参すべき喘息管理ツール

薬だけでなく、以下のものも携帯すると安心です。

・お薬手帳または薬剤情報の写真
・喘息アクションプラン(発作時の対処法が記載された行動計画表)
・ピークフローメーター(呼吸機能を簡便に測定できる器具)
・喘息日記(症状の記録)

ピークフローメーターは、息をどれだけ早く吐き出せるかを測定する小型の器具で、目に見えない気道の炎症状態を数値で確認できます。

旅行先でも毎日朝晩2回測定し、自己最良値の80%以下になった場合は、発作の予兆として対処が必要です。

【参考情報】『ピークフロー測定とぜん息日記』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/condition/peakflow.html

【参考情報】”Travelers with Chronic Illnesses” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/travelers-with-additional-considerations/travelers-with-chronic-illnesses.html

3.宿泊先にも喘息であることを伝えましょう

3.宿泊先にも喘息であることを伝えましょう

宿泊施設予約の際には喘息であることを伝え、禁煙室を予約するほか、寝具をアレルギー対応のものにしてもらえないか相談してみましょう。

羽毛布団やそば枕、羽枕などは避けたほうがよいでしょう。加湿器や空気清浄器を貸し出してくれるところもあります。

宿泊施設の部屋は乾燥しがちなため、部屋の湿度を保つことも大切です。
加湿器や空気清浄機の貸し出しがない場合は、濡れたタオルを干したり、マスクをして寝ると咳が出にくくなります。

◆「喘息に空気清浄機は効果があるのか?」>>

子どもが学校の宿泊行事や修学旅行に出かける際は、事前に主治医と担任の先生に相談しておきましょう。

花火やキャンプファイアーの煙、温泉のにおいなどが刺激となって発作が引き起こされることがあるので、行事の内容を確認して、必要なら学校に対策をお願いしましょう。

薬のほか、発作時の対応を書いたメモを持っていくと安心です。

◆「喘息発作が起こった時の緊急時の対処法」について>>

【参考情報】”Asthma — Treatment and Action Plan” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma/treatment-action-plan

4.”喘息の海外旅行”で必須の英文診断書と海外旅行保険の確認

海外へ旅行する場合は、追加で以下の準備をしておきましょう。

・旅行先の季節や感染症の状況を調べ、必要に応じて出発前に予防接種を受けておく
・喘息を悪化させるインフルエンザや肺炎の予防接種を受けておく
・滞在先や宿泊先の方に喘息があることを伝え、発作が起きた場合の協力(救急車の要請など)を事前にお願いしておく
・病状や薬の名前などを英語で記載した英文診断書または英文の紹介状を医師から準備してもらう

【参考情報】『ぜん息と旅行』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/travel.html

【参考情報】『旅行前の準備』厚生労働省検疫所
https://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/attention01.html

最近は、テロや違法薬物の持ち込みを防止するため、出入国時の手荷物検査が厳しくなっています。

服薬中の薬について説明するよう求められた場合は、英文または訪問先の国の言語で書かれた「薬剤証明書」があると便利です。欲しい方は主治医に相談してください。

国際線の場合は、行先の国によって持ち込めない薬剤や申告が必要な薬剤があります。薬剤証明書には病名と薬剤名を英語で記載してもらい、旅行までに準備しておきましょう。

<喘息発作に対応できる海外旅行保険の確認>

海外、特にアメリカでは、病院を受診すると高額な医療費を請求されるため、海外旅行保険への加入が必須です。

喘息発作は持病(既往症)と見なされ、保険の補償対象外となるケースもあるため、必ず契約前に保険でどこまでカバーできるのかを確認しましょう。

持病や既往症がある方は、保険会社の窓口や代理店で相談し、喘息の発作も補償対象となる、「疾病に関する応急治療・救援費用担保特約」など、既往症(持病)に対応した特約をセットした保険に加入しておくことをおすすめします。

インターネットでの契約が難しい場合も、個別に相談することで加入できる可能性があります。

【参考情報】『海外旅行保険』日本損害保険協会
https://www.sonpo.or.jp/wakaru/seminar/kaisetsu/007.html?utm_source=chatgpt.com

【参考情報】”Travel Health Kits” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/yellow-book/hcp/preparing-international-travelers/travel-health-kits.html

5.【万が一に備える!】喘息について同行者に伝えるべき具体的な内容

4.喘息について同行者に説明しておきましょう

同行者が喘息のことを知らないと、「咳が出ているだけでしょ?」とただの風邪のように思われたり、ひどい症状が出た時にビックリされたりと、お互い気まずい思いをしてしまうかもしれません。

それでは、せっかくの旅行も楽しさが半減してしまいます。

一緒に旅行をする方には、「喘息があるので、急な体調不良があるかもしれない」ことを事前に告げ、「体調によってはスケジュールの変更が必要になる」ことに同意を得てから出かけた方が、気持ちのいい旅ができます。

同行者に伝えておきたい具体的な内容は以下の通りです。

・どのようなとき(環境や状況)に発作が出やすいか
・発作が出たときにどう対応してほしいか
・薬や吸入器はどこに入っているか(バッグのどのポケットなど)
・どのような状態のときに救急要請してほしいか
・保険証の保管場所

このように具体的に伝えておくことで、同行者が慌てることなく適切に対応してもらえます。

【参考情報】”Clinical Guidance for Asthma, Other Respiratory Conditions, and/or Mold Allergy After a Severe Weather Event” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/asthma/hcp/clinical-guidance/index.html

6.喘息を悪化させないための旅行中の行動とスケジュール管理

5.余裕のあるスケジュールを組みましょう

「せっかくの旅行だから」と、ついつい予定を詰め込みたくなるかもしれませんが、適度に休憩を入れ、無理をしないことが大切です。

海外にお出掛けの方は、時差や気候の違いで疲れが出てしまうことがあるので、到着の日はあらかじめ余裕のあるスケジュールにしておきましょう。

6-1.旅行中の行動について

旅行先に到着したら、その土地の気候に合わせた服装に着替えましょう。

特に冷房の効いた室内に入るときは、急激な気温差を避けるため、建物の入り口あたりで少し体を休めてから中に入るなど、ワンクッション置くとよいでしょう。

電車に乗る際も、弱冷房車を選ぶのがおすすめです。

また、現地到着日は外出をせず、体が時差や環境になじむようゆっくり過ごすことが重要です。休んで移動の疲れを癒し、次の日から観光やレジャーができるよう予定を組むとよいでしょう。

それでも調子が悪くなった時にゆっくり過ごせるよう、なるべく変更のきく計画にしておきましょう。

特に喘息のお子さんを連れて行く場合は、「いざとなったら中止・中断する」という判断が必要です。

6-2.旅行中の注意点

旅行中は以下のポイントに注意して体調を管理しましょう。

・疲労が蓄積すると喘息発作を引き起こす可能性が高まるため、無理のない行程を組む
・観光地では人込みが多いため、手洗い・うがいをこまめに行い、必要に応じてマスクを着用して感染予防に努める
・調子が悪いと感じたら、予定よりも早めに旅行を切り上げたり、予定をキャンセルして休息する

体力をつけることも喘息管理には重要です。

症状をコントロールできる長期管理薬を主治医と相談しながらきちんと服用し、外出や運動などを日常的に行い、気温変化に負けない体を作りましょう。

6-3.旅行先でのアクティビティについて

旅先でアウトドアスポーツを楽しみたい方もいると思いますが、ダイビングやシュノーケルは、喘息の状態によって医師の診断書がなければ体験できないこともあります。

ダイビングやシュノーケル、パラグライダー、バンジージャンプなどのアクティビティは、水中や高所で発作が起きた場合に命に関わる危険性があるため、診断書が必要な場合が多く、診断書があっても参加を断られるケースもあります。

水中や高所で発作が起きた場合のリスクは非常に高いため、興味があっても自己判断で実行せず、事前に主治医に必ず相談してください。

スポーツやアクティビティに参加したい場合は、事前に旅行会社やレジャー施設に確認しておきましょう。

【参考情報】”Peak Flow Rate Measurement” by NCBI Bookshelf
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK459325/

7. おわりに

6. おわりに
飛行機に乗る時は、機内の乾燥対策としてこまめに水分をとりましょう。ただしアルコールやカフェインの入った飲み物は、利尿作用があるので控えましょう。

【参考情報】”Do caffeinated drinks, such as coffee or energy drinks, hydrate you as well as water?” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/healthy-lifestyle/nutrition-and-healthy-eating/expert-answers/caffeinated-drinks/faq-20057965#:~:text=As%20a%20chemical%2C%20caffeine%20increases,of%20urine%20the%20body%20makes.

口や鼻の中が乾くのを防ぐため、マスクを着けるのもいいでしょう。

さまざまな準備を整えたら、あとはベストコンディションで出発できるよう、旅行前から体調管理もしっかり行いましょう。

万全の準備をすれば、喘息があっても安心して旅行を楽しむことができます。主治医と相談しながら、素晴らしい旅の思い出を作りましょう。

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