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喘息は完治する?しない?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年12月24日

喘息の症状が落ち着き、発作が出ない状態が続くと、このまま治るのでは?と感じる人は少なくありません。

実は、「喘息が治る」という言葉から思い浮かべる状態は、人によって異なります。

発作がまったく起こらなくなることを指す場合もあれば、吸入薬を使わずに生活できる状態を想定する人もいます。

また、咳や息苦しさを気にせず、仕事やができるようになることを「治った」と考えるケースもあるでしょう。

あるいは、子どもの頃に喘息があり、成長とともに症状が出なくなった経験から、自然に治る病気という印象を持っている人もいるかもしれません。

この記事では、喘息は完治するのか?という疑問について、医学的な視点から整理して説明します。

1. 喘息は完治するのか?


喘息は、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が続く病気です。この炎症が完全になくなり、その後も再発する心配がない状態になれば「完治した」と呼ぶことができます。

しかし現在の医療では、気道の炎症が本当にすべて消えたのか、今後も二度と発作が起きないかを確実に確認する方法はありません。そのため、長期間にわたってまったく症状がない人であっても、完治したと断言するのは難しいのが現実です。

症状がない期間が続いていても、気道の奥にはわずかな炎症や過敏性が残っていることがあります。このため医療現場では、「完治したかどうか」よりも、「発作が起きていないか」「日常生活に支障がないか」「治療内容は適切か」といった点を重視します。

一方で、治療によって症状を十分に抑えることは可能です。吸入薬などを適切に使用することで炎症が落ち着き、発作が起こらず、日常生活をほぼ通常どおりに送れる人は多くいます。

このような状態は「症状がコントロールされている」と表現され、喘息治療における現実的かつ重要な目標とされています。

【参考情報】『Controlling Asthma』CDC
https://www.cdc.gov/asthma/control/index.html

2. 喘息の基本的な病態


喘息を正しく理解するためには、症状だけでなく、体の中で何が起きているのかを知ることが重要です。

2-1.気道の慢性炎症とは何か

喘息では、空気の通り道である気道が、常に炎症を起こしやすい状態にあります。発作が出ていないときでも炎症は続いており、気道の粘膜は刺激に敏感になっています。

そのため、冷たい空気やホコリ、花粉、タバコの煙などのわずかな刺激でも気道が反応しやすくなります。こうした状態を、喘息の「慢性的な炎症」と呼びます。

◆「気道の炎症」についてくわしく>>

2-2.発作が起こる仕組み

炎症がある気道に刺激が加わると、筋肉が収縮し、気道は一気に狭くなります。さらに粘膜が腫れて痰が増え、空気の通り道はますます塞がれます。

すると、咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー・ヒューヒューという)といった症状が現れ、喘息発作が起こります。

◆「喘鳴」についてもっとくわしく>>

2-3.アレルギー型・非アレルギー型の違い

喘息は、原因の違いによって大きく「アレルギー型」と「非アレルギー型」に分けられます。

アレルギー型は、ダニやハウスダスト、花粉、動物の毛などのアレルゲンが引き金となって発作が起こります。小児期に発症することが多く、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎を併発しやすいのが特徴です。

◆「喘息とアトピー、アレルギーの関係」>>

一方、非アレルギー型は、はっきりしたアレルゲンが見つからないタイプです。風邪などの感染症、気温の変化、ストレス、運動などがきっかけとなることが多く、成人になってから発症するケースも少なくありません。

ただし、どちらのタイプでも、気道に慢性的な炎症が続いている点は共通しています。そのため、治療の基本的な考え方に大きな違いはありません。

3. 小児喘息と成人喘息の違い

喘息総患者数グラフ

【参考情報】『統計調査』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei_hakusho/toukei/index.html

小児期に発症する喘息と、成人になってから発症した喘息では、それぞれ経過も変わってきます。

3-1.小児喘息は成長とともに改善・寛解することがある

小児喘息では、成長の過程で症状が軽くなったり、発作が出なくなる人も一定数います。思春期から成人期にかけて、治療を続けなくても症状が落ち着くケースも少なくありません。

【参考情報】『Remission of persistent childhood asthma: Early predictors of adult outcomes』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30445065/

症状が落ち着く理由は完全には分かっていませんが、気道や体の成長、免疫の働きの変化などが影響していると考えられています。

◆「小児喘息はいつ治る?」>>

こうした状態で、薬を使わなくても発作が起きない期間が続くことを「寛解(かんかい)」と呼びます。将来、再び症状が出る可能性はゼロではありませんが、症状が落ち着いている期間を活かし、医療機関と相談しながら生活習慣や治療を整えることで、より安定した状態を長く保つことが期待できます。

3-2.成人喘息は完全に治ることは少ない

成人喘息では、気道に慢性的な炎症が残りやすく、症状が完全になくなることはあまり多くありません。加齢や喫煙歴、肥満、ストレス、仕事環境、感染症など、さまざまな要因が重なって発作や症状に影響するためです。

◆「喘息が肥満で発症・悪化する危険性」>>

小児喘息でも炎症はありますが、成長に伴って症状が軽くなったり、発作が出なくなることがあります。成人の場合は、気道の状態が比較的安定しているため、小児ほど自然に症状が改善することは少なく、炎症が残りやすくなるのです。

【参考情報】『Asthma in Children and Adults—What Are the Differences and What Can They Tell us About Asthma?』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6603154/

そのため、成人喘息では「完全に治す」ことを目標にするよりも、吸入薬や生活習慣の工夫で症状をしっかりコントロールし、発作を防ぎながら日常生活を快適に過ごせる状態を目指すことが現実的で大切です。

◆「大人の喘息」についてくわしく>>

3-3.小児喘息が成人後に再発するケース

子どもの頃に喘息があり、その後長い間症状が出なかった人でも、大人になって再び喘息症状が現れることがあります。きっかけとしては、風邪や感染症、強いストレス、妊娠・出産、生活環境の変化などが関係する場合があります。

このようなケースでは、全く新しく喘息になったわけではなく、子どもの頃の喘息が再び表に出てきたと考えられることが少なくありません。喘息は経過が長い病気で、症状がない時期があっても、気道の過敏性や体質としての影響が残っていることがある点が重要です。

【参考情報】『Asthma in remission: can relapse in early adulthood be predicted at 18 years of age?』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/15764766/

4. 喘息が改善・安定しやすい人の特徴


喘息は体質や環境の影響を受けやすい病気ですが、適切な対応を続けることで、症状が出ない状態を長く安定させやすくなります。

この章では、比較的コントロールが良好になりやすい人に共通するポイントを整理します。

4-1.早期診断・早期治療

喘息は、気道の炎症が軽いうちに治療を始めるほど、症状の悪化を防ぎやすくなります。

咳や息苦しさなどの初期症状が現れた段階で早めに診断・治療を受けると、気道のダメージが蓄積しにくく、発作の回数や重症度を抑えやすくなります。

◆「喘息の初期症状」をチェック>>

一方で、診断や治療が遅れ、炎症が長く続くと、気道の壁が厚く・硬くなる「気道のリモデリング」という変化が起こることがあります。

【参考情報】『Airway Remodeling in Asthma』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7253669/

気道のリモデリングが進むと、治療の効果が出にくくなり、喘息が重症化しやすくなります。そのため、咳や息苦しさが軽くても早めに医療機関で相談し、適切な治療と生活管理を始めることが重要です。

◆「重症の喘息」について>>

4-2.吸入薬の正しい継続使用

喘息治療の基本は、気道の炎症を抑える吸入薬の使用です。

吸入ステロイド薬は、発作を予防し、症状を安定させる効果があるため、症状が軽くなっても医師の指示どおりに継続して使用することが重要です。

◆「吸入薬の種類と特徴」>>

継続使用できている人ほど、長期的に症状が安定しやすく、発作のリスクも低くなる傾向があります。

一方で、症状が落ち着いた段階で「治った」と思い込み、自己判断で吸入薬を中断すると、気道の炎症が再び強まり、発作が起こりやすくなることがあります。

また、吸入の方法が正しくないと、薬が十分に気道に届かず、効果が十分発揮されないことがあります。

◆「喘息の薬が効かないときに考えられる理由」>>

4-3.発作誘因(アレルゲン・感染・ストレス)の管理

喘息の発作は、多くの場合、以下のようなきっかけによって誘発されます。

 ・ダニ

 ・ハウスダスト

 ・カビ

 ・タバコの煙

 ・花粉

 ・気温や天気の急な変化

 ・強いストレスや疲労

 ・風邪などの呼吸器感染症

◆「呼吸器感染症の主な種類と予防法」>>

こうした発作の引き金が分かれば、生活環境の調整や体調管理といった対策が取りやすくなります。

例えば、「花粉の時期にはマスクや空気清浄機を活用する」「風邪の流行時期には手洗いやうがいを徹底する」「睡眠や休養を十分に確保して疲労をためない」「ストレスを軽減する習慣を取り入れる」などです。

◆「ストレスが喘息に及ぼす影響とは?」>>

長期的に症状をコントロールするためには、医師の指導のもとで薬物療法を行いながら、自分の生活パターンや環境に合った予防策を積み重ねることが大切です。

5. 症状がなくても受診するメリット


喘息では、症状が強いときだけでなく、症状がない時期の受診も重要です。

5-1.症状が落ち着いているときこそ受診が重要

咳や息苦しさがなくなると、通院を後回しにしてしまう人は少なくありません。しかし、喘息は症状が出ていない間も気道の炎症が残っていることがあり、見た目だけでは病状を正しく判断できません。

症状が落ち着いているときこそ、治療の効果を確認することが大切です。また、安定期に通院することで、自分では気づきにくい微妙な症状の変化や呼吸機能の低下も早めに発見できます。

こうした定期的な確認は、将来の発作を防ぎ、日常生活を安心して送るための重要なステップとなります。

◆「喘息が定期通院を必要とする理由」>>

5-2.症状の改善を確認

喘息のコントロール状態を正確に把握するには、呼吸機能検査など専門的な検査が必要です。

◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査について」>>

このような検査により、自覚症状だけでは分かりにくい微妙な変化も把握することが可能です。

さらに、日常生活での症状、夜間の咳や息苦しさの有無、発作治療薬(リリーバー)の使用回数なども、コントロールの状態を判断する重要な材料です。

これらの情報を総合して、「症状が安定しているか」「治療の調整が必要か」を医師が評価します。

5-3.治療方針を見直すタイミング

喘息の治療方針は、発作の回数が増えた場合だけでなく、生活環境や体調の変化があったときにも見直しを検討する必要があります。

たとえば、仕事が変わったり、引っ越しなどの変化で症状の出方も変わることがあります。こうした変化に応じて、薬の種類や量を調整することが必要になる場合があります。

また、長期間症状が安定している場合には、医師の判断で薬の調整や減量を行うことがあります。

そのため、定期的に医療機関で相談しながら治療方針を調整することが、喘息を長く安定させ、日常生活の質を維持するために重要です。

6.おわりに

喘息は、適切な治療と日常管理を続けることで、症状を長く安定させることができる病気です。発作を繰り返す病気というイメージが強い一方で、現在は治療の選択肢も広がり、多くの人が日常生活に大きな支障なく過ごせるようになっています。

そのためには、症状がない時期も含めて治療を継続し、正しい知識をもって病気を理解することが欠かせません。薬の使い方や生活上の注意点を確認しながら、無理のない形で管理を続けることが大切です。

医療機関と相談しながら状態を確認し、必要に応じて治療を調整していくことが、長く安定した生活につながります。

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