咳喘息の症状があるのに診断されない理由
咳が長引いているけれど、病院では風邪やアレルギーだと診断され、薬を飲んでもよくならない……そんな人は、咳喘息の疑いがあります。
喘息では、咳のほかに息苦しさや特徴的な呼吸音が見られますが、咳喘息の症状は「咳」だけなので、病気が見逃されることも少なくありません。
この記事では、咳喘息が診断されにくい理由と、適切な診断・治療を受けるためのポイントを解説します。
目次
1.咳喘息とはどんな病気か
咳喘息は、喘息とよく似た病気ですが、喘息の症状である息苦しさや喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー・ゼイゼイという呼吸音)はなく、咳だけが長く続く病気です。
この病気になると、一度咳き込むと止まらなくなったり、咳が激しくて夜も眠れなくなるなど、しつこい咳に悩まされます。
咳喘息の原因は明らかになっていませんが、自分や血縁者にアレルギーの素因(アトピー素因)があると、発症しやすい傾向があります。また、風邪やコロナなどの呼吸器感染症をきっかけに発症することがあります。
2.咳喘息を疑う症状
咳が2週間以上続き、喘息のような息苦しさや喘鳴はない人で、以下のような症状がある場合は、咳喘息の疑いがあります。
・夜間から早朝にかけて咳がひどくなる
・風邪やコロナにかかった後、咳だけが続いている
・季節の変わり目や寒暖差が激しい日に症状が悪化する
・煙、強い香り、冷たい空気などの刺激で咳が出る
・ペットに近づくと咳が出る
・咳は出るが、痰はほとんど絡まない
・喉にイガイガ、ムズムズなど違和感がある
・市販の風邪薬や咳止め薬が効かない
咳が2週間以上続く病気はたくさんありますが、鼻水や鼻づまり、発熱など他の症状がないときは、風邪のような感染症ではないことが多いでしょう。
3.咳喘息の診断
咳喘息は、以下のような基準を用いて総合的に判断します。
・咳だけが2週間以上続いている
※厳密には8週間以上が診断基準ですが、多くの病院では2~3週間以上を目安としています
・咳以外に喘息の症状がない
・これまで喘息と診断されたことがない
・喘息治療に用いる気管支拡張薬で症状が改善する
咳喘息の診断基準の一つに、咳が8週間以上続くという条件があります。しかし、それほど長期間咳を放置するのは、患者さんにとって大きな負担です。
そのため、2週間以上咳が続いていたら、病院を受診することをおすすめします。
4.なぜ咳喘息の診断は難しいのか
咳喘息は、呼吸器内科ではよく診る病気です。しかし、正確な診断が難しい病気でもあります。
この章では、咳喘息の症状があっても診断されない理由を紹介します。
4-1.咳が出る病気が多い
咳は主に呼吸器の病気で起こりますが、呼吸器以外の病気が原因となることもあります。そのため、咳だけで病気を特定するのは難しいのです。
例えば、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎のような鼻の病気では、鼻水が喉に流れ込む後鼻漏(こうびろう)が原因で咳が出ることがあります。
【参考情報】『アレルギー性鼻炎』国立成育医療研究センター
https://www.ncchd.go.jp/hospital/sickness/children/allergy/allergic_rhinitis.html
また、心臓の病気でも、心臓の機能が低下することで血液が肺などに溜まり、その水分を痰として排出するために咳が引き起こされます。
【参考情報】『心不全で咳や痰がでるのはなぜですか?』心不全のいろは
https://heart-failure.jp/faq/answer-024/
その他、胃食道逆流症(GERD)やストレス、高血圧治療薬であるアンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACE阻害剤)の副作用が原因で咳が出ることがあります。
【参考情報】『Gastroesophageal Reflux Disease (GERD)』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/conditions-and-diseases/gastroesophageal-reflux-disease-gerd
4-2.呼吸器疾患の初期症状が似ている
呼吸器の病気には、風邪のような身近な感染症から、肺がんのような重篤な病気までありますが、そのほとんどに咳の症状が見られます。
このように、呼吸器疾患の初期症状が似ているため、診断には医師の専門的な知識と豊富な経験が必要です。
特に咳喘息は、咳以外の症状がないので、問診や検査が不十分だと、風邪やアレルギーと誤診される可能性があります。
もし、風邪と診断されて咳止め薬を処方されても、咳喘息にはほとんど効果がないでしょうし、かえって症状が悪化する恐れもあります。
また、呼吸器疾患の診断に有用な検査機器が導入されていない病院では、正確な診断が難しいこともあるでしょう。
5.咳喘息の検査
咳喘息の診断では、他の呼吸器疾患との鑑別のため、また、肺や気道の状態を確認するため、以下のような検査を行うことがあります。
5-1.画像検査
レントゲン(X線)で胸部の画像を撮影し、状態を確認します。咳喘息の場合、画像に異常は認められませんが、よく似た症状が現れる他の病気が隠れている可能性もあるので、慎重に診断を進めることが重要です。
5-2.血液検査
アレルギーの有無や、原因となる物質(アレルゲン)を調べることができます。また、感染症の可能性についても確認できます。
5-3.呼吸機能検査
気道の状態や呼吸機能を確認するために行う、専門的な検査です。
<呼気NO検査>
吐いた息の中に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する検査です。喘息や咳喘息で気道に炎症があると、数値が高くなる傾向があります。
<スパイロメトリー>
息を吸ったり吐いたりすることで、呼吸の機能を調べる検査です。咳喘息では数値が正常であることも多いのですが、喘息だと数値が低くなる場合があります。
<モストグラフ>
呼吸時の息の吐きだしにくさである「気道抵抗」を評価する検査です。喘息や咳喘息の患者さんは、気道抵抗が強くなる傾向があります。
5-4.気管支拡張薬の吸入
咳喘息の患者さんは、喘息の治療に用いる気管支拡張薬を吸入すると、症状が緩和されます。
気管支拡張薬を用いても症状が良くならない場合は、別の病気の可能性を検討します。
6.咳喘息の治療
咳喘息の治療には、喘息の治療薬を用います。
6-1.吸入ステロイド薬
咳喘息で生じる気道の炎症を抑える薬です。レルベア、シムビコート、フルティフォームなどの種類があります。
6-2.気管支拡張薬
気管支を拡げて呼吸をラクにする薬です。テオドール、テオロング、スピロペントなどの種類があります。
6-3.抗アレルギー薬
アレルギー反応を抑える薬です。キプレス、シングレア、オノンなどの種類があります。
7.咳喘息から喘息に移行するのか
咳喘息を治療しないで放っておくと、そのうち30%程度が喘息に移行するとされています。
喘息が進行すると、最悪の場合、大きな発作を起こして命にかかわることもあります。ですから、咳喘息と診断されたら、喘息への移行を防ぐためにも、しっかりと治療を行いましょう。
治療開始後、1~2週間で咳が減ってきますが、まだ治ってはいません。ここで「治った」と勘違いして治療を中断してしまうと、また咳がひどくなります。
8.おわりに
咳喘息が疑われる場合は、呼吸器内科を受診して専門的な検査を受けることをおすすめします。
咳喘息の症状は、一般的な咳止め薬ではよくならないので、病院で処方される喘息の治療薬を服用する必要があります。
症状が出なくなっても、3~6カ月程度は治療を続ける必要があるので、自己判断で治療を中断したり、薬の量や回数を減らすことは絶対にしないでください。
早期に適切な治療を受けることで、不快な症状をやわらげ、喘息への移行を防ぎましょう。