いびきを放置するのは危険?病気のサインと受診の目安

「いびきぐらい大丈夫」と高をくくっていませんか?
「疲れていたから」「お酒を飲んだから」と軽く考えているかもしれませんが、毎晩のようにいびきが続く場合、それは体からのSOSかもしれません。
特に「最近いびきが大きくなった」「寝ているとき息が止まっていた」という、家族からやパートナーからの指摘は、とても重要なサインです。指摘を無視していびきを放置することは、体の健康をじわじわと蝕むリスクにつながります。
この記事では、いびきが起こる仕組み、放置するとどうなるのか、そして医療機関を受診すべきタイミングについてわかりやすく解説します。
「いびきは病気ではない」と思っていた方や、「受診するほどでは」と感じているご家族も、ぜひ読んでください。
目次
1.いびきはなぜ起こる? ― メカニズムを簡単に解説
いびきの正体は、睡眠中に気道(空気の通り道)が狭くなることで起こる振動音です。
私たちが眠っている間、舌やのどの筋肉の緊張がゆるみます。これにより、空気の通り道が部分的に狭くなり、呼吸をするときに空気が粘膜を振動させて音が発生します。
1-1.いびきをかきやすい人の特徴
もともと鼻づまりやアレルギー体質がある人、扁桃腺が大きい人、あるいは肥満気味で首まわりに脂肪がついている人は、気道が狭くなりやすく、いびきをかきやすい傾向があります。
また、加齢による筋肉の衰えや、寝る前の飲酒・喫煙も大きな要因になります。
1-2.一時的ないびきと慢性的ないびき
いびきには大きく分けて、次の2種類があります。
<一時的ないびき>
風邪、疲労、飲酒などが原因で、その日だけ起こるもの。
<慢性的ないびき>
体の構造的な要因(肥満、扁桃肥大、舌根沈下など)や睡眠障害が関係するもの。
一時的ないびきは、一晩眠れば治まることが多いですが、慢性的ないびきは長期間続くため、睡眠中に体内の酸素不足が進行していることがあります。
1-3.いびきがもたらす体への影響
いびきをかくと呼吸が浅くなり、睡眠が分断されます。その結果、「朝の目覚めが悪い」「頭が重い」「日中の集中力が続かない」といった症状を引き起こします。
つまり、いびきは単なる睡眠中の音ではなく、体の内部で呼吸のトラブルが起きているサインなのです。
【参考情報】『Snoring』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/diseases/15580-snoring
2.放置するとどうなる? ― いびきがもたらす健康リスク
いびきをそのままにしておくと、健康にさまざまな悪影響を及ぼすおそれがあります。
特に、長期間いびきをかいている人は、知らないうちに体内の酸素不足や睡眠の質の低下が進行していることがあります。
2-1. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)への進行
いびきをかく人の多くに見られる疾患が「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。
これは、睡眠中に呼吸が何度も止まる病気で、10秒以上呼吸が止まる状態が一晩に何十回も起こることもあります。
呼吸が止まると、本人は気づかなくても、脳や体がたびたび酸素不足に陥るため、心臓や血管に大きな負担がかかります。
この状態を放置すると、血圧が上がりやすくなったり、心筋梗塞や脳卒中などのリスクが高まったりすることが知られています。
「寝ている間に呼吸が止まっている」「大きないびきのあとに静かになる」という家族からの指摘は、あなたの健康を守る重大なサインです。
【参考情報】『Sleep apnea』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/sleep-apnea/symptoms-causes/syc-20377631
2-2. 高血圧・糖尿病・動脈硬化など生活習慣病との関連
睡眠中に酸素が不足すると、体はストレス状態になり、自律神経のバランスが崩れます。これが、高血圧・糖尿病・動脈硬化などの生活習慣病の進行を促す要因となります。
特に「朝起きたときに頭痛がある」「昼間に強い眠気がある」といった場合は、夜間睡眠中に十分な酸素が取り込めていないサインの可能性があります。
2-3. 認知機能やメンタル面への影響
慢性的な酸素不足と睡眠不足は、脳の働きにも影響を及ぼすため、記憶力や集中力が低下したり、仕事や学業のパフォーマンスが下がることもあります。
また、睡眠の質が悪化することで、気分が落ち込みやすくなったり、抑うつ傾向が強くなるケースも報告されています。
2-4. 家族への影響
いびきは本人だけでなく、家族の睡眠にも悪影響を与えます。特に大きないびきは、同じ部屋で眠る人の睡眠を妨げ、家庭内でストレスの原因になることがあります。
配偶者や家族、旅行や出張の同伴者などが「いびきがうるさくて眠れない」と感じた場合、それは単なる生活音ではなく、医療的な対処が必要なサインと考えるべきです。
3.いびきを放置してしまう理由とその危険性
いびきが体に悪いと聞いたことがあっても、自分には関係ないと思い込み、実際に医療機関を受診する人は多くはありません。
ここでは、いびきを軽視しやすい理由と、放置した結果、どのような危険につながるのかを整理します。
3-1. 「疲れているだけ」「お酒を飲んだから」と思い込む
確かに、疲労や飲酒、鼻づまりなどで一時的にいびきをかくことはあります。しかし、毎晩のように続く、あるいは数年以上も続いている場合は別です。
「最近、いびきが大きくなった」「以前より音が強い」と感じる場合、体の構造や筋肉の衰え、肥満、睡眠時無呼吸症候群などが関係している可能性があります。
このような「一時的な疲れ」と「慢性的な呼吸障害」を混同してしまうことで、受診のタイミングを逃してしまうのです。
3-2. 周囲がいびきの音に慣れてしまう・あきらめてしまう
いびきに家族が気づいていても、「うるさいけど毎晩のことだから」と慣れてしまったり、「言っても聞かないから」とあきらめてしまうことがあります。
しかし、実際にはいびきが単なる騒音の問題ではなく、「呼吸が一時的に止まる」「酸素が足りない」などの危険な状態を示していることもあります。
家族の慣れやあきらめが、受診の遅れにつながることもあるのです。
3-3. 放置が招く悪循環
いびきを放置すると、睡眠の質が下がり、日中の疲れや眠気が増します。
そして疲労がたまると体重が増えやすくなり、さらにいびきが悪化……。このように、放置は悪循環を生み出す要因となります。
また、慢性的ないびきを放置している人の中には、本人も気づかないうちに睡眠時無呼吸症候群を起こしているケースが少なくありません。
呼吸が止まるたびに体は酸素不足になり、心臓や脳に負担をかけ続けます。
3-4. 「恥ずかしい」「大げさにしたくない」という心理
特に女性や高齢者の中には、「いびきで受診するなんて恥ずかしい」「病院に行くほどのことではない」と感じる人もいます。
しかし、いびきは性別や年齢に関係なく起こるものであり、れっきとした医療相談の対象です。
4.いびきの原因となる主な疾患・健康問題
この章では、いびきを引き起こす代表的な疾患を紹介します。放置してはいけない「危険ないびき」を見極めるための参考にしてください。
4-1. 睡眠時無呼吸症候群
いびきの原因として最も多いのが、睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)です。
睡眠中、気道が狭くなることで呼吸が止まったり浅くなったりしては、また再開するという状態を何度も繰り返す病気です。
<主な症状>
・いびきの途中で呼吸が止まる
・呼吸が再開するたびに「グッ」「フゴッ」と詰まるような音がする
・朝起きたときに頭痛やだるさがある
・昼間の強い眠気や集中力の低下
睡眠時無呼吸症候群を放置すると、体が慢性的な酸素不足となり、高血圧・不整脈・脳卒中・心筋梗塞などのリスクが上がることが分かっています。
いびきと一緒に「呼吸が止まる」「寝ても疲れが取れない」というサインがある場合は、早急な受診が必要です。
4-2. 肥満・舌根沈下・扁桃肥大
体重の増加で首まわりの脂肪が増えると、気道が圧迫されて空気の通り道が狭くなります。
特に舌の付け根が睡眠中に下がる「舌根沈下(ぜっこんちんか)」は、成人のいびきの大きな原因のひとつです。
また、扁桃肥大やアデノイド(のどの奥のリンパ組織)の肥大も、いびきを引き起こす要因になります。
4-3. 鼻の病気(鼻炎・副鼻腔炎など)
鼻づまりがあると、口呼吸になりやすく、いびきが悪化します。
慢性的なアレルギー性鼻炎、副鼻腔炎、鼻中隔のゆがみなどがある人は、気づかぬうちに寝ている間の呼吸がしづらくなっていることがあります。
「風邪でもないのに鼻づまりが続く」「寝るときに口が乾く」と感じる人は、鼻の疾患がいびきの背景にあるかもしれません。
4-4. 加齢や筋肉の衰え
年齢を重ねると、のどの筋肉(軟口蓋や舌を支える筋肉)がゆるみやすくなります。そのため、中高年以降になると、男女問わずいびきが増える傾向があります。
また、閉経後の女性もホルモンバランスの変化により筋肉の張りが低下し、いびきをかきやすくなります。
5.受診の目安 ― こんなときは呼吸器内科へ
いびきは一晩だけなら問題ありませんが、毎晩続くようになると体への負担が大きくなります。
「病院に行くほどでは…」と思っていても、次のような症状がある場合は、呼吸器内科での検査を検討することをおすすめします。
5-1. 毎晩のようにいびきをかいている
一時的ないびきであれば、疲労や飲酒、鼻づまりが原因のこともあります。
しかし、「毎晩いびきをかく」「数年前からずっと続いている」という場合は、呼吸の通り道(気道)が慢性的に狭くなっている可能性があります。
特に、「いびきが年々大きくなっている」「音が荒く、息が止まるように感じる」ときは注意が必要です。
5-2. 家族から「呼吸が止まっていた」と言われた
睡眠時無呼吸症候群の典型的なサインです。
本人は眠っているため自覚がなく、家族の観察が唯一の手がかりになることもあります。
「いびきのあとに急に静かになる」「その後、大きく息を吸って再開する」というパターンは要注意です。
5-3. 朝起きても疲れが取れない・頭痛がある
睡眠中に十分な酸素が取り込めていないと、脳や体が休まりません。
そのため、睡眠時間を確保しても「疲れが取れない」「頭が重い」「朝の目覚めが悪い」といった状態が続きます。
このような症状は、夜間の酸素不足による影響である可能性が高く、放置すると高血圧や不整脈などのリスクも上がります。
5-4. 昼間の強い眠気・集中力の低下
日中の眠気が強く、仕事中にウトウトしてしまう、集中力が続かないといった症状がある場合も要注意です。
これは、夜間の睡眠が分断されているサインであり、慢性的な睡眠不足状態が続いていることを意味します。
運転中の居眠り事故などにもつながる大変危険な状態です。
5-5. 生活習慣病や肥満がある
肥満、高血圧、糖尿病のある方は、睡眠時無呼吸症候群を合併していることが少なくありません。
体重が増えると気道が狭くなり、いびきが悪化するという悪循環に陥ることは珍しくありません。
こうした背景がある方は、いびきの程度が軽くても、早めに専門的な評価を受けることが大切です。
6.呼吸器内科での診断と対応
いびきや睡眠時無呼吸症候群の疑いがある場合、呼吸器内科では呼吸の状態を正確に確認するための検査を行います。
症状が軽くても、検査では自覚のない酸素不足や無呼吸が見つかることは珍しくありません。
6-1. 問診と初期診察
まず医師が、いびきの頻度・音の大きさ・家族からの指摘・日中の眠気などを詳しく聞き取ります。
続いて、のどや鼻の構造、体格、首まわりの脂肪のつき方などを確認します。
必要に応じて、血圧測定や血中酸素飽和度のチェックなども行い、全身の状態を評価します。
この段階で、「一時的ないびき」か「慢性的な呼吸障害」かをおおまかに見極め、次のステップとして睡眠中の呼吸を調べる検査を提案されることがあります。
6-2. 睡眠中の呼吸検査
最も一般的なのが、簡易検査です。自宅で専用の小型機器を装着し、一晩眠るだけで、「いびき」「呼吸の停止回数」「酸素の低下の程度」などを記録できます。
検査結果から、睡眠時無呼吸症候群の有無や重症度を確認することができます。
必要に応じて、病院で一晩入院し、脳波や心電図、呼吸の流れなどを同時に測定する精密検査(PSG検査)を行う場合もあります。※当院では自宅での精密検査も可能です
6-3. 治療の流れ
軽症の場合は、生活習慣の見直し(体重管理・禁酒・寝る姿勢の工夫など)から始めます。
中等度以上の睡眠時無呼吸がある場合は、CPAP(シーパップ:持続陽圧呼吸療法)が検討されます。これは、睡眠中に鼻マスクから空気を送り込み、気道の閉塞を防ぐ方法です。
その他、体格やのどの構造に応じて、口腔内装置(マウスピース)の使用をすすめることもあります。
7.予防とセルフケア ― 自宅でできるいびき対策
いびきの改善には、医療的な治療だけでなく、日常生活の工夫も欠かせません。
睡眠時の姿勢や生活習慣を少し変えるだけでも、いびきの軽減につながることがあります。
7-1. 寝る姿勢を工夫する
仰向けで眠ると、重力の影響で舌の根がのどの奥に落ち込み、気道が狭くなりやすくなります。そのため、横向きで寝る姿勢を意識するだけでいびきが軽くなることがあります。
抱き枕を使ったり、背中側にタオルやクッションを置いて自然と横向きになれるようにすると効果的です。
また、枕の高さも重要です。高すぎると首が曲がって気道が狭くなり、低すぎると頭が沈んで呼吸がしづらくなります。自分の首のカーブに合った高さを選びましょう。
7-2. 飲酒・喫煙を控える
寝る前の飲酒は、のどの筋肉をゆるませ、気道をふさぎやすくします。特に寝酒の習慣がある人は、いびきを悪化させる要因になりやすいです。
また、喫煙も気道の粘膜を炎症させ、鼻づまりや咽頭の腫れを引き起こします。
就寝3時間以内の飲酒を控え、禁煙を心がけることが、最も効果的な予防策のひとつです。
7-3. 体重管理と運動習慣
体重が増えると、首まわりや舌の付け根に脂肪がつき、いびきの原因になります。特に中高年以降は、筋肉のゆるみと体重増加が重なり、症状が進行しやすくなります。
ウォーキングや軽いストレッチなど、無理のない運動を継続することで、いびきだけでなく睡眠の質の改善にもつながります。
7-4. 鼻呼吸を意識する
口呼吸はいびきを悪化させる大きな原因のひとつです。
寝る前に鼻づまりを改善するための加湿や鼻洗浄を取り入れ、鼻呼吸を保てる環境を整えましょう。
特にエアコンを使用する季節は部屋が乾燥しやすいため、加湿器を使って喉や鼻の粘膜を守ることも有効です。
7-5. 睡眠環境を整える
眠りの質を高めることも、いびき予防に役立ちます。寝室の温度や湿度を整え、照明を落としてリラックスできる環境をつくりましょう。
また、スマートフォンの使用やカフェインの摂取は寝つきを悪くするため、就寝前は避けるのが理想です。
8.おわりに:いびきを放置せず、体からのサインと捉える
いびきは、睡眠中に呼吸の通り道が狭くなり、体が酸素不足に陥っているサインです。
放置してしまうと、睡眠時無呼吸症候群や高血圧・糖尿病・心疾患などの生活習慣病へつながるリスクが高まります。
毎晩のようにいびきをかく人や、家族から「息が止まっている」と言われたことがある人は、早めに呼吸器内科を受診しましょう。
原因がわかれば、生活習慣の見直しや必要な治療を組み合わせることで、呼吸の状態を改善し、質の高い睡眠を取り戻すことができます。
いびきを治すことは、単に深く静かな睡眠を手に入れるだけではありません。生活習慣病を防ぎ、翌日の集中力と活力を取り戻すことにもつながります。
「たかがいびき」と軽視せず、「健康チェックのチャンス」と考えて、ぜひ一度呼吸器内科にご相談ください。












