気管支拡張症とは?原因・症状・治療をわかりやすく解説

気管支拡張症とは、何らかの原因で気管支が広がって気管支の壁が傷つき、元の状態に戻らなくなった状態を指します。
この記事では、気管支拡張症という病気について解説します。
咳や痰がよく出る人や、呼吸器の炎症を繰り返している人は、ぜひ読んでください。
目次
1.気管支拡張症とは?
気管支拡張症とは、肺炎や百日咳などによって気管支の壁が傷つき、元の状態に戻らなくなった状態のことです。
気管支は、空気を肺胞まで届ける重要な気道(空気の通り道)ですが、この気管支が損傷のために拡張したまま戻らない状態になると、その部分に細菌がたまりやすくなり、慢性的な咳・痰・呼吸困難といった症状を引き起こします。
また、気管支炎や肺炎を起こしやすくなり、何度も炎症を起こすことで呼吸器の機能が低下していく病気です。
気管支拡張症は一つの原因で起こる病気ではなく、遺伝的要因や生活習慣、過去の呼吸器感染症など複数の要因が重なり合って発症することがわかるでしょう。
このため、医学的には「症候群」として分類されています。
1-1.気管支拡張症の症状
気管支拡張症の症状には、以下のようなものがあります。
・慢性的に咳が出る
・大量で粘り気の強い痰
・黄色っぽい痰が出る
・よく風邪をひく
・肺炎を繰り返す
・発熱や胸の痛み
・慢性的な疲労、倦怠感
・息切れや呼吸困難
・喘鳴(ぜんめい):呼吸時にヒューヒュー、ゼイゼイという音がする
・血痰や喀血(かっけつ):痰や咳に血が混じる
どの年代でも発症する可能性がありますが、年齢が上がるにつれて発症率は増加し、男性よりも女性に多くみられることが特徴です。
多くの場合、少しずつ症状が現れ、数年かけて進行していきます。
ほとんどの患者さんにみられるのが、慢性的な濃い痰がからんだ咳の症状です。
痰の量や種類は、気管支拡張症の程度や感染症を併発しているかどうかによって異なります。
多くの場合、咳の発作が起こるのは、早朝と夕方遅い時刻のみです。
また損傷した気道の壁はもろくなって、血管の数が増えているため、咳とともに血が出ること(喀血)がよくあります。
喀血は気管支拡張症の初期症状の場合もあるため注意が必要です。
1-2.症状の悪化と増悪(ぞうあく)
気管支拡張症が悪化すると、咳や痰、息苦しさが増し、体がだるくなることがあります。
これらの症状が通常よりも強く、2日以上続く場合、追加の治療が必要となるので早期に医師に相談しましょう。
また、病気が進行すると、動脈血中の酸素が不足する低酸素血症により、肺高血圧症や右心不全を起こすことがあります。
※肺高血圧症:心臓から肺へ血液を送る血管である「肺動脈」の血圧が高くなる病気。だるさ、息切れ、足のむくみ、喀血、失神などの症状が現れる。
※右心不全:心臓の右側の働きが弱くなり、血液が心臓に戻りにくくなる状態。主な症状は、むくみ、体重増加、息切れなどがある。
1-3.気管支拡張症の主な原因
気管支拡張症は、遺伝性・先天性の原因や、幼少期に重い肺炎や百日咳を患って肺に負担がかかったことが原因で発症することがあります。
最も一般的な原因は、重度またはくり返し発生する呼吸器感染症です。
〈主な原因となる病気〉
・感染症:肺結核、及びその後遺症、肺非結核性抗酸菌症、細菌性肺炎、新型コロナウイルス感染症
・気道の障害:慢性閉塞性肺疾患(COPD)、びまん性汎細気管支炎、喘息、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症
・免疫力低下:結核やリウマチ、免疫不全症(例:原発性線毛機能不全症候群、低ガンマグロブリン血症)
また、自己免疫疾患(関節リウマチ、シェーグレン病、潰瘍性大腸炎)や気管・気管支軟化症・副鼻腔炎など、特定の疾患を持つ人々も気管支拡張症を合併することがあります。
【参考情報】”Bronchiectasis – Causes and Risk Factors” by “National Heart, Lung, and Blood Institute, National Institutes of Health”
https://www.nhlbi.nih.gov/health/bronchiectasis/causes
1-4.発症のメカニズム
気管支は、痰や細菌などの異物を体外へ排出する「気道クリアランス」という自浄作用を持っています。
この機能が低下すると、気道内に痰や細菌が停滞しやすくなり、炎症が繰り返し発生しやすくなるのです。
炎症部位では、白血球の一種である好中球(こうちゅうきゅう)から放出される「タンパク分解酵素」が気管支壁を損傷し、構造を破壊します。
気道クリアランスの低下、感染、炎症、構造破壊という悪循環が繰り返されることで、気管支拡張症が進行すると考えられるでしょう。
また、気管支繊毛(せんもう)運動の機能異常も原因のひとつです。
繊毛は、気管支の内部にある微細な毛で、呼吸によって肺に入ったほこりや異物、細菌などを体外へ運び出す役割を担っています。
繊毛の運動が正常に機能しないと、異物や病原体が肺に留まりやすくなり、繰り返し気道感染が起こるため、さらに気管支拡張症が進行する要因となるのです。
【参考情報】『気管支拡張症(きかんしかくちょうしょう)とは』済生会
https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/bronchiectasis/
【参考資料】”Bronchiectasis” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/bronchiectasis
2.気管支拡張症の検査
気管支拡張症が疑われる場合は、以下のような検査を行います。
さまざまな角度から判断することで、診断を確定していきます。
2-1.画像検査
・胸部X線検査:多くの場合、気管支拡張症による肺の変化を検出できます。しかし、ときに胸部X線検査では正常と判定されることもあります。
・胸部CT検査:病気を特定し、診断を確定するとともに、病気の範囲や重症度を判定する上で、最も精度の高い検査です。
拡張した気管支を確認し、さらに慢性の咳や痰、増悪の既往といった臨床症状を合わせて診断を行います。
※血痰や喀血が続く場合には、造影剤を用いてさらに詳しく調べることがあります。
2-2.その他の検査
・呼吸機能検査:肺活量や1秒量(1秒間にどれだけ息を吐けるか)など、肺の機能を調べるます。
この検査で気管支拡張症を診断することはできませんが、肺の病気がどの程度重症であるかを医師が判定するのに役立ち、病気の進行をモニタリングする上でも有用です。
・喀痰培養検査:感染症が疑われる場合、痰の中に含まれる細菌の種類を特定する検査です。
原因菌検査を行って適切な抗菌薬を選定します。
また血痰や喀血が続く場合、どこから出血しているのかを探すため、血液検査・血管造影検査、気管支鏡検査を行う場合もあります。
・血液、生化学検査:炎症、免疫状態を調べるために行います。
・血管造影検査:カテーテルと呼ばれる細い管を血管に挿入し、造影剤を注入して血管を描出する検査です。
・気管支内視鏡検査:口または鼻から細いカメラ(内視鏡)を挿入し、気管や気管支の内部を直接観察する検査です。気管支内部の観察が必要な場合に行います。
【参考情報】『気管支拡張症』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-01.html
3.気管支拡張症の治療
気管支拡張症を完全に治すことは難しいのですが、症状を軽減する治療を中心に行い、病気の進行を抑えていきます。
気管支拡張症の原因となる病気が特定されている場合、その病気の治療を行っていきます。
3-1.薬物療法
痰を出しやすくするための薬や、気管支の炎症を抑える薬を用います。
感染症を合併したら適切な抗菌薬を、血痰や喀血があれば止血剤の投与を行うのが一般的です。
症状の軽減や炎症を抑える目的で、マクロライド薬を半年~1年以上、少量投与する場合もあります。
また、気道を拡張する薬剤や炎症を抑えるステロイドなどが使用されることもあるでしょう。
新たな治療薬として、好中球のタンパク分解酵素を抑えるDPP-1阻害薬(そがいやく)が、将来的に使用可能になる見込みです。
増悪頻度を減らし、呼吸機能の悪化を抑制する効果があります。
【参考情報】「気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の適正使用のお願い」 日本呼吸器学会・日本感染症学会・日本化学療法学会
https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/news/gakkai/gakkai_macrolide_250521.pdf
【参考情報】”Treating and Managing Bronchiectasis” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-disease-lookup/bronchiectasis/treating-and-managing
3-2.リハビリテーション
呼吸をラクにするために、口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの呼吸訓練を行います。
慢性的な痰の排出を促すためには、気道クリアランス療法がおすすめです。
【例】
・深呼吸や咳・ハッフィングと呼ばれる3つの呼吸法を組み合わせたアクティブサイクル呼吸法
・器具を用いて行う振動呼気陽圧療法(息を吐くときに器具の抵抗と振動を利用して、気道にたまった痰をゆるめ、外に出しやすくする方法)
・体位ドレナージ など。
また、去痰薬の内服、生理食塩水の吸入を行うこともあります。
呼吸が苦しくなると、どうしても体を動かすのがしんどくなり活動量が減るため、筋力が低下したり、食欲が落ちることがあります。
そのような場合は、運動療法や栄養療法を行います。
体重・筋肉を減らさないように、栄養療法やリハビリテーションを取り入れていくことが大切です。
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3-3.酸素療法
呼吸困難が生じたり、血液中の酸素の値が低下した場合は、酸素吸入を行うことがあります。
また、病気が進行すると、肺から酸素を十分に取り込むことができなくなります。
このような場合は、在宅酸素療法が必要となります。
【参考情報】”Oxygen Therapy” by MedlinePlus, U.S. National Library of Medicine
https://medlineplus.gov/oxygentherapy.html
3-4.外科的療法
喀血が止まらないときには、血管からカテーテルを挿入し、出血部分をふさぐ処置をすることがあります。
また、気管支が拡張している部分がごく一部の時は、その部分を手術で取り除くことが検討されます。
外科的療法を行った場合、残った肺は機能が改善し完治に近い状態になる可能性が高いとされています。
ただし、手術の適応と判断される症例は少数というのが現実です。
4.日常生活での注意点と予防
気管支拡張症は完治が難しい病気ですが、日常生活での心がけや適切な管理によって、症状の悪化を防ぎ、生活の質を維持することが可能です。
ここでは、日常生活で気をつけるべきポイントと予防法について解説します。
4-1.感染症予防の重要性
一番注意が必要なのは、感染などをきっかけに症状が急激に悪化することです。
多くの場合、冬季の風邪やインフルエンザなどの感染症が原因となることが多いでしょう。
呼吸困難や血痰、喀血などが生じて入院が必要になることもあります。
予防として、以下のような対策を心がけましょう。
・インフルエンザシーズン前の予防接種
・肺炎球菌ワクチンの接種
・手洗い、うがいの励行
・室内の加湿・保温
・人ごみを避ける、マスクの着用
・風邪をひいている人には会わないようにする
4-2.生活習慣の改善
自分でできる治療(セルフケア)として、気道のクリーニングを心がけることが自覚症状の改善に有効です。
【例】
・去痰剤等の薬物治療やネブライザーの使用
・体位排痰法を含めた呼吸リハビリテーションの継続 など。
日常生活では水分を多めにとることにより、痰の粘稠度(ねんちゅうど:粘り気の度合いのこと)が減り、咳とともに気管や肺から痰(たん)を吐き出しやすくなります。
また、どの病気にもいえることですが、普段の栄養管理や適度な運動、通院を欠かさないことも重要です。
・規則正しい生活:バランスの取れた食事、十分な睡眠、適度な運動は、免疫力を高め、全身状態を良好に保つために役立ちます。
・栄養バランスの良い食事:オメガ3脂肪酸を含む魚類(サバ、サーモン、イワシなど)、ビタミンCを多く含む野菜や果物(レモン、オレンジ、キウイ、ブロッコリー)、ビタミンEを含むナッツ類やアボカドなど、抗炎症作用がある食品を積極的に摂りましょう。
・水分補給:十分な水分摂取により、痰を出しやすくします。
・適度な運動:軽いウォーキングやサイクリングなどの有酸素運動が効果的です。
・ストレス管理:リラックス法や趣味を持つことが大切です。
4-3.禁煙の必要性
喫煙は気管支拡張症の最大のリスク因子です。
タバコに含まれる有害物質は気管支に炎症を引き起こし、拡張症の原因となります。
禁煙することで、気管支の健康を守ることができ、発症リスクを大幅に減少させることができます。
喫煙は気道クリアランスを低下し、呼吸機能を悪化するため、禁煙が不可欠です。
また禁煙外来を利用することで、専門的なサポートを受けながら禁煙に取り組むことができます。
禁煙を決意した場合は、禁煙補助薬やニコチンパッチなどを活用することも効果的です。
【参考情報】”Benefits of Quitting Smoking” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/tobacco/about/benefits-of-quitting.html
5.重症度と予後について
気管支拡張症の予後は、個々の重症度で大きく異なります。
気管支拡張症重症度分類(Bronchiectasis Severity Index: BSI)では、
・年齢、体重、呼吸機能
・過去2年間の入院、前年度の増悪頻度
・喀痰中の細菌の検出
・呼吸困難、肺内での病気の広がり
など9つの項目で重症度を評価します。重症度が高いほど、入院頻度が高くなる、あるいは予後が不良となることが示されています。
FACEDと呼ばれる重症度指標では、5年死亡率が軽症3.7%、中等症20.5%、重症48.5%と報告されていますが、適切な管理と治療により、症状をコントロールし、生活の質を維持することが重要です。
6.おわりに
気管支拡張症は慢性の呼吸器疾患のため、一般的には完全な治癒は難しいと考えられますが、適切な対策を講じることで症状の悪化を防ぐことができます。
気管支拡張症ではなくても、咳や痰が慢性的に出る人は、何らかの呼吸器疾患にかかっている疑いが濃厚です。
2週間以上症状が続いていたら、呼吸器内科を受診して咳や痰の原因を調べ、早めに適切な治療を開始してください。
感染症対策をしっかり行い、免疫力を高めることにより、病気の進行を抑えることが可能です。
病気を上手くコントロールし、質の良い生活を送れる様にしていきましょう。















