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60歳以上の方必見!気管支喘息の症状を見逃さないために知っておきたいポイント

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)

「最近咳が長引いているけれど、年齢のせいかしら?」「階段を上ると息切れするけれど、歳だから仕方ない」そう思っていませんか?

実は、60歳以上の方に見られるこれらの症状は、気管支喘息の可能性があります。

高齢者の気管支喘息は症状が分かりにくく、見過ごされやすいのが特徴です。

早期発見により適切な治療を受けることで、生活の質を大きく改善できます。

1. 高齢者の気管支喘息とはどのような病気か


気管支喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、咳や息苦しさなどの症状が現れる病気です。

なお、医学用語では「気管支喘息」が正式名称ですが、日常的には「喘息」と呼ばれることが多く、どちらも同じ病気を指しています。

高齢者の気管支喘息には若年者とは異なる特有の特徴があります。

1-1. 高齢者の喘息の主な特徴

高齢者の喘息は、典型的な「ゼーゼー」音が聞こえないことがあり、乾いた咳が主症状として現れるのが特徴です。

感染症や気候変化、ストレスが引き金となることが多いのが特徴です。

1-2. なぜ高齢者で喘息が見過ごされやすいのか

高齢者の気管支喘息が見過ごされる理由はいくつかあります。

・症状を「年齢のせい」と思い込む
・他の病気(心臓病・肺疾患)と症状が似ている
・「少しの不調は当たり前」と受診を躊躇する

1-3. 発症メカニズム

年齢を重ねると、気道の構造や機能が変化します。

気道の筋肉が硬くなり、炎症に対する反応も変化するため、若い頃とは異なる症状パターンを示すようになります。

また、免疫機能の低下により、ウイルス感染などから回復しにくくなり、それが高齢期での気管支喘息の発症や悪化につながることがあります。

◆『高齢者の喘息』について>>

【参考情報】『気管支喘息の疫学: 現状と近未来』日本内科学会雑誌
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/10/107_2059/_pdf

2. 高齢者に特徴的な症状


高齢者の気管支喘息では、一般的にイメージされる喘息の症状とは異なる特徴的な症状が現れることが多くあります。

これらの症状を正しく理解することで、早期発見につながります。

2-1. 持続する乾いた咳

高齢者の気管支喘息で最も特徴的なのは、痰の少ない乾いた咳が続くことです。

特に夜間から早朝にかけて悪化する傾向があります。

また、激しい発作というよりも、軽度から中等度の息苦しさが持続的に続くことが多いのが特徴です。

2週間以上続く乾いた咳や胸の圧迫感や違和感などの症状には注意が必要です。

2-2. 体力低下に伴う呼吸困難の特徴

高齢者では、全身の体力低下と気管支喘息による呼吸困難が重なることがあります。

例えば、少し歩いただけで休憩が必要になったりします。このような症状は「年齢による体力の衰え」と思われがちですが、実際には気管支喘息による気道の狭窄が原因の場合があります。

息苦しさは重要な症状のサインです。

◆『息苦しさを感じる原因』について>>

2-3. 夜間・早朝の症状悪化

気管支喘息の特徴的な症状パターンとして、夜間から早朝にかけての症状悪化があります。

これは体内の自然なリズムにより、この時間帯に気道が狭くなりやすいためです。

具体的には、夜中に咳で目が覚める、朝起きた時に胸が苦しいなどの症状が現れます。このような症状がある場合は、単なる風邪の残りや加齢現象ではなく、気管支喘息の可能性を考える必要があります。

2-4. 季節や気候変化による症状変動

高齢者の気管支喘息では、季節の変わり目や気候の変化に敏感に反応することがあります。

特に、気温の急激な変化、湿度の変化、気圧の変動などが症状を悪化させる要因となります。

梅雨時期の湿度上昇や、冬の乾燥した冷たい空気などが引き金となることが多く、これらの時期に症状が悪化する場合は気管支喘息を疑う必要があります。

【参考情報】『気管支ぜんそく』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html

3. COPDなど他の呼吸器疾患との違いと見分け方


高齢者の呼吸器症状では、気管支喘息以外にもCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や心不全など、さまざまな病気が考えられます。

正確な診断のためには、これらの病気との違いを理解することが重要です。

3-1. 気管支喘息とCOPDの基本的な違い

気管支喘息とCOPDは、どちらも気道に問題が生じる病気ですが、原因や症状に重要な違いがあります。

COPDの主な原因は長年の喫煙習慣で、喫煙者や元喫煙者に多く見られます。

一方、高齢発症の気管支喘息は喫煙歴がない方にも発症します。

症状面では、COPDは労作時(体を動かした時)の息切れが主体となるのに対し、気管支喘息は安静時にも咳や息苦しさが現れることがあります。

◆『COPD』について>>

3-2. 併存疾患(オーバーラップ症候群)のリスク

高齢者では、気管支喘息とCOPDの両方を併せ持つ「オーバーラップ症候群(ACO:Asthma-COPD Overlap)」が存在することがあります。

このような場合、症状がより複雑になり、診断が困難になります。

長年の喫煙歴がある方で、最近になって夜間の咳や息苦しさが増加した場合は、このオーバーラップ症候群の可能性も考慮する必要があります。

3-3. 心不全との鑑別ポイント

高齢者の息苦しさや咳の原因として、心不全も重要な鑑別疾患(考えられる病気の候補)です。

心不全による症状は、横になると悪化し(起座呼吸)、足のむくみを伴うことが多いのが特徴です。

一方、気管支喘息では横になった時の症状悪化は心不全ほど顕著ではありません。

また、心不全では体重増加(水分貯留)が見られることがありますが、気管支喘息単独では体重変化は通常ありません。

3-4. その他の重要な鑑別疾患

高齢者の咳や息苦しさの原因として、他にも薬剤性咳嗽(薬によって引き起こされる咳)、肺がんなどの可能性があります。

ACE阻害薬などの血圧の薬による咳は、薬を開始してから数週間から数か月後に現れることがあります。

これらの鑑別には、詳細な問診と適切な検査が必要になります。

◆『喘息と間違いやすい病気』について>>

4. 家族が気づける日常生活のサイン


高齢者の気管支喘息では、ご本人が症状を軽視してしまうことがあるため、ご家族の観察が非常に重要です。

日常生活の中で注意して見るべきサインをご紹介します。

4-1. 活動レベルの変化に注目

ご家族にとって最も気づきやすいサインは、普段の活動レベルの変化です。

以前は問題なくできていた階段の上り下りで、途中で休憩するようになったり、散歩の距離が短くなったりした場合は要注意です。

「年のせい」と思われがちですが、急激な変化があった場合は気管支喘息の可能性を考える必要があります。

4-2. 睡眠パターンの変化

夜間の症状は、気管支喘息の特徴的なサインの一つです。

ご家族が気づきやすい点として、夜中に咳で目が覚める回数が増えることがあります。

また、朝起きた時に「よく眠れなかった」と話すことが多くなったり、日中の眠気が増えたりすることもあります。

横になると咳が出るため、椅子で寝てしまうこともあります。

4-3. 会話や食事中の変化

日常の会話中に、息継ぎの回数が増えたり、長い文章を一息で話すのが困難になったりすることがあります。

また、食事中に咳き込むことが増えたりすることもあります。

これらは、気道の狭窄により十分な空気を取り込めなくなることが原因です。

特に、以前は問題なくできていたことができなくなった場合は、注意が必要です。

4-4. 感情面や行動面の変化

呼吸困難や慢性的な咳により、イライラしやすくなったり、外出を嫌がるようになったりすることがあります。

このような変化は、単なる性格の変化や年齢によるものではなく、呼吸器症状による二次的な影響の可能性があります。

ご家族が「最近、元気がない」「以前より消極的になった」と感じる場合は、身体的な不調が隠れている可能性を考慮することが大切です。

4-5. 気候や環境による症状変化の観察

気管支喘息では、特定の環境や気候条件で症状が悪化することがあります。

ご家族は、どのような時に咳や息苦しさが悪化するかを観察することが重要です。

例えば、季節の変わり目、雨の日、風の強い日などは特に注意して見るようにしてください。

これらの情報は、医師が診断する際の重要な手がかりとなります。

◆『咳が止まらなくて息苦しい』について>>

5. 高齢者でも安心して受けられる検査と治療法


高齢者の方やそのご家族の中には、「年齢的に検査や治療が負担になるのでは」と心配される方がいらっしゃいます。

しかし、現在の医療技術では、高齢者でも安全に受けられる検査や治療法が確立されています。

5-1. 負担の少ない検査方法

気管支喘息の診断に必要な検査は、高齢者でも負担が少なく安全に実施できます。

基本的な検査として、胸部レントゲン検査、血液検査、呼吸機能検査があります。

胸部レントゲン検査は数分で終わり、痛みもありません。

血液検査では炎症の程度やアレルギーの有無を調べます。

呼吸機能検査(スパイロメトリー)は、大きく息を吸って吐くだけの簡単な検査で、気道の狭窄の程度を評価できます。

5-2. 高齢者に適した治療選択肢

気管支喘息の治療は、高齢者の身体状況や併存疾患を考慮して調整されます。

吸入薬による治療が基本で、これは全身への副作用が少なく、高齢者でも安全に使用できます。

吸入薬には、症状を予防する「コントローラー」と、発作時に使用する「リリーバー」があります。

最近では、一日一回の吸入で済む薬剤や、使いやすい吸入器も開発されており、高齢者でも継続しやすくなっています。

◆『吸入薬』について>>

5-3. 副作用への配慮と安全性

高齢者の治療では、薬剤の副作用や他の薬との相互作用に特に注意が払われます。

吸入薬は局所作用のため全身への影響が少なく、内服薬と比較して副作用のリスクが低いのが特徴です。

定期的な検査により、安全性を確認しながら治療を進めるため、高齢者でも安心して治療を受けられます。

5-4. 併存疾患がある場合の治療アプローチ

高齢者では、高血圧、糖尿病、心疾患などの併存疾患を持つことが多くあります。

気管支喘息の治療においては、これらの病気への影響も考慮して治療方針が決定されます。

複数の診療科との連携により、総合的で安全な医療が提供されます。

【参考情報】『高齢のぜん息患者さんへ』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/case/senior.html

6. いつ医療機関を受診すべきか – 受診の目安とタイミング


適切な治療を受けるためには、症状に気づいた時点で早めに医療機関を受診することが大切です。

ここでは、具体的な受診の目安やタイミングについて詳しく説明します。

6-1. 緊急性の高い症状

激しい呼吸困難で座っていないと苦しい、話すことができないほどの息切れ、唇や爪が青紫色になる(チアノーゼ)、意識がもうろうとする、などの症状は緊急事態です。

これらの症状がある場合は、救急車の要請も考慮してください。

高齢者では症状の進行が早い場合があるため、様子を見すぎないことが重要です。

6-2. 早期受診が望ましい症状の期間

慢性的な症状であっても、適切な期間で医療機関を受診することが大切です。

風邪を引いた後に咳が続く場合、階段や坂道での息切れが以前より強くなった場合、夜間の咳や息苦しさで睡眠が妨げられる場合は、早めの受診をお勧めします。

また、季節の変わり目に毎回同様の症状が現れる場合も、気管支喘息の可能性があります。

◆『風邪を引いた後に咳だけ残る原因と考えられる病気』について>>

6-3. 適切な診療科の選び方

呼吸器症状がある場合は、呼吸器内科での診療が最も適しています。

呼吸器内科では、気管支喘息、COPD、その他の肺疾患について専門的な診断と治療を受けることができます。

呼吸器内科が近くにない場合は、内科での初期診療も可能ですが、診断が確定した後は専門医による継続的な管理が望ましいです。

また、複数の病気をお持ちの場合は、かかりつけ医と専門医の連携による治療が効果的です。

6-4. 受診前の準備と情報整理

効果的な診療を受けるために、受診前に症状や経過を整理しておくことが大切です。

いつから症状が始まったか、どのような時に悪化するか、現在服用している薬、過去の病気などをメモしておきましょう。

また、可能であればご家族に同行してもらい、客観的な症状の変化について医師に伝えてもらうことも有効です。

お薬手帳や過去の検査結果があれば、それらも持参してください。

6-5. 継続的な管理の重要性

気管支喘息は慢性疾患であり、継続的な管理が必要です。

定期的な受診により、治療を調整することで、良好な状態を維持できます。

また、季節性の悪化が予想される場合は、予防的な治療の強化も可能です。

医師との良好なコミュニケーションを保ち、不安な点があれば遠慮なく相談することが大切です。

【参考情報】『喘息のケア』健康長寿ネット
https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/zensoku/care.html

7.おわりに

高齢者の気管支喘息は、症状が典型的でないため見過ごされやすい病気です。

しかし、適切な診断と治療により、症状を大きく改善することができます。

長引く咳や息苦しさがある場合は医療機関を受診してください。

ご家族の方は日常生活での変化に注意を払い、気になる症状があればためらわずに呼吸器内科にご相談ください。

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