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喘息の薬が効かないときに考えられる理由と見直すポイント

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)

「薬をちゃんと使っているのに咳や息苦しさが治まらない」
「夜になると症状が悪化して眠れない」

そんなとき、「もしかして、この薬は効いていないのでは?」と不安になる喘息患者さんもいるでしょう。

実際に、喘息の薬には「すぐに症状を楽にする薬」と「炎症を抑えて発作を起こしにくくする薬」があり、効果の出方や感じ方は人によって異なります。

この記事では、薬が効かないと感じる背景やよくある原因、見直すべきポイントを整理し、医療機関を受診すべき目安も解説します。

喘息と向き合う患者さんやご家族の不安を少しでも軽くできるようにまとめました。

1. 喘息治療に使われる薬の基本


喘息の治療薬は大きく分けて、気道の炎症を抑えて症状が出にくい状態を保つための「長期管理薬(コントローラー)」と、発作が起きたときに症状を和らげる「発作治療薬(リリーバー)」の2つがあります。

この違いが整理できていないと、「薬が効いていない」と感じやすくなります。

1-1. 長期管理薬の役割

吸入ステロイド薬をはじめとした長期管理薬は、症状を「消す」薬というより、気道の炎症を鎮め、発作を起こしにくい状態を保つことを目的にします。

効果は少しずつ現れるので、症状が安定するまでに時間がかかることがあります。

そのため、使い初めに「効いてない」と思い込み、自己判断で中断すると炎症がぶり返し、かえって症状が長引きます。必要最小量での継続が基本です。

【参考情報】『Asthma medications: Know your options』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/asthma-medications/art-20045557

1-2. 発作治療薬の役割

発作時に気道を広げて息苦しさを和らげる薬です。即効性がある一方で、炎症を抑える作用はありません。

発作治療薬が何度も必要になる場合は、長期管理薬の調整が必要なサインです。

◆「喘息の吸入薬」についてもっとくわしく>>

2. 「薬が効かない」と感じる主な原因


効き目の問題は、薬そのものだけでなく、使い方や生活背景、他の病気の関与などでも生じます。

思い当たる点がないか、順に確認していきましょう。

2-1. 吸入手技のズレ

吸入薬は「正しく吸い込めているかどうか」で、気道への到達量が大きく変わります。

吸い込みのタイミング、吸気の速さ・深さ、息止め、うがいの有無、デバイスの準備(振る・装着・残量確認)など、どれか一つでもずれると効果が落ちます。

子どもや高齢者は吸い込む力が弱いので、必要な分量が吸い込めないこともあります。

また、指先の力が弱くてデバイス(容器)の操作がうまくいかないこともあります。

2-2. 薬の種類・量・組み合わせが合っていない

症状や重症度に対して薬の用量が不足している、あるいは合剤(複数の異なる薬効成分を一つに配合した医薬品)や追加の薬が必要なのに、長期管理薬が単剤(1つの薬効成分のみを含んだ薬)のまま、という場合も、薬の効果が感じられないことがあります。

季節の変動、身の回りのアレルゲンの量、体重の変化、運動量、妊娠・加齢などでも適正量は変わってきます。

◆「喘息の女性が気になる妊娠中の不安や疑問に答えます」>>

2-3. アドヒアランス(継続)の問題

「症状が落ち着いたから」と自己判断で薬を中止・減量したり、忙しさで使い忘れが続いたりすると、気道の炎症が再燃しやすくなります。

また、ステロイドの副作用が心配で使用を控えてしまう人も見られます。ちなみに、吸入ステロイド薬で強い副作用が現れることは、めったにありません。

◆「喘息治療に使う吸入ステロイド薬の副作用は?」>>

気になる症状があれば、自己判断で薬を止めたり減らしたりするのではなく、医師に相談して対策(うがい・器具変更・用量調整等)を検討しましょう。

2-4. 生活環境・誘因のコントロール不足

薬が効きにくいと感じるのは、ダニやハウスダスト、ペット、カビ、花粉、たばこの煙、冷たい空気、運動、感染症、ストレス、睡眠不足など、さまざまな原因が重なっていることがあります。効果を高めるには、薬だけでなく生活環境も整えることが大切です。

寝具を洗ってしっかり乾かす、こまめに掃除機をかける、換気や湿度を管理する、たばこの煙を避ける、感染予防を心がける、規則正しく眠る――こうした工夫を同時に行いましょう。

◆「喘息の人がタバコを吸うと、なぜ症状が悪化するのか」>>

2-5.食事で炎症が促進される

薬をきちんと使っているのに症状が続く場合、体の中で炎症がくすぶっている可能性があります。気道の粘膜が赤く腫れ、刺激に過敏になっている状態です。

この「小さな炎症の火種」が残っていると、薬で一時的に症状が落ち着いても、再びぶり返すことがあります。

◆「喘息による気道の炎症」について詳しく>>

炎症を抑えるには、薬だけでなく、日々の食事で体の内側から整えることも重要です。例えば、糖分の多いお菓子や清涼飲料水、揚げ物や加工食品をとりすぎると、炎症を促す物質が増え、気道の過敏さが改善しにくくなります。

さらに、亜鉛・鉄・マグネシウム・ビタミンD・たんぱく質が不足すると、粘膜の修復や免疫機能が低下し、薬の効果を十分に発揮しにくくなります。

◆「たんぱく質」について詳しく>>

一方、青魚に含まれるEPA・DHAは炎症を鎮め、野菜や果物に多いビタミンC・Eは細胞を酸化ストレスから守ります。納豆やヨーグルトなどの発酵食品は腸内環境を整え、免疫のバランスを助けます。

◆「ビタミンC」のおもな特徴>>

毎日の食事で「炎症を起こしにくい体」をつくることが、薬の効きを高め、喘息を安定させるための大切な土台になります。

◆「咳と栄養の意外な関係」について>>

2-6. 別の病気が隠れている可能性

「喘息だと思っていたけれど、実は別の病気が原因だった」というケースや、「喘息に他の病気が重なっている」こともあります。

たとえば、アトピー咳嗽(がいそう)、副鼻腔炎、逆流性食道炎(GERD)、声帯のトラブル、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、心不全、薬の副作用などが考えられます。

◆「アトピー咳嗽」とはどんな病気?>>

3. 小児喘息で注意したいポイント


子どもには喘息治療薬の吸入操作が難しいため、保護者のサポートが大事です。

3-1. 夜間に咳が出やすい場合

夜間や朝方に症状が出やすいのは、体のリズムや気温・湿度の変化、寝具に潜むダニやホコリ、鼻づまりや鼻水がのどに回ること(後鼻漏)などが関係しています。

対策としては、寝室を清潔に保ち換気をすること、寝具カバーを定期的に洗うこと、湿度を40〜60%に保つことが大切です。ただし、加湿しすぎるとカビが発生するので注意しましょう。

鼻の症状が強いときは、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎を併発している可能性があります。鼻の治療をあわせて行うことも有効です。

◆「喘息と副鼻腔炎の関係」とは?>>

3-2. 吸入補助器具(スペーサー)の活用

スペーサーを使うと、薬がのどに残りにくくなり、しっかり肺まで届きやすくなります。

使うときは、マウスピースを口に密着させて、数回ゆっくり深呼吸しましょう。終わったら必ずうがいを習慣にしてください。

【参考情報】『スペーサーの種類とメンテナンス』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/inhalers/feature02.html

学校や園では、吸入の方法や発作が起きたときの対応をまとめた計画を用意しておくと安心です。

◆「喘息の子どもが保育園・幼稚園に入る前に知っておきたいこと」>>

3-3. ネブライザーの使用

吸入操作が難しい小さな子どもは、ネブライザー(噴霧吸入器)で薬を霧状にして吸い込むのもいいでしょう。

ネブライザー使用後は、器具を清潔に保ち、部品の洗浄・乾燥を忘れないようにしましょう。

◆「ネブライザー」の種類と使い方>>

4. 高齢者の喘息で注意したいポイント


年齢を重ねると、筋力や手の動きの器用さが落ちたり、物忘れなど認知機能の影響が出たり、他の病気や薬の影響も加わって、吸入薬を正しく使うのが難しくなることがあります。

4-1. 吸入手技とデバイスの適切さ

細かい粉末状の薬剤を吸うには、しっかり吸い込む力が必要なことがあります。

そのため、息を強く吸いにくい方には、エアゾール式の吸入薬やスペーサーを組み合わせた方法が向いている場合があります。

視力が弱い方や手が震えやすい方には、ボタンを押すだけで使えるタイプや、残り回数がわかるカウンター付きの容器に入った薬が便利です。

4-2. 併存症・相互作用への配慮

COPDや心疾患、骨粗しょう症、糖尿病、胃食道逆流症などは、喘息の症状や治療方法に影響します。

◆「喘息と胃食道逆流症の関係」とは?>>

さらに、飲んでいる薬やサプリとの相性、歩行や栄養、口の機能など体全体の状態も考え合わせて、最適な治療を選んでいくことが大切です。

5. 薬が効かないと感じたときのチェックリストと対処


次のポイントを一つずつ確認していくと、自己判断で治療をやめてしまったり、必要以上に不安になるのを防ぎ、改善のきっかけを見つけやすくなります。

5-1. 吸入方法は本当に合っているか

 ・吸う前に準備(振る・セット・残量確認)をしているか

 ・息をゆっくり深く吸えているか

 ・吸入後に2〜10秒ほど息止めができているか

 ・必要に応じてスペーサーを使っているか

 ・うがいを毎回実施しているか

 ・デバイスごとの正しい手順を医療者と一緒に確認したか

5-2. 使用スケジュールは守れているか

 ・長期管理薬を毎日継続できているか

 ・症状がない日に自己判断で中止していないか

 ・外出時など、うっかり忘れやすい時でもきちんと服薬できているか

 ・アプリやチェック表で記録し、診療時に共有できているか

5-3. 症状を引き起こす原因を減らす工夫ができているか

 ・寝具やカーテン、ぬいぐるみを清潔に保っているか

 ・喫煙や受動喫煙を避けているか

 ・風邪やインフルエンザが流行している時期の感染対策を行っているか

 ・運動の強さや寒さにあたる時間を調整しているか

 ・ストレスや睡眠不足を減らす工夫をしているか

5-4. 症状の記録をつけているか

朝晩の症状、夜間の覚醒、運動時の息苦しさ、救急吸入の回数などを簡単にメモし、受診時に共有しましょう。

ピークフローメーターを用いた変動の把握も役立ちます。

5-5. 別の原因が考えられるか

胸やけやのどの違和感がある場合は胃食道逆流症、鼻づまりや鼻水がのどに回る症状が続く場合は副鼻腔炎などを併発していることがあります。

このような場合、呼吸器専門医の診察を受けると、治療方法が変わることがあります。

◆「呼吸器内科の専門医」とは?>>

5-6. 治療の選択肢を整理する

上記のポイントに問題がないにもかかわらず、薬の効果が感じられない場合は、医師と相談して以下の改善法を試してみましょう。

 ・薬の量を調整する

 ・複数の薬を組み合わせる

 ・別の吸入器に入っている薬に替える

 ・アレルギー対策を強化する

 ・呼吸トレーニングを取り入れる

6. 医師に相談すべきタイミング


以下のいずれかに当てはまる場合は、呼吸器専門医への相談を検討してください。

6-1. 受診を急ぐサイン

 ・夜間や早朝に週2回以上、咳や息切れで目が覚める

 ・発作治療薬を週に2回以上必要とする

 ・会話や階段昇降、軽い運動で息切れが強い

 ・胸の圧迫感やヒューヒュー音が続く

 ・薬の副作用が疑われる症状がある(声枯れ、口腔内の違和感など)

 ・症状が急に悪化した、あるいは改善が乏しい

6-2. 受診時に伝えたい情報

呼吸器内科を初めて受診する際は、以下の情報を整理しておくと便利です。

 ・いつから、どの時間帯に、何をした時に悪化するか 

 ・使っている薬の名前、回数、使い方

 ・使用状況の記録、ピークフローの変動

 ・アレルギー歴、生活環境の変化、他科処方薬やサプリ

7. よくある質問


Q1. 吸入薬を使っても症状が変わらない場合、すぐに薬を変えるべきですか?
すぐに薬を変える必要はありません。長期管理薬は効果が出るまで時間がかかることがあります。

まず吸入方法や服薬の継続状況、生活環境の影響を確認してから、医師と相談して調整するのが基本です。

Q2. 発作治療薬を1日数回使うと、薬の効き目が落ちることはありますか?
発作治療薬自体の効果が急に落ちることは少ないですが、頻繁に使用する場合は、長期管理薬の量や種類が適切か見直す必要があります。

自己判断で回数を増やすのではなく、医師に相談してください。

Q3. 喘息薬の効果を感じにくいのは年齢や体調のせいですか?
年齢や筋力、手の動き、認知機能の変化、他の病気や服薬も影響することがあります。

特に高齢者や子どもは吸入の手技や力が十分でないことが原因になりやすいため、補助器具や適切なデバイスが役立つ場合があります。

Q4. 夜だけ咳が続く場合、薬を増やしたほうが良いですか?
夜間に症状が出る場合、薬の量を増やすよりも、寝室環境(寝具の清潔、湿度管理)、鼻や副鼻腔の症状、アレルギー対策などを見直すことが重要です。

必要に応じて医師が薬の調整を判断します。

Q5. 薬は正しく使っているのに、運動すると咳や息切れが出ます。これはなぜですか?
運動誘発性喘息の可能性があります。薬が効いていても、運動中は気道が刺激されて症状が出ることがあります。

運動前の吸入やウォームアップ、強度の調整で症状を軽くできる場合があります。医師に相談しましょう。

◆「運動誘発性喘息」についてくわしく>>

Q6. 吸入薬を使った後にうがいをすると、薬の効果が弱くなりませんか?
吸入後のうがいは、口やのどに残った薬を洗い流すためのもので、効果を弱めることはありません。むしろ、口内カンジダなどの副作用を防ぐために推奨されます。

◆「喘息の吸入薬使用後にうがいが必要な理由と方法」>>

8. おわりに

薬をきちんと使っているのに「効かない」と感じるときは、いくつかの理由が考えられます。

たとえば、吸入の仕方や使う量が合っていない、続け方に問題がある、環境や体質の影響を受けている、ほかの病気が隠れている、といったケースです。

気になる点があればチェックしてみて、受診の目安に当てはまる場合は専門医に相談しましょう。

診察では、症状や生活習慣、吸入の方法や器具の使いやすさ、アレルギーや合併症の有無などを総合的に確認します。

必要なら検査を追加し、体への負担やリスクに配慮しながら、その人に合った治療を組み立てます。

治療の目的は「できるだけ症状のない生活を長く続けること」です。わからないことや不安は遠慮せず伝えて、納得できる治療計画を一緒に考えることが大切です。

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