喘息・咳喘息かもしれないと思ったら、何科の病院を受診する?

咳がなかなか良くならないとき、「喘息かもしれない」「病院を受診すべきか」「しかし、どの診療科を受診すればいいのか」と迷う人は少なくありません。
咳は風邪でも起こりますが、喘息や咳喘息のような他の呼吸器疾患でもみられ、さらに副副鼻腔炎など呼吸器以外の疾患でも起こることがあるので、症状だけでは判断が難しいことがあります。
この記事では、自分や家族の咳が長引いていて、喘息あるいは咳喘息かもしれないと疑っている人に向け、判断の手がかりとなる情報を提供します。
目次
1.咳・ゼーゼー・息苦しさ~喘息を疑うべき症状とは
喘息は、空気の通り道である気道に慢性的な炎症が起こり、少しの刺激でも過敏に反応して咳や息苦しさ、喘鳴(ぜんめい・ヒューヒュー・ゼーゼーという呼吸音)が現れる病気です。
咳喘息は。喘息とよく似ていますが、症状は咳だけで、息苦しさや喘鳴は通常みられません。
咳は、風邪やインフルエンザなどほかの病気でもよくある症状ですが、「2週間以上続く」「夜にひどくなる」「一度良くなったのに再び悪くなる」といった場合は、別の原因を考える必要があります。
風邪の咳は通常1週間ほどで改善しますが、喘息の咳は良くなったり悪くなったりを繰り返すことがあります。例えば、秋など特定の季節や花粉が多く飛散する時期、台風が近づくタイミングで悪化することがあります。
また、喘息や咳喘息では、夜間や明け方にかけて咳が強まることがよくあります。また、咳に加え「軽い運動でも息苦しさが出る」「胸の奥が重いような感じがする」などの違和感が続く場合も注意が必要です。
さらに、ホコリの多い場所にいると咳が出たり、冷たい空気を吸い込んだ瞬間に咳き込んだり、犬や猫などペットの近くにいると症状が現れることがあります。
【参考情報】『Asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
2.喘息が疑われるとき、病院は何科が正解?
咳が続いたとき、最初に迷いやすいのが「何科へ行くべきか」という点です。
普段よく受診する内科を選ぶ人も多いと思いますが、喘息や咳喘息を疑うのなら、咳の専門家である呼吸器内科医のいる病院がベストです。
2-1.呼吸器内科が最も適している理由
喘息や咳喘息は、初期の段階では「咳だけが続く」という症状から始まることが多く、一般的な風邪と区別がつきにくい傾向があります。
呼吸器内科では、咳の原因を多角的に捉えるため、以下のような専門的な検査機器・方法が整っています。
・スパイロメーター
・モストグラフ
・呼気NO(一酸化窒素)検査
これらの検査によって、「炎症が続いているのか」「狭くなっているのか」「過敏になっているのか」といった気道の状態を把握し、喘息や咳喘息を適切に診断できます。
さらに、検査結果に基づいて治療方針を明確にできるため、無駄な薬を減らし、必要な治療を迅速に開始できるのも大きな利点です。
【参考情報】『Pulmonologist』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/articles/22210-pulmonologist
2-2.耳鼻科・一般内科・小児科が適している場合
一方、耳鼻科や一般内科、小児科が適切な場合もあります。
<耳鼻科>
咳に加え、鼻水が多い場合は、アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の疑いがあります。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎を喘息と併発している場合、鼻の治療をしておくと、喘息の症状も軽減される可能性があります。
<一般内科>
発熱や倦怠感があり、風邪を疑う場合。 ※呼吸器内科でも風邪の診療はできます
◆「風邪の初期症状」をチェック>>
<小児科>
お子さんは、まずはかかりつけの小児科で診てもらうのもいいでしょう。
しかし、これらの診療科で治療を続けても咳が改善しない場合には、呼吸器内科で詳しく診てもらうことも検討してください。
3.お子さんの咳が心配な方へ ― 小児喘息の特徴
子どもはちょっとしたことでもすぐ咳をしますし、保育園や学校で風邪をもらってしまうことも少なくありません。
しかし、咳が「長引く」「繰り返す」「激しい」場合は、注意が必要です。
3-1.子どもの気道は細くて敏感
子どもの気道は大人より細いため、健康な大人なら気にならない程度の刺激にも敏感に反応し、咳が出ることがあります。
特に、風邪やコロナなどの呼吸器感染症をきっかけに気道に炎症が残ると、咳が何週間も続いたり、少し動いただけで呼吸が乱れたりします。
3-2.風邪が治った後に続く咳は要注意
小児喘息でよく見られるのが、「風邪は治っているのに咳だけが残る」という状態です。
さらに、夜間の咳や明け方のゼーゼーが続くのは、気道が敏感になっているサインであり、保護者が日常で注意して観察すべき重要なポイントです。
3-3.呼吸が「いつもと違う」と感じたら早めの相談を
子どもの咳や喘鳴(ゼーゼー)は、症状が出たりおさまったりと揺らぎが大きいため、診察時に症状が見られないことは決して珍しくありません。そのため、保護者自身の観察が診断のカギを握ります。
「呼吸が浅く速い」「胸が大きく上下している」「少し苦しそうに見える」と感じた場合には、病院で早めに相談することが大切です。
小児科で「喘息ではない」「少し様子を見ましょう」と言われた方も、心配でしたら呼吸器内科で相談してください。当院では0歳児から診察可能です。
また、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーのようなアレルギー疾患を持つお子さんは喘息になりやすい傾向があるので、やはり早めの相談が望ましいでしょう。
【参考情報】『アレルギー性疾患の発症・進展・重症化の予防に関する研究』厚生労働科学研究成果データベース
https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/15560
4.大人になってから発症する喘息にも注意
喘息というと「子どもの病気」という印象を持つ方が少なくありません。しかし、実際には大人になってから・高齢になってから初めて発症することも珍しくありません。
また、子どもの頃に喘息だった人が、大人になってから再び症状が現れるケースもしばしば見られます。
4-1.疲労やストレス、飲酒がきっかけになることも
子どもの喘息の原因はほぼアレルギーですが、大人の喘息は以下のような原因が複合的に絡み合い、ひとつに特定できない場合も多いです。
<アレルギー性>
ハウスダスト、ダニ、花粉、ペットの毛などによるアレルギー反応が気道の炎症を引き起こす。
<非アレルギー性>
疲労やストレス、喫煙、肥満などにより発作が誘発される。
<職業性喘息>
職場で吸入する化学物質や粉塵が原因で発症する。
<アルコール>
飲酒がきっかけで症状が出る。
4-2.大人は忙しさゆえに受診が遅れやすい
大人は、「仕事が忙しい」「家事や育児に追われている」と受診を先送りにしがちです。軽い咳であればなおさら、これくらいは大したことないと判断してしまうでしょう。
しかし、気道の炎症が残ったまま長期間過ごすと、咳が慢性化しやすく、症状が悪化したり発作が起きやすくなることがあります。
「咳によって睡眠が妨げられる」「日中の活動に影響が出る」といった状況は、すでに生活の質が損なわれているサインと言えるでしょう。
5.咳で呼吸器内科を受診する目安
この章では、受診の目安となるポイントを整理しました。迷ったときの判断材料として役立ててください。
5-1.咳が続く「期間」をひとつの基準にする
咳は、風邪や乾燥によって一時的に続くことがあります。こうした咳は、通常1週間程度で改善に向かいます。
しかし、咳が2週間以上続く場合、喘息や咳喘息、あるいは結核などの感染症や肺がんのような重篤な病気が原因かもしれません。
また、胃食道逆流症や副鼻腔炎、薬の副作用でも咳が長引くことがあります。
5-2.症状が出る「時間帯」「季節」「天気」にも注意
咳が夜間や明け方に出やすい場合、喘息や咳喘息で気道が敏感になっている可能性があります。
日中は問題なく過ごせても、就寝前に咳き込み、横になると息苦しさを感じることがあるのは、喘息でよく見られる特徴です。
また、特定の季節や時期で咳が出やすい場合、花粉やダニなどのアレルゲンによって気道が敏感になっている可能性があります。
春や秋の花粉シーズン、または湿度や気温の変化が大きい時期に咳が増えるのは、喘息や咳喘息でよく見られる傾向です。
5-3.生活の中で「支障」が出ている
例えば、「夜中に咳で目が覚める」「会議中に咳が止まらず周囲に気を遣ってしまう」「階段を上ると胸が重くて息がつまる」など、症状が強くなくても日常生活に支障が出ている場合には受診を検討してください。
6.呼吸器内科で行う主な検査
この章では、呼吸器内科でよく行われる検査を説明します。どれも身体への負担の少ない検査であり、特別な準備は必要ありません。
6-1.呼吸機能検査(スパイロメトリー)
息を大きく吸い込み、勢いよく吐き出すことで、空気の通り道である気道がどれほど狭くなっているかを評価する検査です。
喘息では気道が炎症でむくみ、狭くなっていることがあります。その状態を把握することで、咳の原因が気道の狭さにあるのかどうかを判断できます。
この検査は数分程度で終わり、痛みもありません。
【参考情報】『Spirometry』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/17833-spirometry
6-2.呼気NO検査
呼気の中に含まれる一酸化窒素(NO)の量を測定し、気道にどの程度の炎症があるかを調べる検査です。咳喘息やアレルギー性の喘息では、この値が上昇することがあります。
風邪による咳と、気道に炎症が残っている咳とを区別するうえで役立ち、治療の経過をみる指標にもなります。機械に息を吹き込むだけのシンプルな検査です。
【参考情報】『Fractional Exhaled Nitric Oxide Test』American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-procedures-and-tests/exhaled-nitric-oxide-test
6-3.胸部X線(レントゲン)検査
肺炎など、咳の原因となる他の病気が隠れていないかを確認するために行います。
6-4.モストグラフ
息をしているときの気道の状態を調べる検査です。普段どおりに呼吸をするだけで、気道の狭さや抵抗の有無を確認できます。
6-5.血液検査
炎症の程度やアレルギー体質の有無を確認する目的で行われます。特に、アレルギーが関係しているタイプの喘息かどうかを判断しやすくなります。
7.受診前の準備で診療がスムーズに
呼吸器内科を受診するとき、「何を伝えればよいのか」「どんな情報が必要なのか」が分からず、悩んでしまう方もいます。
この章では、受診前に知っておくと診療がスムーズになるポイントを整理します。
7-1.症状の経過を振り返る
まず重要なのは、咳がいつ頃から始まったのか、どのような経過をたどっているのかです。
「風邪をひいた後から続いている」「季節の変わり目に悪化しやすい」「夜だけ強まる」など、症状の出方にはその人特有のパターンがあります。
こうした情報は、診察の際に原因を絞り込む大きな手掛かりになります。
7-2.悪化する時間帯や症状が出るきっかけ
咳や息苦しさがどの時間帯に出やすいか、また何をきっかけに悪化するかも重要です。
例えば、「夜寝る前に咳が増える」「運動すると息切れが強い」「冷たい空気に触れると咳が出る」という情報は有用です。
7-3.市販薬・処方薬の使用履歴
市販の風邪薬や咳止め薬などを使用している場合は、その薬がどの程度効果があったのかを伝えることも診察に役立ちます。
薬が効いたのか、変わらなかったのか、一時的に良くなったのか──こうした変化は、咳の原因を推測する大切なヒントになります。
7-4.生活環境や既往歴
咳は、環境やアレルギーの有無とも深く関係します。「職場がホコリっぽい」「ペットを飼っている」などの情報も、咳の原因を探る手掛かりとなります。
また、アレルギー性鼻炎やアトピー体質の有無、過去に気管支炎を繰り返した経験なども、診断の助けになります。
7-5.子どもは「動画記録」も有用
小児の場合は、診察時に症状がおさまってしまうことがよくあります。そのため、咳の音や呼吸の様子を短い動画で残しておくと、医師が状況を正確に理解しやすくなります。
「呼吸が速い」「胸が大きく上下する」「ゼーゼーする音がする」など、保護者が気になった瞬間を記録しておくことが重要です。
8.おわりに
咳や息苦しさは、よく見られる症状である一方、原因によっては放置すると悪化する場合もあります。
また、咳は単独の原因で起こるとは限らず、「喘息+鼻炎」など、複数の要素が絡み合って発生することもあります。
呼吸器内科での総合的な評価は、こうした複雑な背景を整理し、適切な対処法へ導くために重要な役割を果たします。
もし、あなたが今、咳や息苦しさが続き、喘息ではないかと感じているのであれば、一度呼吸器内科で気道の状態を確認してみることが、安心につながる第一歩となるでしょう。












