睡眠時無呼吸症候群によって起こる脈拍の変動とは?
夜間睡眠中に、動悸や脈の乱れを感じて目が覚めることがあるなら、睡眠時無呼吸症候群が関係している可能性があります。
睡眠中に無呼吸が起こると、心臓や脈拍に大きな影響を及ぼし、適切な治療をしないまま放置すると命にかかわることもあります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群による脈拍の変動や心血管疾患のリスクについてくわしく解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどのような病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に呼吸が止まったり、呼吸が浅くなることを繰り返す病気です。
睡眠時無呼吸症候群には、閉塞性と中枢性がありますが、患者のほとんどは閉塞性です。
閉塞性は、肥満やあごの形などが原因で、空気の通り道である気道が狭くなることで、睡眠中に呼吸が止まってしまいます。
中枢性は、心臓や脳などの病気の影響で、呼吸中枢が正常に働かないことで呼吸が不安定になります。
閉塞性の主な症状は、激しいいびきです。激しいいびきは朝までひっきりなしに続き、周りの人の睡眠を妨害してしまうこともよくあります。
◆「そのいびき、睡眠時無呼吸症候群のせいかもしれません」>>
さらに、無呼吸によって十分な休息が取れず睡眠の質が低下するため、日中の生活にも影響が出ることが少なくありません。
そのため、日中に我慢できないほどの眠気に襲われ、運転中や仕事中に寝てしまう人もいます。
2.睡眠時無呼吸症候群が脈拍に与える影響
睡眠時無呼吸症候群を発症すると、心血管疾患のリスクが高まるとされています。
睡眠中に無呼吸が起こると、体内に酸素が十分に取り込まれず、酸素濃度が低下します。すると、心臓は全身に酸素を届けようと動きを速めるため心拍数が上昇し、動悸や脈の乱れなどの症状が現れます。
また、脈拍の変動には、呼吸や循環、体温など生命維持に必要なはたらきを調整する自律神経も深くかかわっています。
自律神経には交感神経と副交感神経があり、交感神経は活動中に、副交感神経はリラックス時に働きます。
本来、睡眠中は副交感神経が優位になるのが正常ですが、無呼吸が続くと交感神経が活発になってしまいます。
その結果、睡眠中でも体が活動しているような状態が続き、心臓に負担がかかるため、頻脈や徐脈、不整脈など脈の乱れが引き起こされるのです。
【参考情報】『What Is an Arrhythmia?』National Heart,Lung,Blood Institude
https://www.nhlbi.nih.gov/health/arrhythmias
3.睡眠時無呼吸症候群と心血管疾患のリスク
睡眠時無呼吸症候群を発症すると、軽度であっても心血管疾患のリスクが高まるという研究報告があります。
【参考情報】『Nocturnal Intermittent Hypoxia and the Risk of Cardiovascular Disease among Japanese Populations: The Circulatory Risk in Communities Study (CIRCS)』PMC
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10499452/
以下、睡眠時無呼吸症候群と心血管疾患の関係について説明します。
3-1.高血圧
本来、睡眠中は副交感神経が優位になるため、起きて活動している時よりも血圧が下がります。
しかし、睡眠時無呼吸症候群になると、無呼吸によって脳や体が起きた状態になってしまうので、交感神経優位に切り替わり、血圧が上昇します。
このような血圧の変動が何度も繰り返されることで、高血圧になるリスクが高まるのです。
さらに、睡眠時無呼吸症候群の人は、複数の降圧剤を使っても血圧が目標値まで下がりにくい「治療抵抗性高血圧」になりやすい傾向があります。
3-2.不整脈・心房細動
閉塞性睡眠時無呼吸症候群を発症している人の半数以上は、何らかの不整脈を合併すると言われています。
さらに、重度の睡眠時無呼吸症候群の場合、発症していない人と比べて不整脈のリスクが2~4倍高くなるという報告もあります。
不整脈には、頻脈や徐脈だけでなく、心房細動、非持続性心室頻拍、洞停止などもあり、これらは命に関わる危険性があるため注意が必要です。
【不整脈が起こる主な理由】
・血圧の上昇
無呼吸により血圧が上昇し、心臓に過度な負担がかかることで、不整脈が発生しやすくなります。
・低酸素状態
無呼吸により体内の酸素が不足すると、体は酸素を早く運ぼうとするため、心臓の動きが速くなります。この動きが、激しい運動後のように心拍数を上昇させます。
このように、休息時間である睡眠中にもかかわらず休めない状態が続くと、体はストレスを感じ、心筋が異常な興奮状態に陥って不整脈の原因となります。
また、長期間にわたる低酸素状態は心臓に大きな負担をかけ、心筋細胞が肥大や変形を起こします。これにより、徐脈や頻脈、心房細動などの不整脈が発生しやすくなります。
・自律神経の影響
呼吸の停止と再開を繰り返すことで、夜間でも脳や体が覚醒し、自律神経のバランスが崩れます。
自律神経が乱れると心拍数が増加し、心臓の電気信号にも異常が生じるので、不整脈のリスクが高まります。
【参考情報】『Association of Nocturnal Arrhythmias with Sleep-disordered Breathing』PubMed
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2662909/
3-3.心臓肥大
心臓肥大とは、心臓の筋肉が通常よりも厚くなり、心臓全体が大きくなる状態を指します。
睡眠時無呼吸症候群が原因で心拍数の増加や高血圧が続くと、心臓は通常よりも強い力で血液を押し出さなければなりません。
このような状態が長期間続くと、心臓の筋肉が徐々に厚くなり、次第に心臓の機能が低下してしまいます。
初期の段階では自覚症状がほとんどありませんが、進行すると息切れ、動悸、不整脈などの症状が現れるようになります。
3-4.大動脈解離
大動脈解離とは、血管の壁が裂けて、本来の血液の通り道とは別の通り道ができてしまう病気です。
血管の壁は、内膜・中膜・外膜の3層で構成されているのですが、血液に一番近い内膜は、高血圧や動脈硬化などで負担がかかると裂けてしまうことがあります。その裂けた部分から血液が中膜に入り込み、別の通り道ができてしまうのです。
裂けた部分の血管は非常にもろく、血圧が高い状態が続くと破裂する危険性があります。また、中膜に入り込んだ血液が本来の血管を圧迫し、血流が悪くなることで、各臓器に十分な血液が届かず、さまざまな症状を引き起こします。
【参考情報】『大動脈瘤と大動脈解離』国立循環器病研究センター
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/aortic-aneurysm_dissection/
3-5.心筋梗塞
睡眠時無呼吸症候群による低酸素と呼吸の停止・再開を繰り返すと酸化ストレスが増え、体に炎症が起こります。
この炎症によって血管の壁が少しずつ傷つけられると、傷を修復しようとして細胞が集まり、血管内にプラークと呼ばれる塊が作られます。
プラークの表面は非常にもろく、破れてしまうと、その部分に血小板が集まって血栓(血のかたまり)ができます。血栓によって血管が詰まると、その先に血液が届かなくなり、細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなります。
これが心臓の血管で起きると心筋梗塞を引き起こします。血管が詰まる場所によっては、最悪の場合、命にかかわる危険性もあります。
◆「いびきが心臓に負担をかける理由と心疾患につながるリスク」>>
4.睡眠時無呼吸症候群の検査
この章では、睡眠時無呼吸症候群が疑われる症状がある場合に行う検査を紹介します。
4-1.簡易検査
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合、まずは簡易検査を行います。
この検査では、「アプノモニター」という小型の医療機器を自宅で使用します。寝る前に機器を装着し、そのまま眠るだけで検査ができます。
いつも使っている布団や枕を使うことができるため、眠れなかったり緊張したりすることなく、リラックスして検査ができます。
さらに、入院の必要がないため、働いている人でも手軽に検査を受けることができます。
ただし、この検査では測定できる項目が限られているため、睡眠状況の詳細までは把握できないというデメリットもあります。
4-2.精密検査
簡易検査の結果、さらに詳しい検査が必要と判断された場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行います。
基本的には、医療機関に一泊して入院し、検査を受けます。ただし、病院やクリニックによっては、入院せずに自宅で検査を受けることも可能です。※当院では自宅での精密検査も可能です
この検査では、脳波や心電図、酸素飽和度、いびきの有無など、さまざまなデータをもとに睡眠時無呼吸症候群の診断を行います。
5.睡眠時無呼吸症候群の治療
検査の結果、睡眠時無呼吸症候群だと診断された場合は、下記の治療を行います。
5-1.CPAP(シーパップ)
CPAPは、睡眠中の無呼吸を防ぐために、強制的に空気を送り込む医療機器です。
この治療を始めると、無呼吸が改善されるため、いびきや日中の眠気がなくなり、睡眠の質も向上します。
さらに、無呼吸が原因で心臓にかかっていた負担も軽減され、心血管疾患のリスクが大幅に減少します。
すでに心血管疾患を抱えている睡眠時無呼吸症候群の患者でも、CPAPを使用することで病気の悪化を防ぐ効果があるとされています。
5-2.ASV
主に、中枢性の患者に使用する人工呼吸器です。CPAPが一定のリズムで空気を送り込むのに対し、ASVは使う人の呼吸に合わせて空気を送り込みます。
CPAPと同様に、ASVを使用することで呼吸が安定し、酸素不足が改善されるため、さまざまな合併症の予防が期待できます。
5-3.マウスピース
マウスピースを口の中に装着すると、下あごが前に出るため、舌が気道の奥に落ち込みにくくなります。その結果、気道が広がり、気道の閉塞を防ぐことができます。
CPAPやASVよりも簡単に使用でき、装着時のストレスも少ないですが、重症の患者には効果が乏しいため、使用できないことがあります。
また、虫歯や歯周病がある人は使えないなど、特定の条件を満たさないと装着が難しくなります。
5-4.手術
口蓋垂(のどちんこ)など、気道を塞ぐ原因を取り除く手術によって、無呼吸や低呼吸を改善する方法もあります。
しかし、手術をしても効果を実感できなかったり、いびきなどの症状が再発することもあります。
特に肥満体型の人は、手術後もまた脂肪が再び気道を圧迫する可能性があるため、継続的な治療が必要です。
6.おわりに
睡眠時無呼吸症候群が原因で、心臓に負担がかかり続けることにより、脈拍が変動することがあります。
もし未治療のままで放置すると、心血管疾患のリスクが高まり、命にかかわる可能性もあるため注意が必要です。
いびきや昼間の眠気があり、脈の異常や胸の痛みを感じる場合は、早めに睡眠時無呼吸症候群の検査ができる病院を受診しましょう。
適切な治療を受けることで、心血管疾患のリスクを大幅に軽減することができます。