呼吸器専門医が教える花粉症と喘息の深い関係と最新対策

花粉症になると、鼻づまりや目のかゆみ、咳、くしゃみなどの症状に悩まされ、日常生活にも影響が出てきます。
さらに、喘息患者さんの場合、花粉が原因で喘息の症状が悪化することがあるので、より対策が重要となります。
この記事では、花粉と喘息の密接な関係を明らかにするとともに、飛散時期に備えて取り組むべき対策について詳しくお伝えします。
目次
1.花粉症とはどんな病気か
花粉症は、特定の植物の花粉に体がアレルギー反応を起こしてしまう病気です。
【主な症状】
・鼻水・鼻づまり
・くしゃみ
・咳
・目のかゆみ
「花粉症=春の病気」と思われがちですが、いろいろな植物が季節ごとに花粉を飛ばしているので、実は一年中起こる可能性があります。
【アレルギーの原因となる植物】
・スギ(2月 〜 4月)
・ヒノキ(3月 〜 5月)
・イネ(5月 〜 10月)
・ブタクサ(8月 〜 10月)
・ヨモギ (9月 〜 10月)
2.花粉症で喘息が悪化する理由と咳の原因を見分ける5つのサイン
喘息は、アレルギーを引き起こす物質(アレルゲン)が特定できるタイプと、喫煙やストレスなど原因が特定しにくいタイプに分かれます。
アレルギーの原因として最も多いのはダニですが、花粉によるアレルギーも、喘息の悪化を招く一因となります。
2ー1.「One Airway, One Disease(ひとつの気道、ひとつの病気)」とは
実は、医療の世界では「One Airway, One Disease(ひとつの気道、ひとつの病気)」という考え方があります。
鼻から喉、そして肺へと続く気管支は、一本のつながった管(気道)のため、入り口である鼻にアレルギー炎症(花粉症)が起きると、その影響が奥の気管支にも及び、喘息の症状が出やすくなってしまうのです。
実際に、日本アレルギー学会のガイドライン等でも喘息患者さんの約70〜80%がアレルギー性鼻炎(花粉症含む)を合併しており、逆にアレルギー性鼻炎がある方は、そうでない方に比べて約3倍も喘息を発症しやすいことがわかっています。
つまり、鼻の症状を放置することは、喘息を悪化させる最大の引き金になると言っても過言ではありません。
【参考情報】”ARIA(Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma)” by WHO
https://www.jiaci.org/issues/vol18issue5/2.pdf
2-2.花粉症が喘息を悪化させる理由
喘息の患者さんは、咳や息苦しさなどの症状がないときでも、気道に炎症があり、刺激に過敏になっています。
そこに花粉症が加わると、気道の炎症がさらに悪化しやすくなるのです。
花粉症の症状は鼻水、目のかゆみが代表的で、花粉が多く飛んでいる日に強くなりますが、喘息の症状は少し遅れて数日後に出ることが多い傾向にあります。
花粉症でも咳が出ることがあるため、咳が花粉症によるものなのか、喘息の症状なのかわかりにくいことがあります。
咳のほかに、喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーという特徴のある呼吸音)があれば、喘息による咳の可能性が高いです。
鼻と気道はつながっているので、どちらかがアレルギー反応を起こすと、もう一方もその影響を受け、両方に症状が現れることはよくあります。
花粉症の症状が重い人は、喘息の症状も重くなることがあり、花粉症で鼻がつまると口で息をするようになります。
すると、
1.花粉が口から直接入ってしまう
2.冷たく乾いた空気がそのまま気管支に届く
3.鼻の「加湿」と「空気清浄」の機能が使えなくなる
これらが重なって、喘息の発作が起きやすくなるのです。
【参考情報】『気管支ぜんそく』 日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/c/c-01.html
2ー3.その咳は花粉症?喘息?「見分けるセルフチェック」
「花粉の時期だから咳が出るのは当たり前」と自己判断するのは危険です。
次のような症状があったら、喘息の可能性があります。
【喘息を疑うべき5つのサイン】
・夜間から明け方にかけて、咳で目が覚める
・一度咳が出始めると止まらず、会話や食事が中断されることがある
・階段の上り下りや少し走っただけで胸が苦しくなる、「ヒューヒュー」と音がする
・冷たい空気を吸ったとき、強い匂いを嗅いだときに咳き込む
・市販の咳止め薬が効かない
これらは気管支が過敏になり、空気の通り道が狭くなっているサインです。
放っておくと、「リモデリング」といって、気管支の壁が厚く硬くなり、将来的に薬が効きにくい難治性の喘息になる可能性があるため、早めの受診が重要です。
【参考情報】『成人のぜん息』 日本アレルギー学会
https://allergyportal.jp/knowledge/adult-asthma/
3.花粉症による喘息の悪化を防ぐ治療
花粉症による喘息の悪化を防ぐためには、以下に紹介する対策を行っておくと安心です。
3-1.長期管理薬による喘息の治療
喘息の患者さんは、症状がないときでも吸入ステロイド薬などの長期管理薬(コントローラー)を毎日服用し、気道の炎症をできるだけ抑えておきましょう。
毎日の服薬で気道の症状が安定することで、花粉による刺激の影響を受けにくくなることが期待できます。
【参考情報】”Inhaled Corticosteroids” by National Institutes of Health
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK554612/
3-2.花粉症の対症療法
不快な症状を抑えるための対症療法では、以下のような薬を用います。
すぐ効くタイプ【抗ヒスタミン薬】
・アレルギー症状を引き起こすヒスタミンの働きをブロックして、症状を緩和
・抗アレルギー薬よりも即効性がある
・アレロック、アレグラ、アレジオンなど
抗ヒスタミン薬には、副作用として眠気が強く出る薬もありますが、最近は眠気が起こりにくい薬も増え、日常生活への影響も少なくなっています。
じっくり効くタイプ【ロイコトリエン受容体拮抗薬】
・アレルギー反応にかかわる物質であるロイコトリエンのはたらきに作用して、アレルギー反応を抑える
・シングレア/キプレス、オノン、アイピーディーなど
効果が出るまで2週間ほどかかるため、花粉の時期より前から飲み始めるのがおすすめです。
3-3.花粉症の根治療法
花粉症そのものを治す、あるいは長期的に症状を抑え込む治療法には、体質改善を目指す「アレルゲン免疫療法」と、重症者向けの最新治療である「ゾレア(抗IgE抗体療法)」があります。
どちらも治療を受けるには条件を満たす必要があるため、治療にあたっては医師と相談してください。
【アレルゲン免疫療法】(根治を目指す体質改善)
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少量ずつ体内に取り入れ、体を慣らして反応を起こさない体質に変えていく治療法です。
これには「舌下(ぜっか)」と「皮下(ひか)」の2つの方法があります。
舌下免疫療法(錠剤):
自宅で服用するタイプです。
スギ花粉症に対する「シダキュア」、ダニアレルギーに対する「ミティキュア」が代表的です。
皮下免疫療法(注射):
クリニックでアレルゲンエキスを皮下注射するタイプです。
古くからある方法で、医師の管理下で行います。
※喘息へのメリット: この治療(特に舌下免疫療法)を早期に行うことで、将来的な喘息の発症を予防できる可能性や、すでに喘息をお持ちの方でも症状が安定しやすくなるという報告がされています。
治療には3~5年と長い期間が必要ですが、治療に成功するとアレルゲンに反応しなくなるため、花粉の季節になっても症状が現れなくなります。
「薬で抑える」だけでなく「治す」ことを目指せる唯一の方法であり、喘息の長期的なコントロールにも非常に有用です。
【参考情報】『アレルギーの治療について』 日本アレルギー学会
https://allergyportal.jp/knowledge/treatment/
【 ゾレアによる治療】(重症者向けの最新治療)
重症のスギ花粉症に対し、期間限定で行われる注射薬です。
これはアレルゲン免疫療法とは異なり、アレルギー反応を引き起こす「IgE抗体」そのものの働きをブロックする「抗IgE抗体療法」に分類されます。
特徴: 根治を目指すものではありませんが、即効性が高く、従来の薬で効果がなかった激しい症状を劇的に抑えることが期待できます。
3-4.治療の注意点
対症療法として、鼻の粘膜を焼くことで症状を和らげるレーザー治療もあります。
ただし、目のかゆみなど、鼻以外の症状は改善されません。
また、喘息の患者さんはレーザー照射時の煙が刺激となり発作が誘発される恐れがあるため、医師への相談が必要です。
医療機関によっては、ステロイド剤(ケナコルトA)の注射を行っているところもあります。
しかし、副作用が強いためおすすめできない治療法です。
4.日常生活での注意点
日常生活では、以下のような点に注意して症状の悪化を防ぎましょう。
4-1.呼吸器感染症の予防
インフルエンザや風邪などの呼吸器感染症になると、喘息や花粉症も悪化する恐れがあります。
呼吸器感染症を予防するために、外出時のマスクや手洗い、ワクチン接種などの基本的な対策を忘れずに行いましょう。
4-2.花粉の除去
花粉を家に持ち込まないためにできることを取り入れてみましょう。
・家に入る前に服や髪の花粉を払う
・帰ったらすぐシャワーを浴びる、着替える
・こまめに掃除をする
・空気清浄機を使う
【参考情報】”Allergens and Pollen” by Climate and Health — CDC
https://www.cdc.gov/climate-health/php/effects/allergens-and-pollen.html
4-3.黄砂やPM2.5との相乗効果に注意
春先に喘息が悪化する理由は、花粉だけではありません。
この時期に飛来する「黄砂」や微小粒子状物質「PM2.5」にも注意が必要です。
最新の研究では、これらが花粉と混ざると、花粉が破裂して中のアレルゲンがより細かく飛散する「アジュバント効果(増幅効果)」が指摘されています。
細かくなったアレルゲンは鼻のフィルターをすり抜け、直接気管支の奥深くまで入り込むため、喘息の発作を引き起こしやすくなるのです。
外出時は高性能な不織布マスクを隙間なく着用し、PM2.5などの飛散予測をチェックすることも、喘息悪化を防ぐ大切なポイントです。
【参考情報】『花粉症環境保健マニュアル2022』環境省
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf
4-4.お酒は控えめに
お酒を飲むと、毛細血管が拡張して鼻の粘膜が腫れて、花粉に反応しやすくなります。
くしゃみや鼻づまりが悪化したり、鼻水が増えたりという症状が現れることもあるでしょう。
また、アルコールは気道の炎症を助長したり、睡眠の質を低下させたりすることもあり、喘息の症状が出やすくなる一因になることもあります。
花粉の時期はお酒を控えめにするとよいでしょう。
4-5.禁煙する
タバコの煙に含まれる有害物質は、鼻や気道の粘膜を刺激するので、鼻づまりや喘息の症状を悪化させます。
喫煙の習慣がある人にとって、禁煙は難しいかもしれませんが、タバコを止めると症状が改善する可能性が高まります。
【参考情報】”Controlling Asthma ” by CDC
https://www.cdc.gov/asthma/control/index.html
4-6.その他
そのほかにも、日常生活のちょっとした工夫が、花粉症や喘息の症状を和らげる助けになります。
外出時には、メガネやマスク、帽子を着用することで、目や鼻、髪の毛への花粉の付着を減らすことができます。
また、バランスの取れた食事や適度な運動、十分な睡眠は、免疫バランスを整え、体の回復力を高めるうえで大切です。
体調が整っていると、花粉や環境刺激に対する過剰な反応が起こりにくくなり、喘息の悪化予防にもつながります。
無理のない範囲で生活リズムを整え、症状が強いときは早めに医療機関へ相談することも心がけましょう。
5.おわりに
喘息の患者さんは、花粉の影響で咳などの症状が悪化する可能性があります。
既に花粉症になってしまった人は、薬剤でアレルギー症状を抑えたり、根本療法で体質を変え、喘息の悪化を防いでいきましょう。
今は花粉症ではない人も、将来発症する危険を防ぐため、花粉の付着を防ぐ対策や、花粉を家に持ち込まない工夫をしておきましょう。
「たかが花粉症の咳」と我慢せず、呼吸器の専門的な視点から適切なコントロールを行い、健やかなに過ごしましょう。
つらい季節を笑顔で過ごせるよう、当院が全力でサポートいたします。

















