睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係~血糖値・HbA1cへの影響は?

「いびきがうるさい」といった症状で知られる睡眠時無呼吸症候群ですが、実は糖尿病の発症・悪化と深く結びついていることをご存知でしょうか?
睡眠中の酸素不足と睡眠の質の低下は、血糖値をコントロールするインスリンの働きを乱し、2型糖尿病のリスクを高めることが近年の研究で明らかになっています。
さらに、すでに糖尿病を抱える人が睡眠時無呼吸症候群を治療せずに放置すると、血糖コントロールが著しく悪化するという悪循環に陥ることもあります。
この記事では、この二つの病気がどのようなメカニズムで互いに影響し合うのか、そして治療によって状況を改善できるのかを、わかりやすく解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
まずは、睡眠時無呼吸症候群の基本的な仕組みや主な症状について確認しておきましょう。
1-1.睡眠時無呼吸症候群の基本情報
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が何度も止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。
医学的には、10秒以上呼吸が止まる状態を「無呼吸」、呼吸が浅くなって空気の流れが大きく減る状態を「低呼吸」と呼び、どちらも睡眠中に繰り返し起こることで、睡眠が断続的に妨げられ、体への負担が蓄積されていきます。
重症度の評価には、AHI(無呼吸低呼吸指数)が使われます。これは、1時間の睡眠中に無呼吸・低呼吸が何回起きたかを示す数値で、5回以上あると睡眠時無呼吸症候群が疑われます。
1-2.睡眠時無呼吸症候群の主な症状
<大きないびき>
大きないびきは、睡眠時無呼吸症候群でもっともよく見られるサインのひとつです。いびきが突然止まり、その後に大きく息を吸うような呼吸がみられることもあります。
◆「いびきと息が止まる症状から考える睡眠時無呼吸症候群」>>
<日中の強い眠気>
夜間に呼吸が繰り返し止まることで深い眠りが妨げられ、体が十分に休まりません。その影響で日中に強い眠気を感じたり、集中力が続かなくなったりすることがあります。
◆「昼間の眠気と睡眠時無呼吸症候群」の関係>>
<起床時の頭痛>
睡眠中の低酸素状態や睡眠の質の低下により、朝目覚めたときに頭痛や頭の重さを感じることがあります。
◆「寝起きの頭痛といびきの関係」>>
<夜間頻尿>
夜中に何度もトイレへ行く症状も、睡眠時無呼吸症候群で現れることがあります。無呼吸に伴う体の反応が、尿量を調節するホルモンの分泌に影響すると考えられています。
1-3.睡眠時無呼吸症候群の合併症
睡眠時無呼吸症候群は、睡眠の問題にとどまらず、さまざまな合併症とも関係しています。
睡眠中に無呼吸や低呼吸が繰り返されると、体は断続的に低酸素状態となり、そのたびに目が覚めるような反応(覚醒)が起こります。
こうした状態が続くと交感神経が活性化し、血圧が上昇しやすくなるなど、体のさまざまな機能に影響が及ぶ可能性があります。
実際に、睡眠時無呼吸症候群は高血圧、心疾患、脳卒中、糖尿病といった生活習慣病のリスクと関連することが指摘されています。
2.糖尿病とはどんな病気か
糖尿病は、血糖値が慢性的に高くなる病気です。
初期は自覚症状がほとんどないため気づきにくい一方、放置すると全身に影響が及ぶことがあります。
2-1.血糖値が慢性的に高くなる病気
私たちが食事をすると、食べ物に含まれる糖質が体内でブドウ糖に分解され、血液を通して全身の細胞に運ばれます。
このブドウ糖は、体を動かすための重要なエネルギー源ですが、血液中に増えすぎると体に負担がかかります。
そこで重要な働きをするのが、すい臓から分泌されるインスリンというホルモンです。
インスリンは、血液中のブドウ糖を筋肉や脂肪などの細胞に取り込ませる働きを持っています。これにより血糖値は適切な範囲に保たれ、体はブドウ糖をエネルギーとして利用することができます。
しかし、インスリンの分泌が不足したり、体の細胞がインスリンの働きに反応しにくくなったりすると、血液中のブドウ糖がうまく細胞に取り込まれなくなります。
その結果、血糖値が慢性的に高い状態が続くようになります。これが糖尿病です。
2-2.糖尿病の主な原因
糖尿病は、さまざまな要因が重なって発症すると考えられています。
<遺伝>
糖尿病は家族内で発症することがあり、遺伝的な体質が関係する場合があります。特に2型糖尿病では、インスリンの分泌量や働き方に影響する体質が関係していると考えられています。
◆「糖尿病と遺伝」の関係>>
<食生活>
糖質や脂質の多い食事が続くと、摂取エネルギーが増え、体重増加につながりやすくなります。また、食事量が多い状態が続くと、血糖値の調整に関わるインスリンの働きに負担がかかることがあります。
◆「血糖値に影響が出にくい間食」とは?>>
<運動不足>
体を動かす機会が少ないと、筋肉でブドウ糖が使われにくくなり、血糖値が上がりやすくなることがあります。運動は血糖値の調整や体重管理にも関係するため、運動不足は糖尿病の発症に関係する要因の一つとされています。
<肥満>
肥満、特に内臓脂肪が多い状態では、インスリンが十分に働きにくくなることがあります。こうした状態は「インスリン抵抗性」と呼ばれ、血糖値が高くなる原因の一つと考えられています。
2-3.糖尿病の合併症
糖尿病で血糖値が高い状態が長く続くと、血管や神経にダメージが蓄積し、さまざまな合併症が起こる可能性があります。
代表的なものに、細い血管が障害される網膜症・腎症・神経障害があります。
・糖尿病性網膜症:目の血管が傷つくことで、失明の危険があります。
・糖尿病性腎症:腎不全になり、人工透析が必要になります。
・糖尿病性神経障害:手足のしびれや顔面麻痺、壊疽の危険があります。
また、糖尿病は太い血管にも影響を与え、心筋梗塞や脳卒中などの動脈硬化性疾患のリスクを高めることが知られています。
3.睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病は、互いに関連があることが指摘されています。
3-1.睡眠時無呼吸症候群の人に糖尿病が多い理由
睡眠時無呼吸症候群のない人では糖尿病の有病率は約2.8%ですが、中等症以上の患者では14.7%に達し、無呼吸が重症になるほど糖尿病の割合が高まることが報告されています。
【参考情報】『Association of sleep apnea and type II diabetes: a population-based study』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16192452/
また、糖尿病患者では睡眠時無呼吸症候群を合併している人が多く、研究によっては半数以上にみられるとの報告もあります。
【参考情報】『The prevalence of obstructive sleep apnea in patients with type 2 diabetes: a systematic review and meta-analysis』Springer Nature Link
https://link.springer.com/article/10.1186/s41606-022-00074-w
この背景には、睡眠中に繰り返される無呼吸や低呼吸が関係していると考えられています。
睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に無呼吸や低呼吸が繰り返されることで低酸素状態や覚醒が起こり、体に負担がかかります。
こうした状態が続くと交感神経の働きが強くなり、インスリンの効きにくさ(インスリン抵抗性)などを通して、血糖値の調整に影響する可能性があります。
さらに、睡眠時無呼吸症候群はHbA1cにも影響する可能性があります。
HbA1cは、過去1〜2か月ほどの平均的な血糖の状態を反映する指標ですが、睡眠時無呼吸症候群があると、この値が高くなりやすいことがあります。
【参考情報】『HbA1c is associated with severity of obstructive sleep apnea hypopnea syndrome in nondiabetic men』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19774216/
3-2.糖尿病の人に睡眠時無呼吸症候群が多い理由
糖尿病のある人では、睡眠時無呼吸症候群を合併している割合が比較的高いことが知られています。その背景には、いくつかの共通する要因があると考えられています。
<共通するリスク因子>
糖尿病と睡眠時無呼吸症候群には、年齢や体重、生活習慣など共通するリスク因子があります。こうした要因が重なることで、両方の病気が起こりやすくなる可能性があります。
<肥満>
肥満は、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の両方に関係する代表的な要因です。特に内臓脂肪が多い状態ではインスリンが働きにくくなるとともに、首やのど周囲の脂肪が気道を狭くし、睡眠中の呼吸が妨げられやすくなることがあります。
<生活習慣>
食事の内容や運動習慣などの生活習慣も、両方の病気に関係する要因とされています。食事量が多い、運動量が少ないといった生活習慣が続くと体重が増えやすくなり、糖尿病や睡眠時無呼吸症候群の発症につながる可能性があります。
4.睡眠時無呼吸症候群の治療で血糖値は改善する?
睡眠時無呼吸症候群を治療すると、血糖コントロールに良い影響がみられる可能性があります。
睡眠中の無呼吸や低呼吸が続くと、低酸素状態や睡眠の分断が起こり、交感神経の活性化やホルモンバランスの乱れを通じて血糖の調整に影響することがあります。
こうした状態に対して、CPAP(シーパップ)などで睡眠時無呼吸症候群を治療し、夜間の無呼吸や低酸素が改善すると、体にかかるストレス反応がやわらぐことが期待されます。
CPAP治療とは
CPAP治療は、睡眠時無呼吸症候群の代表的な治療法です。睡眠中に専用のマスクを装着し、機器から空気を送り続けることで呼吸を助けます。
呼吸が安定し、深い睡眠が保たれやすくなることで、交感神経の過剰な働きが抑えられ、血糖を上げるホルモンの影響も軽くなる可能性があります。
実際に、睡眠時無呼吸症候群の治療によって血糖コントロールに良い変化がみられたとする報告もあります。とくにCPAPをしっかり継続して使えた場合には、HbA1cやインスリン感受性の改善がみられることがあります。
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群は、糖尿病と関連があることが知られています。睡眠中に無呼吸や低呼吸が繰り返されると、低酸素状態や睡眠の質の低下が起こり、血糖コントロールに影響する可能性があります。
また、CPAP治療などによって睡眠中の呼吸が改善すると、体への負担が軽減され、血糖値やHbA1cの改善がみられる場合もあります。
いびきや睡眠中の呼吸停止、日中の強い眠気などの症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。気になる症状がある場合は、早めに医療機関で相談することが大切です。









