呼吸器内科のレントゲン検査~検査でわかる病気と注意点~

病院や健康診断、人間ドックなどで、みなさんも一度は「レントゲン検査」を受けたことがあるのではないでしょうか。
呼吸器内科では、咳が長引く方や息切れがある方に対して、胸部レントゲン検査を行い、肺や気管支の状態を詳しく調べます。
医師によってはレントゲン写真を患者さんに見せながら診察を行うこともありますので、実際に写真を見たことがある方も多いでしょう。
この記事では、呼吸器内科で行うレントゲン検査について説明しながら、レントゲン写真でわかる呼吸器の病気とわからない病気を紹介します。
目次
1.呼吸器内科のレントゲン検査の仕組み
呼吸器内科では、胸部レントゲン検査を用いて、肺や気管支の病気を診断します。
レントゲン検査は、放射線の一種である「X線」という電磁波を使って体内の画像を撮影し、幅広い病気の診断に役立てる画像検査です。
【参考情報】”X-Ray” by Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diagnostics/21818-x-ray
医療機関では「X線検査」と言いますが、一般的にはX線の発見者であるドイツの物理学者ヴィルヘルム・レントゲンの名前にちなんで「レントゲン検査」と呼ばれます。
【参考情報】『放射線研究の幕開け~レントゲンによるX線の発見~』首相官邸
https://www.kantei.go.jp/saigai/senmonka_g51.html
この検査では、骨や水分などは白く描写され、肺などの空気が多い場所は黒く写るという特徴があります。
肺炎などの病気で肺に炎症が起こっている箇所には、体液などの水分が多く集まります。そのため、炎症が起きている場所は「白っぽく」写ります。
この特徴を利用することで、肺の状態を把握することができるのです。
呼吸器内科の専門医など、レントゲン画像を多数見てきた医師であれば、微妙な色の濃淡から病気の詳細までわかることもあります。
また、胸部レントゲン検査は、呼吸器の病気を見つけるだけでなく、「病気がないことを確認する」目的でも広く行われています。
さらに、肺の状態だけでなく、心臓の大きさや形、胸部の骨の状態なども同時に観察できるため、心疾患の発見につながることもあります。
【参考情報】『胸部X線』日本人間ドック・予防医療学会
https://www.ningen-dock.jp/inspection_chest-x/
【参考情報】”Chest X-Ray” by American Lung Association
https://www.lung.org/lung-health-diseases/lung-procedures-and-tests/chest-x-ray
2.レントゲン検査の撮影方法
レントゲン検査では必要に応じて、立位、座位、臥位(がい:寝た状態)などの体位で撮影します。
呼吸器内科では、主に立位で胸部の写真を撮影します。
<胸部レントゲン検査の受け方>
胸をパネルにぴったりつけ、少し前にかがみます。
胸がパネルから離れないよう、注意しましょう
息を大きく吸って呼吸を止め、呼吸を止めた状態で撮影します。
息を大きく吸い込むことで肺が膨らみ、肺の内部構造がはっきりと写るようになります。
また、呼吸を止めることで肺の動きが止まり、画像がブレずに鮮明に撮影できます。
レントゲン撮影時に体を動かしてしまうと、画像がブレてしまうため、指示があるまで静止しましょう。
検査時間は部位や撮影回数によりますが、5~10分程度が目安となります。
2-1.レントゲン検査を受ける際の注意点
レントゲン検査を受ける際には、いくつかの重要なポイントに注意する必要があります。
検査がスムーズに進み、正確な画像が得られるよう事前に知っておきたいことを、放射線技師に聞いてまとめました。
<写るもの・写らないもの>
レントゲンには、「硬い」ものがはっきりと写ります。
例えば、骨は硬いため鮮明に写りますが、脂肪は柔らかいため写りにくいです。
硬いものといえば、金属を思い浮かべる人も多いでしょうが、金属に限らず、プラスチックなどの素材も硬ければ写ります。
このことを理解しておくと、不要なものを身につけずに検査を受けることができます。
<身につけているものに注意>
検査の際、身につけているものによっては撮影画像に影響を与え、撮り直しになることがあります。
特に注意が必要なものとして、以下のようなものが挙げられます。
・衣類のアジャスター:
キャミソールの肩ひもなどに付いているプラスチック製のアジャスター(ひもの長さを調整する部分)が写ってしまうことがあります。
・貼るカイロ
中に鉄粉が含まれており、画像に影響を与えるため、事前にはがしておきましょう。
・磁石を用いた治療器
磁石が含まれているものはレントゲンに写る可能性があるため、検査前に取り外してください。
・貼り薬
フランドルテープ、ホクナリンテープなどを貼ったまま検査を受ける場合は、医師や技師に相談しましょう。
・ペースメーカー:
装着している人は、検査前に必ず医師へ申告してください。
<服装の工夫>
検査当日は、着脱しやすい服装を選ぶことがポイントです。
アクセサリーや装飾の多い服装は避け、シンプルな衣類を選びましょう。
検査の際、検査部位によっては脱衣(軽装に着替える)が必要になる場合があります。
薄いTシャツだけなら、着衣のまま撮影することも可能ですが、ボタンやファスナー、刺しゅうなどがある場合には、脱衣が必要になることがあります。
レントゲン検査を受ける際は、これらのポイントを意識して、スムーズかつ正確な検査ができるよう準備しましょう。
2-2.被ばくの心配について
レントゲン検査に用いるX線は放射線の一種なので、中には被ばくが心配な方もいるでしょう。
しかし、大地の岩石に含まれる放射性物質から出る放射線や、宇宙から放出される宇宙線など、自然界から放射される「自然放射線」による被ばく量が年間で2.4ミリシーベルトであるのに対し、胸部X線写真1回の被ばく量は 0.06ミリシーベルトと非常に少ないです。
東京からニューヨークまで飛行機で往復する際に、宇宙線などにより被ばくする量が0.11ミリシーベルト程度なので、それより少ない量となります。
【参考情報】『自然・人工放射線からの被ばく線量』環境省
https://www.env.go.jp/chemi/rhm/h29kisoshiryo/h29kiso-02-05-01.html
このように、レントゲン検査で受ける放射線量は非常にわずかなため、安心して検査を受けてください。
近年のレントゲン機器はデジタル化が進み、フィルム時代よりも被ばく量が大幅に低減しています。
ただし、妊婦や妊娠している可能性のある人は、胎児に影響が及ぶ恐れがあるため、医師に相談してください。
また、持病のある方や薬を服用している方も、念のため、やはり医師に相談してください。
3.レントゲン検査とCT検査の違い
呼吸器内科では、レントゲン検査で異常が疑われた場合や、より詳しい検査が必要な場合に胸部CT検査を行うことがあります。
両者の違いを理解しておきましょう。
<レントゲン検査の特徴>
・撮影方法:
一方向からX線を照射し、1枚の平面画像として撮影します。
立体的な体を平面に映し出すため、骨や血管、心臓などが重なって写ります。
・検査時間:
5~10分程度と短時間で終了します。
・被ばく量:
0.05ミリシーベルト程度と非常に少ない量です。
・費用:
保険適用で3割負担の場合、約600~1,690円程度が目安です。
・目的:
肺炎やCOPD、気胸といった呼吸器疾患を発見するため。
【参考情報】”What Is Pneumonia?” by NIM
https://www.nhlbi.nih.gov/health/pneumonia
<CT検査の特徴>
・撮影方法:
体の周りを回転しながらX線を照射し、複数の断面画像を撮影します。肺の内部を輪切りにした画像が得られるため、レントゲンでは見えにくい小さな病変も発見できます。
・検査時間:
5~20分程度かかります。
・被ばく量:
通常のCT検査で約7ミリシーベルト、低線量CT検査でも約1~2ミリシーベルトと、レントゲンよりも多くなります。ただし、がんのリスクが統計的に増加する100ミリシーベルトと比べると、十分に低い線量です。
・費用:
保険適用で3割負担の場合、単純CT検査で約5,000~7,000円程度、造影CT検査では約10,000円程度が目安です。
・目的:
小さな肺がんや初期の間質性肺炎の発見、肺塞栓症の診断など。
【参考情報】”Lung Cancer Screening (PDQ®)–Health Professional Version” by NIM
https://www.cancer.gov/types/lung/hp/lung-screening-pdq
<レントゲン検査では見つけにくい病気>
実際に、胸部レントゲンでは見つからない肺の病気が、胸部CT検査で鮮明にわかることが非常に多くあります。
具体的には以下のような病気です。
・1cm以下の小さな肺がん:
レントゲンでは2~3cm以上でないと指摘が困難です。
・初期の間質性肺炎:
微細な変化はCT検査でなければ見えません。
・小さな気胸:
わずかな空気の漏れはレントゲンでは見逃されることがあります。
・胸水の少量貯留:
少量の場合は側面像やCT検査が必要です。
・肺塞栓症:
レントゲンでは正常に見えることが多く、造影CT検査が必要です。
当院では、患者さんの症状や診察所見から、レントゲン検査だけで十分か、CT検査まで必要かを判断し、適切な検査をご提案しています。
【参考情報】『低線量胸部CT検査を受けられる方へ』日本予防医学学会
https://www.jpm1960.org/jushinsya/low-dose-chest-ct-scan.html
4.レントゲン検査でわかること・わからないこと
胸部レントゲン検査でわかる可能性がある呼吸器の病気には、以下のようなものがあります。
<レントゲン検査でわかる可能性がある病気>
・肺炎
・肺がん
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
・肺結核
・気胸
・肺水腫
・塵肺(じんはい)
検査は病気の診断に利用するだけではなく、治療経過や状態の変化を知る手がかりにもなります。
また、肺のレントゲン写真を撮影すると心臓の状態もチェックできるので、心疾患の発見につながることがあります。
定期的にレントゲン検査を行うことで、新しい病変を早期に発見したり、治療効果を判定したりすることが可能です。
<レントゲン検査だけではわからないこと>
レントゲン検査は、短時間で非常に多くの情報が得られる検査ですが、この検査だけでは判断できない病気もあります。
例えば、非常に微細ながん細胞は、レントゲンでは撮影することができません。
そのため、早期の肺がんの診断には、腫瘍マーカー(腫瘍細胞の存在を確認する検査)を測定したり、PET‐CTとよばれる装置で画像検査を行うことがあります。
【参考情報】『腫瘍マーカー検査とは』がん情報サービス|国立がん研究センター
https://ganjoho.jp/public/dia_tre/inspection/marker.html
また、一部の喘息やアレルギーによる咳なども、レントゲン検査では異常が見つからないことがあります。
これらの病気を診断するためには、問診や血液検査、さらに専門的な検査が必要となります。
4-1.レントゲン検査だけではわからない時に行う検査
呼吸器内科では、レントゲン検査を受けても異常が認められない場合や、さらに詳しく調べる必要がある場合に、肺などの呼吸器の機能や状態を詳しく調べるため、以下のような専門的な検査を行うことがあります。
・スパイロメトリー
・呼気一酸化窒素濃度測定(FeNO)
・モストグラフ
・胸部CT検査
・気管支鏡検査
これらの検査は、喘息や咳喘息、COPDなどの病気の診断に役立ちます。
5.レントゲン検査の費用と検査の頻度
胸部レントゲン検査の費用は、保険適用の有無によって異なります。
<保険適用の場合>
・3割負担の方: 検査のみで約600~1,690程度
・1割負担の方: 検査のみで約200~300円程度
実際の医療費は、初診料や再診料、診察代なども含まれます。
<自費診療の場合>
人間ドックや企業健診などで自費で受ける場合は、医療機関によって異なりますが、2,000~3,000円程度が一般的です。
5-1.レントゲン検査の頻度について
「前回もレントゲンを撮ったのに、また撮るのですか?」と心配される患者さんもいらっしゃいますが、病気によって進行速度が異なるため、適切な検査間隔も変わってきます。
<病気の種類による検査頻度の違い>
・肺非結核性抗酸菌症:年に1~2回程度の感覚で検査(年単位で病気が進行するため)
・肺がん・結核:月に1回程度の間隔で検査(月単位で病気が進行するため)
・肺炎・気胸:数日~1週間ごとの間隔で検査(日~週単位で病気が進行するため)
このように、肺炎などは数日で影が出てくることもあるため、短期間でレントゲンを撮り直すことがあります。
また、治療によって日〜週の単位で改善するため、治療効果を確認する目的でも再度撮影を行います。
5-2.健康診断のレントゲン検査で異常が見つかったら
健康診断や人間ドックで「胸部レントゲンに異常あり」と指摘された場合、まずは呼吸器内科を受診することをお勧めします。
<受診後の流れ>
1. 再度レントゲン撮影
健康診断の画像と比較して、本当に異常があるかどうかを確認します。
骨や血管が重なって見えているだけの場合もあるため、専門医による診察が重要です。
2. 異常なしと判断された場合
特に治療の必要はなく、通常通り年1回の健康診断を受けていただきます。
3. 異常ありと判断された場合
胸部CT検査を行い、より詳しく肺の状態を調べます。
CT検査で病変の位置や大きさ、形状を正確に把握できます。
4. さらなる精密検査が必要な場合
・感染症が疑われる場合:喀痰(かくたん)検査、血液検査など
・重症の場合:専門病院への紹介
5. 経過観察が必要な場合
小さな影で良性の可能性が高い場合は、1~3か月後に再度CT検査を行い、影の大きさに変化がないかを確認します。
2年間変化がなければ、悪性の可能性は低いと判断されます。
健康診断で異常を指摘されても、必ずしも重い病気とは限りません。
しかし、早期発見・早期治療のためにも、指摘を受けたら必ず呼吸器内科を受診しましょう。
◆「咳がなかなか治らない理由と考えられる病気」について詳しく>>>
6.おわりに
呼吸器内科で行うレントゲン検査は、迅速かつ正確に体内の状態を把握するための重要な検査です。
さらに、近年はデジタル化が進み、より鮮明でムラのない画像が撮影できるようになったため、検査の精度も向上しています。
しかし、喘息や気管支炎のように、レントゲン検査だけでは異常が認められない呼吸器疾患もあるため、医師は患者の症状や病歴なども考慮し、必要があれば別の検査も行い、総合的に判断する必要があります。
レントゲン検査は、病気を発見するためだけではなく、「病気がないことを確認する」目的でも行われます。
検査を受けることが、必ずしも重い病気を意味するわけではありません。
早期発見の機会を逃さないためにも、必要な検査は積極的に受けるようにしましょう。














