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花粉症の原因・症状・治療法・効果的な対策

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2024年12月24日

環境省の報告によると、日本国民の約半数が花粉症であると推測されています。

【参考情報】『花粉症環境保健 マニュアル 2022』環境省
https://www.env.go.jp/chemi/anzen/kafun/2022_full.pdf

毎年不快な症状に悩まされている人は、少しでも症状を改善したいと思っているでしょうし、今は問題なくても「自分もいつか発症するのでは?」と心配な人もいるでしょう。

この記事では、花粉症の原因や症状、治療法などをくわしく解説します。まずは花粉症とはどのような病気なのかを知り、自分に必要な対策を講じましょう。

1.花粉症とはどのような病気か


花粉症は、スギやヒノキなどの植物の花粉が鼻や目の粘膜に触れることで、くしゃみ、鼻水、目のかゆみといったアレルギー症状を引き起こす病気です。

私たちの体には、細菌やウイルスなどの異物から身を守るための「免疫」という仕組みが備わっています。

しかし、食べ物や花粉のように本来は体に害のないものが、免疫のシステムによって異物=敵とみなされると、体がそれを排除しようと働きかけます。その結果、くしゃみやかゆみといった症状が現れるのです。

このように、体を守るための免疫が、逆に体を傷つけてしまう反応を「アレルギー」といいます。花粉症もこのアレルギー反応の一種で、かゆみや炎症の原因となるヒスタミンという物質が細胞から大量に放出されることによって、不快な症状が引き起こされます。

◆「アレルギー」についてくわしく>>

スギ花粉は2月から4月に、ヒノキ花粉は3月から5月にかけて多く飛散するため、この時期に症状が悪化する人が多くなります。

また、一日の中では昼前から夕方にかけて飛散量が増え、晴れて気温が高い日、風が強い日、そして雨が上がった翌日には特に多くなります。

花粉症は、スギやヒノキだけでなく、シラカンバやハンノキといった木や、カモガヤ、ブタクサなどの植物によっても引き起こされることがあります。その場合は、春以外の季節にも症状が現れることがあります。

また、オリーブ栽培が盛んな瀬戸内地方では、オリーブの花粉が原因の花粉症も報告されています。

【参考情報】『花粉の種類と説明』東京都アレルギー情報navi.|東京都福祉保健局
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/allergy/pollen/type.html

2.花粉症の原因と理由

スギ花粉

花粉症の原因となるスギやヒノキは、昔からたくさん生えていたにもかかわらず、かつては花粉症で悩む人はほとんどいませんでした。

なぜ最近になって、こんなに花粉症の人が増えたのでしょうか。考えられる理由は大きく4つあります。

2-1.スギの植林

戦中・戦後には、資材や燃料として山や森の木が伐採されました。さらに、戦後の住宅建設などで木材が不足したことから、加工しやすいスギの木が大量に植林されました。

当時植えられたスギが、現在開花の時期を迎えており、その影響で花粉の量が増えていると考えられています。

【参考情報】『森林・林業とスギ・ヒノキ花粉に関するQ&A』林野庁
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/qanda.html

2-2.大気汚染の影響

車や工場から排出される物質で汚染された大気の中に含まれる微粒子が、花粉症の症状を出やすくしたり、症状を悪化させる作用を持つと考えられています。

花粉と結びついてスギ花粉の飛散量がほぼ同じで、自動車交通量の多い地域と少ない地域を比べたところ、交通量の多い地域の方がスギ花粉症患者が多いという報告もあります。

【参考情報】『ディーゼル排気曝露がスギ花粉症様病態におよぼす影響』小林隆弘,青柳元,飯嶋麻里子
https://www.env.go.jp/chemi/report/h16-13/02_2_1.pdf

2-3.食生活の欧米化

花粉症をはじめとしたアレルギーの発症には、腸内環境が深くかかわっていいます。アレルギーを抑えるためには、私たちの腸内に住む「善玉菌」を増やし、腸内環境を整えることが大切です。

【参考情報】『Hay fever could be linked to our gut and nose bacteria – and probiotics may help symptoms』Gavi, the Vaccine Alliance
https://www.gavi.org/vaccineswork/hay-fever-could-be-linked-our-gut-and-nose-bacteria-and-probiotics-may-help

昔ながらの和食には、善玉菌を増やす食物繊維や発酵食品が豊富に含まれています。しかし現代は、食生活の欧米化やファストフードの普及により、毎日の食事で善玉菌を増やす機会が減っています。

また、青魚に含まれるEPA・DHAなどのオメガ3系脂肪酸は アレルギー症状の改善に効果があるといわれていますが、現代人は昔と比べると、青魚をあまり食べなくなりました、そのため、オメガ3系脂肪酸の摂取量が圧倒的に不足しています。

◆「オメガ3系の油」について>>

2-4.住宅環境の変化によるダニ・カビの影響

ダニのフンや死骸、カビを含んだハウスダストが体の中に入ると、免疫の仕組みがそれらを異物と判断して、花粉症をはじめとするアレルギー症状を起こしやすくなります。

昔の日本の家は、窓や戸を締め切っていても多少のスキマがある木造住宅でしたが、現代の家は気密性が高くなっています。また、冷暖房の普及で、季節を問わず快適な温度が保たれていることから、家の中でダニやカビが繁殖しやすくなっています。

◆「カビと掃除の注意点」について>>

2-5.その他

アレルギーの症状は自律神経と深くかかわっているため、ストレスや不規則な生活も、花粉症を招く一因となります。

睡眠不足や過労で、自律神経の仕組みがうまく機能しなくなると、免疫のはたらきが低下して、花粉症をはじめとしたアレルギーの症状が発症しやすくなります。

3.花粉症の症状


花粉症の症状が最も現れやすいのは鼻と目ですが、それ以外の症状もあります。

3-1.鼻の症状

鼻の三大症状とされるのは、くしゃみ、鼻水、鼻づまりです。

これらの症状は風邪でも現れますが、熱がなく、鼻水が透明でサラサラしていて、さらに症状が2週間以上続く場合は、花粉症である可能性が高いと考えられます。

3-2.目の症状

目の三大症状とされるのは、目のかゆみ、目の充血、涙です。

コンタクトレンズを着けていると、レンズに花粉がついてますます症状が悪化するので、上記の症状が現れたらメガネに切り替えましょう。

3-3.その他の症状

その他、体がだるい、熱っぽい、イライラする、のどのかゆみ、皮膚のかゆみ、咳、下痢などの症状が現れることがあります。

◆「花粉症と似ている病気」について>>

4.花粉症の検査


花粉症の疑いがあるとき、病院では必要に応じて以下のような検査を行います。

4-1.血液検査

血液を採取して、IgE抗体(体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物と結びつき、体外に排除する役割を持つタンパク質)の値や種類を調べます。

これらの検査により、アレルギーの有無や程度、アレルギー反応を起こす物質が判断できます。

4-2.鼻の検査

鼻汁の中に含まれる好酸球の数を調べる鼻汁好酸菌検査や、鼻の粘膜に花粉エキスが含まれる紙を張り付けて反応をみる鼻粘膜誘発検査があります。

4-3.皮膚の検査

皮膚にアレルゲン(アレルギーを引き起こす物質)を少量入れて反応をみる検査です。プリックテストやスクラッチテストがあります。

◆「花粉症の検査」についてもっとくわしく>>

5.花粉症の治療


花粉症の治療には、不快な症状を和らげる対症療法と、病気を根本的に治療する根治療法があります。

5-1.対症療法

アレグラやビラノア、デザレックスなどの抗アレルギー薬を用いて症状を緩和します。重症の場合はステロイド薬を用いることもあります。

◆「花粉症治療に用いる抗アレルギー薬・デザレックス」の特徴と効果、副作用>>

鼻の粘膜に麻酔をかけ、レーザーで表面を焼くことでアレルギー反応を起こしにくくする、レーザー治療もあります。

5-2.根治療法

スギ花粉のエキスを時間をかけて少しずつ体内に入れることで、体をアレルゲンに慣らし、症状が出ないようにする治療法です。

◆「スギ花粉症治療薬・シダキュア」の特徴と効果、副作用>>

長く効果が持続する治療法ではありますが、治療には3~5年ほどかかります。また、スギ花粉以外の花粉症には適用できません。

◆「花粉症の治療」についてもっとくわしく>>

6.花粉症の対策


花粉症の対策としては、外出時に花粉を避けることと、ついた花粉を室内に持ち込まないことが基本となります。

6-1.外出時の対策

花粉の飛散量が多いときはなるべく外出を避け、どうしても外出する必要があるときは、マスクや眼鏡、帽子を着用し、体内への花粉の侵入を防ぎましょう。

外出時の服装は、ポリエステルなどのツルツルした素材を選ぶと、花粉が付きにくいのでおすすめです。

6-2.自宅での対策

帰宅したらすぐ、衣服や髪をはらって、ついた花粉を落としましょう。

また、こまめに室内を掃除したり洗濯をして、花粉を減らしましょう。

◆「花粉症の対策」についてもっとくわしく>>

7.おわりに

今後、地球温暖化の影響で、花粉の飛散数がさらに増加すると予想されています。

【参考情報】『Projected climate-driven changes in pollen emission season length and magnitude over the continental United States』nature communications
https://www.nature.com/articles/s41467-022-28764-0

メガネやマスクなどで花粉を防止したり、こまめに掃除をすることで家の中の花粉を減らすとともに、できるだけ疲れやストレスを溜めない生活を心掛けましょう。

既に花粉症に悩まされている人は、症状が軽いうちから治療を受けると有効なので、アレルギーに対応している病院を受診してみましょう。

◆「初めて当院を受診する方へ」>>

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