糖尿病とコロナの関係とは?重症化を防ぐために知っておきたいこと

慢性の呼吸器疾患や心疾患などの基礎疾患がある人は、新型コロナウイルス感染症にかかると重症化しやすいと言われています。
そして、糖尿病も基礎疾患の一つであるため、患者さんは感染に十分注意する必要があります。
この記事では、糖尿病とコロナの関係や感染のリスクなどを説明します。感染を防ぐ対策も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
1.糖尿病とは
糖尿病とは、食後に上昇した血糖(血液中のブドウ糖)を下げるホルモンであるインスリンが「不足する」または「十分に作用しない」ことによって、血糖値が高いまま維持されてしまう病気です。
高血糖状態が長く続くと、血管・神経・臓器を傷つける合併症リスクが高まるため、早期に気づき、適切に管理することが重要です。
1-1.糖尿病の種類
・1型糖尿病:免疫が自分の体の細胞を攻撃してしまい、すい臓のβ(ベータ)細胞というインスリンを作る細胞が壊れてしまうタイプです。
そのため、インスリンがほとんど作れなくなります。発症する年齢は決まっておらず、子どもでも大人でもかかることがあります。
・2型糖尿病:インスリンの分泌が少なくなったり、インスリンがうまく働かなくなったりすることで、血糖が下がりにくくなるタイプです。
日本で最も多く見られ、食事や運動などの生活習慣や、もともとの体質が関係しています。
・その他の型・妊娠糖尿病:特定の病気や薬の影響、または遺伝子の変化が原因で起こるタイプもあります。また、妊娠中に初めて血糖値が高くなる方もいます。
原因や治療の方法はそれぞれ違うため、医師による診断と治療が大切です。
1-2.合併症と感染症リスク
糖尿病によって血糖値が高い状態が続くと、血管が少しずつ傷ついてしまい、動脈硬化が進行します。
その結果、心筋梗塞や脳卒中などの合併症を起こしやすくなってしまいます。
また、神経・腎臓・目(網膜)などの大切な臓器にも障害を起こすことがあり、放置したままでいると心臓の病気や失明、腎臓の働きが悪くなる腎不全、足の血管や神経の障害による切断など、さまざまな合併症を引き起こすおそれがあります。
さらに、高血糖は免疫の働きを弱めるため、肺炎や皮膚の感染症などにかかりやすく、治りにくくなることがあります。
2.新型コロナウイルス感染症とは
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、主に呼吸器に影響を及ぼす感染症です。
軽症で済むことも多い一方で、高齢者や基礎疾患をもつ方では重症化のリスクが高く、長期的な症状(後遺症)にも注意が必要です。
2-1.主な症状と感染経路
主な症状は、発熱・咳・喉の痛み・鼻水・倦怠感(けんたいかん)・味覚嗅覚の異常などです。
感染経路は、飛沫感染・接触感染・エアロゾル(空気中の細かい粒子)感染の3つが中心です。感染者の咳やくしゃみ、会話時の飛沫などを通じて広がります。
感染しても症状が軽い人もいれば、重い肺炎や呼吸不全を起こす人もいます。基礎疾患がある方は早めの受診と経過観察が重要です。
2-2.重症化しやすい人の特徴
糖尿病、高血圧、心疾患、慢性呼吸器疾患、肥満、免疫抑制状態(がん治療やステロイド使用中など)を持つ方は重症化リスクが高いとされています。
特に糖尿病のある方は、感染時に血糖が上がりやすく免疫機能も低下しやすいため、肺炎や呼吸不全などを合併しやすいことが知られています。
また、高齢者では肺機能や免疫応答が低下しているため、入院や酸素投与が必要になるケースもあります。
2-3.治療と回復の経過
軽症では、解熱剤・咳止めなどによる対症療法(症状を和らげる治療)が中心です。
その上で、重症化するリスクのある人や、中等症・重症の患者さんには、モルヌピラビル(ラゲブリオ)などの抗ウイルス薬が使われることがあります。
コロナにかかった後に、咳や倦怠感などの後遺症が現れることもあります。後遺症も時間の経過とともに改善していくことが多いのですが、症状がつらい場合は対症療法を行います。
多くは数週間から数カ月で軽快しますが、長期にわたるケースも報告されています。
◆新型コロナウイルス感染症治療薬「ラゲブリオ」の特徴と効果、副作用>>
◆新型コロナウイルス感染症治療薬「ゾコーバ」の特徴と効果、副作用>>
◆新型コロナウイルス感染症治療薬「パキロビッド」の特徴と効果、副作用>>
【参考情報】『新型コロナウイルス感染症の罹患後症状(いわゆる後遺症)に関するQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kouisyou_qa.html
3.糖尿病とコロナの関係
糖尿病がある人は、新型コロナウイルスに感染したときに重症化しやすいことが分かっています。
これは、血糖値が高い状態が続くことで体の免疫が弱くなり、ウイルスと戦う力が落ちてしまうためです。
ここでは、糖尿病とコロナの関係について、3つの視点から説明します。
3-1.糖尿病だとコロナに感染しやすいのか
糖尿病の患者さんがコロナに感染しやすいというデータは、今のところありません。
アメリカや中国の研究では、コロナ患者における糖尿病の人の割合と、国全体の糖尿病の人の割合は大きく変わらないと報告されています。
しかし、糖尿病の人は、感染した場合に重症化しやすいことが分かっています。
そのため、「感染しやすさ」よりも「感染した後の危険性」が高いということが重要です。
また、血糖値が安定していない人ほど、免疫の働きが弱くなるため、日ごろから血糖コントロールを意識することが大切です。
【参考情報】『今、糖尿病とともに生きる人へ』糖尿病協会
https://www.nittokyo.or.jp/modules/patient/index.php?content_id=90
3-2.糖尿病だとコロナが重症化しやすいのか
糖尿病の患者さんは、コロナ重症化のリスクが高いことがわかっています。
私たちの体は、ウイルスに感染して炎症が起こると、サイトカイン(タンパク質の一種:細菌やウイルスが体内に侵入した際、他の細胞に指示を出して体を守る)などを分泌してウイルスと戦います。その影響で、血糖値が上昇します。
このような場合、健康な人であれば、血糖値が上昇してもインスリンが分泌されるので、自然と血糖値は下がります。しかし、糖尿病の人は血糖値が下がらずに、高血糖の状態が続いてしまいます。
高血糖の状態が続くと免疫のはたらきが低下し、ウイルスに対する抵抗力が弱まるため、重症化しやすくなります。また、血流も悪化するため、治療の効果が出にくくなります。
ただし、血糖値を適切にコントロールすることで、コロナの重症化リスクを下げることはできます。そのため、日頃から血糖値をしっかりと管理し、正常範囲に近づけておくことが重要です。
3-3.コロナ患者が糖尿病を発症するリスク
これまで糖尿病ではなかった人も、コロナにかかった後、糖尿病を発症するリスクが増加するという報告があります。このリスクは、コロナが重症化して入院治療を行った人ほど高くなります。
これは、コロナウイルスが体の中で「インスリンを作る細胞」に影響を与えることが原因のひとつと考えられています。
【参考情報】『Risks and burdens of incident diabetes in long COVID』The Lancet
https://www.thelancet.com/journals/landia/article/PIIS2213-8587(22)00044-4/fulltext
また、子どもに関しては、コロナに感染すると1型糖尿病になりやすくなるという報告もあります。
【参考情報】『Progression From Presymptomatic to Clinical Type 1 Diabetes After COVID-19 Infection』JAMA
https://jamanetwork.com/journals/jama/article-abstract/2821151
ただし、すべての人に起こるわけではなく、ワクチン接種をしていた人ではリスクが下がるという研究結果もあります。
つまり、コロナにかかったあとは、血糖値をチェックするなど、体の変化を早めに確認することが大切なのです。
倦怠感やのどの渇き、トイレの回数が増えるなどの症状が続く場合は、医師に相談しましょう。
4.糖尿病患者が行うべきコロナ予防策
糖尿病の人は、コロナにかかったときに重症化しやすいので、感染をできるだけ防ぐことが大切です。
また、感染しても軽くすむように、日ごろから体の調子を整えておくことがポイントです。以下、対策について説明します。
4-1.基本の感染予防対策
コロナウイルスは、感染している人のくしゃみや咳などの飛沫や、エアロゾル(空気中に浮いている小さな粒:粒の中にウイルスや細菌が含まれていることがある)で感染します。
また、ドアノブや手すりなどに付着したウイルスに触れた後、自分の鼻や口に触れることで、ウイルスが体内に入り込むこともあります。
ウイルスの感染を防ぐには、手洗いやうがい、マスク着用などの基本的な対策をしっかりと行いましょう。
また、コロナが流行している時期は人混みを避けるなどして、感染リスクを下げることも大切です。
感染を防ぐために、次のような基本の対策をしっかり行いましょう。
・外から帰ったら、石けんで20秒以上の手洗い
・混み合った場所ではマスクを正しく着ける
・部屋の換気をこまめに行う(窓を開けて空気を入れ替える)
・外出先では、できるだけ人との距離をとる
・手で顔をさわらないように意識する
また、体調が悪いときは無理をせず、外出や仕事を休みましょう。
体が疲れていると免疫の力が弱まり、感染しやすくなるためです。
4-2.生活習慣を整える
暴飲暴食や寝不足などの生活習慣の乱れは、糖尿病の症状を悪化させます。そのため、日頃から生活習慣を整えておくことが大切です。
糖尿病は、悪化しても自覚症状が少ないため気づかない人が多いです。しかし、免疫のはたらきが低下することで、感染症に対する抵抗力が弱まるため、重症化のリスクが高くなってきます。
ただし、極端な食事制限や運動は続けるのが難しいことがあります。無理をせず、毎日少しずつ続けることが大切です。
毎日の習慣を整えることが、コロナを含めた感染症の予防にもつながります。
・食事はバランスよく、よく噛んでゆっくり食べる
炭水化物や脂っこい食事が多いと血糖が上がりやすくなります。
・軽い運動を続ける
たとえば「1日20~30分のウォーキング」や「軽いストレッチ」など。
体を動かすことで血糖が下がりやすくなります。
・睡眠をしっかりとる
寝不足が続くと、血糖値が上がりやすくなり、免疫の働きも低下します。
・ストレスをためない
ストレスが続くとホルモンのバランスが崩れ、血糖が上がることがあります。リラックスできる時間を持ちましょう。
生活のリズムを整えることは、薬や治療と同じくらい大切です。
4-3.血糖コントロール
糖尿病になっても、血糖コントロールで血糖値を適切な範囲に保つことができれば、コロナの重症化リスクを最小限に抑えることができます。
血糖値は、基本的には食事や運動によって下げていきますが、内服薬やインスリン注射を用いることもあります。
血糖コントロールの方法は、糖尿病の種類や程度などによって、一人一人異なります。医師と相談しながら、適切な治療を続けていきましょう。
◆糖尿病の方でも血糖値に影響が出にくい間食“8つ”のルール>>
4-4.コロナワクチン接種
糖尿病患者のコロナ重症化リスクは、コロナワクチンの接種で予防できます。また、完全に防げるわけではありませんが、発症を予防する効果も期待できます。
ワクチン接種後、重症化予防の効果は徐々に低下するので、定期的に接種を受けましょう。
【参考情報】『新型コロナワクチンQ&A』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_qa.html
5.おわりに
糖尿病の患者さんは、コロナに感染すると重症化するリスクが高いことがわかっています。
しかし、血糖コントロールやワクチン接種などで、リスクを減らすことは可能です。
ワクチン接種の際はかかりつけ、または、お近くのクリニックにご相談ください。
さらに、日常生活での感染対策や健康的な食事、適度な運動を心がけ、感染症のリスクを最小限に抑えましょう。
もしコロナに感染しても慌てないよう、定期的な検査で体調もチェックしておくと、さらに安心です。
血糖をしっかり管理し、医師の指示にしたがって治療を続けることが大切です。
また、体調が落ち着いたあとも、倦怠感や息苦しさなどが残る場合は、無理をせずに受診してください。










