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外来

新型コロナウイルス感染症が呼吸器の病気に及ぼす影響

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月25日
コロナ呼吸器

新型コロナウイルス感染症は、喘息やCOPDなどの呼吸器疾患をお持ちの方にとって特に注意が必要な病気です。

感染すると重症化しやすく、命に関わる危険性も高まります。

一方で、感染への不安から受診をためらう方も増えており、かえって持病が悪化してしまうケースも少なくありません。

この記事では、呼吸器の病気がある方が知っておくべきリスクと正しい対策をわかりやすく解説します。

1.呼吸器疾患のある方の重症化について

呼吸器の病気を持っている方が新型コロナウイルスに感染すると、どのような影響があるのでしょうか。

ここでは、喘息やCOPDなどの患者さんが知っておくべき重症化のリスクについて説明します。

1-1. 喘息と新型コロナウイルスの関係

喘息の患者さんは、風邪やインフルエンザにかかると気道が敏感になって発作が引き起こされることがあります。

同じように、新型コロナウイルスも喘息の発作を引き起こす可能性があります。

◆『インフルエンザ』とは>>

新型コロナウイルスは、呼吸をするときに空気が通る道(気道)に炎症を起こします。

喘息の方は普段から気道が敏感になっているため、ウイルスに感染すると症状がさらに悪化しやすくなるのです。

◆『新型コロナウィルス感染症の基礎知識』について>>

【参考情報】”Underlying Conditions and the Higher Risk for Severe COVID-19″ by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/covid/hcp/clinical-care/underlying-conditions.html

1-2. 肺が硬くなってしまう危険性

新型コロナウイルスに感染して肺炎を起こした人は、肺の中の間質(かんしつ)という部分が傷ついていることがわかっています。

間質が傷つくと、肺は線維化(せんいか)という状態になって硬くなり、元に戻らなくなります。

わかりやすく例えると、柔らかいスポンジが硬いプラスチックのようになってしまうイメージです。

硬くなった肺は空気を十分に吸い込めないため、少し動いただけでも息切れを感じるようになります。

新型コロナウイルスに感染して肺が線維化した人は、回復後も息切れや疲労などに悩まされる可能性があります。

1-3. 呼吸器の病気がある人の重症化リスク

喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)など呼吸器の病気があるからといって、新型コロナウイルスに感染しやすいというデータは今のところありません。

しかし、病気の症状として慢性的な気道の炎症や肺の機能低下があるため、感染したときに重症化しやすいリスクはあると考えられます。

つまり、「感染する確率」は同じでも、「感染したときに症状が重くなる確率」は高いということです。そのため、普段からしっかりと治療を続け、感染予防対策を徹底することが何よりも大切になります。

◆『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』について>>

【参考情報】『ぜん息、COPDと新型コロナウイルス感染症』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/sukoyaka/56/medical/

【参考情報】”People with Certain Medical Conditions and COVID-19 Risk Factors” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/covid/risk-factors/index.html

2.ネブライザー治療の制限

新型コロナウイルスの流行によって、喘息治療で使われるネブライザーの使用方法にも変化が生まれました。

ここでは、ネブライザー治療が制限されている理由と、患者さんが取るべき対応について説明します。

2-1. ネブライザーとは何か

喘息の治療では、ネブライザーという吸入器を用いることがあります。

ネブライザーは、液体の薬を細かい霧のように変えて、それを口から吸い込む機械です。

しかし、新型コロナウイルス感染症が流行してからは、ネブライザーの使用が難しくなりました。

ネブライザーは治療薬を霧状にすることで、薬を気管支へと確実に送り込む働きを持っています。

薬が霧になることで、肺の奥まで届きやすくなり、効果的に症状を抑えることができるのです。

◆『ネブライザー』についてもっと詳しく>>

2-2. ネブライザーが使いにくくなった理由

液体の薬を霧状にする際に発生するエアロゾル(空気中をただよう微粒子)の中に、新型コロナウイルスが混じっていた場合、エアロゾルによる感染のリスクが高まることが指摘されています。

簡単に言うと、もし感染している人がネブライザーを使うと、ウイルスを含んだ細かい粒子が部屋中に広がってしまい、周りの人に感染させてしまう危険性が高くなるということです。

特に病院やクリニックでは、多くの患者さんがいるため、感染を広げないように注意が必要なのです。

【参考情報】『COVID-19流行期における喘息発作に対するネブライザー使用時の注意喚起』日本小児アレルギー学会
https://www.jspaci.jp/news/member/20200326-1235/

【参考情報】”Infection Control Guidance: SARS-CoV-2 | COVID-19″ by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/covid/hcp/infection-control/index.html

2-3. 患者さんが取るべき対応

病院では、ネブライザーによる治療を一時中止しているところもあります。

これまでネブライザーを使用していた患者さんは、かかりつけ医の指示に従い別の方法で薬を服用してください。

ネブライザーの代わりに、吸入器タイプの薬(スプレーのように使うもの)や、飲み薬での治療に切り替えることができます。

使い方が変わって戸惑うこともあるかもしれませんが、医師や薬剤師がしっかりと説明してくれますので、安心して相談してください。

自己判断で治療をやめることは絶対にしないようにしましょう。

◆『喘息治療に使う吸入薬』について詳しく>>

3.通院を中断するリスクと続けるメリット


新型コロナウイルスへの感染を恐れて通院をやめてしまう患者さんが増えています。

しかし、通院を中断することは、かえって健康を損なう危険性があります。

ここでは、定期的な通院がなぜ大切なのかを説明します。

3-1. 通院をやめてしまうことの危険性

持病のある患者さんが、新型コロナウイルスに感染することを恐れて定期的な通院を中断し、薬が切れたまま放っておいてしまうことが問題視されています。

喘息患者さんの場合、たとえ症状がなく落ち着いているとしても、気道の炎症が治ったわけではありません。

そのため、薬の服用をやめてしまうと、気道の症状が悪化して発作を起こし、最悪の場合、命にかかわることもあります。

症状が出ていないからといって、喘息が治ったわけではないのです。

毎日の薬が症状を抑えているだけで、薬をやめると再び炎症が強くなり、突然ひどい発作を起こすこともあります。

3-2. 定期通院が必要な理由

喘息による気道の炎症を抑えるためには、毎日の薬の使用が欠かせません。

また、医師は診察時に患者さんの呼吸音の変化などを確認し、症状を診ながら必要に応じて薬の量を調整しているので、定期的な通院は中断しないようにしましょう。

医師は聴診器で呼吸の音を聞いたり、肺の状態を調べたりして、目に見えない体の変化をチェックしています。

自分では気づかない悪化のサインを早めに見つけて、症状がひどくなる前に対処することができるのです。

◆『定期通院の必要性』について>>

3-3. COPDの方の通院の必要性

COPDで薬物治療を受けている方も毎日の服薬は欠かせないので、やはり定期的な通院は中断しないようにしましょう。

COPDは進行性の病気で、一度悪化すると元に戻すことが難しくなります。

そのため、喘息以上に継続的な治療と定期的なチェックが重要になります。

3-4. 通院を続けることで得られるメリット

持病がコントロールできていて、体調を良い状態に保つことができれば、他の病気への抵抗力も高まります。

しっかりと治療を続けて体調が良い状態を保てていれば、仮に新型コロナウイルスに感染したとしても、重症化しにくくなります。

持病の管理こそが、最も大切な感染症対策なのです。

3-5. 安心して通院できる環境づくり

当院では、院内のアルコール消毒などの感染防止対策を実施しています。

みなさまにしっかりと治療を継続していただけるよう、安心して通院していただける環境を整えています。

待合室の換気、患者さん同士の距離の確保、スタッフの健康管理など、様々な対策を行っています。

「病院に行くと感染するのではないか」という不安があるかもしれませんが、多くの医療機関では徹底した感染対策を行っていますので、安心して通院してください。

◆『喘息治療のゴールと治療法』について>>
◆『新型コロナウイルスに対する当院の取り組み』(動画)について>>

【参考情報】『成人喘息Q&A ~治療について~』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/qa/treat.html#q_no02

【参考情報】”People with Certain Medical Conditions and COVID-19 Risk Factors” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/covid/risk-factors/index.html

4.消毒液の吸入による発作に注意

次亜塩素酸

新型コロナウイルス感染症の流行により、お店や建物の入り口で消毒液が使われるようになりました。

しかし、喘息やCOPDなどの呼吸器の病気がある方は、消毒液に含まれる成分を吸い込むことで発作が起きる危険があります。

ここでは、消毒液による発作のリスクと、安全に外出するための対策について説明します。

4-1. 消毒液が発作を引き起こす理由

新型コロナウイルス感染症が拡大してから、店舗や建物内で消毒液が噴霧されていることがありますが、呼吸器疾患をお持ちの方は、この消毒液に含まれる塩素などの成分を吸い込むことで発作が起きる危険があります。

消毒液は、次亜塩素酸(じあえんそさん)ナトリウムやアルコールなどの化学物質を含んでおり、これらの成分が空気中に漂うと、呼吸器の粘膜を刺激します。

特に、気道が敏感になっている喘息やCOPDの患者さんでは、わずかな刺激でも気管支が収縮し、咳や息苦しさが起こることがあります。

4-2. 噴霧式消毒液の特に注意が必要な理由

特に注意が必要なのは、入り口などで自動的に消毒液を噴霧する装置です。

手指に直接つける消毒液と違い、噴霧式の消毒液は空気中に細かい粒子となって広がるため、知らず知らずのうちに吸い込んでしまう可能性が高くなります。

密閉された空間や換気の悪い場所では、消毒液の濃度がさらに高くなり、より危険です。

4-3. 外出時に気をつけるべきこと

入り口に消毒液の噴霧装置がある場合は、できるだけその場所を素早く通り過ぎるか、息を止めて通過するようにしてください。

また、マスクをしっかりと着用することで、消毒液の吸入をある程度防ぐことができます。

不織布マスクは、粒子を捕らえる効果が高いため、特におすすめです。

手指消毒用のジェルやスプレーを自分で持参すれば、噴霧装置を使わずに済みます。

◆『正しいマスクのつけ方と選び方』について>>

【参考情報】”Safety Precautions When Using Electrostatic Sprayers …” by Centers for Disease Control and Prevention
https://archive.cdc.gov/www_cdc_gov/coronavirus/2019-ncov/php/eh-practitioners/sprayers.html

4-4. もし発作が起きたらどうするか

万が一、消毒液を吸い込んで咳が止まらなくなったり、息苦しさを感じたりした場合は、すぐにその場を離れて新鮮な空気を吸いましょう。

普段から使っている吸入薬(気管支拡張薬)がある場合は、すぐに使用してください。

症状が治まらない場合や、呼吸困難が強い場合は、迷わず医療機関を受診するか、救急車を呼んでください。

また、このような経験をした場合は、次回の通院時に必ず医師に報告し、今後の対策について相談しましょう。

◆『喘息発作が起きたときの対処法』について>>

【参考情報】『新型コロナウィルスの消毒・除菌方法について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html

5.タバコと重症化リスクの関係


タバコは呼吸器に大きなダメージを与えるだけでなく、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクも高めることが分かっています。

また、喫煙の習慣そのものが感染のリスクを高める行動につながります。

ここでは、タバコと新型コロナウイルス感染症の関係、そして禁煙の重要性について説明します。

5-1. タバコが呼吸器と感染症に与える影響

タバコが呼吸器に悪影響を及ぼすのは明白な事実なので、新型コロナウイルス感染症の重症化リスクとなっても不思議ではありません。

タバコの煙には4,000種類以上の化学物質が含まれており、その中には発がん性物質や有害物質が多数含まれています。

これらの物質は、気管支や肺の組織を傷つけ、炎症を引き起こします。

タバコを吸い続けると、気道の粘膜が傷つき、細菌やウイルスに対する防御機能が弱くなります。

さらに、肺の中で酸素を取り込む「肺胞」という小さな袋が壊れてしまい、呼吸機能が低下します。

このような状態で新型コロナウイルスに感染すると、肺炎が重症化しやすく、人工呼吸器が必要になるリスクが高まります。

◆『喫煙者の新型コロナウィルス感染時のリスク』について>>

5-2. 喫煙の動作そのものが感染リスクを高める

タバコを手に持ち口元に近づけるという一連の動作が、手指から口の中にウイルスを運ぶことにもつながります。

私たちは日常生活の中で、ドアノブ、スマートフォン、お金など、さまざまなものに触れています。

もし、これらの表面にウイルスが付着していた場合、タバコを持つ手を介して、ウイルスが直接口や鼻に運ばれてしまう危険があります。

喫煙中はマスクを外すため、飛沫感染のリスクも高まります。

5-3. 喫煙所は感染リスクの高い場所

さらに、人が密集する喫煙所への出入りも感染のリスクを高めます。

多くの喫煙所は、狭い空間に複数の人が集まり、換気が不十分な場所です。

このような環境では、タバコの煙だけでなく、会話や呼吸によって発生する飛沫が空気中に漂い続けます。

特に、屋内の喫煙所や喫煙ルームは密閉されているため、ウイルスの濃度が高くなりやすい危険な場所です。

5-4. 研究結果が示す喫煙者のリスク

愛煙家には耳が痛い話かもしれませんが、喫煙者は非喫煙者に比べ、新型コロナウイルス感染症のリスクが高くなるとの研究結果が相次いで発表されています。

世界保健機関(WHO)や各国の研究機関による調査では、喫煙者は非喫煙者に比べて、新型コロナウイルス感染症にかかった際に重症化する確率が約1.5倍から2倍高いことが報告されています。

【参考情報】”Smoking and COVID-19 – Fact Sheet” by Lung.org
https://www.lung.org/getmedia/7c65fb45-6787-46d6-ac07-79543f37bbc5/COVID-Tobacco.pdf

5-5. 今こそ禁煙を始めるチャンス

これまで禁煙に挫折した方も、ぜひこの機会にタバコをやめる決心をしてみてはいかがでしょうか。

禁煙は何歳から始めても遅すぎることはありません。

タバコをやめてから数週間で呼吸が楽になり、数ヶ月で咳や痰が減ってきます。

禁煙は一人でがんばる必要はありません。
医療機関では、禁煙外来という専門の窓口があり、医師や看護師のサポートを受けながら、禁煙補助薬を使って無理なく禁煙することができます。

健康保険が使える場合もありますので、まずはかかりつけ医に相談してみましょう。

新型コロナウイルス感染症をきっかけに、健康な生活を取り戻すチャンスと考えて、ぜひ禁煙にチャレンジしてみてください。

◆『当院の禁煙外来』について>>

【参考情報】『WHO statement: Tobacco use and COVID-19』WHO
https://www.who.int/news/item/11-05-2020-who-statement-tobacco-use-and-covid-19

6.おわりに

新型コロナウイルスの感染拡大はいつ起こるかわかりません。

手洗いやマスク着用などの感染予防対策はもちろん大切ですが、定期的な通院や毎日の服薬を続けることも同じくらい重要です。

持病をしっかり管理して、ウイルス感染から身を守りましょう。

◆『呼吸器内科を横浜市でお探しなら』>>

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