咳が止まらない?アレルギーが原因となる咳について

咳がなかなか治らず、「ただの風邪にしては長引いているな」と感じている人は少なくありません。しかし、発熱や倦怠感はないのに咳だけが続く場合、その原因は風邪ではなく、アレルギーである可能性があります。
アレルギー性の咳は、数週間以上続きやすく、乾いた咳が断続的に出るのが特徴です。風邪のように自然に治まるとは限らず、原因に気づかないまま放置すると長期化することもあります。
この記事では、アレルギーが原因となる咳について解説し、考えられる病気を紹介します。咳が続いている人は、ぜひ参考にしてください。
目次
1.アレルギーとは何か?
アレルギーとは、本来は体に害を与えない物質に対して、免疫が過剰に反応してしまう状態を指します。
免疫とは、体に入ってきた細菌やウイルスなどの異物を見つけて排除し、体を守る働きのことです。
この免疫の働きが、本来は害のない物質(アレルゲン)を「異物」「危険なもの」と誤って認識すると、それらを排除しようとして、ヒスタミンなどの化学物質を放出します。
【参考情報】『Histamine』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/24854-histamine
すると、くしゃみ、鼻水、皮膚のかゆみ、咳といった症状が現れるのです。
代表的なアレルゲンには、花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、ペットの毛やフケ、食べ物などがあります。
人によって反応する物質は異なり、特定のアレルゲンに触れたときだけ症状が出るのが特徴です。
【参考資料】『アレルギー疾患の手引』アレルギー学会
https://www.jsaweb.jp/huge/allergic_manual2022.pdf
2.アレルギーで咳が出る仕組み
アレルギーによる咳は、体に入ったアレルゲンに対して免疫が過剰に反応することで起こります。
2-1.アレルギーと気道の炎症
花粉やハウスダスト、ダニ、カビなどのアレルゲンが鼻や喉、気管支に入ると、免疫がそれらを異物と認識し、IgE抗体を介して肥満細胞などからヒスタミンをはじめとした化学物質が放出されます。
【参考情報】『Immunoglobulin E (IgE)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/ige
これらの物質により気道の血管が広がると、粘膜に炎症や腫れが起こり、分泌物も増えます。その結果、気道が刺激に敏感になり、咳が出やすい状態になります。これがアレルギー性の咳の基本的な仕組みです。
2-2.気道が過敏になると咳が長引く
炎症が続くと、気道は刺激に対して敏感な状態になります。すると、アレルゲンが直接入っていなくても、冷たい空気や強いにおい、軽い運動などのわずかな刺激で咳が出るようになります。
特に、夜間や早朝に咳が出やすい場合は、アレルギーによる気道の炎症と関係している可能性があります。
3.アレルギー性の咳が出る病気
この章では、アレルギーが原因で咳が出る代表的な病気を紹介します。
原因や症状の出方が異なるため、それぞれの特徴を理解しておくことが重要です。
3-1.喘息
気道に慢性的な炎症が起こり、咳や息苦しさ、喘鳴(ぜいめい:ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)が現れる病気です。
症状が軽い場合は、発作治療薬で落ち着きますが、重い発作では激しい咳で息がしづらくなり、呼吸が困難になることもあります。
3-2.咳喘息
喘息とよく似た病気ですが、喘鳴や息苦しさは目立たず、咳だけが長く続くのが特徴です。未治療のまま放置すると、喘息に移行することがあります。
3-3.アトピー咳嗽(がいそう)
咳の受容体が敏感になり過ぎて、わずかな刺激でも咳が出るようになる病気です。喉にイガイガ・ムズムズした不快感を覚えることもあります。
3-4.アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎では、鼻水が喉の奥に流れ落ちる「後鼻漏(こうびろう)」が起こることがあります。この後鼻漏が喉を刺激し、慢性的な咳の原因になることがあります。
【参考情報】『Postnasal Drip』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/23082-postnasal-drip
3-5.花粉症
季節性のアレルギー性鼻炎の一種で、花粉を吸い込むことで免疫反応が起こります。主な症状はくしゃみや鼻水、目のかゆみですが、鼻や喉の粘膜が刺激されることで咳が出ることもあります。
3-6.食物アレルギー
特定の食べ物に対してアレルギーが引き起こされる病気です。咳のほか、鼻水や皮膚のかゆみ、下痢などが生じることがあります。
3-7.夏型過敏性肺炎
トリコスポロンというカビ(真菌)を吸い込むことで起こるアレルギー性の肺炎です。湿気の多い日本の気候や住環境が発症のリスクになると考えられています。
3-8.加湿器肺炎
加湿器の中に発生したカビ(真菌)が放出され、それらを吸い込むことで発症するアレルギー性の肺炎です。
4.病院で行われる検査・診断
咳が長引く場合や、市販薬を使っても改善しない場合は、医療機関で原因を詳しく調べます。
アレルギー性の咳かどうかを見極めるため、複数の情報を組み合わせて診断が行われます。
4-1.問診
診断の出発点となるのが問診です。咳が始まった時期や続いている期間、乾いた咳か痰を伴う咳か、夜間や早朝に悪化するかなどを確認します。
あわせて、季節との関係、室内環境(掃除、ペット、カビの有無)、仕事や住環境の変化についても聞き取ります。
さらに、鼻水・くしゃみ・目のかゆみなどのアレルギー症状、過去の喘息やアレルギーの有無、家族歴も重要な判断材料になります。
4-2.アレルギー検査
アレルギーが関係しているかを調べるために、いくつかの検査方法があります。
代表的なのが血液検査です。アレルギーの有無や、特定のアレルゲンに反応する抗体があるかを調べる検査で、花粉、ハウスダスト、ダニ、カビ、動物など幅広い原因を確認できます。
医療機関によっては、皮膚テスト(プリックテスト、スクラッチテスト)が行われることもあります。皮膚に少量のアレルゲンを付けて反応を見る検査で、比較的短時間で結果がわかります。
【参考情報】『Allergy Testing』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/21495-allergy-testing
4-3.呼吸機能検査
喘息や咳喘息が疑われる場合には、気道の状態を調べるために、以下のような呼吸機能検査が行われます。
<スパイロメトリー>
息を大きく吸って一気に吐き出し、肺活量や1秒量(FEV1)などを測定することで、空気の通りやすさや気道の狭さを確認します。
<呼気一酸化窒素(FeNO)検査>
吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の量を調べることで、喘息をはじめとしたアレルギーによる気道の炎症を調べる目安になります。
<モストグラフ>
気道の抵抗(空気の通りにくさ)を測定する検査です。喘息やアレルギーが原因で、気道が狭くなっているかどうかを確認できます。
◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査」についてもっとくわしく>>
5.アレルギーが原因の咳の治療と対処法
アレルギーによる咳の治療は、症状を抑える薬物療法と、原因となる環境要因への対策を組み合わせて行います。
5-1.薬物療法
抗ヒスタミン薬をはじめとした抗アレルギー薬は、アレルギーの症状を引き起こすヒスタミンの働きを抑えることで、咳や鼻水などの症状を軽減します。
アトピー咳嗽やアレルギー性鼻炎が関係している場合に用いられることがあります。
喘息や喘息では、気道の炎症を抑える吸入ステロイド薬や、気道を広げる作用のある吸入薬を使用することで、咳が出にくい状態を保ちます。
症状が軽くなっても、自己判断で中止せず、医師の指示に従って継続することが重要です。
5-2.環境整備による対策
薬とあわせて、アレルゲンを減らす環境づくりも欠かせません。
室内では、こまめな掃除や換気を行い、ハウスダストやダニを減らします。寝具は定期的に洗濯し、可能であれば防ダニカバーを使用します。
花粉が原因の場合は、外出時のマスク着用や帰宅後の衣類の花粉除去が有効です。ペットやカビが関係している場合は、生活環境の見直しが必要になることもあります。
このように、薬物療法と環境対策を組み合わせることで、アレルギー性の咳はコントロールしやすくなります。
6.アレルギーの咳は市販薬で改善できるのか?
アレルギーが原因の咳は、市販薬で一時的に改善することがあります。特に、アレルギー性鼻炎や花粉症が関係している場合は、抗ヒスタミン薬を含む市販薬で症状が和らぐことがあります。
ただし、喘息や咳喘息では、市販の咳止めや抗ヒスタミン薬だけでは十分な効果が得られないことが多く、かえって改善が遅れることがあります。
また、一般的な咳止め薬は咳反射を抑える作用が中心で、アレルギーによる気道の炎症そのものを治すものではありません。そのため、薬をやめると再び咳が出ることもあります。
咳が2週間以上続く場合や、夜間・早朝に悪化する場合、息苦しさを伴う場合は、市販薬で様子を見るのではなく、医療機関を受診し、原因に合った治療を受けることが重要です。
7.おわりに
熱はないのに咳だけが続く、胸が痛むような咳が出る、2週間以上咳が止まらないなど、しつこい咳症状に悩んでいるという方は、専門医による早期の検査と治療がカギとなります。
むやみに市販薬を使用したりせず、早めに呼吸器内科を受診することをおすすめします。











