咳が止まらない…喘息と間違いやすい病気

咳がなかなか止まらなかったり、長引いていると、「もしかして喘息かも?」と感じる人は少なくありません。
しかし、実際には喘息以外でも咳や息苦しさを引き起こす病気は多く、自己判断では見分けがつきにくいかもしれません。
また、咳といえば肺などの呼吸器の病気が真っ先に思いつくかもしれませんが、心臓や消化器の病気でも咳が出ることがあります。
この記事では、喘息と間違いやすい代表的な病気とその特徴をわかりやすく解説し、長引く咳の原因を見極めるためのポイントを紹介します。
目次
1.急性気管支炎
風邪などのウイルスが気管支に感染して炎症を起こす病気です。特に2歳未満の乳幼児に多く発症します。
原因の約9割はウイルスによるものですが、まれに細菌感染を伴うこともあります。
初期は喉の痛みや鼻水、発熱といった風邪に似た症状から始まり、数日後に咳が強くなり、痰が絡むようになります。
また、気道の炎症によって粘膜が腫れ、空気の通り道が狭くなるため、喘息のようなヒューヒュー・ゼイゼイといった呼吸音(喘鳴:ぜんめい)が聞こえることもあります。
特に乳幼児では、息をするたびに胸がへこむ「陥没呼吸」や、呼吸が速くなる「頻呼吸」が見られることがあり、これらは重症化のサインです。
大人が発症した場合、喫煙者や気道が弱っている人では症状が長引きやすく、慢性気管支炎へ進行することがあります。
治療では、痰を出しやすくする去痰薬、咳を抑える鎮咳薬、発熱時には解熱薬などを使って症状を和らげます。
通常は1〜2週間ほどで回復しますが、咳が長引く場合や呼吸が苦しそうな場合、発熱が続く場合は、肺炎や細気管支炎への進行を防ぐために早めの再受診が必要です。
【参考情報】『Bronchitis』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/3993-bronchitis
2.細菌性肺炎
細菌性肺炎は、肺炎球菌、インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌などの細菌が肺に感染して起こる炎症性の病気です。
特に肺炎球菌が原因となるケースが最も多く、高齢者や基礎疾患を持つ人では重症化することがあります。
症状は、高熱、激しい咳、黄色や緑色の粘り気のある痰、胸の痛み、息苦しさ、全身のだるさなどで、風邪と似ていますが、突然の高熱や急速な呼吸困難を伴う点が特徴です。
進行すると、呼吸をするだけで胸が痛む「胸膜炎」や、肺に膿がたまる「肺膿瘍」などの合併症を起こすこともあります。
発症のきっかけは、風邪やインフルエンザなどのウイルス感染で弱った気道粘膜に細菌が侵入することが多く、体力や免疫力が落ちていると発症リスクが高まります。
治療の中心は抗菌薬の投与ですが、発熱や咳、息苦しさが強い場合、また血中酸素飽和度が低下している場合には、入院して点滴や酸素吸入による治療を行うことがあります。
予防には、肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンの接種が有効です。特に65歳以上の高齢者や持病のある人は、定期的な接種が推奨されています。
さらに、口腔ケアやうがいの習慣、十分な睡眠と栄養補給、禁煙など、日常的な感染予防が重要です。
3.マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマ肺炎とは、マイコプラズマ・ニューモニエという病原体によって引き起こされる呼吸の感染症です。
初期には、発熱・全身のだるさ・頭痛・のどの痛みなど、風邪に似た症状が現れますが、次第に乾いた激しい咳が出て、数週間から1か月以上続くこともあります。
治療では、マクロライド系(クラリスロマイシンなど)やテトラサイクリン系、ニューキノロン系の抗菌薬が用いられます。
ただし、近年はマクロライド耐性マイコプラズマの増加が問題となっており、耐性株の場合は他系統の薬を選択する必要があります。
4.百日咳
百日咳菌という細菌に感染して起こる、非常に感染力の強い呼吸器感染症です。その名の通り、激しい咳が数週間から数か月にわたって続くのが特徴です。特に乳幼児に多く見られますが、大人にも感染が起こることがあります。
初期は軽い咳や鼻水、くしゃみなど風邪に似た症状から始まり、その後、激しい咳発作や、咳が続いたあとに「ヒュー」という笛のような音が出ます。
乳児では、咳き込みのあとに一時的に呼吸が止まる無呼吸発作が生じることもあり、命に関わる危険があります。
治療にはマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシンやクラリスロマイシンなど)が用いられ、早期に投与することで菌の排出を抑え、周囲への感染拡大を防ぎます。
予防には、ワクチンが極めて有効で、定期接種により発症を大幅に減らすことができます。
【参考情報】『5種混合ワクチン』厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/dpt-ipv-hib/index.html
ただし、ワクチンの効果は年数とともに弱まるため、中学生以降や成人の再感染が増えており、追加接種が推奨されています。
5.肺結核
肺結核は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)という細菌に感染して起こる慢性の肺感染症です。
症状は、乾いた咳から始まり、次第に痰を伴う咳へと変化します。さらに、微熱、寝汗、体重減少、全身のだるさ、のどの痛みなど、風邪に似た症状を出ることが多く、進行すると血痰や呼吸困難、胸の痛みが現れます。
治療は複数の抗結核薬を6か月以上にわたって服用するのが基本です。また、痰に結核菌が多く含まれている「排菌者」は、感染拡大を防ぐために結核専門病棟での隔離入院が必要になります。
6.咳喘息
咳喘息は、乾いた咳が数週間から数か月間しつこく続く点が特徴です。風邪のあとに咳だけが残る場合や、冷たい空気・タバコの煙・香りの強い物質で咳が出る場合には咳喘息を疑います。
典型的な喘息発作(ヒューヒュー・ゼーゼーという呼吸音や息苦しさ)を伴わないものの、放置すると喘息に移行するリスクもあります。
診断には、肺機能検査や呼気中一酸化窒素(FeNO)検査など、呼吸器の専門的な検査が有用です。
7.アトピー咳嗽
アトピー咳嗽(がいそう)は、乾いた咳が何週間、時に数か月も続く病気です。夜間や早朝、会話中などに咳が出やすく、睡眠を妨げるほどしつこく続くこともあります。
原因は、気道の粘膜で起こるアトピー(アレルギー性)の炎症反応です。ハウスダスト、ダニ、花粉、カビ、ペットの毛など、身近なアレルゲンが刺激となって炎症を起こし、咳反射が過敏になります。そのため、アトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、花粉症などの既往がある人に多く見られます。
喘息との違いは、気管支の収縮が起きないため、息苦しさや喘鳴(ぜんめい:ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音)がない点です。
しかし、放置すると気道の過敏性が進行し、症状が悪化することもあるため、早期治療が重要です。
8.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
COPD(慢性閉塞性肺疾患)とは、肺に慢性的な炎症が起こり、空気の通り道である気道が狭くなったり、肺胞が壊れたりすることで呼吸がしにくくなる病気です。特徴的な症状は「慢性的な咳」「痰がからむ」「息切れ」の3つです。
主な原因はタバコの煙で、患者の90%以上が現在または過去の喫煙者ですが、受動喫煙や大気汚染、職場での粉塵・化学物質の吸入などもリスク要因として注目されています。
息切れは、階段を上がるだけで苦しくなったり、平地を歩くスピードが落ちたりするのが典型的で、進行すると、少しの動作でも息苦しくなり、会話や食事が辛くなることもあります。
加えて、肺の弾力が失われることで息を吐ききれず、肺の中に空気がたまるため、胸郭が前後に膨らみ、「ビール樽状胸郭」と呼ばれる体型になることがあります。
【参考情報】『What is COPD?』CDC
https://www.cdc.gov/copd/index.html
9.肺がん
肺がんは、肺の細胞が異常に増殖して腫瘍を形成する病気です。初期のうちは自覚症状が乏しいことが多く、進行してから気づかれるケースも少なくありません。
咳や痰が続くことが特徴で、特に痰に血が混じる(血痰)場合は要注意です。また、腫瘍が気道をふさぐことで慢性的な咳や息苦しさ、胸の痛み、肺炎が起こることもあります。
がんの位置や大きさによっては、食道が圧迫されて食べ物が飲み込みにくくなることや、声帯を動かす反回神経が圧迫されて声がかすれる(嗄声:させい)こともあります。
さらに進行すると、体重減少や全身の倦怠感、骨や脳への転移による痛みや神経症状が現れることもあります。
【参考情報】『Lung cancer』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/lung-cancer/symptoms-causes/syc-20374620
10.副鼻腔炎
副鼻腔炎が慢性化した場合、鼻水が喉の奥へ流れ落ちることでのどが刺激され、咳の原因となります。
風邪などの呼吸器感染症にかかった後に、咳とともに鼻水も長引いている場合や、頭痛・顔の痛みがある場合は副鼻腔炎の疑いがあるので、耳鼻咽喉科を受診してください。
11.胃食道逆流症(GERD)
胃食道逆流症では、胃酸や胃の内容物が逆流することで、喉・気管支・肺に刺激が伝わり、咳や声のかすれ、喉の違和感が引き起こされます。特に、夜間や横になる姿勢で症状が悪化しやすくなります。
治療にはプロトンポンプ阻害薬などの薬を用いますが、同時に食事や体重管理など、生活習慣の見直しも重要となります。
12.心不全
心不全では、心臓のポンプ機能が低下し、肺に水分がたまることで起こります。特に、就寝時に横になると咳がひどくなり、座らないと眠れないこともあります。
夜間の咳のほか、むくみ、体重増加などの症状が現れた場合は、心不全の可能性も考える必要があります。
【参考情報】『心不全で咳や痰がでるのはなぜですか?』心不全のいろは
https://heart-failure.jp/faq/answer-024/
13.おわりに
咳が止まらない・長引く病気には、上記のほかにも多数あります。
どの診療科を受診したらいいのか迷った場合は、咳の専門家である呼吸器内科を受診してください。
呼吸器内科では、問診や診察に加えて、胸部レントゲン検査や肺機能検査、血液検査、喀痰検査などを組み合わせ、咳の原因を総合的に判断します。
また、必要に応じて耳鼻科や消化器内科、循環器内科など他の診療科と連携して精密検査を行うこともあります。
気になる症状は我慢せず、専門医に相談することが大切です。早めの受診と適切な治療によって、不快な症状を改善していきましょう。

















