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睡眠時無呼吸症候群は完治する?治療のゴールと治療法

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月25日

睡眠時無呼吸症候群は、主に気道が狭くなることが原因で、睡眠中に呼吸が何度も止まったり弱くなったりすることを繰り返す病気です。

眠っている間に症状が出るので、本人は気付かないことが多いものの、早期発見と適切な治療で症状は大きく改善し、睡眠の質や日常生活の質を取り戻すことができます。

継続して治療や生活習慣の改善に取り組めば、日中の強い眠気やいびきが軽くなるだけでなく、心筋梗塞など重い合併症の予防にもつながります。

そのためにも、治療の意味を理解し、確実に良くなる部分があるという点を認識したうえで、納得しながら続けることが大切です。

1.睡眠時無呼吸症候群治療のゴール


睡眠時無呼吸症候群の治療の目的は、日中の眠気などの症状を改善し、事故や病気のリスクを下げ、健康な人と同じように生活できる状態を目指すことです。

また、症状を抑えるだけでなく、長期的に合併症を予防し、生活の質(QOL)を維持・向上させることが重要です。

1−1.改善したい症状

睡眠時無呼吸症候群でよく見られる症状は次のとおりです。

 ・睡眠中に断続的に起こる無呼吸および低酸素状態

 ・激しいいびき

 ・日中の強い眠気や倦怠感

 ・集中力低下、仕事中のパフォーマンス低下

 ・起床時の頭痛や疲労感

 ・夜間の頻尿

 ・イライラしやすくなる、気分の落ち込み

特に日中の眠気や集中力低下は、仕事や運転、学業に影響しやすく、生活全般の質にも直結します。

◆「そのいびき、病気のせいかもしれません」>>

1−2.予防したい合併症

治療を行わず放置すると、以下のような全身の健康リスクにつながります。

 ・高血圧

 ・脳卒中

 ・心筋梗塞

 ・不整脈(心房細動など
 
 ・糖尿病の悪化、インスリン抵抗性の上昇

 ・認知機能の低下や認知症リスク上昇

これらは命に関わる可能性のある疾患であり、長期間の未治療は特に危険です。

【参考情報】『The Dangers of Uncontrolled Sleep Apnea』Johns Hopkins Medicine
https://www.hopkinsmedicine.org/health/wellness-and-prevention/the-dangers-of-uncontrolled-sleep-apnea

◆「睡眠時無呼吸症候群の合併症」についてくわしく>>

1−3.人間関係・社会面への影響

また、無呼吸による睡眠不足は、以下の社会的問題を引き起こすことがあります。

 ・強いいびきによる家族やパートナーの睡眠妨害

 ・パフォーマンス低下による仕事や人間関係への悪影響

 ・日中の眠気による交通事故や仕事中のトラブル

【参考情報】『Driving When You Have Sleep Apnea』Federal Motor Carrier Safety Administration
https://www.fmcsa.dot.gov/sites/fmcsa.dot.gov/files/docs/Driving-Sleep-Apnea_508CLN.pdf

治療の成果を測る指標として使われるAHI(無呼吸・低呼吸指数)は5未満が理想的とされています。これを目標に継続的な治療を行っていきましょう。

◆「AHI」とは>>

2.いつまで治療を続ければいいのか

CPAPなどの装置による治療は、気道の閉塞を防ぎ、無呼吸を抑えるための対症療法であり、病気自体を根本的に治すものではありません。そのため、多くの場合は長期的に継続する必要があります。

特に、中等度〜重症の方は、治療を中断すると数日以内に無呼吸が再発し、日中の眠気や血圧上昇などの症状が元に戻ることが確認されています。

2-1.減量で治療が不要になるケースもある

肥満が主な原因の場合、適切な減量により症状が大きく改善し、軽症〜中等症の場合はCPAPでの治療を中止できるケースもあります。

ただし、体重が再び増えると症状が戻りやすく、治療の再開が必要になることが多いため、減量後も体重管理の継続が重要です。

◆「肥満と減量」について>>

2-2.自己判断での中断は禁物

治療によって症状が改善すると「治った」と思いがちです。しかし、調子が良くなったからといって自己判断で治療を中断すると、以下の状態に戻ってしまいます。

 ・無呼吸が再発

 ・睡眠の質が低下

 ・合併症リスクの再上昇

また、治療の中断と再開を繰り返すと、治療への適応が難しくなり、睡眠の質が安定しない原因にもなります。

2-3.完治は難しいが、通常の生活は可能

現時点の医学では、睡眠時無呼吸症候群は完治が難しい病気とされています。

しかし、適切な治療と生活習慣の改善を継続すれば、症状を十分にコントロールし、健康な人と変わらない日常生活を送ることができます。

治療は「終えるもの」ではなく、「継続して健康を支えるもの」という考え方で取り組むことが重要です。

【参考情報】『Weight loss, breathing devices still best for treating obstructive sleep apnea』Harvard Health Publishing
https://www.health.harvard.edu/blog/weight-loss-breathing-devices-still-best-for-treating-obstructive-sleep-apnea-201310026713

3.睡眠時無呼吸症候群の主な3つの治療法

睡眠時無呼吸症候群の治療では、CPAPなどの装置で症状をやわらげるとともに、病気の原因となる健康状態を改善したり、症状を悪化させる生活習慣を見直すことも大切です。

3−1.無呼吸状態を防ぐ装置

睡眠中に呼吸が止まったり、酸素が不足する状態を防ぐためには、主に以下の3つが治療に用いられます。


<CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)>
最も一般的な治療法です。鼻や口に装着したマスクから空気を送り、気道を広げた状態に保つことで、無呼吸や低呼吸を防ぎます。

重症~中等症の閉塞性睡眠時無呼吸症に特に有効で、継続使用により睡眠の質や日中の眠気が大幅に改善します。

◆「CPAP」について詳しく>>


<ASV(適応型サーボ換気)>
脳や神経の問題で発症する中枢性睡眠時無呼吸症候群で用いられる治療法です。呼吸の状態に合わせて機械が自動で圧力と換気量を調整し、安定した呼吸を維持します。

◆「ASV」とはどのような機器か>>


<マウスピース(口腔内装置)>
軽症~中等症の患者用の治療で、下あごを前に出した状態に固定することで気道を広げ、いびきや無呼吸を軽減します。

◆「マウスピース」の情報をチェック>>


これらの治療法を適切に継続することで、いびきや無呼吸が改善し、睡眠の質が向上します。

また、合併症のリスクも、治療を行っていない場合と比べて低減できることが明らかになっています。

3−2.肥満、病気の改善

医師から肥満を指摘された場合は、まず食事内容や生活習慣、運動量を見直し、適切な減量に取り組むことが重要です。

体脂肪が減ることで上気道が狭くなりにくくなり、無呼吸の改善が期待できます。ただし、急激な食事制限や過度な運動は体調を崩しやすく、リバウンドの原因にもなるため避けてください。

主治医や管理栄養士と相談し、1〜2kgずつ緩やかに減らすペースがおすすめです。

◆「当院の栄養カウンセリングについて」>>

また、慢性副鼻腔炎、アレルギー性鼻炎、扁桃肥大など、鼻や喉の疾患があると気道が狭くなり、無呼吸やいびきが悪化しやすくなります。

【参考情報】『成人の扁桃肥大による睡眠時無呼吸症候群』石塚洋一・平石光俊・小島千絵|帝京大学溝口病院耳鼻咽喉科
https://www.jstage.jst.go.jp/article/stomatopharyngology1989/16/3/16_3_275/_pdf

これらの病気を治療することで鼻呼吸がしやすくなり、睡眠の質が改善することがあります。思い当たる症状があれば耳鼻咽喉科の受診を検討してください。

◆「睡眠時無呼吸症候群と副鼻腔炎」の関係>>

まれではありますが、心不全や神経疾患などが背景にあるタイプ(中枢性睡眠時無呼吸)も存在します。その場合は、原因となる疾患の治療や管理が必要です。

【参考情報】『Central sleep apnea』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/central-sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20352109

治療選択肢は症状や原因により異なるため、医師と相談しながら最適な方法を進めてください。

3−3.生活習慣の見直し

お酒は筋肉をゆるめ、舌や喉の筋肉が下がりやすくなるため、無呼吸が起こりやすくなります。晩酌の習慣がある方は量を控え、就寝3時間前以降の飲酒は避けてください。

◆「飲酒」との関係>>

タバコは気道の炎症やむくみを引き起こし、いびきや無呼吸を悪化させます。禁煙は症状改善に直結するため、できるだけ早く取り組むことが大切です。禁煙外来の利用も一つの方法です。

◆「タバコ」との関係>>

眠りを深くしたいからと睡眠薬や精神安定剤を自己判断で使うと、呼吸が弱まり症状が悪化することがあります。服薬中の方は、初診時に薬を持参し、医師に相談してください。

◆「睡眠薬」について>>

寝具や寝姿勢を工夫するのも有効です。枕の高さを調整したり、横向き寝を取り入れると気道が確保されやすくなり、無呼吸が軽減することがあります。ま

◆「寝るときの姿勢」について>>

4.よくある質問


Q1.「完治した」と医師に言われたのですが、治療をやめても大丈夫でしょうか?
A.医師が「症状が改善した」と評価しても、それは現在の状態が良好という意味であって、原因そのものが完全に消えたわけではないことが多くあります。例えば気道の構造的な狭さや肥満の影響など根本原因が残っている場合、治療をやめることで再発するリスクが高まります。継続的な検査と観察が必要です。

Q2.外科手術によって気道の狭さが解消されたので、「完治した」と考えていいのでしょうか?
A.手術で明確な気道の狭窄部を改善できたケースでは、症状が大きく軽減する可能性はあります。しかし、上気道全体の狭さ、肥満、アレルギー性鼻炎、加齢による筋力低下など、複数の要因が関与している場合には「完治」とは言い切れません。術後も定期的に経過を診る必要があります。

Q3.体重を大きく減らしてAHI(無呼吸・低呼吸指数)が正常範囲になったので、もう治療を終了できますか?
A.AHIが改善したことは良い兆候ですが、体重が再び増えたり、加齢・筋力低下・鼻閉など別の要因が浮上すれば無呼吸が再発します。治療中止を検討するなら、十分な経過観察と原因の変化有無の確認が必要です。

Q4.CPAP装置を使っていて症状が出なくなったので、装置を卒業できる方法はありますか?
A.CPAP装置により呼吸を安定させ症状が出なくなっても、装置なしで同等の状態を維持できると判断できるケースは限定的です。装置をやめるには、原因の改善(減量・禁煙・鼻・喉疾患の治療)とともに再検査により無呼吸のリスクなしと確認された後となります。

Q5.「完治できる」とうたっている治療法(○○療法・サプリ等)を見つけたのですが、信じてもいいのでしょうか?
A.慎重な判断が必要です。医学的には、複数の要因が関与するこの病気を一つの治療で完全に消滅させるエビデンスは限定的です。減量・禁煙・鼻・喉疾患の改善・CPAPなど複合的に取り組むことが治療の基本です。特定の療法だけで「完治」を約束する宣伝には根拠が乏しい場合があります。

5.おわりに

睡眠時無呼吸症候群は、現時点の医学では完全に治って再発しない状態にするのは難しいとされています。

しかし、CPAPやASVなどの装置を用いた治療や、肥満改善、生活習慣の見直しを組み合わせることで、症状は大きく改善し、日中の強い眠気や疲労感を軽減できます。

心身の健康を守り、毎日ぐっすり眠れる生活を実現するためには、治療を中断せず、装置の使用や生活習慣改善を継続することが重要です。

完治は難しくても、適切な対策で通常の生活と変わらない日常を送れるようになることが、この病気の治療の目標です。

◆「当院の睡眠時無呼吸症候群の治療について」>>

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