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小児喘息はいつ治る?長引く原因と治療について

医学博士 三島 渉(横浜弘明寺呼吸器内科・内科クリニック理事長)

小児喘息の症状は、多くの場合、中学生くらいまでに落ち着くと言われています。しかし、治療や生活環境の改善が不十分だと、症状が長引くこともあります。

お子さんが咳や息苦しさに苦しんでいると、「いつまで続くのだろう?」と不安になる方も多いでしょう。

この記事では、小児喘息は治るのか、治療はいつまで必要なのかについて分かりやすく解説します。

お子さんの症状を悪化させないためにも、大人が正しい知識を身につけ、成人喘息への移行や再発を防ぎましょう。

1.小児喘息とはどんな病気か


喘息は、気道に慢性的な炎症が起こり、咳や息苦しさなどの症状を引き起こす病気です。そのうち、乳幼児期から小学校入学までに発症するものを小児喘息といいます。

1-1.小児喘息の原因はほぼアレルギー

喘息の原因には、ダニなどのアレルギーによるものと、疲労やストレスなどアレルギー以外のものがありますが、小児喘息の原因は、ほとんどがアレルギーによるものです。

<代表的なアレルゲン>

 ・ダニ

 ・ホコリ

 ・カビ

 ・タバコ

 ・ペット

 ・花粉

アレルギーによる喘息の発症は、アレルギーを起こしやすい体質である「アトピー素因」との関係が深いと言われています。

家族の中にアレルギー疾患の人がいたり、自身がアトピー性皮膚炎など他のアレルギー疾患を発症していたりする場合は、特に注意が必要です。

◆「喘息とアトピー、アレルギーの関係」>>

1-2.なぜアレルギーで喘息を発症するのか

私たちの体には、細菌やウイルスなどの異物から身を守るために「免疫」という仕組みが備わっています。

この免疫の仕組みが、本来は体に害のないものを誤って「敵」と認識してしまうと、敵とみなしたものを体外へ追い出そうと過剰に反応して、咳やくしゃみ、鼻水などの症状が現れます。これが「アレルギー」です。

喘息の場合、敵とみなした異物に反応して気道の粘膜が炎症を起こし、その結果、粘膜が腫れたりして気道が狭くなり、激しい咳や喘鳴(ぜんめい:ヒューヒュー、ゼイゼイという異常な呼吸音)、息苦しさなどの症状が現れるのです。

◆「喘鳴」についてくわしく>>

1-3.子どもの症状が悪化しやすい理由と注意点

子どもの気道は大人よりも狭く、さらに免疫機能も未熟なため、アレルゲンに強く反応しやすい傾向があります。

そのため、わずかな刺激や炎症でも気道がすぐに狭くなってしまうため、症状が悪化しやすく、また、長引くこともあります。

重症化すると、息をうまく吐き出せなくなり、チアノーゼ(唇や顔が青紫色になる状態)や意識障害を引き起こし、命に関わることもあります。

【参考情報】『チアノーゼを知る』神奈川県立こども医療センター
https://kcmc.kanagawa-pho.jp/data/media/kanagawa-pho/page/department/home_medical_support/2021_iryoucare2-1.pdf

喘鳴が分かりにくいときは、子どもの背中に耳を当ててみると、ヒューヒュー・ゼイゼイといった音が聞こえることがあります。咳が続いたり、息苦しそうにしていたりするときは、確認してみるとよいでしょう。

子どもは息苦しさなどの症状をうまく伝えられないことがあります。そのため、以下のポイントを観察することが大切です。

 ・機嫌が悪い(ぐずったり、不機嫌が続いている)

 ・息を吸うときに肋骨が浮き出ていないか

 ・顔色(青白くなっていないか)

 ・横になって眠れているか(苦しくて起き上がっていないか)

【参考情報】『Childhood asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/childhood-asthma/symptoms-causes/syc-20351507

2.小児喘息は治るのか


小児喘息は、12~15歳ごろには寛解(かんかい)することが多いとされています。適切な治療を続けることで改善しやすく、また、成長に伴い呼吸器の機能が発達することで、発作の頻度が減り、症状が落ち着いていきます。

<寛解とは?>
薬を使わなくても症状がほとんど現れず、病気がしっかりコントロールできている状態のことです。

しかし、すべての子どもが寛解するわけではありません。約20~30%は成人喘息へ移行する可能性があります。

<成人喘息へ移行しやすい要因>

 ・乳幼児期に重い発作を繰り返していた

 ・アレルギーを起こしやすい体質である

 ・幼少期に適切な治療が十分に行われなかった

また、一度寛解しても、風邪などの呼吸器感染症やストレス、タバコの煙などの影響で、大人になってから再発することもあります。

◆「風邪が喘息に与える影響と2つの病気の関係」>>

3.小児喘息の治療


小児喘息の治療は、薬物療法と生活環境の改善を組み合わせて行います。

3-1.長期管理薬(コントローラー)

長期管理薬は、気道の炎症を抑えるために使う薬です。気道の炎症は、咳や喘鳴などの症状が出ていなくても続いているため、長期管理薬は毎日服用する必要があります。

<代表的な長期管理薬>

 フルタイド

 パルミコート

 アドエア

ピークフロー(呼吸の状態を測る検査)や呼吸機能検査の結果を見ながら、結果が良好であれば、薬の量を徐々に減らすことを検討します。

しっかり薬を吸入していても発作が続く場合は、薬の増量を検討したり、別の薬を使うことも考えます。

3-2.発作治療薬(リリーバー)

発作治療薬は、喘息発作が起こったときに使用する薬です。発作によって狭くなった気道を広げ、呼吸をしやすくする働きがあります。

<代表的な発作治療薬>

 メプチン

 ベネトリン

 サルタノール

発作が起こったら、慌てずに落ち着いて、発作治療薬を使用しましょう。発作の頻度や程度、発作治療薬の使用回数を記録しておくことも大切です。

発作治療薬を頻繁に使用している場合、気道の炎症が十分に抑えられていない可能性があります。

その場合は、早めに医師に相談しましょう。発作の回数によっては、長期管理薬の変更が必要になることもあります。

3-3.生活環境を整える

薬物療法に加え、アレルゲンを減らしたり、体力を高めることで、喘息発作を予防することも大切です。


<アレルゲンを減らす方法>

 ・換気を行う

 ・こまめな掃除や洗濯を行う

 ◆「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」>>

 ・ダニが好む布製品を減らす

 ◆「ソファで喘息が悪化?」>>

 ・空気清浄機を使用する

 ◆「喘息に空気清浄機は効果があるのか?」>>



<体力を高める生活習慣>

 ・バランスの取れた食事を心がける

 ・十分な睡眠時間を確保する

 ・適度な運動を取り入れる

適度な運動を続けることで、喘息の発作が起こりにくくなるだけでなく、呼吸器感染症に対する抵抗力もつきます。

◆「喘息の方におすすめのスポーツ」>>

ただし、過度な運動は発作の引き金になることがあるため、無理のない範囲で行いましょう。

◆「運動誘発性喘息|アスリート喘息の症状・治療・予防法」>>



<呼吸器感染症の予防>

風邪などの呼吸器感染症による気道の炎症が、喘息の症状を悪化させ、発作のリスクを高めることがあります。

以下のポイントに留意して生活習慣を整え、発作のリスクをできるだけ減らしていきましょう。

 ・こまめな手洗い

 ・予防接種をする

 ・呼吸器感染症が流行している時期は外出を控える

◆「呼吸器感染症の主な種類と予防法」>>

4.小児喘息が長引く原因


小児喘息は、適切な治療を続けることで、将来的には薬を使用せずに生活できるようになることが期待できます。

しかし、治療を途中でやめたり、医師の指示に従わずに薬を使用しなかったりすると、症状が長引く可能性があります。

4-1.長期管理薬を毎日使っていない

治療により症状が出なくなると、「治った」と感じるかもしれません。しかし、発作が出ていないのは、薬によって気道の炎症が抑えられているからです。

治ったと勘違いして、自己判断で薬の量を減らしたり、中止したりすると、気道の炎症が悪化して、再び症状が現れることがあります。

さらに、発作を繰り返すと気道の状態が悪化し、治りにくくなる恐れがあります。

症状が落ち着いている場合でも、医師の指示に従い、適切な治療を続けていきましょう。

4-2.薬がしっかり吸えていない

小さな子どもにとって、吸入器の操作は難しく、うまく薬を吸えていないことがあります。そのため、大人が正しく吸入できているかを確認することが大切です。

吸入が不十分だと、薬が口の中に残り、気道まで十分に届きません。その結果、薬の効果が得られず、喘息の症状が長引く原因になります。

本人がうまく吸えていないと感じた場合や、大人から見て吸えていないと判断した場合は、吸入補助具やネブライザーを使えるかどうか、医師に相談してみましょう。

◆「ネブライザーの種類と使い方」>>

ネブライザーを使うと、薬は吸入しやすくなりますが、吸入時間が長くなるので、子どもが嫌がったり、飽きてしまうことがあります。

その場合は、動画を見せたり、絵本を読んだりして、子どもの気を紛らわせる工夫をしてみましょう。

4-3.ステロイドが怖い

ステロイド薬に対して「副作用が強い」というイメージを持ち、長期間の使用を不安に感じる人もいます。

特に、子どもに使い続けても大丈夫なのかと心配し、使用をためらうこともあるかもしれません。

しかし、吸入ステロイド薬は、全身に作用する経口ステロイド薬とは異なり、主に気道に作用するため、他の部位への影響はほとんどありません。そのため少ない量で効果を発揮し、副作用のリスクも抑えられます

喘息の症状を長引かせないためには、気道の炎症をしっかりと抑えることが大切です。吸入ステロイド薬に対する正しい知識を持ち、医師の指示に従って適切に使い続けていきましょう。

◆「喘息治療に使う吸入ステロイド薬の副作用は?」>>

4-4.身の回りにアレルゲンが多い

薬を適切に使用していても、アレルゲンが多い環境では気道への刺激が続き、喘息が治りにくくなります。さらに、炎症が慢性的に続くと成人喘息へ移行するリスクも高まります。

室内には、ダニやカビをはじめとしたさまざまなアレルゲンが潜んでいます。これらのアレルゲンを取り除くために、こまめな掃除や換気、寝具の洗濯、空気清浄機の活用などが重要です。

タバコの煙も、小児喘息にとって大きな負担となります。子どもが直接吸わなくても、周囲の大人が吸うことで、受動喫煙の影響を受けてしまいます。

◆「喘息とタバコ」についてくわしく>>

また、都市部や交通量の多い地域では、以下のような大気汚染物質も注意が必要です。

 ・車の排気ガス

 ・工場の煙

 ・PM2.5

 ・黄砂

これらを吸い込むことで、気道の炎症が悪化し、喘息の症状が長引く原因になります。

子どもは自分で環境を整えることが難しいため、周りの大人が意識して環境改善に取り組むことが大切です。

喘息が長引くと、学校生活にも影響を与える可能性があるため、日常的にアレルゲンを減らす工夫をしましょう。

4-5.他の病気の影響

喘息は、アレルギー性鼻炎や胃食道逆流症(逆流性食道炎)と関係が深く、これらの病気があると症状が悪化しやすくなります。

<アレルギー性鼻炎>
アレルギー性鼻炎は、アレルゲンが鼻の粘膜に影響を与え、くしゃみや鼻水などの症状を引き起こす病気です。

鼻と気道はつながっているため、鼻炎の影響が気道にも及び、喘息が悪化することがあります。

◆「喘息の悪化を招く鼻炎!合併しやすい理由と治療での改善について」>>

<胃食道逆流症>
胃食道逆流症は、胃酸を含む胃の内容物が食道に逆流する病気です。

逆流した胃酸が気道近くまで達すると、粘膜を刺激して、喘息の症状を悪化させることがあります。

これらの病気がある場合は、喘息とあわせて適切に治療することが重要です。

【参考情報】『Gastroesophageal reflux disease (GERD)』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/gerd/symptoms-causes/syc-20361940

5.おわりに

小児喘息は、適切な治療を続けることで、思春期頃に改善することが多いです。症状が落ち着いてくると、医師の判断のもとで薬の量を減らしたり、使用を中止したりすることも可能になります。

しかし、薬による治療だけでなく、喘息発作を予防する生活習慣も重要です。アレルゲンを減らし、生活のリズムを整えつつ、体力をつけるように心がけましょう。

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