咳止め市販薬の選び方!処方薬との違いも医師が解説

咳が止まらないとき、「市販薬と処方薬、どちらを選べばいいの?」と迷った経験はありませんか?
この記事では、呼吸器専門医が咳止め薬の市販薬と処方薬の違いを詳しく解説します。
正しい知識を身につけて、あなたの症状に最適な咳止め薬を選びましょう。
目次
1.咳止め薬の市販薬と処方薬の基本的な違い
市販薬と処方薬では、「入手方法と規制」「成分配合」「効果と安全性」という3つの点で違いがあります。
ここでは、それぞれの点で市販薬と処方薬がどのように違うのかを解説します。
1−1.入手方法と規制の違い
<市販薬(OTC医薬品)>
入手方法:薬局・ドラッグストアで処方箋不要で購入可能
規制分類:第1類、第2類、第3類医薬品に分類
販売者:薬剤師または登録販売者
価格:全額自己負担
<処方薬(医療用医薬品)>
入手方法:医師の処方箋が必要
規制:医薬品医療機器等法により厳格に管理
価格:健康保険適用(通常1-3割負担)
【参考情報】『市販薬と医療用医薬品の違い』恩賜財団 済生会
https://www.saiseikai.or.jp/feature/medicine_basic/articles/09/
1−2.成分配合の違い
<市販薬の特徴>
複数成分配合:1つの商品に複数種類の有効成分
汎用性重視:幅広い症状に対応
安全性優先:副作用のリスクを抑えた配合
<処方薬の特徴>
単一成分原則:1つの薬に1つの有効成分
症状特化:患者の症状に最適化
効果重視:より強力な成分を使用可能
1−3.効果と安全性の違い
<効果の違い>
市販薬:軽度から中等度の症状に適応
処方薬:軽度から重篤な症状まで幅広く対応
<安全性の違い>
市販薬:一般使用を前提とした安全性重視
処方薬:医師の管理下で使用、より強力だが副作用リスクも考慮
【参考情報】『医療用医薬品と一般用医薬品の比較について』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/09/s0906-6c.html
2.咳止め薬の市販薬と処方薬の特徴
咳止め薬は「市販の咳止め薬」と「医師が処方する咳止め薬(処方薬)」に大別することができます。
2−1.市販薬の特徴
市販の咳止め薬とは、医師の処方箋がなくてもドラッグストアなどで手軽に購入することができる薬です。
テレビのCMなどでも「咳に効く!」等のキャッチコピーがなされているため、具体的な商品名が思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。
咳止め薬には、錠剤・カプセル剤・液剤・散剤(粉薬)などの種類があり、自分にあったものを選ぶことが可能です。
咳止め薬というカテゴリーに分類される市販薬の成分には「dl-メチルエフェドリン塩酸塩」、「ノスカピン」、「ジフェンヒドラミン塩酸塩」、「トラネキサム酸」、「ジヒドロコデインリン酸塩」など、さまざまな成分が使用されています。
市販薬と処方薬を大きく分けるポイントは、これらの成分の中から複数個の成分がひとつの商品に含有されている点です。
<市販薬のメリット・デメリット>
メリット
・即座の入手:症状が出たときにすぐ購入可能
・コスト面:軽症なら医療費より安価な場合が多い
・利便性:夜間・休日でも購入可能
・セルフメディケーション:軽度の症状を自己管理
デメリット
・診断なし:根本原因が不明のまま対症療法
・成分重複:必要のない成分も含有
・効果限定:重篤な症状には不十分
・相互作用:他の薬との飲み合わせリスク
【参考情報】『知っておきたい薬の知識』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/000830954.pdf
2−2.処方薬の特徴
咳止めの処方薬とは、医師が発行した処方箋がないと購入できない咳止め薬です。
処方薬には、市販薬にはない成分を含有した薬が豊富にあります。
錠剤・カプセル剤・液剤・散剤(粉薬)などのほか、吸入薬や貼り薬もあり、咳の原因によっては、注射薬を用いることもあります。
専門的には単純に「咳止め」というカテゴリーには分類できませんが、医師が必要な検査をして、適切な成分を選んで処方し、根本的な原因を治療しながら、咳の症状を緩和していきます。
<処方薬のメリット・デメリット>
メリット
・個別最適化:患者の症状・体質に応じた薬物選択
・根本治療:原因疾患に対する治療
・強力な効果:市販薬では対応困難な症状にも対応
・安全管理:医師による副作用・相互作用の管理
・保険適用:経済的負担の軽減
デメリット
・時間・手間:受診の必要性
・医療費:診察料・検査費用
・アクセス:医療機関の診療時間内の制約
・待ち時間:予約・受診・処方の時間
3.処方薬と市販薬との決定的な違い
市販薬と処方薬の決定的な違いは、処方薬には基本的に「ひとつの薬にひとつの成分」が含有されている一方で、市販薬には「ひとつの商品に複数の成分」が含有されているという点です。
処方薬も患者さんの症状や状態に応じて数種類の成分を組み合わせて処方することがありますが、どんな成分であっても、副作用が伴う可能性があるため、必要のない成分は処方しないのが一般的です。
しかし、市販薬は多くの人の症状を緩和するため、幅広く複数の有効成分が含有されており、自分の症状や状態に有効ではない成分も含まれていることがあるのです。
例えば、市販の咳止め薬に汎用されている「ジフェンヒドラミン塩酸塩」という成分は、アレルギーなどの症状を止めるためには効果的な成分ですが、“咳止め”としては必要な成分ではありません。
【参考情報】”Diphenhydramine” by MedlinePlus
https://medlineplus.gov/druginfo/meds/a682539.html
市販薬は手軽に手に入るというメリットがある一方で、自分には必要のない成分も含まれていることがある、という事実を頭に入れておきましょう。
【参考情報】「くすり・病気について」(アスゲン株式会社)
https://www.asgen.co.jp/mas/aid1.html
4.【症状別】市販薬と処方薬の選び方
市販薬と処方薬のどちらを選ぶべきか悩むことがあると思います。
そこで、ここからは症状別に市販薬と処方薬のどちらが適しているかを紹介します。
<市販薬が適している症状>
・軽い咳で日常生活に支障がない
・風邪後の残り咳
・1週間以内の短期間
・他に症状がない
・発熱なし
<処方薬を検討すべき症状>
・中等度の咳で日常生活に軽度の支障
・2週間以上継続
・夜間の睡眠障害
・他の症状の併発
<医療機関受診が必要な症状>
・3週間以上の持続
・血痰
・呼吸困難
・体重減少
・高熱
【参考情報】『呼吸器Q&A』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/faq/
【参考情報】咳嗽に関するガイドライン(第2版)』J-Stege
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/119/3/119_157/_pdf
5.咳止め薬の市販薬と処方薬に関するQ&A
ここからは、咳止め薬の市販薬と処方薬に関して、よくされる質問に答えていきます。
5−1.市販の咳止め薬は処方薬より効果が弱い?
「市販の咳止め薬は処方薬に比べ、効果や副作用が弱い。」というイメージは必ずしも正しいとは言い切れません。
例えば、市販の咳止め薬の中にはコデイン(ジヒドロコデインリン酸塩)という成分が含まれているものがあります。
コデインは脳の中枢神経に働きかけることで、強制的に咳が出るのを防ぐ成分ですが、医療用麻薬に指定されている医薬品でもあり、使用方法によっては依存を招くこともあります。また、12歳以未満の小児への使用は禁止されています。
【参考情報】”No Codeine or Tramadol for Children Under 12″ by Food and Drug Administration
https://www.medpagetoday.com/pediatrics/generalpediatrics/64673
「市販薬だから絶対安全」とは限らないので、薬は用法容量を守って使用しましょう。
5−2.市販の咳止め薬が効かないのはなぜ?
市販薬があまり効かないと思われている背景には、医師の診察を介していないため、症状に合っていない成分が含有されている商品を選んでしまっていることが考えられます。
咳の原因は、細菌やウイルス、タバコの煙、アレルギーなど多岐にわたり、それらの原因によって有効な薬の成分も変わってきます。
市販の咳止め薬を使用しても効果がないと感じたら、医師や薬剤師に相談し、適切な薬を紹介してもらいましょう。
5−3.咳止め薬に頼らずに咳をやわらげる方法は?
咳止め薬に頼らず咳を緩和させるには以下の方法が有効です。
・水分を補給する
・ハチミツを摂取する
・部屋を掃除してアレルゲン取り除く
・タバコを止める
気道が乾燥すると咳が出やすくなるため、水分はこまめに取りましょう。
また、咳にはハチミツが有効だと報告されており、特に咳がつらいときは、ハチミツを溶かしたお湯を飲むと咳がやわらぐ可能性があります。
※1歳未満のお子様には絶対にハチミツを与えないでください。乳児ボツリヌス症になる恐れがあります。
【参考情報】『ハチミツを与えるのは1歳を過ぎてから』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000161461.html
【参考情報】”Honey for acute cough in children” by National Library of Medicine
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25536086
その他、咳がアレルゲンやタバコの煙を原因としたものである場合、アレルゲンの除去やタバコを止めるだけで咳が止まることもあります。
6.おわりに
ドラッグストアに行けば、咳止め薬を簡単に手に入れることができます。
しかし、なかなか止まらない咳に苦しんでいる人は、早めに咳の原因を突き止めることが重要です。
市販薬で咳が止まらないときは、呼吸器専門医に相談し、市販薬でも良い程度の症状なのか、処方薬で治療する必要がある病気なのかを明確にすることをおすすめします。















