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外来

喘息治療に用いる注射薬「ファセンラ」の特徴と効果、副作用

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年05月12日

重症喘息の治療では、吸入薬だけでは十分に症状を抑えられない場合があります。

そのようなケースで検討されるのが、生物学的製剤による追加治療です。

本記事では、ファセンラの位置づけや投与の考え方、費用面や注意点も含め、治療を検討する際に知っておきたいポイントを整理します。

1.ファセンラとはどのような薬か


ファセンラは、重症の好酸球性喘息(こうさんきゅうせいぜんそく)に対して使用される生物学的製剤です。

従来の吸入治療だけでは十分に症状をコントロールできない場合に追加される治療薬で、好酸球という炎症細胞に直接作用する点が特徴です。

この章では、薬の仕組みや対象となる患者さん、従来治療との違いについて解説します。

1-1.生物学的製剤とは何か

ファセンラはベンラリズマブ(遺伝子組換え)を主成分とした皮下注射薬です。

4週間〜8週間ごとに投与し、喘息の症状を長期的にコントロールします。

生物学的製剤とは、免疫の働きの中でも特定の物質や細胞だけを標的にする薬です。

吸入ステロイド薬のように広く炎症を抑えるのではなく、炎症の原因となる経路をピンポイントで抑えるという特徴があります。

現在、ファセンラはベンラリズマブを10mg配合したシリンジと、30mg配合したシリンジが発売されています。

【参考情報】『Benralizumab Injection』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a618002.html

1-2.好酸球性喘息とは何か

好酸球は、本来は体を守るために働く白血球の一種ですが、体内で異常に増えると気道の炎症が強くなり、喘息の症状が悪化しやすくなります。

このように好酸球が多く関与するタイプの喘息を「好酸球性喘息」と呼びます。

1-3.ファセンラの作用の仕組み

ファセンラの成分であるベンラリズマブは、好酸球の表面にある「IL-5受容体」に結合します。IL-5受容体は、好酸球が増えて活発に働くためのスイッチのような役割を持つ部分です。

これにより、NK(ナチュラルキラー)細胞という免疫細胞が好酸球を見つけやすくなり、不要な好酸球を除去する働きが強まります。

さらに、好酸球を増やす働きを持つインターロイキン5(IL-5)という免疫物質の経路を抑えることで、炎症の原因となる好酸球を大幅に減少させます。

IL-5は、骨髄で好酸球を作らせ、体内で活発に働かせる指令役のような存在です。

これらの働きによって、気道に集まっていた好酸球が減少し、気道に起こっていた慢性的な炎症がやわらぎ、喘息発作の頻度を減らすことが期待されています。

1-4.どのような患者さんが対象か

ファセンラは、吸入ステロイド薬や長時間作用性気管支拡張薬を十分に使用しても症状がコントロールできない重症喘息の患者さんが対象です。

特に、経口ステロイドを使用しないと維持できない方や、発作による救急受診や入院を繰り返している方、また、血液中の好酸球数が高い場合に検討されます。

なお、ファセンラは急性発作をすぐに止める薬ではありません。

あくまで長期的に炎症を抑え、発作を起こりにくくするための維持治療薬です。

発売当初は成人のみが対象でしたが、2024年3月に小児の重症喘息への適応が承認され、6歳以上の子どもから使用できるようになりました。

◆「重症喘息と生物学的製剤」について詳しく>>

2.ファセンラの使い方


ファセンラは、急な発作を止める薬ではなく、長期的に炎症を抑え、発作を起こりにくくする維持治療として使用します。

この章では、投与量やスケジュール、実際の注射方法についてわかりやすく解説します。

2-1.年齢・体重による投与量の違い

ファセンラの投与量は、年齢と体重によって異なります。



<体重が35kg以上かつ6歳以上の子どもや成人>
ファセンラ皮下注30mgシリンジを1回1本、皮下注射します。

<6歳以上12歳未満で体重が35kg未満の子ども>

ファセンラ皮下注10mgシリンジを1回1本、皮下注射します。

このように、小児の場合は体重に応じて用量が調整されます。
これは、効果と安全性のバランスを考慮した設定です。

【参考情報】『「小児気管支喘息・治療管理ガイドライン2023」の表5-3の一部改訂について』日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/news/both/20240402-4678/

2-2.投与スケジュール

いずれの場合も、初回に皮下注射を行い、その後4週間後と8週間後にも1回ずつ皮下注射します。その後は、8週間ごとに皮下注射を続けます。

この「最初の3回を4週間間隔、その後は8週間ごと」というスケジュールが基本です。

ファセンラは1回打てば終わりの薬ではなく、定期的に継続することで効果を維持する治療薬です。症状が落ち着いていても、自己判断で中止しないことが重要です。

2-3.注射の方法と部位

ファセンラの皮下注射は、受診先の医師や看護師が行います。注射する箇所は、基本的に腕・太もも・お腹のいずれかです。

皮下注射とは、皮膚のすぐ下に薬を入れる方法です。点滴のように長時間かかる治療ではなく、比較的短時間で終了します。

医師の判断によっては、自己注射が可能となる場合もありますが、初回は医療機関での実施が基本です。

2-4.注意点:急性発作には使わない

ファセンラは、急に息苦しくなったときに使う発作止めの薬ではなく、あくまで、下記を目的とした長期管理薬です。

・発作の頻度を減らすこと
・重症化を防ぐこと
・経口ステロイドの使用を減らすこと

そのため、喘息発作が起きた場合は、発作止めの吸入薬(短時間作用型吸入β2刺激薬)などの発作治療薬を使用します。

もしも喘息発作が起きた場合は、あらかじめ処方されている発作治療薬を使用し、症状が改善しないときは速やかに医療機関を受診しましょう。

◆「喘息発作」について詳しく>>

3.ファセンラの副作用と他の生物学的製剤という選択肢


ファセンラは、ほかの薬と同様に副作用が起こる可能性があります。
多くは軽度とされていますが、まれに重いアレルギー反応が報告されています。

この章では、代表的な副作用と注意すべき症状について解説します。

3-1.比較的よくみられる副作用

ファセンラの副作用には次のようなものがあります。

 ・頭痛

 ・発熱

 ・注射部位の赤み、腫れ、痛み

これらは比較的軽い症状であることが多く、時間の経過とともに改善することが一般的です。

注射部位反応は、生物学的製剤で比較的よくみられる反応です。強い痛みや腫れが続く場合は医師に相談しましょう。

3-2.まれに起こる重篤な副作用

めったにありませんが、重篤な副作用として以下が報告されています。

 ・アナフィラキシー(重いアレルギー反応)

アナフィラキシーとは、急激に全身にアレルギー反応が起こる状態です。

主な症状は、

・じんましん
・全身のかゆみ
・顔やのどの腫れ
・息苦しさ
・血圧低下

などです。

ファセンラの皮下注射は受診先で行うため、注射後にじんましんや全身のかゆみ、息苦しさなどの異変を感じたら、その病院の医師や看護師にすぐに報告してください。

【参考情報】『アナフィラキシー』アレルギーポータル
https://allergyportal.jp/knowledge/anaphylaxis/

3-3.長期使用の安全性について

ファセンラは長期投与を前提とした治療薬です。臨床試験では数年間の追跡調査も行われており、重大な安全性の問題は確認されていません。

ただし、生物学的製剤は比較的新しい治療法であるため、定期的な診察と血液検査などで経過を確認しながら治療を続けることが大切です。

症状が安定していても、自己判断で中止することは避けましょう。

3-4.他の生物学的製剤という選択肢

ファセンラがすべての患者さんに合うとは限りません。

効果が十分でない場合や、副作用が問題となる場合は、別の治療法を検討することがあります。

ファセンラと同様に好酸球に作用する注射薬として、次の薬があります。

ヌーカラ(メポリズマブ)
  作用の仕組みは似ていますが、標的とする部分や投与間隔などに違いがあります。

また、喘息治療に用いる生物学的製剤には、次のような薬もあります。

ゾレア(オマリズマブ)

デュピクセント(デュピルマブ)

  これらはそれぞれ作用する免疫経路が異なり、好酸球の多さやアレルギーの有無、IgE値症状の経過などをもとに選択されます。

4.ファセンラの使用上の注意点


ファセンラはすべての方に無条件で使用できるわけではありません。

妊娠・授乳中の方や、他の治療薬を使用している方は特に注意が必要です。

この章では、安全に治療を続けるために知っておきたいポイントを解説します。

4-1.妊娠中・授乳中の使用について

ファセンラは、基本的に6歳以上の子どもから使用できる薬です。

妊娠中・授乳中の場合は、医師の判断で使用するかどうかを決めます。
妊娠中の方や、妊娠している可能性がある方などは、必ず医師に相談しましょう。

現在のところ、妊娠中の使用に関する十分なデータは限られています。
そのため、母体の喘息コントロールの重要性と薬剤のリスクを比較しながら、慎重に判断されます。

喘息が悪化すると母体や胎児に影響を及ぼす可能性があるため、自己判断で治療を中断することは避けましょう。

◆「喘息の妊婦が知るべき安全な治療法と赤ちゃんへの影響」について>>

4-2.他の喘息治療薬との併用

ファセンラは、ステロイド薬や他の喘息治療薬と一緒に使用することがあります。

特に、経口ステロイド薬を急に中止すると、体調を崩すことがあります。

減量や中止は、医師の指示に従って段階的に行います。
ファセンラの使用を始めたからといって、自己判断で他の治療薬の使用量を減らすことは避けましょう。

4-3.ワクチン接種との関係

生物学的製剤を使用している場合、ワクチン接種の種類によっては注意が必要な場合があります。

インフルエンザワクチンなどの定期接種を予定している場合も、事前に医師へ伝えましょう。

特に喘息のある方は、インフルエンザなどの呼吸器感染症によって症状が悪化する場合もあります。そのため、ワクチン接種とあわせて日頃から感染予防を心がけることも大切でしょう。

◆「インフルエンザを予防する方法とは?」>>

4-4.寄生虫感染との関係

好酸球は寄生虫感染に対して体を守る役割も担っています。

ファセンラによって好酸球が減少すると、寄生虫感染の治療薬の効き目を弱めてしまう可能性があります。

ファセンラの使用期間中に寄生虫に感染した場合やその疑いがある場合は、医師や薬剤師に相談してください。
特に海外渡航歴がある場合や、原因不明の腹痛・下痢・発熱などがある場合は注意が必要です。

5.ファセンラの薬価と助成制度


ファセンラは比較的高額な薬剤です。

そのため、治療費や自己負担額について不安を感じる方も少なくありません。

この章では、薬価の目安や自己負担の考え方、利用できる公的制度について解説します。

5-1.ファセンラの薬価
ファセンラのシリンジ1本あたりの薬価(2026年2月調べ)は次のとおりです。

 ・ファセンラ皮下注30mgシリンジ 335,309円/筒
 ・ファセンラ皮下注30mgペン   351,731円/キット
 ・ファセンラ皮下注10mgシリンジ 134,121円/筒

(参考:厚生労働省 薬価基準収載品目リスト)

※薬価は定期的に改定されます。実際の自己負担額は保険の種類や処方内容によって異なりますので、詳しくは医療機関でご確認ください。

なお、現在のところファセンラにはジェネリック医薬品はなく、先発医薬品のみとなっています。 また、同じ成分の市販薬も発売されていません。

5-2.高額療養費制度の利用

ファセンラは高価な薬剤なので、患者さんの金銭的な負担が生じることもあるでしょう。

治療費が高額になる場合は、「高額療養費制度」を利用できる可能性があります。

この制度は、1か月あたりの自己負担額が一定の上限を超えた場合、その超えた分が払い戻される仕組みです。所得区分によって自己負担の上限額は異なります。

【参考情報】『高額療養費制度を利用される皆さまへ』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/juuyou/kougakuiryou/index.html

5-3.小児の医療費助成制度

子どもの場合は、自治体の医療費助成制度が利用できることがあります。

さらに、重症喘息が小児慢性特定疾病に該当する場合には、「小児慢性特定疾病医療費助成制度」の対象となる可能性もあります。

この制度を利用すると、自己負担額が軽減される場合があります。

制度の適用条件は自治体や病状によって異なるため、主治医や自治体窓口へ確認することが重要です。

6.おわりに

ファセンラは、好酸球性喘息に対する生物学的製剤で、定期的な皮下注射により炎症をコントロールする維持治療薬です。

定期的な皮下注射により発作の頻度を減らすことが期待されますが、急な発作を止める薬ではありません。

副作用や費用、公的制度についても理解したうえで、主治医と相談しながらご自身に合った治療を選択することが大切です。

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