呼吸器内科の専門医とは?役割と診療の重要性を解説

「呼吸器内科」や「呼吸器専門医」という言葉を聞いて、どのようなイメージが浮かびますか?
・レントゲン写真を眺めている
・聴診器で胸の音を聞いている
・喘息や肺炎の治療をしている
呼吸器内科の専門医は、たしかにレントゲンなどの画像を使って診断を行い、聴診器で呼吸音や心臓の音を聞きます。
しかし、呼吸器内科の専門分野はこれだけではありません。
通常の風邪やインフルエンザなどの感染症から、肺がんなどの悪性腫瘍、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)といった病気も専門的に扱います。
加えて、近年では睡眠時無呼吸症候群やニコチン依存症(タバコがやめられない)の診察・治療を行うなど、幅広い疾患に対応しています。
病気や治療方法などの豊富な知識に加えて、呼吸器疾患(肺や気管支などの呼吸器系の病気)に対して総合的に診断や治療を行うことができる。
そんな呼吸器全般の医療を支えるプロフェッショナルが呼吸器専門医なのです。
今回は、呼吸器専門医という仕事を紹介しながら、なぜ呼吸器専門医の診察が重要であるのかという理由についてご紹介します。
1.呼吸器専門医の役割
日本呼吸器学会では、「一定レベル以上の実力をもち、信頼される呼吸器科医を呼吸器専門医として認定する」と述べています。
つまり呼吸器専門医というのは、内科医として幅広い知識と技能を身につけた日本内科学会認定医資格を保有している医師の中で、呼吸器疾患に関する知識や経験を積んで、より専門的な治療が遂行できる医師として、学会の専門医試験に合格した医師のことを指します。
このように、呼吸器専門医は呼吸器系の病気に関するスペシャリストなのです。
【参考情報】『専門医制度規則』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/specialist/specialist/rules/?utm_source=chatgpt.com
1-1.呼吸器専門医が診る主な疾患
呼吸器専門医が診る主な疾患には、以下のようなものがあります。
<感染性呼吸器疾患>
・風邪・インフルエンザ・急性気管支炎・結核 など
<気道閉塞性疾患>
・COPD・びまん性汎細気管支炎
<アレルギー性肺疾患>
・喘息・過敏性肺炎・薬剤性肺炎 など
<間質性肺疾患>
・特発性間質性肺炎・膠原病肺・サルコイドーシス
<腫瘍性肺疾患>
・肺がん など
<肺血管性病変>
・肺水腫 など
<その他>
・呼吸不全・気管支拡張症・睡眠時無呼吸症候群・過換気症候群 など
これらの病気は症状が似ていても原因や治療法が全く異なるため、正確な診断と適切な治療方針の決定には専門的な知識と経験が不可欠です。
【参考情報】『呼吸器の病気』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/citizen/disease/
【参考情報】”Chronic Respiratory Diseases” by World Health Organization
https://www.who.int/health-topics/chronic-respiratory-diseases
1-2.呼吸器専門医が行う専門的な検査
呼吸器専門医は、一般的な血液検査やレントゲン検査に加えて、呼吸器疾患の診断に必要な様々な専門的な検査を行います。
これらの検査を適切に組み合わせることで、正確な診断を行い、患者さん一人ひとりに最適な治療方針を立てることができるのです。
ここでは、呼吸器専門医が行う代表的な専門検査をご紹介します。
【1. スパイロメトリー(呼吸機能検査)】
息を吸ったり吐いたりして、肺の容量や空気の通りやすさを測定する検査です。
主に喘息やCOPDといった疾患の診断に用います。
【2. 呼気NO(一酸化窒素)検査】
吐いた息に含まれる一酸化窒素の濃度を測定する検査です。
喘息や、アレルギー性気道炎症といった疾患の診断に用います。
【3. 胸部CT検査】
レントゲンよりも詳細に肺の状態を観察できる画像検査です。
胸部CTは肺がんの早期発見に非常に有効であり、その他に間質性肺炎や胸部の腫瘍などの診断にも用いられます。
【4. その他の専門検査】
モストグラフ(気道抵抗測定): 気道の抵抗を測定し、空気の通り具合を測定する。
終夜睡眠ポリグラフ検査: 睡眠時無呼吸症候群の診断
喀痰検査: 感染症の原因を特定
2.呼吸器専門医の現状
呼吸器の病気は種類が多く、咳や息切れなどの症状は似ていることも多いため、正しい診断や治療を行うには専門的な知識が必要です。
しかし、呼吸器専門医は全国的に非常に数が少なく、多くの医療機関では専門医以外の医師が診療を行っているのが現状です。
この章では、呼吸器専門医の人数や現状、専門医でないと診療が難しい病気、そして専門医に診てもらうことで得られるメリットについて詳しく解説します。
2-1.呼吸器専門医が少ない理由
実のところ、呼吸器系疾患のプロフェッショナルである呼吸器専門医は、非常に希少な存在と言えます。
2023年のデータによると、日本呼吸器学会の認定する呼吸器専門医は7,594名となっています。
消化器病専門医の23,706名や循環器専門医の16,858名と比較すると、圧倒的に呼吸器専門医の数が少ないことがわかると思います。
【参考情報】『日本専門医制度概報 2023年度版』日本専門医機構
https://jmsb.or.jp/wp-content/uploads/2024/04/gaiho_2023.pdf
2-2. 多くの医療機関で専門外の医師が診ている現状
呼吸器関連の病気というのは数多く存在するため、多くのクリニックや病院では、呼吸器専門医以外の医師が呼吸器疾患の診療を行っているのが現状です。
しかし、喘息やCOPD、結核や間質性肺炎など、呼吸器専門医でないと治療が難しい疾患が存在することもまた事実です。
【参考情報】”Asthma Diagnosis and Treatment” by CDC
https://www.cdc.gov/asthma/
2-3.複雑な病気には専門医の診察が重要
呼吸器の病気は、咳や息切れなどの症状が似ているものが多く、どの病気かを正しく見分けるには注意が必要です。
呼吸器専門医は、胸のCT画像や肺の働きを調べる検査の読み方に慣れており、どの薬を使うかや治療の進め方を的確に判断できます。
そのため、こうした病気は呼吸器専門医に診てもらうことで、より正確な診断と治療を受けられる可能性が高くなります。
【参考情報】”Diagnostic Imaging for Lung Diseases” by National Library of Medicine
https://medlineplus.gov/lungdiseases.html
3.呼吸器内科を受診する前に知っておきたい専門医の有無
「呼吸器内科」と 書かれていても、必ずしも呼吸器専門医が在籍しているわけではありません。
軽い風邪やインフルエンザは一般内科医でも対応できますが、難治性の喘息や間質性肺炎など、専門的な治療が必要な病気では呼吸器専門医の診察が重要です。
この章では、専門医がいない内科の現状や、受診時の注意点について解説します。
3-1.呼吸器専門医のいない呼吸器内科もある
「呼吸器内科」と書かれているクリニックは多くありますが、呼吸器専門医が在籍しているところと、そうでないところがあります。
そのため、呼吸器内科で診てもらう場合でも、一般内科医による診療と、呼吸器専門医による診療とでは内容や対応が違うことを知っておくと安心です。
3-2.専門医が必要な病気
風邪やインフルエンザなどは、呼吸器専門医が不在でも診療は可能ですが、以下のような疾患は専門医による治療が必要となります。
・難治性喘息
・間質性肺炎
・肺高血圧症
・肺がんの化学療法
・サルコイドーシスなどの稀少疾患
・重症肺炎
【参考情報】”Interstitial Lung Diseases” by NIH
https://www.nhlbi.nih.gov/health/interstitial-lung-diseases
3-3.受診時の注意点
看板に「呼吸器内科」と書かれていても、必ずしも呼吸器専門医が在籍しているとは限りません。
もし重い呼吸器疾患が見つかった場合は、専門医の診察が必要になることがあります。
そのため、「呼吸器内科に行ったのに専門医がいなかったので、他の病院を紹介された」ということも起こり得るでしょう。
4.呼吸器専門医の見つけ方
呼吸器の病気は専門的な診断や治療が必要な場合があるため、呼吸器専門医を正しく見つけることが大切です。
この章では、専門医を探す方法や受診前の確認ポイント、病院やかかりつけ内科との連携のコツについてわかりやすく解説します。
4-1. 呼吸器専門医はどこで探せる?
呼吸器専門医の資格を持つ医師の名前と医療機関名は、日本呼吸器学会ホームページの「専門医を検索する」というコーナーで見つけることができます。
<専門医検索の手順>
ステップ1:日本呼吸器学会公式サイトにアクセス
・URL: https://www.jrs.or.jp/search/specialist/index.php
・もしくは日本呼吸器学会トップページから「専門医検索」を検索
ステップ2:検索条件を設定 以下の方法で絞り込みができます
・地域で検索: 都道府県、市区町村を選択
・医療機関名で検索: 病院・クリニック名で検索
ステップ3:検索結果の確認 表示される情報
・専門医の氏名
・医療機関名
・勤務地
ステップ4:医療機関に連絡
・事前に電話で専門医の診療日を確認
・予約が必要な場合が多い
・初診の場合は紹介状の要否を確認
4-2.病院のホームページも併せて確認する
医療機関の公式サイトには、以下の情報が詳しく載っている場合があります。
専門性の高さを判断する材料になるので、チェックしておくと安心です。
・専門医資格
・専門分野(喘息・肺がん・間質性肺炎など)
・診療日に行っている検査(CT、肺機能検査、気管支鏡など)
4-3.かかりつけ医から紹介状を書いてもらうとスムーズ
紹介状には、これまでの診療内容や行った検査、服用中の薬、症状の経過などがまとめられています。
そのため、専門医は初診の段階で患者さんの状態をより正確に把握でき、無駄な検査を省いたり、必要な検査を早く行えたりするメリットがあります。
診察がスムーズになるだけでなく、自分に最適な治療につながりやすくなるという大きな利点があります。
【参考情報】『専門医検索』日本呼吸器学会
https://www.jrs.or.jp/search/specialist/index.php
5.呼吸器内科の専門医を受診する目安
咳や息切れ、血痰などの呼吸器症状が続く場合、軽い症状と自分で判断せずに専門医を受診することが大切です。
この章では、どのような症状で呼吸器専門医の診察を検討すべきか、症状の裏に隠れる病気の可能性、そして早めに受診したほうがよい人の目安について解説します。
5-1.こんな症状が続くときは受診を検討
以下のような呼吸器症状にお困りの場合は、早めに呼吸器専門医の診察を受けることをおすすめします。
【専門医を受診すべき症状】
・ 2週間以上続く咳
・ 血痰が出る
・ 安静時でも息切れがする
・ 胸の痛み
・ 体重減少を伴う咳
・ 夜間に悪化する咳
・ 発熱が続く
5-2.症状の裏に重大な病気が隠れていることも
咳や痰が長く続く場合、その背景には 肺炎・喘息・COPD・肺がん・結核 などの深刻な呼吸器疾患が隠れていることがあります。
呼吸器の病気は、早期に発見して治療を始めることで改善しやすくなる点が重要となります。
5-3.専門医受診を急いだほうがよい方
次のような特徴がある方は、より注意が必要です。
早めの専門医受診をおすすめします。
・喫煙歴がある方
・家族に結核の既往がある方
・粉じんやアスベストを吸った経験がある方
・高齢者(65歳以上)
◆「タバコで咳が長引くときに疑われる病気」について詳しく>>
6.おわりに
呼吸器疾患には、一般内科でも診察可能な病気(風邪やインフルエンザなど)から、専門的な知識を要する喘息や肺がんの治療までさまざまです。
咳や痰などの症状の裏には、大きな呼吸器系疾患が潜んでいる可能性もありますので、呼吸器関連の症状にお困りの場合は、呼吸器専門医の診察を受けることをおすすめします。










