アスピリン喘息とは何か?

「アスピリン喘息」という病名を聞いたことがありますか?
薬が影響する喘息の中でも特に注意すべきなのが、アスピリンという薬剤をはじめとした消炎鎮痛剤が原因となって起こる喘息です。
消炎鎮痛剤というのは、一般的に「解熱剤」や「鎮痛剤」、「痛み止め」などといわれており、ドラッグストアなどでも比較的簡単に手に入れることができる薬剤です。
また、熱を下げたり喉の痛みを緩和する目的で、市販の風邪薬の中にもこれらの成分が入っていることもあります。
これらの消炎鎮痛剤は痛みや発熱などの症状を緩和するにはとても便利ですが、そんな解熱鎮痛剤によって喘息発作が誘発される可能性があることも知っておかねばなりません。
そこでこの記事では、消炎鎮痛剤、特にアスピリンに関連する喘息についてお伝えします。
目次
1.アスピリン喘息に関する基本知識
「アスピリン喘息」とは、アスピリンまたはアスピリンのグループに属する解熱鎮痛薬を服用した際に喘息症状が現れるものです。
アスピリン喘息は成人喘息の約5~10%に見られる疾患で、特に20~40代の女性に多く発症します。男性と比較すると約2倍の頻度で女性に発症するという特徴があります。
1-1.アスピリンとは?
アスピリンとは解熱鎮痛作用を持つ薬のことで非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs:エヌセイズ)の1つです。
アスピリンは市販薬ですと「バファリン」がよく知られています。
バファリンは頭痛などに効果を示す薬であり、その主成分がアスピリンです。
アスピリンは痛みや炎症の原因となるプロスタグランジンという物質の生成を抑えることで効果を発揮します。
しかし、この作用によってロイコトリエンという気道を収縮させる物質が増加し、アスピリン喘息の症状を引き起こす原因となります。
【参考情報】『頭痛にバファリン』LION
https://www.bufferin.net/
1ー2.喘息とは?
喘息とは、気道に炎症が生じ咳や喘鳴(ヒューヒュー、ゼーゼーと音のする呼吸)、呼吸が苦しくなるといった症状が現れる病気のことです。
喘息は基本的にアレルギーが関係する病気ですが、原因となるアレルギー物質が特定できるかどうかで分けて考えられています。
<原因が特定できるタイプ>
血液検査などで、何に対してアレルギーがあるかがはっきり分かるもの
・ダニ
・花粉(スギ、ヒノキなど)
・ペットの毛
・カビ
・ハウスダスト
<原因が特定しにくいタイプ>
アレルギーの原因となる物質がはっきりと特定できないもの
<どちらのタイプでも症状を悪化させる要因>
・疲労、ストレス
・風邪やインフルエンザ
・タバコの煙
・大気汚染や排気ガス
・急激な気温の変化
・解熱鎮痛薬(アスピリンなど)
・食品添加物
喘息患者さんの約6割が「原因が特定できるタイプ」、約4割が「原因が特定しにくいタイプ」とされています。どちらのタイプでも、適切な治療により症状をコントロールすることが可能です。
【参考情報】”Asthma: What Is Asthma?” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/asthma
1-3.アスピリンと喘息の関係
先に述べたように、喘息という病気には、アレルギーが深く関連しています。
アレルギーとは、花粉症やアトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎など、特定の物質に対して体の免疫細胞が過剰に反応することで起こる症状です。
このとき、特定の原因物質(花粉やハウスダストなど)に対して、気道や気管支が過敏に反応し、喘息発作が誘発されることがあります。
アレルギーを引き起こす物質には、花粉やハウスダストなどの他に、薬剤があります。
薬剤によって引き起こされる喘息を「薬剤性喘息」と呼びます。
そして、「薬剤性喘息」の内、アスピリンまたはアスピリンのグループに属する解熱鎮痛薬によって喘息が引き起こされるケースを「アスピリン喘息」と呼びます。
【参考情報】『さまざまな喘息』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/knowledge/aspirin.html
【参考情報】”Aspirin-Exacerbated Respiratory Disease Defined” by American Academy of Allergy, Asthma & Immunology
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/allergy,-asthma-immunology-glossary/aspirin-exacerbated-respiratory-disease-defined
2.アスピリン喘息の主な症状・特徴
解熱鎮痛薬を服用後、鼻水、鼻づまり、そして咳、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)、呼吸困難といった喘息発作が現れます。
腹痛、吐き気、下痢を伴うこともあります。
症状の現れ方には特徴があり、軽症の場合は半日程度で症状が治まりますが、重症の場合は24時間以上症状が持続することがあります。急速に症状が悪化するため、迅速な対応が必要です。
飲み薬に限らず、貼り薬や塗り薬、座薬、注射などを使用した場合も症状が現れることがあります。
アスピリン喘息の患者さんのほとんどは成人です。
中でも、成人になって初めて喘息を発症した重症の患者さんや、好酸球副鼻腔炎、鼻茸(鼻のポリープ)を合併している人が多いと言われています。
実際に、アスピリン喘息患者さんの97%が慢性副鼻腔炎を合併しており、これは非アスピリン喘息患者(30~40%)と比較して非常に高い合併率となっています。
【参考情報】『好酸球性副鼻腔炎(指定難病306)』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/entry/4538
【参考情報】”Aspirin-exacerbated respiratory disease: A review” by PMC / NCBI
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7314471/
3.アスピリン喘息の注意点
アスピリン喘息の原因薬剤はアスピリンだけではないことに注意が必要です。
アスピリンの仲間に属する薬剤でも同様のアレルギー反応を引き起こし、喘息発作が誘発される可能性があります。
先に述べたように、アスピリンは非ステロイド性抗炎症薬の1つで、アスピリンと同じ仲間に属する非ステロイド性抗炎症薬の例としては、ロキソプロフェン(ロキソニン)、ジクロフェナク(ボルタレン)、イブプロフェン(ブルフェン、イブ)などがあります。
【参考情報】”Medications May Trigger Asthma Symptoms” by American Academy of Allergy, Asthma & Immunology
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/asthma/medications-may-trigger-asthma-symptoms
特に、市販の風邪薬や鎮痛薬にはアスピリンに近い成分を配合している製品も多く、十分な注意が必要です。
たとえアスピリンが配合されていなくても、その薬が絶対に安全ということはありません。
そのため、アスピリン喘息の人は特に、今まで飲んだことのない薬を服用する前には必ず専門家に相談しましょう。
また、アスピリン喘息ではなくても、喘息の人はアレルギー体質である場合が多いため、薬の服用に関してはよく注意しなくてはなりません。
アスピリン喘息は、症状が急速に悪化します。
そのため、迅速な対応が必要です。
もし重症の発作が起きている場合は、命に関わる危険があるため、迷わず救急で受診しましょう。
【参考情報】”Clinical evaluation and diagnosis of aspirin-exacerbated respiratory disease” by PubMed / NCBI
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34364538/
4.アスピリン喘息の診断と検査方法
アスピリン喘息の診断は、通常のアレルギー検査では判定できない特殊な病気です。血液検査や皮膚テストなどの一般的なアレルギー検査では診断することができません。
<診断方法の種類と特徴>
1)問診による診断
医師による詳しい問診が最も重要な診断方法です。
過去にアスピリンやNSAIDsを服用した後に喘息症状が現れた経験があるかどうかを詳しく聞き取ります。
2)アスピリン負荷試験
確定診断のためには、入院の上でアスピリン負荷試験を実施することがあります。
この検査は専門的な施設でのみ実施可能で、アスピリンを実際に服用して症状が現れるかどうかを確認します。ただし、重篤な発作を誘発する危険性があるため、慎重に行われます。
3)その他の検査 ・肺機能検査
呼吸能力や気道の状態を評価 ・血液検査:
好酸球数やIgE値の測定 ・胸部・副鼻腔CT検査:鼻腔や副鼻腔の状態、肺の評価 ・アレルギー検査:他のアレルゲンとの鑑別します
【参考情報】”Hypersensitivity to Aspirin and other NSAIDs: Diagnostic Approach in Patients with Chronic Rhinosinusitis” by Current Allergy and Asthma Reports
https://link.springer.com/article/10.1007/s11882-015-0552-y
5.治療法と管理方法
アスピリン喘息の治療は、急性期治療と慢性期の長期管理に分けられます。
<急性期治療(発作時の対応)>
・十分な酸素投与
・アドレナリンの筋肉内注射
・ステロイド薬とアミノフィリンの点滴投与
・抗ヒスタミン薬の点滴投与
・内服可能であれば抗ロイコトリエン薬の内服
<慢性期治療(長期管理)>
・吸入ステロイド薬による治療
・抗ロイコトリエン薬やクロモリンによる治療
・鼻茸副鼻腔炎の治療
・NSAID誤使用防止のため、患者カード作成し携帯させる
<鼻茸・副鼻腔炎の治療>
・鼻噴霧用ステロイド薬
・内視鏡下手術(重症例)
・デュピルマブ(デュピクセント®)などの生物学的製剤
以上の治療を患者様の容態に合わせて実施します。
【参考情報】”What is aspirin-exacerbated respiratory disease (AERD)?” by Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/in-depth/aerd/art-20482797
6.おわりに
アスピリン喘息というのは非常に複雑な疾患です。
だからといって、すべての薬剤が服用できないわけではありません。
患者さんによって安全に服用できる薬は異なるので、信頼できる情報源を持つことが重要です。
詳しい専門医であれば、適切な検査や診察を行った上で、その人に合った薬を処方し、治療を行うことができます。












