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その「いびき」「昼間の眠気」睡眠時無呼吸症候群の初期症状では?

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)
最終更新日 2025年11月22日

 ・自分のいびきで目が覚める

 ・ちゃんと寝ているはずなのに寝た気がしない

 ・日中、猛烈な眠気に襲われる

このような悩みが続いているなら、睡眠時無呼吸症候群という病気のせいかもしれません。

国内では約300万から500万人が睡眠時無呼吸症候群と推定されていますが、実際に治療を受けている患者さんは約20万人程度と言われており、多くの方が気づかないまま過ごしているのが現状です。

この記事では、睡眠時無呼吸症候群の初期症状について解説します。気になる症状がある方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.睡眠時無呼吸症候群とはどんな病気か


睡眠時無呼吸症候群とは、眠っている間に空気の通り道である気道が狭くなることで、呼吸が止まったり、浅くなったりすることを繰り返す病気です。

◆「睡眠時無呼吸症候群の症状・検査・治療の基本情報」>>

医学的には、就寝中に10秒以上呼吸が止まったり、呼吸が弱くなったりする状態が、1時間あたり平均5回以上繰り返されることと定義されています。

この病気になると、深い睡眠をとることができず、熟眠感が得られなくなります。

また、呼吸が妨げられることにより、体内の酸素が不足すると、酸素を補うために心臓の働きが強くなり、心臓や血管に負担がかかります。

重症患者さんでは、健康な人と比べて2.6 倍の死亡率の増加があるという研究結果も報告されており、適切な治療が重要です。

◆「睡眠時無呼吸症候群の危険性とは?」>>

【参考情報】”Sleep apnea” by Mayo clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631

【参考情報】『重症睡眠時無呼吸症候群(SAS)患者の死亡率は健常者の2.6倍』無呼吸ラボ
https://mukokyu-lab.jp/factsheet/factsheet1.html

【参考情報】”Sleep Apnea – What Is Sleep Apnea?” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea

2.睡眠時無呼吸症候群の初期症状


睡眠時無呼吸症候群になっても、疲れやストレス、加齢のせいで調子が悪いと勘違いしている人は少なくありません。

以下に紹介するサインを見逃さず、初期のうちに対策を講じましょう。

2-1.いびき


いびきは、睡眠時無呼吸症候群でよくみられる症状のひとつです。

健康な人でも、疲れているときやお酒を飲み過ぎたときなどにいびきをかくことはありますが、毎晩のように激しいいびきがあるのなら、睡眠時無呼吸症候群の疑いが強いです。

特に以下のような特徴のあるいびきには注意してください。

・慢性的にいびきをかいている
・いびきが朝までひっきりなしに続く
・仰向け以外の姿勢で寝るといびきが小さくなる
・いびきの音が変化して呼吸が止まることがある
・無呼吸を伴ういびきは、しばらく止まった後にあえぐような激しい息で再開する

◆「いびきは病気のサイン?原因と対処法、治療について解説」>>

【参考情報】『こんないびきには要注意』SAS対策支援センター
https://www.sas-support.or.jp/column/maybe_sas/

【参考情報】”Snoring | MedlinePlus” by U.S. National Library of Medicine
https://medlineplus.gov/snoring.html

あまりに大きな音なので、自分のいびきで目が覚めてしまう人もいますが、たいていの人は、自分がそんなに激しいいびきをかいているとは気づかないようです。

一緒に寝ている家族やパートナーは、安眠を妨げられていることが多いので、いびきを指摘されたら、しっかりと事実を受け止めてください。

いびきが録音できるアプリもあるので、そちらを利用するのもいいでしょう。

◆「いびきの治し方は?原因を知って対処しよう!」>>

2-2.夜中に目が覚める


睡眠時無呼吸症候群になると、呼吸が妨げられ息苦しくなるので、夜間に目が覚めることが多くなります。

息苦しさが原因で、寝汗をかいたり、悪夢を見ることもあり、さらに睡眠が妨げられるという悪循環に陥る人もいます。

息苦しさのあまり、口を開けて寝ている人もいます。すると、のどが渇くので、のどの渇きで目が覚めることもあります。

睡眠時無呼吸症候群の患者さんは、夜間にトイレに行く回数が増える傾向があります。これは、体内の酸素不足を補うために血液の量が増えることで、余分な水分を体外へ排出する仕組みが働くからです。

◆「夜中に息苦しくて目が覚める人は、睡眠時無呼吸症候群の可能性があります」>>

【参考情報】”What Sleep Conditions Can Hurt My Heart Health?” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/heart-disease/about/sleep-and-heart-health.html

2-3.起床時の症状


睡眠時無呼吸症候群になると、起床時にも以下のような症状が現れます。

 ・頭痛

 ・倦怠感

 ・口の中やのどの渇き

 ・のどの違和感や痛み

頭痛や倦怠感は、無呼吸の影響で体内の酸素濃度が低下することや、十分な睡眠がとれなかったことにより生じます。

また、鼻からの呼吸が妨げられると、無意識のうちに口を開けてしまうため、口の中が乾燥し、のどが渇きます。

◆「寝ている間に喉が渇くのはなぜ?」>>

のどが乾燥した状態で激しいいびきをかいていると、のどの粘膜に負担がかかるため、のどの痛みや違和感を覚えることもあるでしょう。

◆「いびきと口呼吸」の関係>>

2-4.日中の症状


睡眠時無呼吸症候群の影響により、十分な睡眠が得られないと、日中も以下のような症状が現れます。

 ・昼間の強い眠気

 ・集中力の低下

 ・倦怠感や疲労感

これらの症状があっても、「少し疲れているだけ」と思いがちですが、睡眠時無呼吸症候群の影響でこのような症状が出ているなら、休みをとっても、就寝時間を早めても、症状は改善しません。

◆「昼間の眠気が耐えられない」理由>>

睡眠時無呼吸症候群の診断や治療効果を判定する際に、最も重要な指標となるのが「無呼吸低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)」です。

・AHIとは… 1時間あたりに無呼吸(呼吸が完全に止まること)と低呼吸(呼吸が浅くなること)が合わせて何回起こるかを表す数値のこと。
睡眠ポリグラフィー検査でわかります。

・重症度の分類
日本呼吸器学会のガイドラインでは、AHIの数値によって以下のように重症度を分類しています。

 正常範囲:AHI 5未満…治療の必要はありません
 軽症:  AHI 5以上15未満…症状に応じて治療を検討します
 中等症: AHI 15以上30未満…積極的な治療が推奨されます
 重症:  AHI 30以上…早急な治療が必要です

AHIの数値は、どの治療法を選択するかの重要な判断基準となります。

3.睡眠時無呼吸症候群の原因


睡眠時無呼吸症候群は、閉塞型と中枢型の2つに分けられます。患者さんの多くは閉塞型です。

<閉塞型の原因>
 ・肥満

 ・あごの骨格

 ・扁桃腺やアデノイドの肥大

<中枢型の原因>
 ・心臓や脳、神経の病気

◆「睡眠時無呼吸症候群の原因」についてもっと詳しく>>

3-1.肥満

肥満体型の人は、のど周辺にも脂肪がついているので、気道が脂肪で圧迫され狭くなります。

また、舌にも脂肪がついているため、その重みで舌が気道に落ち込みやすくなります。すると、気道がふさがれて狭くなるので、睡眠中の呼吸が妨げられます。

◆「いびきと肥満」の関係>>

【参考情報】”Sleep Apnea – Causes and Risk Factors” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/causes

3-2.あごの骨格


日本人を含むアジア系の民族には、あごが小さい人が多いのですが、あごが小さいと、舌根が気道に落ち込むやすくなるため、気道が舌でふさがれて狭くなります。

そのため、あごが小さい人は、やせていても睡眠時無呼吸症候群を発症しやすい傾向があります。

◆「痩せているのにいびきがひどい!その理由と対策」>>

【参考情報】”Is sleep apnea risk higher for Asians?” by AASM SleepEducation
https://sleepeducation.org/sleep-apnea-risk-higher-asians/

3-3.扁桃腺、アデノイドの肥大

扁桃腺肥大やアデノイド肥大があると、やはり気道が狭くなるので、睡眠時無呼吸症候群になることがあります。

特に、子どもの睡眠時無呼吸症候群は、扁桃腺やアデノイドが大きいため発症することが多いです。

3-4.心臓や脳、神経の病気

脳の中には、呼吸を調節している「呼吸中枢」という箇所があります。この呼吸中枢の働きが、以下のような病気により妨げられると、睡眠中に無呼吸状態が発生します。

 ・心不全

 ・脳卒中

 ・パーキンソン病

中枢型の睡眠時無呼吸症候群では、いびきは出ないことが多いです。

4.睡眠時無呼吸症候群の検査と治療


睡眠時無呼吸症候群の疑いがあるときに行う検査と治療の方法を紹介します。

4-1.検査

検査には、簡易検査と精密検査があります。簡易検査の結果、さらに詳しい検査が必要だとわかったら、精密検査を追加します。

簡易検査では、「アプノモニター」という小型の医療機器を自宅に持ち帰って、睡眠中の呼吸状態や血液中の酸素飽和度などを計測します。

◆「簡易検査」についてもっと詳しく>>

簡易検査の結果、さらに詳しい検査が必要だと判断された場合は、ポリソムノグラフィー(PSG)という精密検査を行います。

精密検査は、医療機関や検査施設に一泊して行うことが多いのですが、当院では入院せずに自宅で検査を受けることも可能です

◆「精密検査」についてもっと詳しく>>

4-2.治療

主に、CPAPという医療機器を用いて睡眠中の呼吸をサポートする治療を行います。

◆「CPAP」について>>

あごが小さい人はマウスピース、中枢型の人はASVという医療機器を用いることがあります。扁桃腺やアデノイド肥大が原因の場合は、手術で取り除くこともあります。

◆「マウスピースについて」詳しく>>

◆「ASVについて」詳しく>>

【参考情報】”Sleep Apnea – Treatment” by National Heart, Lung, and Blood Institute
https://www.nhlbi.nih.gov/health/sleep-apnea/treatment

5.治療のメリット


睡眠時無呼吸症候群を治療すると、以下のようなメリットがあります

5-1.いびきの軽減

治療により睡眠中の呼吸が正常になれば、いびきが軽減されるでしょう。

いびきが軽減されると、一緒に寝ている人の睡眠を妨げることがなくなり、旅行や出張の際にも、同伴者に気を遣わずに済みます。

5-2.熟睡感が得られる


睡眠の質量が上がるので、朝、さわやかな気分で目を覚ますことができます。疲れや体のだるさも取れ、一日を気持ちよくスタートすることができます。

5-3.仕事のパフォーマンスが上がる

睡眠不足が解消され、熟睡感が得られることで、昼間の眠気が軽減します。そのため、仕事や勉強に集中でき、効率がよくなります。

5-4.合併症の予防


睡眠時無呼吸症候群が進行すると、以下のような合併症が現れる恐れがあります。

 ・高血圧

 ・心筋梗塞

 ・糖尿病

 ・脳卒中

しかし、初期のうちに病気に気づき、治療を開始すれば、命にかかわる合併症のリスクを減らすことができます。

◆「合併症」について詳しく>>

◆「睡眠時無呼吸症候群を予防する対策と生活習慣」>>

【参考情報】”About Sleep and Your Heart Health” by Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/heart-disease/about/sleep-and-heart-health.html

6.おわりに

「激しいいびき」「昼間の猛烈な眠気」は、睡眠時無呼吸症候群のサインです。これらの症状が続いているなら、検査と治療ができる病院を探して受診してください。

初期のうちに治療を開始すれば、いびきや眠気も治まって体調がよくなってきます。しかし、気づかずに放っておくと、病気が進行して重篤な合併症が生じる恐れがあります。

心身の健康を整え、充実した毎日を送るためにも、睡眠を妨げる原因には早めに対処しておきましょう。

◆当院の睡眠時無呼吸症候群治療について>>

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