ストレートネックはいびきの原因になる?現在わかっている関係性を医師が解説

近年はスマートフォンやパソコンの長時間使用を背景に、「ストレートネック(スマホ首)」という言葉を耳にする機会が増えています。
インターネット上では「ストレートネックがいびきの原因になる」と紹介されることがありますが、「ストレートネックが原因でいびきをかくようになる」とはっきり言えるだけの医学的な裏づけは、まだありません。
一方で、ストレートネックにつながるような頭が前方へ突き出た姿勢は、頭頸部の位置関係を変化させ、睡眠中の上気道の状態に影響を及ぼす可能性があることも報告されています。
この記事では、いびきが起こる医学的なメカニズムを解説するとともに、ストレートネックとの関係について現在わかっていることを整理します。
1. ストレートネックはいびきの原因になる?
いびきとストレートネックの関係については、さまざまな情報がありますが、現時点でわかっていることと、まだ明らかになっていないことがあります。
1-1.ストレートネックはいびきの原因とは言い切れない
インターネットでは、「ストレートネックを改善すればいびきも改善する」「ストレートネック対応の枕でいびき対策ができる」といった情報や広告を目にすることがあります。
そのため、「自分のいびきはストレートネックが原因なのでは?」と考える方も少なくありません。
しかし現時点では、ストレートネックそのものがいびきの直接的な原因であることを示す十分な医学的根拠はありません。
1-2.頭や首の姿勢は気道の広さに影響する可能性がある
一方で、頭や首の姿勢と気道(空気の通り道)の広さには、何らかの関連がある可能性が報告されています。
睡眠時無呼吸症候群の患者を対象とした研究では、首や頭の姿勢と、気道の広さに関連があることがわかっています。
【参考情報】『Pharyngeal Airway Dimensions and Head Posture in Obstructive Sleep Apnea Patients with and without Morphological Deviations in the Upper Cervical Spine』National Library of Medicine
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5676314/
また、頭が前方に突き出るような姿勢は、狭くなった気道を少しでも広く保とうとして、体が無意識に取っている姿勢である可能性も指摘されています。
【参考情報】『Airway dimensions and head posture in obstructive sleep apnoea』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9009421/
2. いびきとストレートネックが関係する可能性
いびきは、睡眠中に筋肉がゆるみ、舌や軟口蓋などによって気道が狭くなり、そこを空気が通る際に組織が振動して生じます。
2-1. 姿勢で気道が狭くなりやすい可能性
ストレートネックになると、本来ゆるやかにカーブしているはずの首の骨がまっすぐになり、頭が肩よりも前に突き出た姿勢「頭部前方偏位(フォワードヘッドポスチャー)」が生じることがあります。
この状態になると首やあごの位置が変化し、それに伴って気道の広さにも影響が及ぶことが、これまでの報告からわかっています。
さらに、睡眠中は全身の筋肉がゆるむため、もともと狭くなりやすい気道はいっそう狭くなります。
その狭い隙間を空気が通ることで喉の粘膜が振動し、いびきが起こりやすくなると考えられています。
2-2. 首周囲の筋肉への影響
ストレートネックになると、頭を支えるために首や肩の筋肉へ余計な負担がかかりやすくなります。
【参考情報】『Airway dimensions and head posture in obstructive sleep apnoea』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/9009421/
頭や首の姿勢は気道空気の通り道の広さと関連することが報告されており、姿勢の変化が気道の状態に影響する可能性も示唆されています。
ただし、この姿勢の変化がいびきの発生にどの程度関わるのか、あるいは原因なのか結果なのかについては、現時点では十分に明らかになっていません。
3. ストレートネックを改善するためにできること
ストレートネックがいびきの直接的な原因であることは証明されていませんが、首や姿勢を整えることは、睡眠時の快適な姿勢づくりや睡眠の質を高めるために役立つ可能性があります。
この章では、日常生活で取り入れやすいストレートネック対策を紹介します。
3-1. 長時間のスマートフォン・パソコン姿勢を見直す
ストレートネックの大きな要因の一つが、長時間うつむいた姿勢です。
【参考情報】『Text neck: An adverse postural phenomenon』National Library of Medicine
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34366308/
スマートフォンを顔より低い位置で見続けたり、パソコン作業で頭を前へ突き出した姿勢を続けたりすると、首への負担が大きくなります。
スマートフォンはできるだけ目線の高さに近づけて使用し、パソコンのモニターは目線と同じくらいの高さに調整しましょう。
また、1時間に1回程度は立ち上がって体を動かし、同じ姿勢を続けないことも大切です。
3-2. 枕の高さを見直す
枕が高すぎると首が前へ曲がりやすくなり、低すぎると頭が後ろへ反り返ってしまいます。どちらも首に負担がかかるため、自分の体格や寝姿勢に合った高さの枕を選ぶことが大切です。
仰向けで寝たときに、首の自然なカーブが保たれ、顔が上や下を向きすぎない高さが目安です。また、横向き寝では、首と背骨が一直線になる高さが理想的とされています。
3-3. 首や肩のストレッチ
首や肩の筋肉をほぐすストレッチも、ストレートネックによる筋肉の緊張を和らげるのに役立ちます。
例えば、首をゆっくり左右に倒したり、肩を大きく回したりするストレッチを無理のない範囲で行うと、首や肩周囲の柔軟性を保ちやすくなります。
ただし、痛みを感じる場合は無理に続けず、症状が強い場合は整形外科へ相談しましょう。
4. いびきの主な原因
いびきの背景には、生活習慣や身体的特徴、病気など、さまざまな要因が関係しています。
4-1. 肥満
肥満は、いびきを引き起こす代表的な原因の一つです。
睡眠中は筋肉がゆるむため、起きている時より気道が狭くなります。さらに体重が増えると、首まわりや喉にも脂肪がつきやすくなり、その分だけ気道が狭くなってしまいます。
すると、狭くなった気道を空気が通過する際に、いびきが発生しやすくなるのです。
特に首まわりに脂肪がつきやすい方や、短期間で体重が急激に増えた方は、いびきだけでなく睡眠時無呼吸症候群のリスクも高まることが知られています。
◆「いびきの原因は肥満?改善法と危険なサインを知っておこう」>>
4-2. 加齢
加齢は、いびきが出やすくなる要因の一つとして知られています。
年齢を重ねると、喉や舌のまわりの筋力や筋肉の緊張が少しずつ低下します。特に、気道を支えている喉の筋肉(咽頭筋)や舌の筋肉の緊張が低下すると、睡眠中に気道が狭くなりやすくなります。
また、筋肉だけでなく、喉のまわりの組織も加齢とともに弾力が低下し、たるみやすくなります。もともと睡眠中は筋肉がゆるむため気道は狭くなりやすいものですが、こうした変化によって気道はさらに狭くなりやすくなると考えられています。
4-3. 鼻づまり
鼻炎や副鼻腔炎、花粉症などで鼻の粘膜が腫れると、鼻から喉への空気の通り道が狭くなります。すると、鼻だけでは十分な呼吸ができなくなり、口呼吸に切り替わりやすくなります。
口呼吸になると、あごが下がって口が開いた状態になり、舌の付け根(舌根)が喉の奥へ落ち込みやすくなります。その結果、もともと狭くなっている気道がさらに狭くなることがあります。
このように、鼻づまりは単に呼吸をしづらくするだけでなく、口呼吸を招くことで気道が狭くなりやすくなり、いびきを助長する要因の一つになると考えられています。
4-4. 飲酒
アルコールには筋肉をゆるめる作用があります。そのため、お酒を飲んで眠ると、普段以上に喉まわりの筋肉や舌の筋肉がゆるみ、気道が狭くなりやすくなります。
筋肉がゆるむと、舌の付け根や軟口蓋が喉のほうへ落ち込みやすくなり、気道はさらに狭くなります。
また、アルコールには脳の働きを抑える作用もあるため、気道が狭くなっても、それを補う体の反応が弱まりやすくなります。
その結果、狭くなった気道を空気が通過する際に喉の組織が振動し、いびきが起こりやすくなると考えられています。
4-5.睡眠薬
多くの睡眠薬には、脳の神経活動を抑えて眠りを促す作用があります。この作用によって寝つきが良くなる一方で、薬の種類によっては筋肉の緊張をゆるめる作用もあります。
そのため、睡眠中に喉まわりの筋肉(咽頭筋)や舌を支える筋肉の働きが低下すると、舌の付け根や軟口蓋が喉の奥へ落ち込みやすくなり、気道が狭くなることがあります。
また、一部の睡眠薬では呼吸を調整する働きに影響を与え、気道が狭くなった際の呼吸反応を弱める可能性があります。
その結果、空気の通り道が狭くなった状態で呼吸すると、喉の粘膜や軟口蓋が振動し、いびきが出やすくなることがあります。
4-6. あごが小さい
あごが小さい、あるいは下あごが後方に引っ込んでいる場合、舌を収める口腔内や上気道周囲のスペースが狭くなります。
そのため、舌の付け根がもともと喉の奥側に位置しやすく、気道が狭くなりやすい状態になります。
この状態で睡眠中に舌や喉まわりの筋肉の緊張が低下すると、舌の付け根がさらに後方へ移動し、気道が狭窄しやすくなります。
もともと気道のスペースに余裕が少ないため、同じ程度の筋肉のゆるみでも、空気の通り道が狭くなりやすいのです。
その結果、狭くなった上気道を空気が通過するときに、軟口蓋や口蓋垂などの組織が振動し、いびきが発生しやすくなります。
【参考情報】『Retrognathia』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/retrognathia
5. いびきの裏に潜む「睡眠時無呼吸症候群」という病気
いびきは誰にでも起こることがありますが、毎晩続く大きないびきや、呼吸が止まるようないびきは、睡眠時無呼吸症候群のサインかもしれません。
5-1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)とは、睡眠中に呼吸が何度も止まったり、浅くなったりを繰り返す病気です。
医学的には、10秒以上呼吸が止まる状態が一晩に何度も、あるいは1時間あたり複数回みられる場合に、この病気が疑われます。
呼吸が止まると、血液中の酸素が低下し、二酸化炭素が増加していきます。すると脳がその変化を察知し、呼吸を再開させるために覚醒反応を起こします。
このとき、いびきをかいた後に呼吸が再開したり、あえぐような呼吸をしたりすることがあります。
このように、いびきと無呼吸、覚醒反応が一晩に何度も繰り返されると、睡眠が細かく分断され、深い眠りが十分に保てなくなります。
その結果、十分な睡眠時間を確保していても疲れが取れにくくなることがあります。
5-2.睡眠時無呼吸症候群の主な症状
睡眠時無呼吸症候群では、いびきだけでなく、次のような症状がみられることがあります。
<起床時にみられる症状>
・朝起きたときに頭痛がする
・口や喉の渇きを感じる
・しっかり眠ったはずなのに疲れが取れていない
<日中にみられる症状>
・強い眠気に襲われる
・会議中や運転中についウトウトしてしまう
・集中力や記憶力の低下を感じる
・倦怠感が抜けず、やる気が出にくい
・気分が落ち込みやすい、イライラしやすい
これらの症状は、睡眠が細かく分断され、深い眠りが十分に取れていないことが背景にあると考えられています。
5-3. 放置すると起こりうる健康リスク
睡眠時無呼吸症候群は、いびきや眠気だけが問題なのではありません。
無呼吸による酸素不足や睡眠の分断が毎晩繰り返されることで、全身に負担がかかり、さまざまな病気や事故のリスクを高めることが知られています。
<高血圧>
無呼吸のたびに体は酸素不足を補おうとして交感神経が活発になり、血圧が上昇します。この状態が繰り返されることで、高血圧の発症や悪化につながることがあります。
<心疾患・脳卒中>
睡眠時無呼吸症候群は、心筋梗塞や狭心症、不整脈、脳卒中などの心血管疾患のリスクを高めることが報告されています。重症の場合は、将来的な健康への影響も大きくなるため注意が必要です。
<糖尿病との関連>
睡眠不足や酸素不足は、インスリンの働きを低下させ、血糖値のコントロールに影響を及ぼすことがあります。そのため、睡眠時無呼吸症候群は2型糖尿病の発症や悪化にも関係していると考えられています。
<交通事故や労働災害のリスク>
睡眠の質が低下すると、日中に強い眠気や集中力・判断力の低下が起こりやすくなります。その結果、車の運転中や機械を扱う作業中に事故を起こすリスクが高まることがあります。
6.睡眠時無呼吸症候群の検査と治療
睡眠時無呼吸症候群が疑われる場合は、症状やいびきの状況を確認したうえで、睡眠中の呼吸状態を調べる検査を行います。
6-1. 睡眠時無呼吸症候群の検査
比較的症状が軽いと考えられる場合は、自宅で専用の機器を装着して行う簡易検査を行います。この検査では、無呼吸や低呼吸の回数、酸素飽和度(SpO₂)などを測定します。
簡易検査で、より詳しい評価が必要と判断された場合や、より正確な診断が必要な場合は、精密検査を行い、脳波や心電図、眼球運動、筋肉の動きなども記録し、睡眠の質や無呼吸の程度を詳しく評価します。
精密検査は医療機関に一泊して行う場合もありますが、当院では自宅での精密検査を実施しています。
6-2. 睡眠時無呼吸症候群の治療
睡眠時無呼吸症候群の治療は、重症度や原因に応じて選択されます。
軽症の場合は、減量や禁煙、飲酒を控えること、横向きで寝るなどの生活習慣の改善によって症状が軽くなることがあります。また、下あごを前方に出して気道を広げるマウスピース(口腔内装置)が用いられることもあります。
中等症から重症の閉塞性睡眠時無呼吸症候群では、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)が標準的な治療です。睡眠中に鼻へ装着したマスクから空気を送り込み、気道が塞がれるのを防ぐことで、無呼吸やいびきの改善が期待できます。
7. おわりに
ストレートネックといびきの関係については、頭や首の姿勢が上気道の広さに影響する可能性が示唆されているものの、ストレートネックがいびきの直接的な原因であることを示す十分な医学的根拠は現在のところありません。
また、いびきは一つの要因だけで起こるものではなく、肥満やあごの骨格、鼻づまり、飲酒、加齢、睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな要因が複雑に関係して生じます。そのため、「ストレートネックがあるからいびきをかいている」と自己判断することは避けるべきです。
特に、「大きないびきが毎晩続く」「睡眠中に呼吸が止まる」といった症状がある場合は、睡眠時無呼吸症候群が隠れている可能性があります。
放置すると高血圧や心筋梗塞、脳卒中などのリスクが高まるため、早めに呼吸器内科や睡眠外来を受診し、必要に応じて睡眠検査を受けることをおすすめします。
以下の症状がある方は、早めの受診をおすすめします
- 家族にいびきや呼吸の止まりを指摘されたことがある
- 日中に強い眠気を感じる
- 朝起きたときに頭痛や口の渇きがある
- 十分寝ているのに疲れがとれない
- 夜中に何度も目が覚める
当てはまる項目がある方は、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けてみませんか?













