喘息の症状・原因・検査・治療について呼吸器内科医が解説

「風邪は治ったのに咳だけが続く」
「夜になると咳き込んでなかなか寝つけない」
このようなことが続くと、風邪が長引いているのか、それとも別の病気にかかっているのか、迷うことがあります。
実は、長引く咳の背景には、「喘息(ぜんそく)」が隠れている場合があります。
喘息というと、息もできないほどの激しい咳や呼吸困難を思い浮かべるかもしれません。
しかし初期のうちは、風邪が治った後に咳だけが残っている程度にしか見えないことがあります。
この記事では、
✅ 喘息とはどんな病気か
✅ 検査・治療の方法
✅ 喘息と間違えやすい病気
などについて、ポイントを整理します。
自分や家族の咳が長引いて心配な方や、咳で夜眠れずに困っている方は、ぜひご一読ください。
1.喘息とはどのような病気なのか
喘息とは、気道が慢性的な炎症を起こして狭くなり、呼吸がしにくくなる病気です。
1-1.気道の炎症と喘息
気道とは、空気が体の外から肺まで出入りする通り道のことです。鼻やのど、気管、気管支などが含まれます。
【参考情報】『Airways』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/body/airway
気道の内側には、体内に入ってくるウイルスなどの異物を排除するため、粘液や線毛が備わっています。しかし、炎症が続くとこの働きが弱まり、刺激に過剰に反応しやすい状態になります。
【参考情報】『線毛 (せんもう)』難病情報センター
https://www.nanbyou.or.jp/glossary/%E7%B7%9A%E6%AF%9B
炎症自体は、病原体が体内に侵入したときやケガをしたときなどに起こる自然な防御反応で、私たちが生きていくうえで必要なものです。
しかし、本来起こるべきではない場面で炎症が続くと、正常な組織まで傷つけてしまい、さまざまな慢性病の原因になることがあります。
【参考情報】『Inflammation』Cleveland Clinic
https://my.clevelandclinic.org/health/symptoms/21660-inflammation
炎症と聞くと、痛みや熱をイメージするかもしれません。しかし、喘息の気道の炎症は、静かに長く続くじわじわ型の炎症であることが多いので、気づきにくいことがあります。
こうした変化はゆっくり進むため、咳が続いていても「風邪が長引いているだけ」と見過ごされがちです。
1-2.気道のリモデリングに注意
炎症により狭くなった気道を放っておくと、さらに刺激に敏感になり、炎症が進みます。その結果、気道の壁は徐々に厚く硬くなり、空気の通り道はさらに狭くなっていきます。
この流れを「気道のリモデリング」といい、喘息の難治化の原因となります。このような状態まで気道の炎症が進むと、薬が効きにくくなるので、早期発見・早期治療が大変重要なのです。
【参考情報】『Airway Remodeling in Asthma』Frontiers
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmed.2020.00191/full
1-3.喘息は完治は難しいがコントロールできる病気
喘息は、現代の医学では完治が難しい病気で、治療によって症状がおさまってきても、残念ながら気道の炎症そのものが根本的に治ることはありません。
そのため、未治療のまま放っておいたり、自己判断で治療をやめてしまうと病気が進行し、最悪の場合、発作による呼吸困難で死に至る可能性もあります。
一方で、有効な治療薬が次々と登場し、治療法も日々進化しているので、早めに治療を受けて体調を管理し、気道のリモデリングを防ぐことができれば、普通の人と変わらない生活を送ることができます。
フィギュアスケートの羽生結弦さんや、声優の森川智之さんなど、喘息をコントロールしながら活躍している人は大勢います。
【参考情報】『Asthma』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/asthma/symptoms-causes/syc-20369653
2.喘息の症状
喘息の主な症状は、咳・痰・息苦しさです。
また、呼吸のたびに「ヒューヒュー」「ゼイゼイ」と聞こえる音が出ることがありますが、これは喘鳴(ぜんめい)と呼ばれます。
症状が強いと、咳が止まらず眠れなくなったり、呼吸が苦しくて動けなくなるほどつらくなることもあります。
ただし、喘息の初期や軽い段階では、以下のような症状が多くみられます。
| 特徴 | 症状 |
|---|---|
| 咳だけが続く | 風邪が治った後などに咳だけが長く残る。夜間や早朝、冷たい空気で咳が出やすい。 |
| 軽い息苦しさ | 運動後に少し息が上がる程度。階段や坂道で息が切れやすいが、日常生活はほぼ支障なし。 |
| 軽度の喘鳴 | 「ヒューヒュー」「ゼイゼイ」と聞こえることがあるが、本人はあまり自覚していない場合もある。 |
| 体調や気候による変動 | 季節の変わり目や湿度・気圧の変化で症状が出やすい。風邪のウイルスやアレルゲンに反応して一時的に咳が増える。 |
また、運動や飲酒がきっかけとなり症状が現れたり、タバコの煙や強い香りを吸って発作が出るなど、刺激によって急に症状が強まるケースも少なくありません。
3.喘息の原因
喘息の原因には、アレルギーと、アレルギー以外のものがあります。
アレルギーが原因の患者さんが6割、アレルギー以外の原因の患者さんが4割といわれています。
3-1.アレルギー性
ダニやホコリ、ペットの毛など、特定の物質によるアレルギーがきっかけとなり発症します。子どもの喘息はアレルギー性のことが多いです。
| アレルゲン | 特徴・発生場所 |
|---|---|
| ダニ(死骸・フンも含む) | 寝具やカーペット、ソファなどに生息 |
| ハウスダスト | ホコリや衣類の繊維クズ |
| ペットの毛・フケ | 犬・猫・鳥など |
| カビ(真菌) | 浴室や押入れなど湿気の多い場所 |
| ゴキブリの死骸・フン | 家庭内の隅やキッチン周り |
| 花粉 | スギ、ヒノキ、ブタクサなど |
| 大気中の有害物質 | PM2.5や車の排気ガスなど |
原因となる物質を吸い込むと、それらを排除しようとする免疫の仕組みがはたらいて、気道の粘膜が腫れたり、痰が増えたりします。
3-2.非アレルギー性
過労やストレス、風邪やインフルエンザのような感染症など、さまざまな要因が引き金となって発症します。
| 要因 | 説明 |
|---|---|
| 呼吸器感染症 | 風邪やコロナなどの呼吸器感染症が気道の炎症を悪化させる |
| ストレス・過労 | 自律神経が乱れ、気道が過敏になり発作を誘発しやすい |
| 喫煙 | タバコの煙が直接気道を刺激し、炎症を悪化させる |
| 気候・気圧の変化 | 寒暖差、湿度の変動、低気圧などで気道が狭くなりやすい |
| 運動 | 激しい呼吸で気道が乾燥し、咳や息苦しさが出やすくなる |
| 肥満 | 脂肪が横隔膜や肺の動きを制限したり、体内で慢性的な炎症が起こりやすくなる |
大人は非アレルギー性の方が多く、タバコやアルコールも発作の誘因となります。
4.喘息の検査
病院では、まずは問診で、咳が続いている期間や悪化しやすい時間帯、アレルギーの有無などを確認します。
その上で、喘息が疑われる場合は次のような検査を組み合わせて診断します。
4-1.スパイロメトリー(肺活量測定)
息を「吸う」「ためる」「一気に吐く」という動作をして、肺にどれだけ空気が入り・出るか、そして吐き出す速さを測ります。気道が狭くなっているかどうかを調べるのに役立ちます。
<主な測定値>
・肺活量(VC):深く吸ってゆっくり吐いた空気の量
・1秒量(FEV1):一気に吐き出した最初の1秒で出る空気の量
・1秒率(FEV1/VC):空気の出しやすさを示す割合
スパイロメトリーは呼吸の状態を数値で確認する検査で、喘息の診断や治療管理に欠かせません。喘息のほか、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の診断にも用います。
【参考情報】『Spirometry』Mayo Clinic
https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/spirometry/about/pac-20385201
4-2.呼気NO検査
息に含まれる一酸化窒素(NO)の量を測る検査で、気道の炎症の程度を調べるのに使います。
気道が炎症を起こすと、吐いた息の中に一酸化窒素が増えるので、炎症の強さや喘息の可能性を推測できます。
呼気NO検査は、喘息の診断や、治療薬の効果を確認するのに役立つ検査です。また、定期的に測定することで、症状が悪化する前に対策ができます。
【参考情報】『What Is A FeNO Test?』American Academy of Allergy, Asthma & Immunology
https://www.aaaai.org/tools-for-the-public/conditions-library/asthma/what-is-a-feno-test
4-3.モストグラフ
気道の反応性や喘息の症状の出やすさを調べるための検査で、特に軽症や隠れた喘息の診断に使われます。
【参考情報】『総合呼吸抵抗測定装置 MostGraph-02』チェスト
https://www.chest-mi.co.jp/product/respiratory/mostgraph-02.html
4-4.血液検査
腕から少量の血液を採取して、血液中の免疫反応やアレルギーの状態を調べる検査です。アレルギーが原因の喘息の診断や生活管理に役立ちます。
<主な測定値>
・IgE値:体がアレルゲンに過敏に反応しているかを示す
・特異的IgE:どの物質にアレルギー反応を起こしているかを特定
【参考情報】『Allergy Blood Test』MedlinePlus
https://medlineplus.gov/lab-tests/allergy-blood-test/
4-5.画像検査
肺や気道の状態を画像で確認する検査です。肺炎や肺がん、肺結核など、喘息以外の病気がないかを調べるのに使われます。
<検査の種類>
・胸部レントゲン:肺や気道、心臓の状態などを確認
・胸部CT:より詳しく、肺や気道の状態を調べることができる
◆「レントゲン写真から、呼吸器内科でわかること」>>
喘息に似た症状を示す病気は多く、咳の出方・肺の状態・気道の反応性などを総合的に確認しなければ、適切な治療方針が立てられません。
必要な検査を行うことで、病気のタイプや重症度が明確になり、最適な治療を選ぶことができます。
5.喘息の治療
喘息と診断されたら、定期的に診察を受け、治療方針を見直しながら、自分に合った管理方法を続けていきます。
5-1.喘息の治療薬
喘息の治療には、気道の炎症を抑えて発作を起こりにくくする長期管理薬(コントローラー)と、発作が起きた際に素早く症状を落ち着かせる発作治療薬(リリーバー)が使われます。
長期管理薬の中心は吸入ステロイド薬ですが、必要に応じて他の薬も使用します。
| 薬の種類 | 特徴・用途 |
|---|---|
| 吸入ステロイド薬(ICS) | 気道の炎症を抑えて発作を予防する、最も基本となる治療薬。 |
| ICSと長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合薬 | ICSに加えて気道を広げる成分(LABA)が一緒になった吸入薬。炎症と気道の狭さを同時に改善できるため、中等症以上でよく使われる。 |
| 長時間作用型抗コリン薬(LAMA) | 気道の筋肉をゆるめて広げ、発作を起きにくくする。通常はICSやICS/LABAの追加として使用され、吸入回数が少なく長く効くのが特徴。 |
| ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA) | 飲み薬で、気道のむくみや収縮を引き起こす物質(ロイコトリエン)の働きを抑える。小児喘息やアレルギー体質の人にも適している。 |
| テオフィリン徐放薬 | 気道を広げる効果のある飲み薬。副作用に注意が必要なため、必要に応じて慎重に使用される。 |
ステロイドには「副作用が強い」というイメージがあるかもしれませんが、喘息で使う吸入ステロイド薬は気道に直接作用するため、飲み薬のステロイドのように全身には作用しません。
さらに、長期管理薬だけでは症状をうまく抑えられない場合、体の中で炎症を引き起こす特定の物質(IgEやIL-5、IL-4/13など)だけを狙って抑える注射薬(生物学的製剤)が使われることがあります。
発作が起きたときは、症状をすぐに和らげる発作治療薬(リリーバー)を使用しますが、この薬は激しい症状をその場で落ち着かせる薬であり、根本的な炎症を改善するものではありません。
喘息の治療は、「発作を止める」ことよりも、「発作を起こさない」ことに重きを置いて進めていきます。そのためにも、長期管理薬を毎日続けることが非常に大切です。
5-2.ピークフローで日々の変化を把握
ピークフロー値は息を勢いよく吐き出したときの最大速度を示し、気道の狭さや炎症の程度を反映します。ピークフローメーターという小型の器具で測定できます。
普段より値が下がっていれば、気道の状態が悪化しているサインであり、早めに薬を使ったり、環境や生活習慣を見直すことで発作を予防できます。
さらに、日々の症状や服薬状況、発作のきっかけになった要因などを「ぜんそく日記」として記録しておくと便利です。
日記にピークフロー値、咳や息苦しさの程度、使用した薬や体調の変化などを書き込むことで、自分の喘息パターンがわかりやすくなります。
また、医師に見せることで治療方針の調整にも役立ち、発作を未然に防ぐための重要なツールになります。
【参考情報】『ピークフロー測定とぜん息日記』環境再生保全機構
https://www.erca.go.jp/yobou/zensoku/basic/adult/control/condition/peakflow.html
5-3.発作の予防法
発作を予防するには、食事・睡眠・運動といった基本的な生活習慣を見直すとともに、原因を知り、それを避ける工夫をしましょう。
アレルギーが原因なら、ダニやホコリ、カビを減らすため、なるべくこまめに掃除をしましょう。特に、布団や枕など寝具を清潔に保つと効果的です。
肥満も喘息を引き起こし、悪化させる一因となります。肥満の指標であるBMIが25以上の方は、減量に取り組みましょう。
風邪やインフルエンザのような呼吸器の感染症にかかると、喘息の症状が悪化しやすくなります。手洗いやマスク着用のほか、インフルエンザや新型コロナの予防接種を受け、感染症から身を守りましょう。
6.喘息と間違えやすい病気
咳が長引く病気は、喘息だけではありません。喘息と似た症状が出るため、見分ける必要がある代表的な病気は次のとおりです。
6-1.咳喘息
喘息とよく似た病気ですが、咳だけが長く続き、喘鳴や息苦しさはほとんど見られません。
風邪やコロナのような呼吸器感染症の後に発症しやすい病気で、適切な治療を行わないと喘息へ移行する恐れがあるため注意が必要です。
6-2.アトピー咳嗽(がいそう)
アレルギー体質の人に多い病気で、乾いた咳やのどのイガイガなど不快感が生じます。抗アレルギー薬で改善することが多いです。
6-3.COPD(慢性閉塞性肺疾患)
主に長年の喫煙による炎症で肺胞が破壊され、咳・痰・息切れが生じる病気です。進行すると少しの動作でも息切れが強くなり、日常生活に支障をきたします。
6-4.急性気管支炎
風邪などの呼吸器感染症の延長で気管支に炎症が起こり、一時的に喘息のようなゼーゼーする呼吸音がみられることがあります。
発熱や痰を伴うことが多く、症状は時間の経過とともに改善していきます。
6-5.肺炎
肺そのものに炎症が起こる病気で、発熱や痰、胸の痛み、強い倦怠感を伴うことがあります。
6-6.副鼻腔炎
鼻の奥の副鼻腔に炎症が起こることで鼻水が増え、それが喉に落ちることで咳が続きます。鼻の治療を行うことで咳が改善するケースが多くみられます。
6-7.心不全(心臓喘息)
心臓の働きが弱まり、肺に水が溜まることで咳や息苦しさが生じます。治療は、利尿薬や心臓の機能を改善する薬が中心です。
【参考情報】『心不全で咳や痰がでるのはなぜですか?』心不全のいろは
https://heart-failure.jp/faq/answer-024/
6-8.胃食道逆流症(GERD)
胃の内容物が食道に逆流することで起こる病気です。胸やけや酸っぱい液が口に上がる症状が典型的で、逆流が気道や喉に刺激を与え、咳が出ることがあります。
7.おわりに
2週間以上咳が続いているときは、呼吸器内科を受診して原因を調べておくと安心です。
喘息でなくても、専門的な治療が必要な病気の可能性がありますので、咳の原因をしっかり調べることをおすすめします。
もし喘息と診断された場合は、治療を開始して継続するとともに、発作のない生活を送れるよう生活環境を整えていくことが大切です。
私たち医療スタッフも、日々のケアを見守っていきます。あなたに合ったコントロールの方法を、一緒に見つけていきましょう。












