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放置は危険!睡眠時無呼吸症候群の死亡率と突然死を防ぐための正しい対策

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2026年05月15日

睡眠時無呼吸症候群は寝ている間に症状が現れるため、気づきにくい病気です。

また、仕事で多忙な中年男性の患者数が多いこともあり、うすうす病気に気づいている人も、病院への受診が遅くなりがちです。

しかし、この病気を放っておくと、心筋梗塞のような命にかかわる合併症が引き起こされる危険があるので、甘く見てはいけません。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群が死亡リスクを増加させる原因と、その対策について説明します。

1.「ただのいびき」と放置してはいけない理由


「いびきをかいて寝ているのは、熟睡している証拠だ」と思っていませんか?

実は、激しいいびきは体が発している「窒息寸前のサイン」かもしれません。

睡眠時無呼吸症候群は、単に睡眠を妨げるだけでなく、気づかないうちに血管や心臓に深刻なダメージを与え続ける「サイレントキラー(静かなる殺し屋)」とも呼ばれる病気です。

放置すると寿命を縮めるリスクがあるため、早期の発見と適切な対策が何よりも重要になります。

【参考情報】『Sleep Apnea』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea

1-1.睡眠時無呼吸症候群とは

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、寝ている間に呼吸が止まったり浅くなったりすることを繰り返す病気です。

医学的には、10秒以上の呼吸停止や低呼吸が、「1時間あたり平均で5回以上」あれば、睡眠時無呼吸症候群と診断されます。

この病気の原因は、大きく2つに分けられます。

・閉塞性:喉(気道)が物理的にふさがって呼吸が妨げられる(患者さんの大半はこちらです)
・中枢性:脳や心臓の病気により、呼吸の指令が脳からうまく伝わらなくなる

主な症状は「激しいいびき」です。

毎日のようにいびきをかき、時々「止まる」のが特徴です。

家族に「息が止まっていて怖い」と心配されたり、「うるさくて眠れない」と指摘されたりして病気に気づくケースが多く見られます。

◆「睡眠時無呼吸症候群」についてもっとくわしく>>

1-2.【重要】重症度と死亡率の関係

睡眠時無呼吸症候群は、放置すると死亡率が大幅に上がることが研究でわかっています。

判断基準となるのは、1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数を示す「AHI」という指数です。

・軽症: AHI 5〜15未満
・中等症: AHI 15〜30未満
・重症: AHI 30以上

ある研究では、中等症〜重症(AHI 20以上)を治療せずに放置した場合、7〜8年後には20〜30%の人が亡くなっているという報告もあります。

しかし、適切な治療(CPAPなど)を継続した患者さんの生存率は、治療をしない場合と比べて非常に高いことが示されています。

正しく治療をすれば、健康な人と変わらない生活を送り、命を守ることができる病気なのです。

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/i/i-05.html
 

1-3.なぜ「突然死」のリスクが高まるのか?

「寝ている間に息が止まって、そのまま窒息死するのでは?」と不安になる方もいるかもしれませんが、実は無呼吸そのもので直接亡くなることはまずありません。

問題は、呼吸が止まるたびに「体の中が深刻な酸素不足(酸欠)」になることです。

1.呼吸が止まるたびに、脳や体が危険を感じて無理やり目を覚まさせる
2.心臓は不足した酸素を補おうとして、血圧を上げ、フル回転で拍動する
3.この強い負荷が毎晩繰り返されることで、血管がボロボロになる

その結果、夜間に心筋梗塞や脳卒中、深刻な不整脈を引き起こし、突然死につながるのです。

睡眠時無呼吸症候群の方は、健康な人と比べて夜間の突然死リスクが約2.6倍高いというデータもあります。

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群 / SAS』厚生労働省e-ヘルスネット
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/dictionary/heart/yk-026

2.放置すると怖い合併症


寝ている間の酸欠とストレスは、全身に悪影響を及ぼします。

2-1.心筋梗塞・心不全・脳卒中


血管に負担がかかり続けると「動脈硬化」が進み、血管が柔軟性を失ってボロボロになります。

心臓の血管が詰まれば心筋梗塞、脳の血管が詰まったり破れたりすれば、脳梗塞や脳出血といった「脳卒中」を引き起こします。

さらに、過度な負担で心臓のポンプ機能が低下する「心不全」を招く恐れもあるのです。

重症(AHI 30以上)の場合、これら命に関わる疾患の発症リスクは、健康な人の約5倍にもなると報告されています。

【参考情報】『Sleep Apnea and Cardiovascular Disease』American Heart Association
https://www.heart.org/en/health-topics/sleep-disorders/sleep-apnea-and-heart-disease-stroke

2-2.高血圧

無呼吸のたびに脳が覚醒するため、体を興奮させる「交感神経(活動する時に働く神経)」が刺激されます。

これにより、寝ている間も血圧が高いままになり、やがて薬の効きにくい頑固な高血圧を招きます。

2-3.糖尿病と肥満の悪循環

睡眠の質が下がると、血糖値をコントロールするホルモン(インスリン)の働きが悪くなります。

また、睡眠不足は食欲を増進させるホルモンを増やし、満腹感を感じるホルモンを減らします。

「食べすぎによる肥満→無呼吸の悪化」という負のループに陥りやすくなります。

◆「睡眠時無呼吸症候群と糖尿病」の関係>>

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)の 疫学』日本内科学会雑誌 109 巻 6 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/109/6/109_1059/_pdf

2-4.認知症のリスク

最近の研究では、夜間の酸素不足が脳にダメージを与え、アルツハイマー型認知症の原因物質(アミロイドβ)を蓄積させやすくすることがわかってきました。

治療をしない場合、認知症の発症リスクが約2倍になるという報告もあります。

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群と認知症』国立長寿医療研究センター
https://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/letter/081.html

3.こんな人は要注意!なりやすい人の特徴とセルフチェック

「自分は大丈夫」と思っていても、以下に当てはまる方は注意が必要です。

【体型・身体の特徴】
・肥満気味である(特に首まわりに脂肪がついている)
・下あごが小さい、または後ろに引っ込んでいる
・舌が大きい、または喉の奥が狭い
・首が太くて短い

【生活習慣】
・お酒を毎日飲む(アルコールは喉の筋肉を緩ませます)
・寝る直前に食事をする
・常に仰向けで寝ている

【セルフチェックリスト】
□ 家族にいびきや呼吸の停止を指摘される
□ 日中、我慢できないほど強い眠気に襲われる
□ 寝たはずなのに、起きた時に体がだるい
□ 起きた時に口の中が乾いている、または頭痛がする
□ 夜中に何度もトイレに起きる
□ 集中力が続かなくなった

2つ以上当てはまる場合は、一度専門の医療機関で相談することをおすすめします。

4.実は女性も注意が必要?ホルモンの変化と無呼吸

睡眠時無呼吸症候群は「男性の病気」と思われがちですが、実は更年期以降の女性もリスクが急激に高まります。

女性ホルモンには、気道を支える筋肉をしっかりと保つ働きがあります。

しかし、閉経に伴いホルモンバランスが変化すると、喉の筋肉が緩みやすくなり、それまでいびきをかかなかった人でも無呼吸になることがあります。

女性の場合は、男性のような激しいいびきよりも「夜中に何度も目が覚める」「朝から体が重い」といった不調として現れることが多いため、見逃さないことが大切です。

◆「更年期以降の女性のいびきの原因は?改善のためにできること」について>>

【参考情報】『Symptoms and Risk Factors of Sleep Apnea』National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/symptoms

5.睡眠時無呼吸症候群により高まる事故のリスク


睡眠時無呼吸症候群になると、睡眠の質量が下がるため、昼間に眠くなることが増えます。

この眠気が我慢できないほど強くなると、運転事故を起こすことがあります。

2003年2月、JR山陽新幹線の運転士が居眠り運転し、駅の手前で電車が自動停止したことがありました。

この居眠り運転の原因は、睡眠時無呼吸症候群にあると報道されています。

また、2012年に起きた関越自動車道高速バスの居眠り運転による事故では、乗客に死傷者も出ました。

このバスの運転手は、事故後に睡眠時無呼吸症候群だと診断されています。

このように、病気による異常な眠気から交通事故を起こし、取り返しのつかない事態に陥ることもあります。

【参考情報】『睡眠時無呼吸症候群(SAS)問題対策』内閣府
https://www8.cao.go.jp/koutu/taisaku/h15kou_haku/h15gait2.html

◆「睡眠時無呼吸症候群と運転業務」について>>

6.治療(CPAP)でリスクはどこまで減らせるのか


睡眠時無呼吸症候群と診断されたら、主にCPAP(シーパップ)という医療機器を用いて、寝ている間に鼻から空気を送り込み、呼吸をサポートします。

CPAPを使用すると、睡眠中に呼吸が止まることがなくなるため、心臓や血管への負荷が軽減され、合併症の予防・改善に役立ちます。

◆「CPAP」についてくわしく>>

また、睡眠の質が大幅にアップするため目覚めが良くなり、日中の眠気も改善していきます。

そのため、居眠り運転のリスクも減らすことができます。

特に、重症の患者さんほど効果がはっきりとわかるようで、「もっと早くから使用していれば」という感想を聞くことが多いです。

日本呼吸器学会の報告では、CPAP治療を適切に行うことで、生存率を健康な人と同等まで改善できることが明らかになっています。

これは、睡眠時無呼吸症候群が適切な治療によって生命予後を大幅に改善できる病気であることを示しています。

治療を継続するためには、CPAP装置を1日4時間以上、使用日数が評価期間(医師が使用状況を確認する期間)の70%以上使用することが目安とされています。

この基準を守ることで、治療効果を最大限に引き出し、合併症のリスクを健康な人と同程度まで抑えることが可能になります。

7.おわりに

睡眠時無呼吸症候群を放っておくと、心筋梗塞など命にかかわる病気のリスクが上がり、突然死に至ることがあります。

また、合併症である糖尿病や高血圧でも、突然死につながる病気のリスクが増加します。

いびきや昼間の眠気は、単なる疲れではありません。それは「体が酸素を求めて叫んでいる声」かもしれません。

早めに検査を受け、治療を始めれば、心筋梗塞や脳卒中のリスクを抑え、大切な家族との時間を守ることができます。

「おかしいな」と思ったら、まずは専門の病院を受診して相談してください。

◆当院の睡眠時無呼吸症候群治療について>>

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