いびきをかく妊婦さんは要注意?妊娠と睡眠時無呼吸症候群との関係

妊娠中、日中や仕事中に強い眠気を感じることはありませんか?
妊娠中は、プロゲステロンというホルモンの影響で眠気を感じやすくなります。プロゲステロンは呼吸を深くしたり、基礎体温を少し上げる働きがあります。
さらに脳内で神経の働きを抑える作用もあるため、体がだるく感じたり、眠気が強くなるのは自然なことです。
しかし、妊娠してから「いびきがひどくなった」「日中の眠気が強い」と感じる場合は、単なるホルモンの影響だけでなく、睡眠時無呼吸症候群が原因である可能性があります。
この記事では、睡眠時無呼吸症候群と妊娠の関係や、母体と胎児に与える影響について説明します。
目次
1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
睡眠時無呼吸症候群とは、睡眠中に呼吸が止まったり、浅くなったりすることを繰り返す病気です。
<主な症状>
・激しいいびき
・日中の強い眠気
・起床時の頭痛や倦怠感
この病気の原因には、空気の通り道である気道が狭くなったりふさがれることが原因の「閉塞性」と、脳や神経などに問題が生じて呼吸のコントロールがしにくくなる「中枢性」がありますが、患者のほとんどは閉塞性です。
閉塞性の原因としては、扁桃腺の肥大、顎の小ささ、鼻の病気などがありますが、最も多いのは肥満によるものです。
肥満があると、のどや舌にも脂肪がつき、空気の通り道である気道が塞がれやすくなり、狭くなります。
すると、狭くなった気道を空気が通るときに振動して音が出ることがあります。これがいびきとなります。
【参考情報】『Pregnancy-Onset Habitual Snoring, Gestational Hypertension, and Pre-eclampsia: Prospective Cohort Study』National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3505221/
2.なぜ、妊婦が睡眠時無呼吸症候群になるのか
妊娠すると、体重の増加や子宮が大きくなる影響で、気道が狭くなることがあります。
2-1.妊娠による体重増加の影響
妊娠すると、体重が増えることで、肥満の人と同じようにのどや舌の周囲に脂肪が蓄積しやすくなります。
脂肪が蓄積すると気道が狭くなり、睡眠中に空気の通りが悪くなるため、睡眠時無呼吸症候群を発症する可能性が高まります。
また、妊娠前から睡眠時無呼吸症候群を発症していたものの、症状が軽度で自覚症状がなかった方が、妊娠による体型変化やホルモンの影響によって症状が強くなるケースもあります。
2-2.妊娠による呼吸筋への影響
さらに妊娠後期になると、子宮が大きくなることで、呼吸筋の中心となる横隔膜が押し上げられ、呼吸筋の動きが制限されます。
このため、肺に十分な空気を取り込むことが難しくなり、気道が吸う息で部分的につぶれやすくなります。
【参考情報】『Adaptation of lung, chest wall, and respiratory muscles during pregnancy: preparing for birth』American Physiological Society
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00035.2019
3.睡眠時無呼吸症候群が妊婦に及ぼす影響
妊娠中に睡眠時無呼吸症候群になると、母体と胎児に悪影響が及ぶことがあるため、注意が必要です。
3−1.妊娠高血圧症候群
妊娠高血圧症候群は、妊娠20週以降に初めて血圧が高くなる場合や、もともと高血圧だった人の血圧が妊娠中に悪化した場合にみられる病気です。
多くは分娩後12週までに治まるタイプの高血圧として扱われますが、重くなると、胎児の発育不全や早産のリスクが高まります。
管理方法は状態によって異なり、経過観察や生活指導だけで十分な場合もあれば、妊娠中でも使える降圧薬を服用したり、分娩のタイミングを調整したりすることがあります。
通常、眠っている間は体がリラックスした状態になり、血圧も下がりやすくなります。
しかし、睡眠時無呼吸症候群になると、呼吸が止まる・浅くなることを繰り返すため、脳がたびたび覚醒し、体を活動モードにする交感神経が強く働きます。その結果、夜間でも血圧が上がりやすくなります。
妊娠中の睡眠時無呼吸症候群は、妊娠高血圧症候群のリスクを高める可能性があると報告されています。
気になる症状(激しいいびき、日中の強い眠気、睡眠中の呼吸停止など)がある場合は、早めに医療機関で相談すると安心です。
【参考情報】『妊娠高血圧症候群』日本産科婦人科学会
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6
3−2.妊娠糖尿病
それまで糖尿病ではなかった人が、妊娠中にはじめて血糖値の上昇など糖代謝の異常が認められ、かつ、糖尿病の診断基準に当てはまらない場合に診断される病気です。
妊娠糖尿病は、ほとんど自覚症状のない病気ですが、流産や早産、胎児の巨大化などさまざまな合併症を引き起こすため、食事療法や薬物療法によって血糖値をコントロールする必要があります。
妊娠中に睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠中の低酸素状態が続き、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンのはたらきが悪くなり、血糖値が下がりにくくなります。
そのため、血糖値が高い状態が続いてしまい、妊娠糖尿病を発症するリスクが高まるのです。
【参考情報】「妊娠糖尿病」日本内分泌学会
http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=94
3−3.自動車事故
妊娠中は、ホルモンバランスの変化や睡眠の質の低下により、集中力や判断力が落ちやすく、自動車事故を起こすリスクが高まるとされています。
特に妊娠後期は、身体的な負担が増えることで、注意力散漫や反応速度の低下が生じやすくなります。
ここに、睡眠時無呼吸症候群による日中の強い眠気・倦怠感・注意力低下が加わると、運転中の居眠りや判断ミスのリスクがさらに上昇します。
また、睡眠の分断により脳の覚醒レベルが低下し、通常よりも危険への反応が遅くなることも指摘されています。
【参考情報】『日本人妊婦の睡眠時無呼吸の実態と日中の眠気との関連 -妊婦の自動車運転事故軽減に向けて』公益財団法人三井住友海上福祉財団
https://www.ms-ins.com/welfare/document/list/pdf/2015/2015_1_06.pdf
4.妊娠中の睡眠時無呼吸症候群のサインとは?
妊娠中はホルモン変化や体型の変化により睡眠の質が低下しがちです。
しかし、いびきの悪化や日中の強い眠気が続く場合は、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。
4-1.睡眠時無呼吸症候群が疑われる主な症状
以下に当てはまる場合、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります。
・妊娠前から毎日のようにいびきが出ていた
・家族やパートナーから「寝ている間に呼吸が止まっていた」と指摘された
・夜中に息苦しさや口の渇きで目が覚めることが多い
・朝起きても疲れが取れない、頭痛がある
・日中の強い眠気やだるさ、集中力の低下が続く
・鼻づまりやアレルギー性鼻炎がある
3つ以上当てはまる方は、まずは産婦人科の主治医に相談し、必要に応じて睡眠時無呼吸症候群の検査ができる病院を受診しましょう。
4-2.受診前に準備しておくと役立つこと
相談時に以下を伝えられると診察がスムーズになります。
・いびきや無呼吸の状況の記録
家族のメモ、スマホ録音、いびきアプリのデータなど
・症状が出る頻度とタイミング
例:週に◯回、必ず仰向けで寝た時など
・これまでの合併症や妊娠経過
高血圧、鼻炎、体重増加の推移など
・日中の眠気の程度
「エプワース眠気尺度(ESS)」を事前に自己採点して持参すると有効
【参考情報】『セルフチェック(ESS)』SASnet
https://www.kaimin-life.jp/ess/
4-3.睡眠時無呼吸症候群の検査
検査には、簡易検査と精密検査があります。
<簡易検査>
指先や鼻にセンサーを付け、睡眠中の呼吸状態や酸素の変化を測定します。自宅で行うことができます。
◆「簡易検査」について詳しく>>
<精密検査>
脳波・呼吸・心電図・筋電図などを総合的に測定。重症度判定に有効ですが、入院が必要な場合があります。
※当院では自宅での精密検査が可能です。
4-4.睡眠時無呼吸症候群の治療
代表的な治療法は、睡眠中に気道の閉塞を防ぐCPAP(シーパップ)療法です。妊娠中でも使用可能で、安全性が確認されています。
また、状態に応じて、体重管理、鼻づまりの治療などを組み合わせます。
5.おわりに
妊娠すると、体重の増加やホルモンの影響によって、睡眠時無呼吸症候群を発症することがあります。
しかし、日中に眠くなっても、妊娠中だから仕方ないと思い込んでしまい、睡眠時無呼吸症候群のせいだとは気づかないことがあります。
睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、母体や胎児に悪影響を及ぼす恐れがあります。昼間の眠気やいびきがひどいようなら医師に相談し、必要なら検査を受けて治療につなげましょう。









