ブログカテゴリ
外来

睡眠時無呼吸症候群と血圧の関係。高血圧にご注意!

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月19日

睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に一時的に呼吸が止まってしまうことを繰り返すうちに、全身にさまざまな合併症が現れる病気です。

この病気になると高血圧になりやすく、また、高血圧と診断された人が、睡眠時無呼吸症候群を併発している場合もあります。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群と血圧の関係を解説します。いびきや昼間の眠気に悩まされている人で、肥満や生活習慣病も心配な方は、ぜひ読んでください。

1.睡眠時無呼吸症候群になりやすい人とは?

睡眠時無呼吸症候群とは、寝ている間に空気の通り道である気道が塞がってしまうことで、呼吸が妨げられる病気です。

睡眠中は、のどや舌の筋肉の緊張がゆるんで気道が狭くなります。そのため、肥満でのどに脂肪がついて狭くなっている人は、寝ている間にさらに気道が狭くなり、呼吸がしにくくなります。

やせ型や標準体型でも、下あごが小さい人はこの病気になりやすい傾向があります。

◆「睡眠時無呼吸症候群の原因」について>>

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html

◆「睡眠時無呼吸症候群の危険度チェック!」>>

2.なぜ睡眠時無呼吸症候群は恐ろしい病気なのか

睡眠中に呼吸が妨げられると、血液中に取り入れられる酸素の量が減少し、全身が低酸素状態となります。

このような状態を毎晩繰り返していると、血管に少しずつダメージが蓄積していきます。すると、高血圧、狭心症、心筋梗塞、不整脈、糖尿病、脳卒中などの病気が引き起こされる危険があります。

睡眠時無呼吸症候群は、いびきや眠気のようなわかりやすい症状だけが問題なのではありません。むしろ、生活習慣病の悪化や突然死を招く病気であることが本質だと知っておいてください。

◆「睡眠時無呼吸症候群の危険性」について>>

◆「睡眠時無呼吸症候群の合併症」について>>

また、車などを運転する人が睡眠時無呼吸症候群になると、日中の強い眠気により、最悪の場合、他人も巻き込む交通死亡事故を引き起こす危険もあります。

◆「睡眠時無呼吸症候群と運転業務の関係性」>>

3.高血圧との悪循環

まず、高血圧は心臓・血管を損傷するため、放置してしまうと心臓、腎臓、脳などの疾患リスクを高める怖い病気です。

高血圧の大きな原因は塩分の過剰摂取です。ほかにも肥満、飲酒、運動不足、ストレス、喫煙も原因になります。

高血圧の診断は、診察室での計測で、収縮期血圧(最大血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(最小血圧)が90mmHg以上で診断されます。

【参考情報】『生活習慣病とエネルギー・栄養素との関連』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586583.pdf

◆「高血圧」についてもっとくわしく>>

3-1. 睡眠時無呼吸症候群と高血圧の驚くべき合併率

最新の医学研究により、睡眠時無呼吸症候群と高血圧の関係性は想像以上に密接であることが明らかになっています。

ある研究によると、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約50%が高血圧を合併しており、逆に高血圧患者さんの約30%に睡眠時無呼吸症候群が合併していることが報告されています。

これは偶然の一致ではなく、病気同士の密接な関係を示しています。

【参考情報】『2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン』日本循環器学会
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_kasai.pdf

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の約50%は高血圧を合併』無呼吸ラボ
https://x.gd/iaPu2

【参考情報】『高血圧患者における睡眠時無呼吸』National library of medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/6149395/

3-2. メカニズムの解明

睡眠時無呼吸症候群の人は、寝ている間に止まった呼吸を再開するたびに、本人は気づかなくても、一瞬眠りから覚めています。

すると、本来は日中にはたらく交感神経が活性化され、夜間の血圧が高くなります。このように、睡眠時無呼吸症候群は無呼吸と呼吸の再開が繰り返されることで、血圧が変動してしまいます。無呼吸で酸素不足になり、体が負担を感じることでも血圧は上がります。

一般的に、血圧は朝は低く、日中で上昇し、睡眠時に下がります。しかし、睡眠時無呼吸症候群だと、夜になっても血圧が下がらずに上昇してしまうことがあります。そして夜間の血圧が高くなると、血管に負担がかかり、だんだん傷ついてもろくなっていきます。心臓にも大きな負担がかかります。

◆「睡眠時無呼吸症候群による酸素不足が招く症状とは?」>>

そのため、心筋梗塞や脳卒中、狭心症のリスクが上がったり、高血圧や糖尿病など、血管にかかわる病気が悪化しやすくなるのです。

心筋梗塞、脳卒中、狭心症などは夜間や朝に起こりやすいです。理由として、睡眠時の血圧の上昇が大きく関係していると考えられています。

◆「糖尿病の関係」について

肥満体型やメタボリックシンドロームの人は、もともと高血圧のリスクが高いです。

そこに睡眠時無呼吸症候群により、さらに血管に負担がかかると、ますます状態が悪くなっていくのです。

◆「肥満による睡眠時無呼吸症候群の改善方法」について詳しく>>

【参考情報】『Obstructive Sleep Apnea and Hypertension: A Review of the Relationship and Pathogenic Association』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7306640/

4.夜間血圧の危険性

睡眠時無呼吸症候群による高血圧で最も危険なのが、夜間の急激な血圧上昇「スリープサージ」です。

正常な人の血圧は夜間に下がるのが自然ですが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんでは、無呼吸が解除される瞬間に血圧が急激に上昇し、時には200mmHg以上に達することがあります。

この現象は「血圧サージ」や「スリープサージ」と呼ばれ、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な合併症を引き起こす直接的な要因となります。

オムロンヘルスケアと自治医科大学の共同研究では、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約28%が無呼吸時に160mmHg以上まで血圧が上昇し、中には200mmHg以上に達するケースもあることが報告されています。

◆「夜中に息苦しくて目が覚める人は、睡眠時無呼吸症候群の疑い」>>

【参考情報】『睡眠時無呼吸に伴って血圧が200mmHg以上に上昇する』オムロンヘルスケア
https://www.healthcare.omron.co.jp/corp/news/2015/0610.html

5.睡眠時無呼吸症候群と高血圧の治療

高血圧の患者さんには、降圧剤を処方して血圧を下げる治療をしますが、睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、降圧剤ではなかなかよくならない「治療抵抗性高血圧」を合併しやすいのが特徴です。

5-1. 治療抵抗性高血圧の問題

治療抵抗性高血圧とは、3種類以上の降圧剤を適切に使用しても血圧が目標値まで下がらない状態を指します。

驚くべきことに、治療抵抗性高血圧の患者さんの83%に睡眠時無呼吸症候群が合併していることが研究で明らかになっています。

高血圧と診断された人で、治療をしてもなかなかよくならない人は、睡眠時無呼吸症候群を合併していることも考えられるので、検査ができる病院で相談するといいでしょう。

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群と高血圧』運輸・交通SAS対策支援センター
https://www.sas-support.or.jp/column/hypertension/

【参考情報】『薬剤抵抗性高血圧症における認識されていない睡眠時無呼吸の有病率の高さ』National library of medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11725173/

◆「睡眠時無呼吸症候群の検査と治療」について

5-2. CPAP治療の効果

もし、睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、CPAP(シーパップ)などの医療機器を用いて、睡眠中の呼吸をサポートする治療をします。

信頼性の高い研究により、CPAP治療を続けることで確実に血圧が下がることが分かっています。

一般的な高血圧の患者さんでは、上の血圧(収縮期血圧)が平均2.6mmHg、下の血圧(拡張期血圧)が平均2.0mmHg下がります。
薬が効きにくい重い高血圧の患者さんでは、さらに大きな効果があり、上の血圧が平均6.7mmHg、下の血圧が平均5.9mmHg下がることが確認されています。

数字だけ見ると小さく感じるかもしれませんが、この効果は24時間続くため、昼間だけでなく、最も危険とされる夜間や朝方の血圧も下げてくれるのです。

夜間や早朝の血圧が高いと、心筋梗塞や脳卒中が起こりやすくなりますが、CPAP治療はこの危険な時間帯の血圧もしっかりと改善してくれるため、命に関わる病気の予防効果が期待できます。

◆「CPAP」とは?

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf

5-3. 生活習慣の改善

治療抵抗性高血圧の場合、薬の効き目は期待できないため、食事や運動をはじめとした日常生活の改善により、少しずつ血圧を下げていくことになります。

食事では、「塩分は控えめ」「野菜を積極的に摂る」ことを意識して、お酒はほどほどにすることが大切です。

◆「睡眠時無呼吸症候群を予防する対策と生活習慣」>>

◆「当院の栄養カウンセリングについて」>>

また、適度な運動を続けること、睡眠・休養を十分にとること、タバコを吸っている人は禁煙するのも有効です。

降圧剤が効いている人も、食事や運動、睡眠の改善は血圧を下げるために役立つので、できることから少しずつ始めてみましょう。

6.おわりに


いびきや日中の眠気、寝起きの頭痛など、睡眠時無呼吸症候群のサインに気づいたら、ぜひ検査を受けてください。

早めに治療を開始すれば、血管へのダメージが減るので、高血圧の悪化や心筋梗塞などの病気を防ぐことができます。

また、昼間の眠気や倦怠感が減ると、仕事や生活にも良い影響が出てきます。すると、ストレスが緩和されるので、血圧もコントロールしやすくなります。

◆「当院の睡眠時無呼吸症候群の治療について」>>

電話番号のご案内
電話番号のご案内
横浜市南区六ツ川1-81 FHCビル2階