横向き・うつ伏せが効果的?睡眠時無呼吸症候群と寝姿勢の関連とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の症状であるいびきや就寝中の無呼吸の起こり方は、寝る姿勢によって変化することがあります。
特に「体位依存性」の患者さんでは、仰向けでは無呼吸が悪化し、横向きにすると症状が軽くなるケースが多く報告されています。
一方、体位依存性でない患者さんでも、寝姿勢によって気道の広がり方や呼吸のしやすさが変わるため、眠りの深さや熟睡感が違ってくることがあります。
この記事では、姿勢ごとの特徴とメリット・デメリットを整理し、より快適に眠るためのポイントを解説します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)する状態を繰り返す病気です。
この病気になると、夜間就寝中に十分な酸素が取り込めなくなるため、睡眠の質が低下するだけでなく、全身にさまざまな悪影響を及ぼします。
1−1.原因
睡眠時無呼吸症候群の原因には、気道が狭くなることで起こる「閉塞性」と、脳の呼吸中枢の異常で起こる「中枢性」がありますが、患者の多くは閉塞性です。
閉塞性の主な原因には、以下が挙げられます。
・肥満:首回りや舌の付け根に脂肪がつくと、気道が狭くなる
・加齢:気道周囲の筋力が低下し、睡眠中に気道が閉じやすくなる
・扁桃肥大や鼻づまり:物理的に空気の通り道が狭くなる
・骨格:あごが小さい人は、睡眠中に気道が狭くなりやすい
【参考情報】『Aging Influences on Pharyngeal Anatomy and Physiology: The Predisposition to Pharyngeal Collapse』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2287192/
特に日本人は、もともとあごが小さい傾向にあるため、骨格の構造上、痩せている人でも睡眠時無呼吸症候群になりやすいと言われています。
【参考情報】『Cephalometric assessment of craniofacial morphology in Japanese male patients with obstructive sleep apnea-hypopnea syndrome』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23226092/
また、アルコールや睡眠薬の服用によって、のどの筋肉が緩むと気道が閉塞しやすくなり、症状が悪化することがあります。
1−2.症状
もっともよく見られる症状は、毎日のように繰り返される大きないびきです。
家族やパートナーから「息が止まっている」「いびきが急に静かになって、その後に大きないびきで再開する」などと指摘され、受診に至るケースが多くあります。
また、睡眠の質が大きく損なわれるため、次のような日中症状が現れることがあります。
・強い眠気、集中力の低下、頭が重い感じが続く
・朝起きたときにスッキリしない、熟睡感がない
・仕事や家事の効率低下、記憶力の低下
社会的な影響としては、居眠り運転による交通事故リスクが高まることが問題視されています。
実際に、睡眠時無呼吸症候群が原因と疑われる事故が国内外で報告されており、医療機関での検査と治療が推奨されています。
1−3.治療
睡眠時無呼吸症候群の治療は、症状の重さや原因に応じて選択されます。
最も一般的なのが 、CPAP(シーパップ)療法です。専用の医療器具を用いて、就寝中に鼻から一定の空気を送り込み、気道がふさがらないようにします。
中等症〜重症の患者に効果が高く、日本でも標準的治療として推奨されています。
軽症〜中等症の場合は、マウスピース(口腔内装置)が用いられることもあります。
下あごをやや前に固定し、気道を広げることで無呼吸を防ぎます。
生活習慣の改善も重要です。特に肥満が原因の場合、体重管理は治療効果を大きく左右する要素です。
睡眠時無呼吸症候群の治療は「完治」を目指すというより、睡眠の質を改善し、動脈硬化や高血圧、そして命にかかわる心筋梗塞などの合併症のリスクを下げることがゴールとなります。
自分に合った治療法を医師と相談しながら継続することが大切です。
2.睡眠時の姿勢との関連
睡眠時無呼吸症候群による無呼吸やいびきは、寝る姿勢を工夫することで軽減できる場合があります。
寝る姿勢によって気道の広がり方が変わるため、睡眠の質にも影響します。
2−1.仰向けは無呼吸になりやすい
仰向けで眠ると、重力によって舌や軟口蓋(のど奥の柔らかい部分)が後方に落ち込み、気道が狭くなります。その結果、無呼吸やいびきが発生しやすくなります。
特に鼻づまりがある人、肥満傾向の人、顎が小さい人は、仰向け時に気道が塞がれやすい傾向があります。
また、睡眠時無呼吸症候群の患者さんの中には、姿勢によって症状の程度が大きく変わる「体位依存性」の人も多いのですが、体位依存性の人は仰向けでは無呼吸が増えますが、横向きで眠ると舌の沈み込みが防がれ、呼吸が確保されやすくなります。
【参考情報】
『CQ16-5 OSA患者の治療に睡眠時の体位療法は有効ですか?』睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
2−2.うつ伏せや横向きで呼吸が楽になる
体位依存性の診断に当てはまらない人でも、以下のような場合は、寝るときの姿勢によって症状がやわらぐ可能性があります。
・いびきが中心のタイプ:横向きやうつ伏せ気味で軽減することがある
・鼻づまりが強い人:仰向けより横向きの方が空気の流れが確保されやすい
・顎が小さい人:仰向けでは気道が狭くなるため、横向きのほうが呼吸しやすい
研究によれば、うつ伏せ寝や横向き寝に変えることで無呼吸や低呼吸が起こりにくくなる患者さんは、軽症や中等症の人です。
重症の患者さんは、睡眠時の姿勢を変えることで無呼吸や低呼吸の明らかな減少はなかったものの、SPO2(動脈血酸素飽和度)の最低値が上昇したという結果が出ています。
「寝ている間の呼吸を少しでも改善したい」と思ったら、うつ伏せや横向きで寝てみるとよいでしょう。
【参考情報】『睡眠姿勢のいびき、睡眠時無呼吸に及ぼす影響』口腔・咽頭科16巻1号(2003)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology1989/16/1/16_1_38/_pdf
3.横向き・うつ伏せの寝姿勢を保つための工夫
横向きやうつ伏せで寝ると良いとわかっていても、眠っている間に仰向けに戻ってしまうことは少なくありません。
ここでは、無理なく横向きやうつ伏せ姿勢を保ちやすくする方法をまとめました。
<寝返りを防ぐ簡単な工夫>
背中側にクッションや丸めたタオルを挟むと、仰向けに戻りにくくなります。また、横向きを安定させる目的で、抱き枕を使う方法も有効です。
うつ伏せ気味の姿勢をとりたい場合は、上半身を軽く傾けた「うつ伏せに近い横向き」から試すと負担が少なく続けやすいでしょう。
<寝具環境を整える>
横向き姿勢は、頭・首・肩の位置が合わないと維持しづらくなります。体格に合った枕の高さや硬さ、適度な反発力のあるマットレスを選ぶと、姿勢が崩れにくくなります。
<生活習慣と組み合わせると効果的>
就寝前の飲酒や睡眠薬は喉の筋肉を緩め、気道が狭くなる原因になるので、控えることで姿勢改善の効果が出やすくなります。
鼻づまりの改善(加湿、鼻洗浄、寝室の空気環境改善など)も、横向き姿勢で呼吸をしやすくするポイントです。
<体重管理で効果を高める>
肥満がある場合、姿勢を改善しても効果が限定的なことがあります。体重を適正化することで気道周囲の圧迫が減り、姿勢療法との相乗効果が期待できます。
4.うつ伏せや横向きで寝るときの注意点
うつ伏せや横向きにはメリットもありますが、続ける場合はいくつか注意が必要です。
<うつ伏せ寝の注意点>
うつ伏せは気道が確保されやすい姿勢ですが、顔や首に負担がかかりやすい姿勢でもあります。
また、首を左右どちらかにねじった状態が続くため、首まわりの筋肉に負荷がかかり、肩こりや寝違えの原因になることがあります。
<横向き寝の注意点>
横向きは無呼吸の軽減に役立つことがありますが、体重が片側に偏るため、肩・腕・腰・骨盤に負担が集中しやすく、痛みやゆがみの原因になることがあります。
特に、抱き枕を使って体勢を固定すると寝返りが減り、血流や関節の動きが偏りやすくなるため注意が必要です。
もし痛みや違和感がある場合は、無理に姿勢を維持しないことが重要です。寝姿勢は一晩で何度か変わるのが自然で、寝返りも体の負担を分散する大切な動作です。
体調に合わせて姿勢を調整し、負担が蓄積しないようにしましょう。
【参考情報】『Effect of sleep posture on neck muscle activity』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5468189/
5.おわりに
睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、寝ている間の姿勢を変えることで、無呼吸やいびきなどの症状を軽減できる可能性があります。
ただし、姿勢調整はあくまでも症状軽減のための補助的な対策であり、治療(例:CPAP)を置き換えるものではありません。
体に合わない姿勢の継続は、腰痛や肩こりを悪化させるおそれがあります。負担を感じる場合は無理をせず、自分に合った範囲で取り入れてください。









