タバコで咳が出る理由と、咳が長引くときに疑われる3つの病気

タバコを吸うと、ゴホゴホと咳き込んでしまったり、しょっちゅう咳が出ることはありませんか?
自分が吸わなくても、家族や職場の人がタバコを吸っているため、流れてくる煙にむせてしまい、困っている人もいるのではないでしょうか。
この記事では、タバコにより咳が出る原因と、タバコを吸う人の咳が長引いているときに疑われる3つの病気を紹介します。タバコを吸う習慣のある人と、周囲に喫煙者がいて咳が続いている人は、ぜひ読んでください。
目次
1. なぜタバコを吸うと咳が出るのか
タバコの煙には、ニコチン、タール、一酸化炭素をはじめとした数千種類以上の化学物質が含まれるといわれています。
タバコを吸うと、これらの化学物質や、目に見えないほど小さなゴミのかけらにのどや気管支が刺激され、咳が出やすくなります。
また、咳は強いにおいに誘発されて出ることもあるため、タバコの香りが刺激となって、咳が出ることもあります。
【参考情報】『たばこの煙と受動喫煙』健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-05-004
2. 一時的な咳と慢性的な咳の違い
タバコの煙以外にも、花火や蚊取り線香、バーベキューの煙を吸ったときに、のどや気管支が刺激され、咳が出ることがあります。このような咳は、刺激となる煙を避ければ止まります。
また、風邪やインフルエンザなどの呼吸器疾患で咳が出ることもありますが、病気が治れば咳は止まります。
しかし、タバコを吸う習慣のある人が、2週間以上咳が続いているときは、タバコに含まれている有害物質に刺激され、喘息の発作が誘発された可能性があります。
さらに、咳が8週間以上続いているときは「慢性の咳」と診断され、喘息のほかCOPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺がんなどの病気を疑います。
このとき、咳と一緒に出る痰の色や状態は、気道の健康状態を知る重要な手がかりです。
<痰の色と気道状態>
・透明・白色の痰:慢性的な気道刺激の初期段階
・黄色・緑色の痰:細菌感染の可能性(気管支炎や肺炎の疑い)
・赤色・褐色の痰:出血の可能性があり、肺がんや結核なども疑われるため緊急受診が必要
特に血が混じった痰(血痰)が出る場合は、重大な病気の可能性が高いため、速やかに呼吸器内科を受診しましょう。
◆「咳が止まらない時に心配な病気の症状・検査・治療の基本情報」>>
【参考情報】『呼吸器Q&A』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/q06.html
【参考情報】『症状の変化と健康管理』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11300000-Roudoukijunkyokuanzeneiseibu/0000190304.pdf
3. タバコで咳が続くときに疑われる3つの病気
長い間タバコを吸い続けていると、気管支や気道、肺が刺激を受け続け、次第に傷ついていきます。すると、アレルギーを発症しやすくなりますし、呼吸器の機能が低下して病気にかかりやすくなります。
3-1.喘息
喘息とは、気道が慢性的に炎症を起こして狭くなり、呼吸がしにくくなる病気です。咳や息切れ、呼吸困難などの症状があり、最悪の場合、死に至る発作を起こすことがあります。
喘息の多くはアレルギー性疾患に分類されますが、特定のアレルゲンが証明できるかどうかで病型が分けられます。タバコの煙は、喘息の病型に関わらず症状を悪化させる重要な誘因となります。タバコの煙はアレルギーを引き起こす誘因となります。
タバコが喘息を悪化させる理由は以下の3つです。
・気道炎症の悪化:タバコの煙に含まれる化学物質が刺激となり、すでに敏感になっている気道の炎症をさらに悪化させます
・アレルギー反応の増強:喫煙が全身の免疫系に作用し、アレルゲン吸入時のアレルギー反応がより強く起こるようになります
・気道過敏性の亢進:喫煙によって気道がさらに敏感になり、わずかな刺激でも喘息発作が起こりやすくなるという悪循環が生じます
喘息は完治が難しい病気で、主な治療としては、気道の炎症を抑えて発作を防ぐ薬を毎日服用し、喘息をコントロールし続ける必要があります。
また、発作が起きてしまった時に発作を鎮めるための薬も使われます。
なお、喫煙により喘息治療の基本となる吸入ステロイド薬の効果が低下することが研究で示されています。薬を使っているのに症状が改善しない場合、喫煙がその原因かもしれません。
◆「喘息の人がタバコを吸うと、なぜ症状が悪化するのか」について詳しく>>
【参考情報】『喫煙と成人喘息,COPD』J-Stage
https://www.jstage.jst.go.jp/article/arerugi/64/8/64_1127/_pdf
3-2.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは、長期にわたって有害物質を吸い込むことによって、気道や肺などの呼吸器に障害が生じる病気です。代表的な症状は息切れで、特に階段や坂道の上り下りが苦しくなります。
COPDの主な原因は、長年の喫煙習慣です。そのため、COPDは「肺の生活習慣病」とも呼ばれています。放っておくと、呼吸困難で寝たきりになったり、肺炎や肺がんを引き起こすことがあります。
日本呼吸器学会によると、喫煙者の15~20%がCOPDを発症するとされています。
タバコの煙を吸い込むことによって肺の中の気管支に炎症が起こり、気管支が細くなることで空気を取り込みにくくなるため、咳、痰、息苦しさなどの症状が見られます。
さらに症状が進行すると、酸素と二酸化炭素の交換を行う肺胞が破壊され、治療をしても元に戻ることはありません。
COPDの治療は第一に禁煙ですが、狭くなった気管支を広げ呼吸を楽にする気管支拡張薬を使った治療が主に行われます。
◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>
◆「咳が止まらない…喘息と間違いやすい病気」について詳しく>>
【参考情報】『慢性閉塞性肺疾患(COPD)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/b/b-01.html
3-3.肺がん
肺がんにはいくつか種類がありますが、特に小細胞肺がんと肺扁平上皮がんは、喫煙との関連が強いとされています。男性の小細胞肺がんの原因は、ほぼ100%タバコであると言われています。
肺がんは、初期には自覚症状がないことが多いのですが、タバコが強く関係している小細胞肺がんや肺扁平上皮がんでは、咳や痰、血痰などの症状が比較的出やすいとされています。
国立がん研究センターのデータによると、喫煙者は非喫煙者と比べて男性で4.5倍、女性では4.2倍肺がんになりやすいとされています。
また、タバコには約70種類の発がん物質が含まれており、肺がんだけでなく、さまざまながんのリスクを確実に高めます。
禁煙を始めてから10年後には、禁煙しなかった場合と比べて肺がんのリスクを約半分に減らせることが分かっています。
しかし、完全に非喫煙者レベルまでリスクが下がるには、禁煙後10~15年かかるとされています。
肺がんの治療法には、手術、放射線治療、薬物療法があり、肺がんの種類や進行度などを踏まえ、治療法を決定します。
◆「40歳以上と喫煙者は知っておきたい!肺がんの症状・検査・治療の基礎知識」>>
【参考情報】『たばこと肺がんとの関係について』国立がん研究センター
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/254.html
4. 受動喫煙による咳
タバコを吸う人だけではなく、家族や周囲の人も、喫煙者のタバコから立ち上る煙を吸い込んで、咳が出ることがあります。特に乳幼児は、大人より気道の粘膜が未熟で弱いため、わずかな刺激にも敏感に反応して咳き込みます。
さらに、タバコに含まれる化学物質は、火を消した後でも髪の毛や衣類、壁などに付着して、においや有害物質を放出し続けています。これらの残留物質を「サードハンド・スモーク(三次喫煙)」といいます。
【参考情報】『三次喫煙(サードハンド・スモーク)』健康日本21アクション支援システム(厚生労働省)
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/tobacco/yt-057
サードハンド・スモークは、火を使わない加熱式タバコでも発生し、アレルギーや喘息を引き起こす原因になると考えられています。特に、室内で過ごす時間が長い乳幼児への影響が懸念されています。
厚生労働省の研究によると、受動喫煙による年間死亡数は推計約1万5,000人とされています。受動喫煙による健康リスクは以下の通りです。
・肺がんのリスク:1.28倍(28%の上昇)
・虚血性心疾患のリスク:1.3倍(30%の上昇)
・脳卒中のリスク:1.24倍(24%の上昇)
呼吸器症状への影響も深刻で、家庭や職場で受動喫煙にさらされると咳が2.6〜3.8倍増加 し、痰が1.4〜4.5倍増加、息切れが1.4~4.5倍増加 、気管支喘息が1.4~1.6倍増加 、慢性気管支炎が1.7~5.6倍増加すると言われています。
また、副流煙(タバコの先端から立ち上る煙)は、喫煙者が直接吸い込む主流煙よりも有害で、ニコチンが2.8倍、タールが3.4倍、一酸化炭素が4.7倍も多く含まれています。
◆「血痰が気になりますか?呼吸器内科で原因を調べましょう」>>
【参考情報】『日本では受動喫煙が原因で年間1万5千人が死亡』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000130674.pdf
【参考情報】『受動喫煙 – 他人の喫煙の影響』厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/tobacco/t-02-005
【参考情報】『禁煙のすすめ』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/nosmoking/think/secondhand_smoke.html
5. 禁煙のメリットと難しさ
呼吸器疾患以外にも、喫煙によってリスクが高まる病気はいろいろありますが、早めに禁煙すれば、病気の発症や進行を防ぐことができます。
しかし、タバコには強い中毒性があるため、意志の力だけではなかなか禁煙できないのが実情です。命にかかわる病気になっても、タバコがやめられない人もいます。
タバコがやめられないのは「ニコチン依存症」という病気だからであって、その人の我慢や努力が足りないせいではありません。
【参考情報】『Nicotine dependence』CAMH(Centre for Addiction and Mental Health)
https://www.camh.ca/en/health-info/mental-illness-and-addiction-index/nicotine-dependence
禁煙にチャレンジしたい人は、自分ひとりで克服しようとせず、ぜひ禁煙外来を受診して適切な治療を受けてください。
禁煙を始めると、身体に驚くほどのメリットがあります。
・禁煙24時間後:心臓発作の可能性が低くなる
・1ヶ月後~:咳や喘鳴が改善し、気道の自浄作用が改善するため免疫機能が回復する
・1年後:肺機能が改善し、冠動脈性心疾患のリスクが喫煙者の約半分に低下
・5年後:脳梗塞や肺がんの可能性が明らかに低下
・10~15年後:様々な病気にかかるリスクが非喫煙者のレベルまで近づく
このようなリスクが下がるだけではなく、「睡眠の質がよくなる」「口臭が改善する」「肌のハリ・ツヤがよくなる」など、さまざまなメリットがあります。
先述したように、禁煙は簡単な事ではありませんが、大きなメリットがあるので、ぜひ実施してください。
6. おわりに
タバコを吸っている人は、咳が出ても「よくあること」だと思い、のど飴をなめたり市販薬を用いたりすることで不快感を減らそうとします。
しかし、タバコによって誘発された病気により咳が出ているのなら、市販薬では治りませんし、病院への受診を延ばしていることで、病気が進行する恐れもあります。
2週間以上咳が続いているときは、一度呼吸器内科を受診して、咳の原因を調べてみましょう。呼吸器内科では禁煙外来を設けていることも多いので、ついでに禁煙の相談をするのもおすすめです。














