肺炎は人にうつる?うつらない?
肺炎は、人に感染するものとしないものがあります。細菌やウイルスが原因の肺炎は人にうつりますが、アレルギーや誤嚥(ごえん)などが原因の肺炎は、人にはうつりません。
この記事では、肺炎がどのように感染するのか、感染経路や原因となる病原体についてくわしく解説します。正しい知識を身につけ、肺炎の予防や治療に役立てましょう。
目次
1.肺炎とはどんな病気か
肺炎は、肺に炎症が生じる病気です。主な症状としては発熱、咳、息苦しさ、胸の痛みがありますが、高齢者の場合、典型的な症状が現れにくいことがあります。
肺炎の原因として最も多いのは細菌やウイルスなどの病原体ですが、アレルギーや薬の副作用など、病原体以外の原因で発症することもあります。
2.人にうつる肺炎
この章では、人から人へ感染する肺炎を紹介します。
2-1.細菌性肺炎
細菌性肺炎は、細菌感染によって引き起こされる肺炎です。
<主な原因菌>
・肺炎球菌
・インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは別の細菌)
成人の肺炎で最も多い原因菌は肺炎球菌です。特に乳幼児や高齢者は重症化しやすいため、乳幼児および65歳以上の高齢者には予防接種が推奨されています。
症状は急に現れ、高熱(38~40℃)が出ることが多いです。痰は黄色や緑色の膿のようなものが多く、量も増えます。
2-2.ウイルス性肺炎
呼吸器感染症などを引き起こすウイルスに感染して発症する肺炎です。
<原因となる主なウイルス>
・インフルエンザウイルス
・新型コロナウイルス
・RSウイルス
・アデノウイルス
・ヒトメタニューモウイルス
ウイルス性肺炎の重症度は原因となるウイルスによって異なります。例えば、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスは重症化することが多く、特に高齢者や免疫力が低下している人では危険性が高くなります。
一方、RSウイルスやアデノウイルスは比較的軽症で治ることが多いものの、乳幼児や高齢者では重症化することもあります。
また、ウイルス性肺炎は、個々の健康状態や免疫の反応にも影響されるため、同じウイルスに感染しても、症状の重さには個人差が生じます。
2-3.非定型肺炎
非定型肺炎は、一般的な細菌とは異なる病原体によって引き起こされる肺炎の総称です。
<マイコプラズマ肺炎>
マイコプラズマ・ニューモニエという細菌によって引き起こされる呼吸器感染症です熱は37~38℃程度で、痰の絡まない乾いた咳が長く続きます。
◆「マイコプラズマ肺炎」についてくわしく>>
<クラミジア肺炎>
クラミジア・ニューモニエという病原体によって引き起こされる呼吸器感染症です。初期症状は風邪と似ていますが、咳が長引きます。
【参考情報】『クラミジア肺炎』感染症情報提供サイト|国立健康危機管理研究機構
https://id-info.jihs.go.jp/diseases/ka/chlamydia/010/chlamydia-intro.html
次の章で紹介するレジオネラ肺炎も非定型肺炎に分類されますが、レジオネラ肺炎は人から人へは感染しません。
3.人にうつらない肺炎
この章では、人にはうつらない肺炎について説明します。
3-1.レジオネラ肺炎
レジオネラ菌が原因で発症する肺炎で、特に高齢者や免疫力が低下している人に多く見られます。
感染すると、高熱(39〜40℃)、激しい咳、呼吸困難、胸の痛み、下痢、筋肉痛などの症状が現れます。
レジオネラ肺炎は、汚染された水(シャワー、浴槽など)を含むエアロゾルを吸い込むことで感染します。人から人へは感染しません。
レジオネラ肺炎は重症化しやすく、意識障害や多臓器不全を引き起こすこともあります。早期に適切な治療を受けないと命に関わることがあります。
【参考情報】『Legionnaires’ disease』Mayo Clinnic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/legionnaires-disease/symptoms-causes/syc-20351747
3-2.過敏性肺炎
カビやホコリ、化学物質などのアレルゲンを吸い込むことで、肺に炎症が起こる病気です。
アレルゲンを繰り返し吸入すると、肺の奥にある肺胞や細気管支でアレルギー反応が発生し、咳や発熱、息苦しさなどの症状が現れます。
原因となる物質を長期間にわたって吸入し続けると、炎症が慢性化し、肺胞が硬くなって呼吸機能が低下することがあります。
3-3.肺真菌症
真菌(カビ)が肺に感染して発症する病気です。原因となるカビには、アスペルギルス、クリプトコッカス、カンジダなどがあります。
主な症状は咳、痰、発熱、息苦しさなどがあり、進行すると呼吸困難を引き起こすこともあります。
カビは日常生活の中に広く存在しますが、健康な人にはほとんど影響を与えません。しかし、免疫力が低下している人、肺結核の既往歴がある人、肺の持病がある人は感染しやすく、重症化することもあります。
3-4.薬剤性肺炎
抗がん剤、抗生物質、抗リウマチ薬、血圧の薬などが原因となって起こる肺炎です。薬へのアレルギー反応や、肺の細胞がダメージを受けることで発症します。
症状は発熱、咳、息苦しさ、倦怠感などで、服用開始から数日~数ヶ月後に現れることがあります。重症化すると呼吸困難を引き起こし、命に関わることもあります。
3-5.放射線肺炎
がん治療の放射線治療によって肺に炎症が起こる病気です。放射線の影響で肺の組織が傷つき、主に間質部分に炎症が起こります。その後、繊維化が進み、呼吸器症状を引き起こすことがあります。
放射線治療を受けてから6ヶ月以内に発症しやすく、肺がん、食道がん、乳がんなど、胸部周囲のがんを治療する際に多く見られます。症状はゆっくり進行することが多く、軽症の場合は無症状のこともあります。
【参考情報】『放射線肺炎』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/d/d-02.html
3-6.誤嚥性肺炎
食べ物や飲み物が誤って肺に入ること(誤嚥:ごえん)で引き起こされる肺炎です。嚥下機能が低下した高齢者や認知症のある人に多く見られます。
食べ物や飲み物が肺に入ると、それらに付いている細菌やウイルスも一緒に入って感染し、炎症を引き起こします。
主な症状は、発熱や痰が絡んだ咳などです。痰は粘り気があり、吐き出す力が弱い人は喉に溜まりやすいです。
3-7.間質性肺炎
通常の肺炎は、肺胞(肺の中にある小さな袋のような部分)に炎症が起きますが、間質性肺炎では肺胞の壁である間質に炎症が生じます。
炎症が続くと、次第に肺胞の壁が硬くなり、肺胞が膨らみにくくなります。その結果、呼吸困難などの呼吸器症状が現れます。
また、呼吸器感染症などが引き金となり、急性増悪(急激な症状悪化)が起こることもあるため、注意が必要です。
4.肺炎を疑う場合の受診の目安
肺炎は放置すると重症化し、命に関わることがあります。肺炎が疑われる場合は、すぐに病院を受診し、治療を受けることが大切です。
例えば、38℃以上の発熱が続いたり、解熱剤を使っても熱が下がらない場合は、ただの風邪ではなく、肺で強い炎症が起きている可能性があります。
また、咳が長引いたり、黄色や緑色の痰が出る症状が2週間以上続くなら、肺炎をはじめとした呼吸器の病気が原因だと考えられます。
肺炎が進行すると、息苦しさが強くなったり、呼吸が浅くなったりします。もし血中酸素飽和度が95%以下であれば、すぐに病院を受診してください。酸素不足が続くと命に関わるため、早期の治療が重要です。
特に高齢者や基礎疾患がある人は、症状が急に悪化することがあるので、軽い症状でも重症化のリスクを考え、早めに受診しましょう。
5.肺炎の検査
肺炎を診断するためには、以下のような検査が行われます。
必要に応じて、複数の検査を組み合わせて、肺炎の種類や重症度を判断します。
5-1.画像検査
X線(レントゲン)やCTを使って、肺の状態を確認する検査です。
レントゲンは、患者さんへの負担が少ない検査です。炎症がある部分は白く映り、肺の炎症の範囲や影を確認できます。
CTは、レントゲンよりも詳細な画像が得られます。肺炎の種類を特定したり、肺炎に似た他の病気と区別するのに役立ちます。
5-2.血液検査
血液を採取して、炎症の程度や原因を調べます。主に、白血球数やCRP(C反応性タンパク質)を確認します。
白血球数は、細菌性肺炎で増加し、ウイルス性肺炎ではリンパ球が増える傾向にあります。
CRPは細菌性肺炎で高くなることが多いです。ただし、非定型肺炎の場合は、白血球やCRPの上昇が少ないため、画像検査をはじめとした他の検査と合わせて診断を行います。
肺炎が重症化している場合は、血液ガスを測定して血液中の酸素濃度を確認します。これにより、酸素投与や人工呼吸器が必要かどうかを判断します。
5-3.その他の検査
肺炎の原因を特定するために、喀痰検査や尿検査を行うことがあります。
喀痰検査では、痰を採取し、その中に含まれる細菌、ウイルス、真菌などの病原体を調べます。
【参考情報】『喀痰細胞診』日本予防医学協会
https://www.jpm1960.org/jushinsya/exam/exam14.html
尿検査では、肺炎の原因となる肺炎球菌やレジオネラ菌を特定することができます。
病原体を特定できれば、適切な抗菌薬を選ぶのに役立ちます。
6.肺炎の治療
肺炎は、原因となる病原体によって治療法が異なります。
この章では、肺炎の治療方法について説明します。
6-1.抗菌薬・抗ウイルス薬
細菌性肺炎の場合は、原因菌がわかれば、その原因に合った抗菌薬を投与します。
ウイルス性肺炎では、インフルエンザや新型コロナウイルスが原因であれば、それらに効果がある抗ウイルス薬を用います。
◆「新型コロナウイルス感染症治療薬・ラゲブリオの特徴と効果、副作用」>>
それ以外のウイルスによる肺炎は、対症療法を行いながら、感染が治まるのを待つ必要があります。
6-2.対症療法
咳や痰など、つらい症状に合った薬を使用して、症状を軽減するための治療法です。
<解熱剤>
高熱が続くと体力が消耗し、回復が遅れることがあります。熱がつらい時には解熱薬を使用して、体力の消耗を防ぎます。
特に乳幼児や高齢者、持病がある人は重症化しやすいため、解熱剤を適切に使用することが大切です。
<鎮咳薬(咳止め薬)>
咳や痰が長引くと体力を消耗します。また、咳は筋肉や関節にも負担をかけ、痛みを引き起こすことがあるので、鎮咳薬で咳を和らげることがあります。
◆「咳止め薬・メジコンの特徴と効果、副作用」>>
<去痰薬>
痰が多いと気道が塞がり、呼吸困難を引き起こしやすくなります。また、痰をうまく排出できない場合、症状が悪化することもあるので、去痰薬で痰の排出を促します。
6-3.酸素投与
肺炎が進行すると、肺でのガス交換が十分に行われず、体内の酸素が不足することがあるため、血中酸素飽和度(SpO2)が90%以下になると、酸素投与を開始します。
さらに詳細に調べる場合は、動脈血を採取し、血液ガス分析で動脈血酸素分圧(PaO2)を測定します。PaO2が60mmHg以下の場合も酸素投与が必要となります。
酸素投与は、まずは鼻カニューレやマスクを使って行い、徐々に酸素濃度を調整します。改善が見られない場合は、人工呼吸器が必要になることもあります。
7.おわりに
肺炎には、人にうつるものとうつらないものがあります。人から人へと感染することがある肺炎は、感染拡大を防ぐためにも早期の治療が大切です。
また、予防接種や手洗い、マスクの着用で、感染のリスクを減らしていきましょう。
人にはうつらない肺炎も、重症化すると命に関わることもあるので、咳や発熱などの症状が長引く場合は、病院を受診して診断を受けましょう