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夜だけ咳が出るときの原因・対策・受診の目安

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月22日

昼間はなんともないのに、夜になると咳き込んで眠れない――そんな経験はありませんか?

夜間の咳は、風邪の名残や乾燥など一時的なものもありますが、数日から数週間続く場合には、体のどこかに原因が隠れていることがあります。

この記事では、「夜だけ咳が出る」原因を年齢別に整理し、家庭でできる工夫や、受診の目安をわかりやすく解説します。

「この程度なら様子を見ても大丈夫?」と迷ったときの判断材料として、ぜひ参考にしてください。

1. 夜だけ咳が出る主な原因(大人編)


夜間に咳が出る原因はさまざまですが、大人に多い代表的な原因を理解することで、対処や受診のきっかけがつかみやすくなります。

1-1. 喘息・咳喘息・アトピー咳嗽

昼間は落ち着いているのに、夜や明け方にだけ咳き込む場合、喘息や咳喘息、アトピー咳嗽(がいそう)など呼吸器の病気の可能性があります。

喘息は、咳のほか、息苦しさや喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼーゼーといった呼吸音)と伴うことがあります。

◆「喘息」について詳しく>>

咳喘息は、喘息によくある症状である息苦しさや喘鳴がみられず、咳だけが続くため、風邪だと思い込んで放置されやすい傾向があります。

◆「咳喘息」の診断が難しい理由とは?>>

アトピー咳嗽は、アレルギー反応による気道の知覚過敏が主因とされる病気です。

◆「アトピー咳嗽」についてもっと詳しく>>

これらの咳は、市販の咳止め薬や風邪薬では改善せず、長引くことが多いです。

1-2. 後鼻漏

後鼻漏(こうびろう)とは、鼻水が喉の奥に流れ込んでしまうことで咳が出る状態のことです。

【参考情報】『Postnasal Drip』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/23082-postnasal-drip

横になると鼻水が喉にたまりやすいため、夜、寝るために横になると咳が出やすくなります。

後鼻漏の原因としては、副鼻腔炎やアレルギー性鼻炎などが挙げられます。

◆「副鼻腔炎」とはどんな病気?>>

鼻の症状がはっきりしなくても、喉の違和感や痰がからむ感じが続く場合は、後鼻漏が関係していることがあります。

1-3. 胃食道逆流症

夜寝ているときや食後に咳がよく出る場合は、胃食道逆流症の可能性があります。

【参考情報】『Gastroesophageal reflux disease (GERD)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gerd/symptoms-causes/syc-20361940

胃食道逆流症になると、横になったときに胃酸が逆流して喉を刺激し、その刺激で乾いた咳が出やすくなります。

咳のほか、胸やけ、喉の違和感、声のかすれなどの症状を伴うこともあります。

原因としては、ストレス、食べすぎ・飲みすぎ、加齢による筋力の低下などが考えられます。

胃食道逆流症の場合、夕食は寝る3時間前までに済ませ、枕を少し高くして寝ると、症状がやわらぐことがあります。

◆「胃食道逆流症」についてもっと詳しく>>

1-4. 薬の副作用

高血圧や心臓病の治療薬に含まれるACE(エース)阻害薬の副作用として、乾いた咳が出ることがあります。

【参考情報】『Angiotensin-converting enzyme (ACE) inhibitors』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/high-blood-pressure/in-depth/ace-inhibitors/art-20047480

夜になると、薬に含まれる気道を刺激する物質(ブラジキニンなど)が体内に蓄積されることで、咳が出やすくなります。

薬を中止すると数日〜数週間で改善しますが、自己判断で中止せず、必ず主治医の指示を受けましょう。

2. 子どもの夜の咳の原因と注意点


子どもの夜間の咳は、大人と同じように咳喘息や後鼻漏が原因のことも多いのですが、年齢特有の原因や注意点もあります。

2-1. アデノイド肥大・扁桃肥大

アデノイドや扁桃は、喉や鼻の奥にあるリンパ組織で、成長途中の子どもでは大きくなることがあります。

【参考情報】『Adenoids』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/23181-adenoids

寝ているときに、これらにふさがれ気道が狭くなると、鼻水が喉にたまりやすくなって咳が出ることがあります。

アデノイドや扁桃の影響で夜に咳が出る場合、いびきも多いことがあります。

2-2.気道の過敏性

子どもの気道は大人に比べて細くて敏感なため、ちょっとした刺激でも反応しやすく、寝ているときに刺激を受けると咳が出ることがあります。

この場合、咳は成長とともに少しずつ落ち着いてくることが多いです。

2-3.気道に異物が入った

小さな子どもは、豆などの小さな食べ物や、小さなおもちゃの部品を誤って飲み込んでしまうことがあります。

その場合、昼間はあまり目立たなくても、寝ているときに気道が刺激されて夜だけ咳が出ることがあります。

【参考情報】『お豆やスナック等を吸い込んでしまった』白クマ先生の子ども診療所(日本医師会)
https://www.med.or.jp/clinic/kega_nanikawosuikonda.html

2-4.アレルギー反応

寝具やカーペット、ソファにたまったダニやホコリなどに対して、子どもの体は大人より敏感に反応することがあります。

その結果、寝ているときに喉や気道が刺激され、夜だけ咳が出ることがあります。

◆「ソファで喘息が悪化?」>>

3. 高齢者の夜の咳の原因と注意点


高齢者の夜間の咳は、加齢による体の衰えが原因となることがあります。

3-1.呼吸器の衰えや肺の病気

年をとると肺の弾力や気道の働きが弱くなるため、横になったときに気道の中の痰や分泌物が喉に刺激を与え、夜だけ咳が出ることがあります。

さらに、COPD(慢性閉塞性肺疾患)や肺の病気がある場合は、こうした夜間の咳が続くことが多く、症状が悪化すると呼吸のしづらさも伴うことがあります。

◆「COPD」について詳しく>>

3-2.胃酸の逆流

年をとると、胃と食道のつなぎ目の筋肉(下部食道括約筋)が弱くなるため、横になると胃酸が喉や気道に逆流しやすくなり、その刺激によって、夜間に乾いた咳が出ることがあります。

この場合、咳のほか、胸やけや喉の違和感、声のかすれを伴うこともあります。

3-3.薬の副作用

高齢になると高血圧や心臓病などで薬を服用していることが多いため、ACE阻害薬の副作用としての咳が目立つようになります。

3-4.誤嚥性肺炎

年をとると、飲み込む力や喉の動きが弱くなり、唾液や食べ物、胃の内容物が気道に入ってしまうことがあります。これを誤嚥(ごえん)と言います。

誤嚥により気道に入った食べ物などが肺に刺激を与えて炎症を起こすと、夜間に咳が出ることがあります。

初めは軽い咳だけの場合もありますが、痰がからんだり、発熱や呼吸のしづらさが出ることもあるため、長引く咳や強い咳がある場合は早めに医療機関で診てもらうことが大切です。

◆「誤嚥性肺炎」を防ぐには?>>

4. 夜間の咳を悪化させる生活環境とその対策


夜だけ咳が出る場合、病気そのものだけでなく、生活環境が症状を悪化させていることも少なくありません。

寝室の空気や習慣を見直すだけで、咳が落ち着くケースもあります。

4-1. 室内の乾燥と温度差

乾燥した空気は喉の粘膜を刺激して咳を出しやすくします。特に冬やエアコン使用時は湿度が30%以下になることもあり、喉が乾いた状態になりやすいです。

理想的な室内の湿度は40〜60%です。加湿器のほか、濡れタオルや洗濯物を室内に干すだけでも簡単に湿度を上げられます。

◆「加湿器を選ぶポイントと注意点」>>

また、冷たい空気を吸うと咳が出やすくなるため、寝室の温度を20〜22℃に保つほか、マスクで喉を守るのも効果的です。

◆「マスクの付け方と選び方」>>

4-2. 寝る前の食事・飲酒・喫煙

食後すぐに寝ると、胃酸が逆流して咳を引き起こすことがあります。食事は寝る2〜3時間前までに済ませるようにしましょう。

また、アルコールは胃酸の分泌を増やし、喉を乾燥させます。タバコの煙も気道を刺激して咳を悪化させます。

「寝る前の一杯」や「就寝前の一服」は夜の咳の原因になりやすいため控えると、翌日の喉の違和感が軽くなることがあります。

4-3. アレルゲン(ダニ・ハウスダスト)の影響

寝具やカーペットには、目に見えないホコリやダニがたくさん潜んでいます。これらがアレルギー反応を起こすと、夜に咳が出やすくなることがあります。

布団やシーツ、枕カバーは週に1回を目安に洗濯し、布団乾燥機や掃除機で清潔を保ちましょう。寝具は通気性の良い素材を選ぶとさらに効果的です。

また、空気清浄機のフィルターも定期的に掃除して、アレルゲンの再拡散を防ぐことが大切です。

◆「空気清浄機でアレルゲンは減らせるのか」>>

4-4. 姿勢と呼吸の関係

横になると、鼻水や胃酸が喉に流れ込みやすくなり、咳が出やすくなります。上半身を少し起こして寝ると、気道への圧迫が減り、呼吸が楽になります。

背中にクッションを当てたり、抱き枕を使ったりして、自分に合った寝姿勢を工夫してみましょう。

5. 受診を検討すべきサインと診療科の選び方


環境を整えても咳が2週間以上続く場合は、呼吸器や鼻、胃の疾患が背景にある可能性があります。

この章では、受診を検討すべきサインと、適切な診療科の選び方を紹介します。

5-1. こんな症状があれば受診を

次のような症状がある場合は、医療機関での診察をおすすめします。


 ・夜になると毎日のように咳き込む

 ・咳が2週間以上続いている

 ・息を吸い込むと胸が苦しい、息苦しさを感じる

 ・咳とともに「ヒューヒュー」「ゼーゼー」という呼吸音がする

 ・市販の咳止め薬を使っても改善しない

 ・痰に血が混じる

 ・体重が減っている


これらの症状がある場合、一見軽い咳でも呼吸機能が低下している可能性があるため、放置せず呼吸器専門医の判断を受けましょう。

◆「呼吸器内科とはどんなところ?」>>

5-2. 受診すべき診療科

咳の原因が複数にまたがるケースもあるため、どこに行くべきか迷うときは、まず呼吸器内科に相談するのが安心です。

呼吸器内科では、呼吸機能検査や胸部レントゲン検査などを通して、咳の原因を多角的に評価します。

<呼吸器内科>
最も推奨される診療科。喘息・咳喘息・アレルギー性の咳など、咳に関する問題を総合的に診断。

<耳鼻咽喉科>
鼻水や後鼻漏など、鼻の症状が強い場合に有効。

<内科・小児科>
症状が軽い場合など、初期症状の診察に適しています。

◆「呼吸器内科で行う検査の流れ」>>

5-3. 受診時に伝えたいポイント

診察の際には、以下の情報をメモしておくと診断がスムーズです。

 ・咳の出る時間帯(夜・明け方など)

 ・咳の性質(乾いた咳・痰がからむ咳)

 ・咳が出るきっかけ(横になる/冷気/食後など)

 ・服用中の薬や既往歴

 ・喫煙歴

 ・アレルギーの有無

こうした情報があることで、医師が「気道由来」「鼻由来」「胃由来」など、咳の原因を早く見極められます。

6. 夜の咳に関するよくある質問


Q1. 夜だけ咳が出るとき、寝る前に咳止め薬を飲んだほうがいいですか?
咳の原因によって有効な薬が異なるため、市販薬を使っても改善しないこともあります。

例えば咳喘息やアトピー咳嗽では、医師が処方する気管支拡張薬や抗アレルギー薬が必要な場合があります。

Q2. 夜の咳は風邪の後でも続くことがありますか?
風邪が治ったあとでも、咳だけが残ることがあります。

ただし2週間以上続く場合は、別の原因が潜んでいる可能性があるため受診を検討してください。

Q3. 夜だけ咳が出ても、昼間元気なら心配ありませんか?
昼間症状がなくても、咳喘息や胃食道逆流症など見逃しやすい病気が潜んでいることがあります。

咳喘息の場合、未治療のまま放っておくと喘息に移行する場合もあるため、2週間以上咳が続いているなら受診をおすすめします。

Q4. 夜だけ咳が出る場合、空気清浄機は効果がありますか?
ダニやホコリなどのアレルゲンを減らす効果はありますが、咳の原因が胃食道逆流症や薬の副作用などの場合には根本的な改善にはなりません。

7. おわりに:夜の咳が長引くときは

夜になると咳が出て眠れない――その状態が続くと、心も体も疲れてしまいます。

昼間は平気だと、「大丈夫」と思いがちですが、夜だけ咳が出る背景には、治療が必要な病気が隠れていることもあります。

市販の咳止め薬は、一時的に症状をやわらげることはできますが、原因そのものを治すわけではありません。

2週間以上咳が続く場合や、夜間に毎日咳き込む場合は、自己判断での薬の使用を控え、医師に相談しましょう。

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