【乾いた咳・湿った咳】咳の種類で判断する病気のサイン

咳は呼吸器の病気で最もよくみられる症状のひとつですが、痰の絡まない「乾いた咳」なのか、痰が絡む「湿った咳」なのかに大きく分けて考えることができます。
この違いは、単なる体調の変化ではなく、体の中で起きている状態や病気の種類を推測する重要な手がかりになります。
この記事では、咳の種類を「乾いた咳」と「湿った咳」に分け、それぞれに多く見られる病気のサインや、症状の見極め方をわかりやすく整理します。
あわせて、医療機関を受診すべき目安についても解説します。
目次
1.なぜ咳が出るのか
咳は体を守るために備わった防御反応です。そのため、健康な人でも出ることがあります。
食べ物や飲み物が誤って気道に入りそうになったとき、思わず咳き込むのは、この仕組みが正常に働いている証拠です。
風邪やインフルエンザなどの呼吸器感染症にかかると、細菌やウイルスが気道の粘膜を刺激します。咳は、これらの異物を体外へ追い出し、気道を守ろうとする反応として現れます。
このため、感染症では発熱や喉の痛みとともに咳が出ることが少なくありません。
一方、咳は感染症だけで起こるわけではありません。肺がんや肺結核など、肺そのものに病変がある場合にも咳が続くことがあります。
また、アレルギーによって気道が過敏になり、わずかな刺激で咳が出やすくなるケースもあります。
さらに、ストレスや緊張などの心理的要因によって咳が出ることがあります。このような咳は心因性の咳と呼ばれ、検査では異常が見つからないこともあります。
【参考資料】『Psychogenic Cough: A Rare Cause of Chronic Cough』Archivos de Bronconeumologia
https://www.archbronconeumol.org/en-psychogenic-cough-a-rare-cause-articulo-S1579212915001822
咳が長く続く場合、原因はひとつとは限りません。喘息などの慢性的な病気に加えて、感染症が重なっていることもあります。
咳がなかなか治まらないときは、原因を自己判断せず、呼吸器内科でくわしく調べたうえで、適切な対応を取ることが重要です。
2.咳の種類~乾性咳嗽と湿性咳嗽
咳は、その性質によって大きく「乾いた咳(乾性咳嗽:かんせいがいそう)」と「湿った咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう)」に分けて考えられます。
2-1.乾いた咳(乾性咳嗽:かんせいがいそう)とは
乾いた咳は、痰をほとんど伴わないのが特徴です。「コンコン」「ケンケン」といった音の咳が続き、喉のイガイガ感やムズムズ感、刺激感を伴うことが多くみられます。
本人は咳を出してもすっきりせず、「空咳が止まらない」と感じることも少なくありません。
このタイプの咳は、気道が過敏になっている状態で起こりやすく、冷たい空気や会話などのわずかな刺激でも引き起こされることがあります。
特に夜間や就寝前に咳が出やすいという特徴があり、睡眠や日常生活の質を下げる原因になることもあります。
2-2.湿った咳(湿性咳嗽:しっせいがいそう)とは
湿った咳は、痰が絡む「ゴホゴホ」という重たい音の咳です。気道や肺の中にたまった分泌物を外に出そうとする反応で、咳とともに痰が出ることで一時的に楽になることがあります。
痰の色、量、粘り気は、体の状態を知るヒントになります。透明でさらっとした痰もあれば、黄色や緑色で粘り気の強い痰が出ることもあり、炎症や感染の程度によって異なります。
また、横になっている間に痰が気道にたまりやすいため、朝起きた直後に咳が強く出やすい傾向があります。
風邪やインフルエンザ、コロナなどの呼吸器感染症では、はじめは乾いた咳が出て、次第に湿った咳が出てくることが多いです。
【参考資料】『咳嗽・喀痰の診療ガイドライン第2版2025』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/publication/jrs_guidelines/20250404085247.html
3.乾いた咳が続くときに考えられる病気のサイン
乾いた咳が長く続いている場合、「風邪は治ったはずなのに咳だけが残る」という印象で現れることも少なくありません。
この章では、乾性咳嗽が出る主な原因を紹介します。
3-1.喘息
気道が慢性的に炎症を起こして過敏になり、咳、喘鳴、息切れなどの症状が発作的に現れる病気です。症状は夜間や早朝に強く出ることが多く、ダニやホコリなどのアレルゲンで悪化することがあります。
3-2.咳喘息
喘息とよく似た病気ですが、喘鳴や息切れを伴わず、乾いた咳だけが長期間続く病気です。痰はほとんど伴わず、風邪や乾燥による咳と区別がつきにくいこともあります。
3-3.アトピー咳嗽
アレルギー体質の人に多く見られる病気で、乾いた咳が長く続きます。のどのイガイガやムズムズなどの違和感を伴うことがあります。
3-4.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ・ニューモニエという病原体による呼吸器感染症です。乾いた咳が長く続くことがあります。発熱や全身症状は軽度のことが多く、風邪と間違われやすい病気です。
3-5.間質性肺炎
肺の組織(肺胞とその周囲の間質)が炎症や線維化によって硬くなり、呼吸機能が低下する病気です。初期には咳が主な症状として現れることが多く、乾いた咳が長く続くことがあります。
3-6.胃食道逆流症
胃酸や胃の内容物が食道に逆流することで、乾いた咳が引き起こされます。特に夜間や横になると咳が悪化しやすく、胸やけや胸の違和感を伴う場合があります。
3-7.ストレス
ストレスや心理的要因によって、乾いた咳が続くことがあります。咳は、緊張や不安があると出やすくなります。
3-8.血降圧薬の副作用
一部の降圧薬(特にACE阻害薬)は、副作用として乾いた咳を引き起こすことがあります。薬を止めれば咳は止まりますが、自己判断で中止せず、必ず医師や薬剤師に相談してください。
【参考資料】『Angiotensin-converting enzyme (ACE) inhibitors』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/high-blood-pressure/in-depth/ace-inhibitors/art-20047480
4.湿った咳が続くときに考えられる病気のサイン
湿った咳は、気道や肺に分泌物や炎症があるときに起こりやすく、咳とともに痰が絡むのが特徴です。
この章では、湿性咳嗽が出る主な原因を紹介します。
4-1.気管支炎
気管支の炎症によって咳や痰が出る病気です。急性気管支炎はウイルスや細菌感染が原因で一時的に炎症が起こり、痰を伴う咳が数日から1〜2週間続きます。慢性気管支炎は、咳や痰が長期間繰り返し出る状態で、こちらも湿性咳嗽の原因となります。
4-2.肺炎
ウイルスや細菌などにより肺に炎症が起こる病気です。発熱や倦怠感のほか、湿った咳が出たり、痰が増えたりします。症状は軽度の場合もありますが、特に高齢者や基礎疾患のある人では重症化することがあるため注意が必要です。
4-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
主に長年の喫煙が原因で、気道や肺の組織が慢性的に炎症を起こす病気です。湿った咳や痰が長期間続き、朝に症状が強く出ることがあります。息切れや呼吸困難を伴うこともあり、症状が進行すると日常生活に支障をきたす場合があります。
◆「咳がとまらない・しつこい痰・息切れは、COPDの危険信号」>>
4-4.副鼻腔炎
副鼻腔(鼻の周囲にある空洞)の炎症によって起こる病気です。炎症により副鼻腔内に粘液がたまり、鼻や喉に流れ込む後鼻漏が生じることがあります。この後鼻漏が刺激となり、湿った咳が出ることが多いです。
◆「副鼻腔炎とはどんな病気?咳・アレルギー・いびきとの関係」>>
4-5.気管支拡張症
気管支の一部が慢性的に広がり、痰がたまりやすくなる病気です。炎症や感染を繰り返すことで気道の構造が損なわれ、湿った咳が長期間続くことが特徴です。痰は粘稠で、色が濃くなることや血が混じることもあります。
湿った咳が続く場合は、痰の性状も重要な手がかりになります。黄色や緑色の痰、血が混じる血痰などがみられるときは、早めに医療機関を受診し、原因を確認することが大切です。
【参考資料】『Dry vs. Wet Coughs: What They’re Telling You』Cleveland Clinic
https://health.clevelandclinic.org/dry-cough-vs-wet-cough
5.医療機関を受診すべきサイン
咳は一時的な症状として自然に治まることもありますが、次のような場合は医療機関での評価が必要です。
<咳が2週間以上続く>
風邪が治った後も咳だけが残る、徐々に悪化している場合は、風邪をきっかけに別の病気が引き起こされた可能性があります。あるいは、風邪が治った後に別の病気にかかったことも考えられます。
<息切れ、胸痛、血痰を伴う>
咳に加えて息苦しさや胸の痛みがある、痰に血が混じるといった症状は、肺や気道の病気が関与している可能性があります。早めの受診が重要です。
<夜間の咳で眠れない>
夜間や就寝中に咳が強く出て睡眠が妨げられることが続くと、体力を消耗したり、肋骨が折れたりすることがあります。
これらのサインがあるときは自己判断せず、呼吸器内科などの医療機関で相談することが大切です。
6.呼吸器内科で行う検査
咳の原因を調べるために呼吸器内科では、症状や経過に応じてさまざまな検査が行われます。
<胸部画像検査>
胸部X線(レントゲン検査)は、肺炎や肺がんなどを確認する基本的な検査です。CT検査では、レントゲンでは分かりにくい小さな病変や気管支の異常を詳しく調べます。
<血液検査>
炎症の程度や感染の有無、アレルギー体質の指標(好酸球やIgEなど)を調べます。
【参考資料】『Immunoglobulin E (IgE)』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/ige
<スパイロメトリー>
息を大きく吸ったり吐いたりして、肺にどれだけ空気を出し入れできるかを測定します。喘息やCOPDなど、気道が狭くなる病気の診断や重症度の評価に役立ちます。
<呼気NO検査>
呼気中の一酸化窒素(NO)を測定することで、気道のアレルギー性炎症の程度を評価します。喘息の診断や治療効果の確認に利用されます。
<モストグラフ>
気道がどの程度狭くなっているかを調べる際に用いられます。主に、喘息や咳喘息の疑いがある場合に行われます。
<喀痰検査>
痰を採取して細菌やウイルス、炎症細胞の有無を調べます。
◆「呼吸器内科で行われる専門的な検査」についてもっとくわしく>>
7.おわりに
咳は、「乾いた咳」「湿った咳」に分けて考えることで、原因や注意点を整理しやすくなります。痰の有無や咳の音といった特徴は、体の中で起きている状態を知る手がかりになります。
一方で、咳の種類だけでは原因を特定できないケースも少なくありません。例えば、最初は乾いた咳だったのに、次第に湿った咳になるなど日中は乾いた咳が目立つのに、咳の性質が変わることもあります。
このように、咳の種類はあくまで判断材料のひとつであり、自己判断には限界があります。咳が続く、性質が変わる、対処しても改善しないといった場合は、専門的な評価を受けることが重要です。
咳が長引く、性質が変わる、日常生活に支障が出ているなど、少しでも気になる点があれば、早めに医療機関を受診し、適切な評価を受けることが重要です。











