喘息治療のゴールと治療法
厚生労働省の調査によると、日本の喘息の患者数は約117万人であると報告されています。
しかし、適切な治療により症状をコントロールできる病気として認知されています。
喘息の症状をコントロールするためには、発作が起きた時だけでなく、発作が起きていないときも正しい治療を気長に続けることが何より大事です。そのためにも、治療の意味をよく理解し、納得しておきましょう。
【参考情報】『アレルギー疾患の現状等』厚生労働省 健康局 がん・疾病対策課
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10905100-Kenkoukyoku-Ganshippeitaisakuka/0000111693.pdf
1.喘息治療のゴール
喘息は、アレルギーなどが原因で発症し、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が生じ、少しの刺激で気道が狭くなり、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーといった呼吸音)や咳、痰、息苦しさといった症状や、呼吸困難となる発作が起こる病気です。
喘息は気道に慢性のアレルギー性の炎症が生じて、さまざまな原因で気道が狭くなり呼吸が苦しくなる病気です。
症状がないときでも気道にアレルギー性の炎症が存在しており、放置すると炎症により何度も発作が起きてしまいます。
【参考情報】『成人のぜん息』アレルギーポータル
https://allergyportal.jp/knowledge/adult-asthma/
◆「喘息の基本情報」について>>
◆「喘息とアレルギーの密接な関係とは?」>>
喘息治療のゴールは、発作のときの症状をしずめることではなく、発作が起こらないように症状をコントロールし、健康な人と変わらない生活を送ることです。
1−1.喘息治療の目標
日本アレルギー学会の喘息予防・管理ガイドライン2018で挙げられている治療の目標は、以下の通りです。
・健常人と変わらない日常生活が送れること。
・正常な発育が保たれること
・正常に近い呼吸機能を維持すること
・ピークフローの変動が予測値の20%未満
・ピークフローが予測値の80%以上
・夜間や早朝の咳や呼吸困難がなく十分な夜間睡眠が可能なこと
・喘息発作が起こらないこと
・喘息死の回避
・治療薬による副作用がないこと。
・非可逆的な気道リモデリングへの進展を防ぐこと
現在の治療目標は、喘息症状の発作や喘息症状がない状態を保つ「症状のコントロール」と、将来のリスク回避の2点に重点が置かれています。
具体的には、気道炎症を抑えて呼吸機能を維持すること、喘息による死亡回避、発作の予防、呼吸機能の低下を抑えること、治療薬による副作用の回避、健康な毎日の維持を目標としています。
※ピークフロー:息を思いきり吸って吐いた時の息の速さ
※非可逆的:元に戻すことができない
※気道リモデリング:発作時だけ治療薬を使い日々の治療を怠ると、気道は刺激に対してさらに敏感になり、発作を繰り返すという悪循環になることで、気道の壁が厚く・硬く・狭くなる現象。喘息の難治化の原因となる。
症状を改善させることはもちろん大事ですが、発作を起こさないように日々コントロールすることで、生活の質を上げていくことができます。
◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>
◆「朝の咳と夜の咳で、どんな違いがある?」>>
【参考情報】『喘息予防・管理ガイドライン2018』協和企画
https://www.kk-kyowa.co.jp/service/publishing/book_list/d20180622/
1−2.治療はいつまで続ければいいのか
喘息は、高血圧や糖尿病などと同じ慢性の病気なので、基本的には治療を長く続けていく必要があります。
しかし、上手に症状をコントロールすることができれば、医師の判断により、薬を減らしていくことも可能です。
ただし、喘息を起こしやすい体質そのものは変わらないので、良くなったと思っても再び悪化することがあります。
調子が良くなったからといって自分で勝手に判断せずに、医師に相談しながら薬を減らしていきましょう。
成人の喘息は、現代の医学では完治することは難しい病気ですが、適切な薬物治療と自己管理を継続することで、健康な人と変わらない生活を送ることができるようになります。
小児喘息では適切な治療を継続することで、成長とともに症状が軽快し、思春期頃までに寛解(症状がおさまった状態)に至る場合があります。
一方、成人喘息は現代の医学では根治的な治療法は確立されていませんが、適切な長期管理により症状を良好にコントロールすることで、健康な人と変わらない日常生活を送ることが可能です。
【参考情報】『はじめてぜん息と診断された方へ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/first.html
あきらめずに継続して治療に取り組みましょう。
2.喘息のおもな3つの治療法
喘息の治療は薬物療法が中心ですが、適度な運動で心肺機能を高めたり、心身をリラックスさせる訓練を行うことで、さらに治療の効果を上げることができます。
2−1.薬物治療
喘息の主な治療法は、吸入ステロイド薬による薬物治療です。これに気管支を拡張させる薬や、気管支の緊張を和らげる薬などを配合した薬剤が処方されることが多いです。
喘息治療に使われる薬は大きく分けて気道の炎症を抑えるために継続して使用する「長期管理薬(コントローラー)」と、発作が起きた時に一時的に使用する「発作治療薬(リリーバー)」に分けられます。治療の基本となる長期管理薬の吸入ステロイド薬や気管支拡張薬は、気道の炎症を抑え発作を予防します。
◆「喘息治療で使う吸入薬」について詳しく>>
◆「喘息治療のカギとなる「気道の炎症」を抑えるには?」>>
<長期管理薬(コントローラー)>
長期管理薬は使い始めるとすぐに症状はおさまりますが、気道の
炎症は続いています。長期管理薬には以下の2種類があります。
・吸入ステロイド薬
気道の炎症を抑え、発作を予防するのに必要な薬です。
吸入ステロイド薬が普及してからは、喘息で入院する方や、亡くなる方の数が大幅に少なくなりました。
・気管支拡張薬
気管支を広げるための薬剤です。
<発作治療薬(リリーバー)>
発作が起きた時に使用するのが発作治療薬です。
気管支を広げる働きがあり、すぐに効果が現れます。
しかし、気道の炎症を抑える効果はないため、根本的な喘息の治療にはなりません。
発作治療薬のみの使用では、気道の炎症は進行し、喘息が悪化してしまう、前述した気道リモデリングに進む恐れがあります。長期管理薬と併用して使用することが重要です。
<吸入薬の種類と使い方>
吸入薬は、ドライパウダー式とエアゾール式が主流となっています。
●ドライパウダー式
専用の器具にセットされた粉末状の薬を、自分で吸い込んで服用します。
レルベア、アドエア(ディスカス)、シムビコートなどの種類があります。
●エアゾール式
息を吸い込むタイミングに合わせてボンベの底を押し、霧状の薬剤を噴射させて吸入します。
アドエア(エアゾール)、フルティフォームなどの種類があります。
「ステロイド」と聞くと、効果はあっても副作用の強い薬だと思い、怖いイメージを持つ人もいるかもしれません。
しかし、喘息の治療に用いられる吸入ステロイド薬は、気道に直接作用するように工夫されているため、体内に吸収されることはほとんどありません。
長期にわたって使用しても、副作用は非常に少ないので小児から高齢者、妊娠中の方でも安心して使用が可能です。
ただ、「声がかすれる」「口の中の違和感」などの軽い副作用が認められることがあります。
これらの副作用は、吸入後のうがい、吸入薬をゆっくり深く吸入すること、食事の前に吸入するなどの工夫で予防することができます。
また、長期管理薬は長期間使ってはじめて本当の効果が現れる薬です。症状がないからと途中で使用を中断せず、医師の指示通りに続けることが重要です。ただし2~4週間使用しても症状が改善しない場合、喘息ではない可能性もあるため、医師に相談しましょう。
2−2.運動療法
薬のコントロールがうまくできていて症状が安定している方は、運動で心肺機能を高めると発作予防につながります。
体を動かすことでストレスも解消できるので、ぜひ取り入れてください。
心肺機能を高めるには、ウォーキングやジョギング、サイクリングのような有酸素運動が効果的です。
運動前には必ず準備運動をして、決して無理はせず、自分のペースで行いましょう。
※運動誘発性喘息に注意!
急に激しい運動をしたときや、寒い屋外で運動して冷たい空気を吸い込んだときなどに起こる「運動誘発性喘息」に注意しましょう。
【参考情報】『Exercise-induced asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/exercise-induced-asthma/symptoms-causes/syc-20372300#:~:text=Exercise%2Dinduced%20asthma%20is%20when,kun%2DSTRIK%2Dshun).
運動開始後、5〜10分くらいで発作の症状が現れて、運動をやめると30分程度でおさまります。
運動誘発性喘息は、空気が冷たく乾燥した環境で気道が急激に冷えたり、激しく運動することにより、気道の水分が失われてしまうことが原因だと考えられています。
症状が現れたら、運動をやめて水分を取り、吸入薬があれば服用してください。それでも症状が改善しないときは、病院を受診しましょう。
運動誘発性喘息を起こしにくい運動は、水泳、ウォーキングなどです。
これらの運動は比較的湿度が高い環境で行われるか、冷たく乾燥した空気を大量に吸い込む必要が少ないため、喘息発作を起こしにくいとされています。
2−3.心理療法
喘息は心理的な影響を受けやすい病気であると言われています。患者さんの不安や怒り、恐怖などの感情が自律神経を刺激して、発作に結びつくことが多いからです。
また、喘息の治療は長期にわたるため、以下のようなストレスで精神的に不安定になると、治療する気持ちを失ってしまうことがあります。
・まわりの人に発作の苦しみをわかってもらえない
・決まった時間や曜日に発作が起こる
・家族や同僚など、他の人と一緒にいるときに発作が起こりやすい
・「なぜ自分だけがこんな目に」と感じ、イライラしてしまう
・薬を持っていない時に限って発作が起こる
さらに、以下のような場合も、心理的な不安や恐怖などのストレスがかかっていると考えられます。
・感情を抑えているときに発作が起こる
・息を吐くときより、吸う時の方が苦しい
・自分の将来が不安で、毎日が憂うつに感じる
・1日の始まりや新しいことを行う時に、発作が起こる
思いあたる方は、カウンセリングや心理療法を併用することも検討しましょう。
心理療法にもいろいろありますが、誰にでも簡単にできて比較的効果の期待できる方法が自律訓練法です。くつろいだ姿勢で自分に暗示をかけることで心身の緊張を和らげ、気持ちをリラックスさせることが目的です。
【参考情報】『Ⅱ 生活指導及びメンタルヘルスケア』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shakaihosho/iryouseido01/pdf/info03k-03.pdf
最初は効果がわかりにくいかもしれませんが、慣れてくると、だんだんリラックス効果が得られるようになります。
普段からこの訓練法を繰り返し練習しておき、喘息発作の前兆を感じた時など、発作がひどくなってしまう前にぜひ実践してみてください。
3.おわりに
喘息治療の最終的な目標は、”症状や発作のない状態を保つこと”です。正しい治療を続けていれば、多くの場合症状をゼロにすることが可能です。発作のない生活を目指して、ぜひ治療を続けていきましょう。