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高齢者の咳には要注意!油断すると危険な理由とは

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年05月19日

高齢者は呼吸器の機能が低下していることもあり、病気ではなくても咳き込むことがあります。

一方で、肺炎や肺がん、心不全などの病気で咳が出ていることもあるため注意が必要です。

さらに、高齢者は症状が現れにくいことや、病状が急速に悪化することが多いため、気づいた時にはすでに重症化していることも少なくありません。

この記事では、高齢者の咳についてくわしく説明します。自身やご家族の咳が気になる方は、ぜひ参考にしてください。

1.高齢者の咳の主な原因


高齢者の咳は、いくつかの病気が同時に進行している場合があります。

そのため、咳の原因を特定するには、さまざまな病気の可能性を考慮する必要があります。

1-1. 呼吸器感染症

高齢者は加齢に伴い、体力や免疫力が低下します。このため、風邪やインフルエンザ、肺炎などの呼吸器感染症にかかりやすくなります。

しかし、高齢者の場合、一般的な症状である発熱や咳、鼻水などよりも、倦怠感や食欲低下といった症状が先に現れることが多いため、呼吸器感染症にかかっても、最初は気づかないかもしれません。

そのため、病院を受診するタイミングが遅れてしまい、風邪が悪化して肺炎に進行したり、病状が急速に進行して重症化することもあります。

高齢者は、ただの風邪だと思っても油断せず、「元気がない」「食欲がない」という状態が続いたら、早めに病院を受診しましょう。

◆「呼吸器感染症の主な種類と予防法」>>

1-2.喘息・咳喘息

喘息や咳喘息は、気道に炎症が起きる病気です。炎症により敏感になった気道は些細な刺激に反応し、咳が出ます。

喘息の場合、咳以外にも喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー・ヒューヒューという呼吸音)や、息苦しさが現れます。

◆「喘息」についてくわしく>>

一方、咳喘息では咳だけが症状で、喘鳴や息苦しさは見られませんが、放置すると喘息に進行することがあります。

◆「咳喘息」とはどんな病気か?>>

高齢者は呼吸機能や免疫機能が低下しているため、喘息になると重症化しやすいです。また、喘息以外の持病を抱えていることも多いため、使用できる薬が限られていたり、副作用が出やすかったりして、治療が難しくなることもあります。

◆「高齢者の喘息は悪化しやすい?注意点と治療のポイントを解説」>>

1-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)は、タバコなどの有害物質を長期間吸い続けることが原因で発症する病気です。

主な症状は、慢性的な咳や痰、息切れです。病気が進行すると、少し動いただけでも息切れが生じるようになり、日常生活にも影響を及ぼします。

特に高齢者は、長年の喫煙に加え、加齢の影響でも呼吸機能が低下しているので症状が悪化しやすく、場合によっては酸素療法が必要になることもあります。

◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>

1-4.誤嚥・誤嚥性肺炎

高齢者は加齢に伴い、飲み込む力が衰えるため、食べ物や飲み物、唾液などが誤って気管に入る誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。

さらに、吐き出す力も弱くなるため、気づかないうちに唾液などが少しずつ気道に流れ込むこともあります。

誤嚥を繰り返すと、口の中の細菌が気管や肺に入り、誤嚥性肺炎を引き起こすリスクが高まります。

高齢者の場合、誤嚥性肺炎になってもわかりやすい症状が出ないこともあるため、食欲の低下や倦怠感、意識がぼんやりしている様子が見られたら注意が必要です。

◆「誤嚥性肺炎」についてくわしく>>

1-5.鼻炎・副鼻腔炎

鼻炎や副鼻腔炎は、アレルギーやウイルス、細菌などが原因で起こる鼻や副鼻腔の粘膜に炎症が起こる病気です。

主な症状には、鼻水・くしゃみ・鼻づまりなどですが、鼻水がのどの奥に垂れ込む「後鼻漏(こうびろう)」が起こると、その刺激で咳が出やすくなります。

【参考情報】『Postnasal Drip』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/23082-postnasal-drip

高齢者は、加齢によって鼻の粘膜が萎縮し、分泌物を外に出す力が弱まるため、鼻水がたまりやすく、のどに流れ込みやすい傾向があります。

また、鼻粘膜の機能が低下すると、空気を加湿・調温する働きも弱くなり、鼻水の分泌が増えるため、さらにのどへのたれ込みが多くなります。

【参考情報】『加齢性鼻漏について』杉並区医師会
https://www.sgn.tokyo.med.or.jp/hanasi/index.php?no=20240110

さらに、鼻が詰まって鼻での呼吸がしにくくなると、口を開けて呼吸をするようになるため、口やのどが乾燥しやすくなります。

すると、気道の粘膜が乾燥して刺激に敏感になり、咳が出やすくなります。

1-6.心不全

心不全は、心臓の働きが弱くなり、全身に十分な血液を送れなくなる病気です。主な症状には、息切れやむくみ、強い疲労感などがあります。

症状が進行すると、肺に水がたまって息苦しさを感じたり、痰が増えることで咳が出たりすることもあります。

加齢とともに心臓の機能は徐々に低下し、高血圧や糖尿病、動脈硬化といった持病を持つ高齢者は、心不全のリスクが高まります。

長引く咳に加えて、「横になると息苦しくなる」「足がむくむ」などの症状がある場合は、呼吸器だけではなく、心臓の病気も疑ってみましょう。

【参考情報】『Heart failure』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/heart-failure/symptoms-causes/syc-20373142

◆「横になると息苦しいときに考えられる理由と対処法」>>

1-7.その他

胃食道逆流症(GERD)や高血圧の治療薬が、咳の原因になることもあります。

胃食道逆流症は、胃の内容物が食道へ逆流してしまう病気です。胃液が喉の近くまで上がってくると、刺激によって咳が出ることがあります。

【参考情報】『Gastroesophageal Reflux Disease (GERD)』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/gastroesophageal-reflux-disease-gerd

高齢者は、加齢により食道の筋力が低下することで、胃の内容物が逆流しやすくなります。特に、食後や就寝中に咳が出る場合は注意が必要です。

高血圧の治療に使われるACE阻害薬の副作用として、乾いた咳が出ることがあります。

【参考情報】『ACE阻害薬』日本心臓財団
https://www.jhf.or.jp/check/term/word_a/ace/

薬を中止すれば咳は改善しますが、自己判断で服用を中止せず、必ず医師に相談しましょう。

2.咳が心配な時の受診の目安


咳が長引くと、不安になる方も多いでしょう。特に高齢者は、症状が悪化すると重症化しやすいため、早めの受診がとても大切です。

この章では、どのような場合に病院を受診すべきか、その目安についてわかりやすくご説明します。

2-1.咳や痰が2週間以上続く

風邪による咳ならば、通常1週間ほどで自然におさまることがほとんどです。しかし、咳や痰が2週間以上続いたり、症状が悪化したりする場合は、風邪以外の病気が原因の可能性があります。

◆「長引く咳の原因|考えられる病気と受診の目安」>>

激しい咳が続くと、咳のしすぎで筋肉痛や肋骨の疲労骨折を起こすこともあります。「咳で骨折なんて?」と思うかもしれませんが、同じ場所に繰り返し負荷がかかることで、ヒビが入ったり骨が折れたりすることがあるのです。

◆「激しい咳であばら骨が痛い時は」>>

特に高齢者は骨がもろくなっていることが多いため、咳に加えて強い胸の痛みがある場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

◆「咳をすると胸が痛いときに考えられる理由と病気」>>

2-2. 痰に血が混じる

痰に血が混じっている場合は、肺からの出血が原因かもしれません。この症状は、肺がんや重度の肺炎など重い病気によって起こることが多いため、早期の診断と治療が重要です。

◆「血痰が気になりますか?呼吸器内科で原因を調べましょう」>>

肺がんでは、がんが大きくなって肺や気管支を圧迫することで咳や血痰がひどくなることがあります。

さらに、がんの影響で肺に水がたまることでも、咳や息苦しさが出ることがあります。

◆「肺がんの咳と注意すべき特徴」>>

また、重度の肺炎では、血痰に加えて強い倦怠感や息苦しさが見られることが多いです。

このような症状がある場合は、我慢せず、できるだけ早く医療機関を受診しましょう。

2-3.息苦しさや胸の痛みを伴う

咳に加えて息苦しさや胸の痛みがある場合、心不全や肺炎の可能性があります。

心不全では、心臓が十分に血液を送り出せなくなることで、肺に水が溜まります。この水が気道を刺激して咳が出ます。また、肺にたまった水のせいで、酸素が十分に取り込めなくなり、息苦しさを感じるようになります。

【参考情報】『心不全で咳や痰がでるのはなぜですか?』|心不全Q&A心不全のいろは
https://heart-failure.jp/faq/answer-024/

また、狭心症や心筋梗塞が原因で心不全を起こしている場合は、胸の痛みをともなうこともあります。

一方、肺炎が重症化すると、肺を包む胸膜(きょうまく)に炎症が起きて、呼吸するたびに胸に痛みを感じることがあります。

◆「肺炎」についてくわしく>>

いずれも早期の対応が大切です。息苦しさや胸の痛みが続く場合は、早めに医療機関を受診しましょう。

2-4.夜間や横になると咳がひどくなる

夜間の咳は、喘息や心不全が原因であることがあります。

喘息の咳は、特に夜間から早朝にかけて悪化しやすい傾向があります。通常、寝ている間は副交感神経が優位になるのですが、副交感神経が優位になると筋肉が緩まって気道が狭くなるため、咳が出やすくなるのです。

◆「朝の咳と夜の咳で、どんな違いがある?」>>

心不全の人が横になると、体から心臓に戻る血液が増えます。この血液が多くなることで、心臓に負担がかかって肺に血液がたまりやすくなり、刺激となって咳が出ます。

昼間は立っていることが多いので、重力の影響で血液は下半身に溜まりますが、夜寝るときは横になるため、咳が出やすくなったり、息苦しくなることがあります。

2-5.高熱や体重減少を伴う

咳に加えて、高熱や体重減少が現れると、肺炎や肺がんの可能性があります。

熱が出るということは、体内で何かしらの炎症が起きている証拠です。特に高齢者の場合、肺炎の症状がわかりにくいことがあるため、食欲不振や意識の変化にも注意してください。

肺がんが進行すると、体重が減少することがよくあります。がん細胞は通常の細胞より多くのエネルギーを必要とするため、体が必要なエネルギーを使う量が増えます。

また、呼吸がしづらくなることで、体は酸素を取り込むために呼吸筋を強く使うため、さらにエネルギー消費量が増え、体重が減少しやすくなります。

3.呼吸器内科で行う検査


咳や息苦しさなど、呼吸器の症状が現れている場合は、呼吸器内科で検査を受け原因を調べましょう。

この章では、呼吸器内科で行う検査について説明します。

3-1.感染症の検査

感染症が疑われる場合には、インフルエンザや新型コロナウイルスのPCR検査などを行います。

◆「インフルエンザの検査方法・時期・費用について」>>

検査では、鼻の中に綿棒を入れて粘膜をぬぐい、ウイルスの有無を調べます。もしウイルスが検出された場合は、その種類に応じた薬を選び、治療します。

3-2.画像検査

胸部X線(レントゲン)や胸部CT検査では、画像を撮影して肺の状態を確認します。

肺に炎症やがんがあると、その部分が白く映し出されます。また、肺に水がたまっている場合や、心不全によって心臓が大きくなっている場合も、画像で確認することができます。

◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>

3-3.血液検査

血液を採取して成分や抗体を調べる検査です。

喘息や咳喘息の場合、病気の原因にアレルギーが関係していることがあるため、アレルギーの有無を調べます。また、どのようなものに反応してアレルギーの症状が出るのかも調べることができます。

◆「アレルギー」についてくわしく>>

さらに、肺炎などの疑いがある場合には、炎症の有無やその程度も把握できます。

3-4.喀痰検査

喀痰検査は、痰を採取して、その中に含まれる細菌やウイルス、異常な細胞などを調べる検査です。主に「細菌検査」と「細胞診検査」の2種類があります。

細菌検査では、肺炎などの原因となる細菌や真菌(カビ)などを調べます。さらに細菌検査には、痰を直接顕微鏡で観察する「塗抹(とまつ)検査」と、菌を培養して特定する「培養検査」があります。

細胞診検査では、痰に混じっている細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞が含まれていないかを確認します。

【参考情報】『喀痰細胞診』日本予防医学協会
https://www.jpm1960.org/jushinsya/exam/exam14.html

3-5.呼吸機能検査

肺活量などの呼吸機能を調べる検査です。スパイロメトリーやモストグラフなどの種類があります。

検査では、専用の機器に向かって、指示に従って息を吸ったり吐いたりします。指示通りの動作を行う必要があるため、認知機能に問題がある高齢者は検査が難しいこともあります。

この検査は、喘息や咳喘息、COPD(慢性閉塞性肺疾患)などが疑われるときに行われます。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

4.高齢者の咳を和らげる・予防する方法


咳は、体力の消耗や睡眠の質の低下を招くので、できるだけ和らげたり、予防したいものです。

異変を感じたときは病院を受診するのが安心ですが、症状が軽くて元気なようなら、ホームケアを行いつつ様子をみましょう。

4-1.室内の加湿

室内が乾燥していると、気道が刺激されて咳が出やすくなります。特に空気が乾きやすい冬は、しっかりと乾燥対策を行うことが大切です。

室内の湿度は40~60%を目安に保ちましょう。加湿器を使うと湿度を保ちやすいですが、なければ、濡れたタオルを部屋に干すだけでも加湿効果が得られます。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

4-2.水分補給

のどが乾燥すると、刺激に弱くなり咳が出やすくなります。乾燥を防ぐには、こまめに水分を補給することが大切です。

飲み物は、冷たいものより、常温や温かい飲み物のほうがのどにやさしくおすすめです。炭酸飲料など刺激が強いものは、なるべく避けるようにしましょう。

◆「咳が止まらない時こそ乾燥に注意!」>>

4-3.寝姿勢を変える

心不全がある人は、横になると血液が心臓に戻りやすくなり、肺に血液がたまって咳が出やすくなることがあります。

このような場合は、上半身を少し起こすと心臓の負担が減り、咳の軽減につながります。

また、鼻炎などで鼻がつまっている場合、仰向けに寝ると鼻水がのどに流れ込みやすくなり、咳の原因になります。

このような場合は、横向きで寝ると呼吸がしやすくなり、咳も出にくくなります。

胃食道逆流症の人は、食後すぐに横になるのを避けましょう。横になる場合は、左側を下にすると逆流を防ぎやすくなります。

4-4.口腔ケア

口の中が汚れていると、誤嚥性肺炎の原因になることがあります。そのため、口腔内を清潔に保ち、病原菌を減らすことがとても大切です。

また、高齢になると唾液の分泌量が減り、口の中が乾燥しやすくなります。さらに、噛む力や飲み込む力が弱くなることで食べかすが残り、口の中に汚れがたまりやすくなります。

口の中の汚れを取り除くには、歯みがきなどの基本的なケアに加え、口の体操やマッサージを行って唾液の分泌を促し、清潔を保ちましょう。

【参考情報】『肺炎予防と口腔ケア』日本訪問歯科協会
https://www.houmonshika.org/oralcaremanual/m15/

5.おわりに

高齢者の咳は、ただの風邪ではなく、呼吸器疾患をはじめとしたほかの病気のサインである可能性もあります。

また、症状は軽くても、咳が長引くと体力を消耗し、他の病気を引き起こす原因にもなります。

咳の様子や症状をよく観察し、気になることがあれば早めに医療機関を受診して、適切な治療につなげましょう。

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